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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第八章―お前等の敵は誰だ 異世界―
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19.火に向かう蛾

「ヘイキアル、ダキュース様からの通信途絶えちまったZE」


「最終報告で王国の西方、それっきり音沙汰無し……か。どうしたもんかねぇ……でも、きっとアイツのことだから想定されるルートには現れないよ」


「――ならばどうする」


「まぁ、想定できないなら想定できない場所に張れば良い。たまには天才振りも見せとかないとね、俺に任せてよ」


 * * *


「なあ……」


「「「――!!」」」


 あのあと、イキョウ達は更地になった森で一晩を過ごした。


 憔悴しきった二人をダッキュが看病し、ようやくまともに話せる様になったのは翌日の朝。


 イキョウとニコは朝食を負え、焚き火を二人で囲んでいたところで、イキョウはあの後初めて三人に声を掛ける。


 ダッキュ、ロイエス、アヤセの三人は、イキョウが用意した看病用のテントから出てくるなり急に声を掛けられた。そして怯えを露にする。


「起き抜けで悪いんだけどさダッキュ、アステルまで転移で送って貰って良い?」


「ぁ……ぅ……い、いやじゃ、絶対に嫌じゃ……」


「そっか。じゃあいいわ。

 ごめんなニコ、ワイバーンか馬捕まえるためにどっか近くの町まで走ることになりそうだ」


「良い。キミに乗って、一緒に旅する。楽しい、にこ」


 イキョウは吸っていたタバコを焚き火に投げ入れると、ダッキュへこれ以上交渉することなく立ち上がろうとした。


「待、待てい……ア、アステルには行かせぬ……終わらせる、終わらせるのじゃ……。ど、どうせ、代償魔法を使う腹積もりなのじゃろ、行かせぬ、ぞ。こ、ここ、ここで天使を――」


「んなことしねぇって。オレはオレなりの方法を探す。あと少し、きっと少しで見えるはずなんだ、存在が散っても、それでも覚えてる。だからオレは行くよ」


「無理に決まっとろう……天使であるアルフローレンが生きて、それでもお主が世界を救う未来があったな、ウチが見とるはずじゃぞ……」


「未来なんて知らない、過去なんて知らない。オレは今を生きてる……いやぁ、今のオレは今でしか生きられないんだよ。一秒前のオレは居なくなって、今のオレが作られる。劣った人間性はすぐどっかに消えちまいそうになるんだ」


 ――それでも人であろうとしてるのは、あの人との思い出があるから。それももう、限界が近い――。


 そう静かに語るイキョウの姿は、しかしロイエスとアヤセにとっては恐ろしく見えていて……そして同時に憐れにも見える。


 ロイエスは目の前の男を見て思う。何故愛も何も無いあの男は、あんな暗闇の中で生きていられるのだろう。あんな何も無い男は、傍らに居る天使にどんな感情を向けていて、何を思ってその子の為に戦ってるんだろう、と。


 アヤセは目の前の男を見て思う。大切な者を失った自分は挫けて自分を捨てたのに、自分を持たないあの男はどうして立ち上がり続ける事が出来るのだろう。何を求めたらたった一人で歩み続けられるのだろう、と。


 何処まで行っても一人の男が、二人にとっては憐れに見えた。


 それはダッキュも同じで、本当に憐れに見えた。イキョウが望む未来を、ダッキュは見て居ない。叶わないことなど確定している未来を、それでも混沌まで使って追い続けるイキョウが憐れだった。イキョウが自分を切り詰めてまで守ろうとしてる存在が生き延びる未来を見たことが無い故に。


「そんな眼向けんなって。もうオレ達行くから。安心してよダッキュ、やることはちゃんとやる」


「またね、ダッキュ、ロイエス、リンちゃん」


 二人はこの場を立ち去ろうとする。自分達の目的の為に。


「――あ……私の……刀……」


「あ、そーいやオレの影の中に何かあったな……これか」


 イキョウは影に手を差し込み、刀を引き抜く。


 その刀を片手に、アヤセへと差し出した。治療の為にアーマーを脱がされて、鎧の下に着ていた簡素な服と素顔を表にさらしているアヤセへ。


 刀を差し出されたアヤセは、深い青色の一つに束ねた髪を揺らしながら、凛とした顔でイキョウの事を見上げる。


「……ニコ、これ誰?」


「リンちゃん」


「……ダメだ、わっかんねぇ……。はい、刀返すよ」


 恐る恐る伸ばした手に、何かされることはなく、あっさりと刀は返された。


「あんた良い顔してるね、きっとオレがもっと残ってたらタイプだったよ。惜しいね、もっと早く出会いたかった」


「……は? え、いや、傷ある……」


「別に良いんじゃね? 傷くらいどうってこと無いくらい綺麗な顔じゃん、知らんけど」


 その言葉に、アヤセは返す言葉が見つからない。急にそんなことを言われて、この男に返せる言葉など今は見つからなかった。


 イキョウも別に何か言葉を返して欲しかったわけじゃない。だから返答を待つことなく背を向ける。


「……あ、ウチの水晶何処……」


「それは掏って壊しておいた」


「酷いことするの……ウチの扱い本当に酷い……」


「じゃ、ばいばい」


「またね」


 そしてイキョウはニコを抱えると、振り返ることも無く、一瞥することもなくこの場を去っていく。


 その姿を引きとめる事は無く、取り残されたようにこの場に三人は残された。


「……アヤセ、お主があんなこと思ってたなんて知らなかったのじゃよ」


「私も、ダキュース様がこんなに可愛らしいお姿なんて知りませんでした」


「…………。えっと……どういたしますか? 体勢を整えてからイキョウとアルフローレンを追いますか?」


「……もう良い。火に向かう蛾を止めるなぞ無意味な事をする事もないじゃろうて――――なにがまたねじゃ」


 ダッキュは感じ取っていた、イキョウの限界が近いようにニコの限界もまた近い事を。


 * * *


「イキョウ……眠い……」


「最近良く眠るね。寝る子は育つ、良い事だよ」


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