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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第八章―お前等の敵は誰だ 異世界―
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11.不均衡な天秤

「んー!! このプラムあままー!!」


「ほっぺたじゅわじゅわするの!! 美味しいの!!」


「甘い、美味しい?」


「美味しく無い訳無いじゃん!! このあままは絶対に美味しいなんだよ!!」


「天然さんのニコに教えてあげるの、これ……美味しいの!!」


「これ……美味しいの。にこ」


「「にこ!!」」


 ニコ、ギャラ、アルの三人は、船尾の柵に座りながら、瓶に入ってるプラムのシロップ漬けを三人で味わっている。


「クララちゃん、どーぞなの!!」


 そしてアルが手にプラムを乗せて突き出すと、クラーケンは巨大な触手の吸盤でそれを器用に受け取り、小さな果実を巨大な体で味わった。


「どうクララ、美味しい?」


「それ、美味しいの」


 ギャラとニコの言葉。問いかけを受けたクラーケンは、船を押して居ない開いている触手を二本、胴体に当てて返答するかのような行動をする。


「見て見て!! クララもニコの真似してる!!」


「クララちゃんは賢いの。私と同じ学者肌かもしれないの」


「ニコ、にこ、なの。クララも、にこ、なの」


「なのはアルのなの!!」


 プラムを食べながら言葉を交わし、ずっとずっと会話をして姦しい三人。あれやこれやと言葉を交わし、あれもこれもと言葉を話し、あれはこれはと言葉を渡しあう。


 その姿を、少し離れているところで見ている二人がいた。


 その二人とは、柵に背を預けて座りながらタバコを吸っているイキョウと、柵に背と両肘を乗せ体重を預けながら立っているルツズボウだ。


「この交易船で元気な子供達を見れんのは中々ねぇぜ。いやー可愛いぜ、俺のシロップ漬けできゃいきゃいしてくれてるんだからもう感謝しかねぇ」


「そう」


 ルツズボウは蛮族とも思われそうな野蛮な顔を綻ばせて子供達を見る。


「あんちゃんよぉ、俺にはあのアルフローレンが人間にしか見えねぇぜ。おめぇだって悪い事をするようには見えねぇ。だからよ、純粋に思っちまうんだよ。あんちゃん達って本当に世界壊そうとしてんのか?」


「さぁね。有象無象のお前等にどう見られたってどうでも良いよ」


「どうでも良いって……。おめぇ誰にも何も話さなかったら何も変わらねぇぞ。あー……こう、な? 相談とか、泣き言とか、何か一つでも言われたんなら、こう……なんつーんだろうな。あのな? 自分一人だけでどうにかしようとしてるやつってのはよ、誰にも理解できねぇから周りからの見方は変わらなくてよ……ダメだ、船や海に例えらんねぇ……。あのなぁ!! あのなァ……こう、な、うーん……。

 ……あんちゃん、おめぇ、話を聞かせてくれよ。俺にはあんちゃんとアルフローレンが悪い奴には見えねぇんだわ」


 ルツズボウは、言いたかった言葉を正面からイキョウへぶつける。イキョウとアルフローレンの二人を見て来て、その姿を思い出すと、どうしても邪悪な存在には思えなかったから。


 その言葉を受けたイキョウは、タバコの煙を吐き出した後、また口に咥えて煙を吸う。横に立つ善性の男に、何処か既視感を覚えながら。


「当たり前だろ。オレとニコは自分がやるべきことをしてるだけだ。オレは守りたい者だけを守る、あの子は自分に課せられてた役割を遂行する。悪だなんだって決めるのはあんたらが自分に害があるからそう見てるだけ。結局善と悪を決めるのは人間で、だからお前等はどうでも良いんだよ。お前等が向けてくる価値観は、決してオレ達を理解できやしないんだ」


「で――」


「でも、なにさ。その言葉に続く発言で、オレとニコは何も変わらないよ。オレを知れば、ニコを知れば。知ってみろよ。きっとあんたらは気持ち悪いって言う、心が無いって言う。あんたが今ここで死んだって、あんたらの死体で山が出来たって、オレが思う事は『死んだ』だけで、ニコが思う事も『死んだ』だけだ。言葉を交わせているから心も通い合ってると思わない方が良いよ、もう今のオレは、そしてあの子はまだ、言葉しかあんたらと交わせないんだよ」


「こりゃぁ……少し気持ち悪りぃな。言おうとした事が全部潰されちまった、潰したあんちゃんの言葉は俺には向いて無かったぜ……おめぇ、何処見て誰に向かって言葉吐いてんでぇ。一瞬誰か他の奴と話してんのかと思っちまったよ。……あんちゃん、おめぇはどうしたいんでぃ。世界を裏切ってあの子に付いて、何をしようとしてんだ」


「もしもの話してあげるよ。世界を審判する役割を全うするだけの天使を、ヒトにしてあげたい。世界に残された時間が少ないってのに、その残された時間を目いっぱい使ってでもあの子が笑っていられるようにしたい。大衆には世界を壊す敵にしか見えないあの子を、天使で居る限り世界を崩壊へ導くあの子を、お前等は殺すことでしか世界を救う手段が無いんだろう。ヒトであるお前等は、自分達の正義があるからあの子を殺す事を是とするんだ。お菓子をあげたあんただって、腹の奥ではあの子を殺すことでしか世界は守れないって分かってるはずだよ」


 ルツズボウは、語るイキョウの言葉に肝を冷やされる。当たり前だった、どれだけ綺麗事を並べてお礼をしたところで、結局は世界の崩壊に対する解決策に関係することなど一つも無い。礼をしたところで、お菓子をあげたところで、その優しさは世界を救うことには一切関係しないことなど、自分自身も分かっていたことだ。


 ただ、そのことをイキョウの言葉で真っ向から突きつけられて、ルツズボウはうろたえる。


「れ、礼は大事だろ。何かをしてもらったなら、ちゃんとお返しはしなきゃいけねぇ……しよ」


「良いよ、あんたがしたい事をすれば良い。オレもしたい事するだけだから、だから邪魔だけはしないでよ」


「あんちゃんのしたいことって…………天使を……ヒトに……。ってことは、種族を変えちまうってことだろ? ……そんなことできる訳が……ねぇだろ……。男が女になるわけねぇ、ヒトがワイバーンになれるわけねぇ……。ま、まさかあんちゃん、んな荒唐無稽な手段探してあの子を助けようとしてんのか……?」


「ほらね。そんな奴等が大勢いる世界で一人が声を大にして 『世界が壊れる寸前までにアルフローレンを人間にして試練パスするつもりだからギリギリまで待ってくれ』なんて言ったって誰も待てやしない。

 天秤がある。乗せるのは、『自分が、そして自分達が生きている世界』と『見ず知らずの少女一人の命』。片方の皿には世界と共に自分の命が乗ってる、向こう側の皿には天使がぽつんと乗っている。大勢がどちらへ傾けたいかって言ったら、明言する必要もない」


「仕方ねぇだろ……皆世界が救われる方法を知っちまってんてだ」


「きっと、あんたは優しい人なんだろう。そして、あんたみたいな優しい人ですらそう言ってしまうんだから、どうしようもないんだろう」


 ルツズボウは眉をしかめながら、弱りきった顔を露にする。


「すまねぇな……あんちゃん。世界が壊れる、だが救う手段は分かりきってるって時に、別の手段を求めてもがいてる奴の言葉を無条件に信用するほど俺達は強くねぇんだ。そんで、あんちゃんがもし、もしも、あの子を人に出来たってよ……。多分、多分だが……あの子が天使から人になっても、俺達は思っちまう。アルフローレンが居る限り世界の審判は終わらねぇんじゃねぇかって……さ」


「そんな事思ってんのにあの子に優しくしてくれるんだから、あんたは根っからの善人だよ」


「……こんな話した後に言われても喜べねぇぜ」


「アイツ等にシロップ漬けくれたから、お礼に忠告してあげるよ」


「な、なんでぇ急に。ってかシロップ漬けが俺からの礼なのにそれに礼を返されちゃ――」


「あんたん所の船長さん、帝国の港についたらオレ達のこと捜索隊に密告しようとしてるっぽい。だから止めた方が良いって釘刺しておいた方が良いよ、お前等如きの考えなんて筒抜けなんだからさ」


 イキョウは立ち上がりながらルツズボウとの話を切り上げ、少女達の下へと歩き出した。


 また新しくタバコを吸い、少女達に穏やかな声を向けながら。


「――なんでぇ。あんちゃんだって優しそうな声出せるじゃんかぃ」


 * * *


 船尾の柵に座る少女三人と、その柵に背を預けて座る一人。


「イキョウ、クラーケン。クララ」


「良い名前でしょ!! 私達で決めたの、ねークララちゃん!!」


 ギャラの言葉に、クラーケンはざぶんざぶんと触手を動かし応える。


「クララちゃん甘いもの好きなの、シロップ漬け全部食べちゃったの。イキョー、もっと沢山甘い物あげるの」


「へいよー。適当に渡すから好きに食べさせな」


 アルの言葉に、イキョウは次々甘いものを手に出現させてはそれを渡し、受け取った三人はこれもこれもと流れるようにクラーケンの触手へと食べ物を差し出していた。


「次私の番――あれ!? イキョウの腕片方しか無い!?」


「今頃?」


「そんな訳ない……ホントなの……なのなのなのなの」


「またアルバグっちゃった……」


 震えるアルへ、ニコは手を伸ばし触れる。すると、共鳴をするかのように体を揺らし始めた。


「なの、なの、なの、なの」


「ニコもバグっちゃった。違うんだよ、あれだよあれ、生え変わりの時期って奴」


「腕が生え変わる時期のある動物なんて居ないけど……? イキョウ怪我してるの!? 大丈夫!?」


「怪我なんてしてないから大丈夫。最悪ロロから触手一本貰って接木でもしようかなぁ」


「イキョウは人の体なんだと思ってるの……? でも、そっか、イキョウが大丈夫って言うなら大丈夫だね!! 困った事があったら言ってよね、何でもお手伝いしてあげる!!」


「なのなのなのなの」


「なの、なの、なの、なの」


「とりあえず今はこのバグッた二人治すの手伝って欲しい」


「了解!! クララちゃん、私と合わせて十二本の手で手伝ってあげよ!!」


 波の音に負けないくらい姦しい騒がしさ。その騒がしさは、船が港に着くまでずっと賑やかに続いていた。


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