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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第八章―お前等の敵は誰だ 異世界―
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03.空虚なここ

 夕暮れののどかな村。夕飯の支度をする家々からその匂いが漂い、赤くなった家々にご飯時を漂わせるその時間帯に――。


 村の集会場兼村長の家の前にある掲示板の前には、ウキヨとニコが二人で並んで立っていた。その二人の目に映る一枚の紙には……覇気の無い顔で緑のバンダナをした男が描かれていて、その絵の下には『イキョウ』という者を殺す事が是とする文言と、共にいる少女を抹殺せよという文字が確かに書かれていた。


「ウキヨ、そっくり」


「なわけ。誰だよコレ、こんなアホ面カマスバカが何処に居るってんだよ。もっとカッコ良く描けば良いのに……っても思ったけど、殺すべき奴に華なんて持たせねぇわな。コレくらいが打倒か」


 ウキヨが帽子越しに眺めた眼には、『多才な魔法とスキルを駆使する』と言う、注意書きの一部も文字が写った。


「ほぁ~。ご生憎様、どこぞのバカは無理に魂を引きちぎったせいで、大部分のスキルと魔法に支障を来たしました。ここに描かれてるバカは、片腕を失った挙句にレベルも三百一まで下がって、ステータス数値もバグってるし、極一部の魔法とスキルしか使えなくなったとさ。そりゃそうさ、スキルや魔法の陣が記憶されてる魂の一部を引きちぢったんだ。方陣のコードが書かれてるプログラムメモリを雑に引きちぎったんだからこうなるよ」


 その言葉を垂れた直後、ウキヨは右手をニコの頭へと被せる。


「そして――たったそれくらいの代償で得られたんなら、バカにしてみれば重畳な結果だろう」


「ウキヨ、にこ? 違う?」


「にこ、で合ってるよ」


「にこ。……お野菜貰うとき、『ありがと』って言うって教えて貰った。ウキヨからも、貰った、『ありがと』、にこ」


「おわぁお、ニコは学習能力バケモンか?」


「ウキヨが教えてくれた。ニコのキミがニコに覚えさせてくれる。これ、美味しい?」


「それはちょっと違うけど……それもまた良いな。オレもお前といる時間は、美味しいって思えるよ」


「キミがニコと一緒に居る。時間、空気、匂い、景色、美味しい。美味しいは、『好き』? 『楽しい』?」


「ニコが美味しいって思うなら、今は美味しいよ。好きなら好き、楽しいなら楽しい。お前が思う言葉を選んで、お前が選んだ言葉を、オレは正しいって思うよ」


「美味しい……好き……楽しい……。好き、良い。好きって言葉、キミに言いたい。言葉、不思議、口を動かすと沢山当てはめたくなる。見てるだけじゃ分からなかった、話すといっぱい分かってくる」


「あぁ……そっか。そうだったのか。……ニコの言葉に違和感を覚えていた原因が分かったよ。お前は今まで、色んな事を視て来て、でも視たものを、誰にも表出する事がなかったんだ。外からの情報を視て内には溜めるけど、溜めたものを自分なりの形で出す事は出来なかったんだ。……オレも分かったよ、お前と話したからお前の事がいっぱい分かってくる」


「キミに分かって貰える、ニコもいっぱい分かる。好き、にこ」


「そっか、そりゃ良かった。どらどら、そろそろ村長の家にお邪魔するか」


「村長、お話、何の話」


 ウキヨとニコは掲示板の前から去り、小さな短い階段を並んで上って、村長の家へと歩みを進めた。


 * * *


 村長宅。村の集会場の役割も果たしているため、この村の中では一番の広さを持つ家だった。


 村の規模や財政から考えると相応の、簡素な室内装飾を横目に、ニコとウキヨの二人は村長家族と一緒にリビングで食事を取っている。


「ウキヨ君がこの村に来てもう一週間か……」


 家長の席に座る四十台半ばの若い村長は、その誠実そうな顔を懐かしませながらウキヨに言った。


「どうだい? もうこの村にも慣れたかな?」


「んぁ……どーだろ。ぼちぼちって感じかな」


 言葉を向けられたウキヨは、マフラーを下げた事により露になった口へ、ジョッキで酒を注ぎながら答えた。しかしそれでも帽子を取る事はなく、影に隠れた眼を視る事は、他からは叶わない。


 一番交流のある村長、村長婦人、村長夫婦の一人娘ですら、その目を一度も見た事はなかった。


「いつも悪いね、帽子取らなくて。行儀悪言ったらありゃしない。行儀は大事だからちゃんと守るんだぞ、ニコ」


「分かった、にこ」


「ウキヨちゃんそれ自分で言う事じゃないわよ? ニコちゃんは偉いわねぇ……素直さんでお利口さん。従兄弟の言う事をちゃんと聞く偉い子さんだわ」


 二人の会話を、村長婦人は和やかな雰囲気で眺めていた。


 ウキヨとニコは、従兄弟同士で旅をする根無し草の旅人と、周りには名乗っていた。それを、皆が信じてそう言うものだと思っている。


「一週間……一週間……だよ、ウキヨ君。あの夜にふらりと君が現れて、モンスターを討伐してくれてから一週間……。早いものだねぇ……」


「そーね」


「君が来てくれてから畑は一度も荒らされないし、村には平和な空気が流れている。それに、最近は世界を脅かす凶悪犯が逃亡してると聞くじゃないか……。こんな辺鄙で小さい村では、世界よりも村の事で手一杯だよ。でも、怖いねぇ……」


「あのさ村長……何言いたいわけ? 今回オレ達呼ばれた理由に関係ある?」


「大有りさ。率直に言うよ……君とニコちゃん、この村に永住しないかい?」


 その言葉を聞いて、今まで身を硬くして黙ったまま食事をしていた村長夫婦の娘は、少し、期待をするような反応をした。


「お断りー。あとその言葉と共に金入った袋そっとテーブルに置くな、しまえ」


「これは村人皆からのお礼なんだ。永住してくれるなら、君達二人の生活は私達が保証するから……どうだい?」


「お断りするよ。オレはこの子と一緒に色んなものを視たいんでね、適当な時期になったらまたどこかに行くさ。根無し草の旅人だから」


「ウキヨと色んなもの視る。にこ」


「……うぅ……」


 村長夫婦の娘、ソバカスが特徴の素朴な女の子、ルボロ、十七歳は、フォークを噛みながら小さく声を出す。


「こらっ、はしたない。年下のニコちゃん見習いなさいな、ねー、ニコちゃん、にこぉ」


「ニコ、十五歳。にこ」


 女性三人の会話の横で、村長とウキヨは話を続ける。


「どうしてもダメかい?」


「んな食い下がられてもなぁ……。大体、お互いまだ出会って一週間だぞ。オレはあんたを良く知らないし、あんたもオレを良く知らない。村長やってる奴がこんな怪しい見た目してる奴を簡単に受け入れるなって」


「君を信じる根拠なら沢山あるよ。まず、害獣を討伐してくれた、村人達と気さくに接している、強いのにその強さで周りを威圧したり圧制したりしない、緩く穏やかな空気を纏っている、村人達のお願いを聞いてくれる、ニコ君がいつも側で『にこ』ってしている」


「ウキヨ、にこ」


「へいへい、上手上手。もう良い、とりあえず分かったからもうだいじょーぶ。そして理由挙げられても永住する気が無いのは変わらないから」


「旅をしたいっていう意思が強いね……そうかい……ダメかい……」


 変わることのないウキヨの返答を聞いた村長は、それはもう露骨に落ち込んだ。折角村に現れた、実力を兼ね備えた好青年が、居ついてくれない事を理解して。


「……君達二人がする旅に目標とかはあるのかい? 例えば……うーんダメだ……村から出た事の無い私だと何も思いつかない……」


「結婚相手探し……とかかしら?」


「そーだなぁ……人に成る方法……いんや、人探し、かな」


「どなたを探してるの?」


「自分、だったりして」


 半分冗談めいた感じの言葉使いでそう語るウキヨの真意は、周りには掴めない。掴めない、が。


(はぁぁぁ……ウキヨさん……かっこいい……!!!!)


 一人、憧れのような眼を向ける者が居た。ルボロは、いや、この村に住まう若い女達は皆、今まで村にいなかった空気を纏うウキヨに憧れを向けるようになっていた。強く、不思議で、謎めいた風貌の、優しく接しやすい男に、村の若い集は憧れていたのだった。


「自分探し……いいわねぇ……。私もお金があったら若いときにしてみたかったわ……」


「お金……か。二人共お金を受け取らないけど、ずっと旅して今までどうやって生計を立ててきたんだい?」


「ちょいと昔にオレがしてた仕事で大金が手に入ったのよ。今はその蓄え使ってだらりだらりと。ニコも誘って一緒にだらりだらりと」


「だらりだらり、と」


「旅人になる前……」


 村長はウキヨの言葉を聞いて、旅人になる前にしていた仕事を思い浮かべようとする。


 モンスターを一蹴する強さ、失われた左腕、戦う者が身に着けていそうな皮製の服装、人当たりの良い人柄。戦いが関わる職に付いていたことは、何となくだが理解した。


「騎士様とかかい?」


「んー……オレはそんな国を守るだとかで誠実に在れる人間じゃないわ。冒険者よ冒険者、あとちょっとお偉いさんの小間使いしてただけ」


(ウ、ウキヨさん……すごい!! ニコちゃん良いなぁ……私もウキヨさんの隣に居てみたいなぁ……)


「だけ、の方がインパクト強くないかい? ニコ君もそうなの?」


「冒険者、してない。でも、偉い人、一緒」


「へー……二人共若いのにエリートさんだったのぉ……」


「驚きだよ……小間使いっていうのはどんなことするんだい?」


「飯食って旅行行くだけ。たまにモンスター討伐」


「えぇ……お上の世界は分からないなぁ……。私としては冒険者の方々の方が断然身近だからなぁ……。等級はどこまで上がったんだい?」


 この村に限らず、多くの村々は冒険者に依頼を出すことが多々在る。モンスター討伐もあれば、ときには旱魃時に水魔法で大地を潤してもらう事まで。戦う者や魔法を使う者がほとんど居ない故に、外部からの力を借りて補う事をしていた。


「三等級、一般レベルのフツーの冒険者」


「私からしてみれば三等級に上がれてる事って凄い事なんだけどね……でも、ウキヨ君ほどの実力者なら二等級にも上がれたんじゃ?」


「無理無理。レベル大して高くないし」


「そういえばウキヨちゃんは何レベルなのかしら」


「ん~……一?」


「へー、そーなのぉ」


 婦人はウキヨの言葉を冗談と思いながら小さく笑う。


「ははは!! そんな訳ないじゃないか。本当のところはどうなんだい?」


「三百一」


「はは~ん、ウキヨ君さては……酔ってるね?」


「まぁ、そんなところよ。酔っぱらってるからオレの受け答えなんて真に受けないで」


「ニコ、九百九十九」


「ニコちゃんもそーなのぉ」


「酔ってるなら、この村に永住するなんて言ってくれたり……」


「は、しない」

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