表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第八章―お前等の敵は誰だ 異世界―
556/582

01.お尋ね者はだーれ

 イキョウが姿を消したあの日。その日から、世界中に張り出された紙があった。


 それは――。


 緑色のバンダナと、そして腑抜けた顔の男が描かれている紙。お尋ね者、wantedの文字が、その紙には顔と共に書かれていた――。


 * * *


 世界の敵であるアルフローレン。それを逃がした男。


 各国の代表は、その逃した男が仮面部隊の一人だと知っている。嘲笑の仮面だということを、その者の名がイキョウだということを、知らないわけが無い。渦中の男の情報を逃すほど、国の代表は愚かでは無い。


 一月前。国際的な指名手配をするに当たって、各国を巻き込んだ会議が行われた。その場には当然、カフスだって召集されていた。


 ただ、その傍らには、二人の男が居た。共に仮面を被る男達は、片やフードを被り、片や特徴的なスーツを着ていて、その二人からは物言わぬ重圧が放たれていた。


 しかし、その二人は、そしてカフスは何も言わない。何も答えず、何も発さず、物言わなかった。


 他国の王達は、そして忠臣達は、人は、種族は、皆知っていた。そこに在らせられるドラゴン、カフススノーケアが居なければ、自分達自身が、そして自分達が住まう国が、生まれる事は無かった、と。


 この世界に住まう者達は皆、親から聞かされたことがあった。その親は自分の親から、その親は、また親から――。先祖代々、子から孫、その孫へ、カフスのしてくれた事を全て、ありががるように語っていた。


 時には荒れ狂う洪水を静め、時には崩れる山々を治め、時にはご飯を食べさせてくれて、時には迷子の自分の手を引いてくれて――。厄災を静めることから、ほんの小さな困りごとまで、カフスはどんなときでも人を助けてくれるお方だって、聞いていた。そしてそれは、カフスが自らの街『アステル』を建国するまでずっとずっと、続いて来たことだった。だから、この会議に参列する者も皆、カフスの助というものを知っていた。崇め奉るに値する存在と、皆が心の底から理解していた。


 ここに座る者達は皆王だ。そして、目の前に居るのは、神に値するほどの存在だ。それは例え、本物の神が現れようと、皆自らが信ずるのはカフスその人だった。


 しかし、此度の問題は世界の命運をかけた問題。その問題を長引かせた張本人は、カフスお抱えの部隊である仮面部隊のメンバーだった。


 だから、誰かが質問した。


「カフス殿……どうにかして、あの裏切り者、イキョウという者をこの場に召集することは――」


 他国の王が、伺いを立てるように言葉を恐る恐る放つ。その問いに答える者は――カフスではなく、虚無の仮面だった。


「誰が、何時、何を裏切った。もしや、俺達がお前等の味方だったとでも思っているのか」


「……え?」


「俺達は元よりお前等の味方ではない。崇高な思想を持ち全てを救おうだなどと、はなから思って居ない。そして――正義の味方ですらない。あのバカは、そしてあのバカの仲間である俺達は、お前等を、そして正義を、一度も裏切った事は無い。そもそも味方ですらないのだからな」


「いや……いやいや!! 共に世界を救うため、戦ったではないですか!!」


「世界などどうでも良い。俺は救いたいものを救えればそれだけで良い」


 虚無の仮面を聞いた者は皆、狼狽する。『何を言ってるんだこいつは』と。


「貴様……その、救いたいものに……世界が含まれてないとでも、言うの……か?」


「『どうでもいい』 と、言ったはずだか」


 その鋭い口調の返答に、皆は押し黙る。


 同時に思う、そこに立っている男は、どこかがおかしい。イカれている、と。


 そして疑問も同時に持つ。何故このようなイカれいる者がカフスに従い、しかし主人であるカフスはこの返答を聞いても尚、何も言わないのだ、と。


「くはは。貴様等、そろそろ巣立つときだ。このドラゴンが居らぬ世界を知るが良い。神と崇め奉るものなぞ、人の世に駐在することもなかろう」


 辺りが困惑を示す場に、尊大な口調の言葉が静かに響く。


「あとはお前等が勝手にやっておけ。始末は俺がやる」


「顛末なぞなんと憐れなものか。――さらばだ詰まらぬ凡人共、貴様等がどう足掻こうと、あの阿呆に勝る事など無い」


 二人の言葉を最後に、カフスも同じく、扉の向こうへと姿を消した。


「――ワッチも席を外すのじゃ」


 同時に、教皇もその姿を追うように、この場を去った。


 残された者達は王は、そして忠臣は皆、あっけに取られていた。しかし、そんな時間は無い、無駄な時間を使う暇などない。


 故に言葉を交わした、議論した、口戦が起こった。その末に定められた結末は――『世界への反逆者イキョウ、並びに天使アルフローレンを抹殺せよ』という、人が人の世を救う為に必要な、至極全うな結論だった。


 * * *


 ルナトリック、ソーエン、カフスは、静かに歩く。静まり返ったクライエン王国、その王城の廊下を、誰一人の人影も感じないまま、三人はただ歩く。


 その三人の歩みの音に、激しい足音を重ねるものが居た。


「のぅ、ルナトリック!!」


 その者はダキュース。ダッキュではなく、教皇ダキュース。


 紫色の長い髪を揺らしながら、女性らしい肢体を祭服で覆い、鋭い目じりに赤い隈取が入っている、教皇ダキュースは、その姿のままカフスを背後から抱き締め耳を塞ぐ。そして、鋭い眼を更に鋭くさせてルナトリックを睨む。


「話が違うではないか!! アルフローレンはあの場で死に、謁見の権利を得ることによって神域に居る神を殺す手はずじゃッただろう!! 貴様もそれに同意したはずじゃ!! あそこが最後の分岐点、あやつが歩むべき分岐点じゃったはずじゃ!!」


「我輩が違うのでは無い、あやつが間違うのであるよ。貴様、その眼でアルフローレンが生きた未来を見て……は居ないだろうな」


「当然じゃ!! どの未来でも奴は死んでいた、散っていた!! 生きる未来なぞ一つも無かったわ!!そんな未来はありえないはずじゃッた!! 不味いのじゃ……このままではワッチが視た未来に無い事が――」


「貴様は未来という不確定なものを視た。しかし、我輩は識ったのだよ、過去に起きたという、確定的な不変の事変を。視ただけの貴様、識った我輩。しかしどちらもあの阿呆は理解できぬ。故に我輩は常に考え続けるのだ。未来を視て知ったと思ってる、愚かな貴様と違ってな」


「過去などワッチだって知っておるわ!! ずっとこの目で見て来たのじゃぞ!? 生まれてずっと、何百年もこの世界を見て来たのじゃ!!」


「たかが何百年――そのような月日なぞ、比較にすらならぬ」


「じゃあお主は――」


「答える義理も無い」


 そう答えると同時に、ルナトリックは指を鳴らす。


 音と共に起こる事象とは――ダッキュが抱えているカフスが、影のように融け、この場から消えるという、不可思議な現象であった。


「あ、あ……え? カフス、何処に行ったのじゃ!! カフス!! カフス!!」


 ダキュースは鼻を鳴らし、魔力を探すように辺りをキョロキョロとする。変身で模した見えない目よりも、それ以外を使って、消えたカフスの痕跡を一生懸命に探そうとした。


「嫌じゃカフス、去らないでくれ!! 嫌なのじゃ、もう嫌、もう誰も消えないで!! 一緒に居て!!ウチの側に居て!!」


 そしてダキュースは……ダッキュは、泣きだす。自分が見たことの無い未来の分岐が起こり、そのことで不安になって、自分が最も守りたかった存在が消える未来を頭に過ぎらせてしまって。


 そんな姿など、ルナトリックには関係ない。ルナトリックにはルナトリックの思いがある。故にダッキュのその泣く姿に一瞥も暮れず、影の中へと身を落として消えた。


 残されたのは泣く狐と、そして……ソーエンだった。


「ふぅ……」


 ソーエンはこの後にナターリアと会う約束をしていた。だからこの場に留まっている。


 今吐いたため息は、苛立ちのため息だった。そして同時に、『やれやれ』とでも言いたげなため息でもあった。


「……カフスは急用でこの場に来る事は出来なかった、と、本人とナトリから聞いている。だからナトリがダミーを作っていただけだ、今それを解除した」


「のぅ……?」


「俺はお前が言う未来だとかナトリの言った過去など知らん。知ろうとも思わん。あのバカが、バカであるならどうせ間違う。だったら俺はそれに付いていってやるだけだ。お前には分かれない、ナトリには知れない。俺も知らない、あのバカも分からない。誰もが皆分かっていたなら、俺達が間違い続けることも無かっただろう

 ……あのバカに任せるな、俺に任せるな。故に、俺達に任せろ。あのバカが決意した事を、俺も守ってやる。くたばれ」


 そう言ってソーエンは、ダキュースの背中に蹴りを入れた。


「のぅ!? 今言われたこともされた事も何一つ分からんかったのじゃが!?」


 あまりの驚きに、ダキュースは変身を解いて、ダッキュの姿としてソーエンへと食って掛かった。


「チッ、あのバカなら理解したというのに……チッ……。      ……クソッ。

 問う。今のお前はダッキュか、それともダキュースか」


「舌打ち多いのじゃぁ……おぬし等破綻者のことなぞウチが理解できるわけも無かろう!? おかしなおぬし等が勝手に変な言葉言って勝手に理解しあうなんておぬし等同士でなければ絶対に無理じゃ!!」


「フッ……」


「なんで嬉しそうなのじゃ……。因みに今のウチダッキュ!! 人の温もり欲しい!! カフス、ぎゅー……居ないのじゃ……。ラリルレよ、むきゅー……居ないのじゃ……子らよ……居ない……ソーエン!!」


「くたばれ」


「あぁー!! あぁッ!?」


 バタバタと喚くダッキュを、ソーエンは米俵のように抱えて、歩みを進める。


「何するのじゃ!! 嫌じゃ、ウチ、こんな雑な抱え方されとうない!! ぎゅーが良い!! 何処へ連れて行く気じゃ!!」


「…………俺は地獄だろうと何処へでも行く。あのバカと、一緒に行ってやる、共に孤独の彼方に去ってやる。だからそれまで、ナターリアには、せめて――」


「んぉ? なんの話じゃ? ナターリアとはクライエンの第三皇女じゃよな? なんじゃ、お主、恋仲か!! どこまで行った!!子作りしたのか?」


「聞かずとも、潰れた眼で未来を見ればわかるのではないか? 見れるものならな」


「きゅへへ、隠すことなどない。どれどれ人生のセンパイであるウチに包み隠さず……のじゃぁ……ウチ……ふぐぅ……」


 その後、ダキュースはナターリアの元へ連れられ――。


「ソーエン、もふもふ、もふもふですよ!! ソーエン直伝、秘儀、猫ちゃんなでなで術!!」


「のじゃぁ~、触り方上手なのじゃぁ~……きもちいぃ……」


 ――存分に撫でられ、癒されていた。


 そんな、楽しそうなナターリアの姿を、ソーエンは……微笑むように……フードの奥で、静かに見ていた。


 ずっと、見て居たかった。仲間達も、ナターリアも、ずっと見て居たかった。でも、それと同じくらいに――親友のことも大事だった。


「なあ、イキョウ。そろそろ限界だろう。ずっと、無理をし続けてきただろう。もう、お前は、人として…………。――――死んでくれ……」


 人には聞かせない、人には聞けない小さな呟きは、人で在る者達には誰にも届かず、ただ、ソーエンの中に響いていた。


 * * *


 アステル。そこは、イキョウがこの世界に来てずっと住んでいた町。そして、イキョウの仲間、<インフィニ・ティー>のメンバーが住まう町。


 この街は何を思うのだろうか、何を考えるのだろうか。世界協定により張り出された手配書の紙は、この街には一切、見る影もなかった。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2029081/blogkey/3451244/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ