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35.視たから識ってる

「ラリルレみてみて」「おそらにびゅーんがぴかぴかしてる」


「ホントだぁ!!」


「ふへー……それより見るものあるよー……」


 遠く向こうに見える、空を裂くほどの黄金の奔流を見た双子とラリルレ。そしてだらりとしながらも、空を見ずに目の前の光景へと眼を向けるソーキス。


 他の、護衛役の者達はどちらにも眼を向けて居ない。なぜなら――。


 <神環なる聖域>の主を守っていた騎士達は、皆が昏倒していたからだ。


 なぜそうなったのか。その元凶たる存在は、杖を手に持ちながら、奥義を使用中により動けないラリルレを見下ろしている。ただ何もせず、ジっと見下ろしてる。先程からずっとこの状態が続いていた。互いに相手へ何をする訳でもなく、動けないラリルレと、勇者一行の一人――付与師のサタナがただただ対面して、お互いの存在を感じあっていた。


「ラリルレー、どーすんのこれー? ボクたべよーか?」


「我が引き裂いても良いが?」


「ううん。大丈夫だよ、ふわふわ分かるの。ぽわぽわするの」


 その言葉と共に、ラリルレは目の前の女性へと、笑顔を向ける。それに対して、サタナは何を返すわけでもない。笑顔も、言葉も、そして攻撃も、何もする事はない。


「こんにちは」「はじめまして」「リリムだよ」「リリスだよ」「「ばあ」」


 双子も感じている。この目の前の女性は敵ではないと。何故なら……敵というには、あまりに優しい目をしていたから。


 が、しかし。写し身には力や戦い方は有っても心や意思は在りやしない。心が分からぬ存在が模した人形に、心などありやしない。優しさなんて有りはしない。


 でも、それでも……幼子を殺す戦い方を、サタナは知らなかった。


「……」


 傀儡のように命令に従う写し身は、それでも、その手を双子の頭に乗せ、優しく手を滑らせたのだった。


 * * *


 ソーエンは戦場を跳ぶ。空を蹴り、宙を蹴り、人を蹴り、敵を蹴る。


 ここに居る奴等を全て、仲間だとは思っていない。だから人を足蹴にし、人間達が戦っている様子に一切眼もくれず、アルフローレンの下に跳ぶ。


 何のために戦うか。それは、仲間達とナターリアのため。そのためだけにソーエンは敵を蹴り、大きく飛び上がって花弁へと降り立った。


「くふふ、随分遅い到着ね」


 ソーエンが降り立ち、目の前に巨大な敵がそびえるその花弁には、もう一人の人物。仲間が居た。戦いもせず、刀を納めてそこに居た。


「丁度良い、手を貸せナナ。挟撃きょうげきでやつを葬る」


「そーしたいのは山々なんだけれどねー」


「けれどねではない、やれ <バウンサーハウンド>」


 あまり時間をかけたくないソーエンは、言葉と共にすぐさま攻撃を開始しようと、スキルを使用し牽制の一発を放つ。――が。


「なに……ッ」


 その後に攻撃が続く事は無かった。同時にソーエンの動きも止まる。


 牽制用に放った弾丸の一閃。それは、何処からとも無く現れた、まるで同じような力に相殺され、何の結果も生み出さないまま掻き消えた。


「視た。識ってる。視たから識ってる、から、真似できる。心、見えないから知らない。でも心無いなら分かる。だから、自分を乗り越え、世界を乗り越え、そして私を乗り越えて。それが出来なければ消え去って」


 アルフローレンは、二人を視ずに語る。戦場を見たまま、この場に起きてる事を視ずに言葉を紡ぐ。


「ね? この子攻撃しようとすると真似されて相殺されちゃうのよ。刀も銃もだーめ、マホーならいけるのかしら?」


「……チッ!! 天使風情があのバカと似たようなことを……!!」


 内に憤りを溜めたソーエンは、ナナの言葉も聞かずに銃を強く握る。そして、攻撃が相殺されることなど知るかと言わんばかりに、宙を蹴って、独りで戦い始めた。


 早く殺すため。そのためだけに、ソーエンは相手の自動迎撃すらをも無視して天使を殺そうとする。


「貴方、識ってる。あの人とずっと一緒に居た。視てた。沢山視た。だから <ラストリゾート>」


「――ッ!?」


 ソーエンは宙に跳び、銃弾を撃ち、力と量でアルフローレンの自動迎撃を押し切ろうとしていた。だが眼前に、急に光が集束し、そして、時をおかずして放たれた。


 遠く浮かぶ雲さえ引きちぎる一瞬の閃光、辺りを揺るがす轟音、それはこの戦場に居る者達や、背後の陣で臨時治療を受けている者達さえも、眼を、耳を向けてしまったほどの衝撃だった。


 当たれば死、体が消し飛ぶほどの一撃。それをソーエンは――寸での所で直撃は免れていた。イキョウを真似して得た眼だからこそ出来た所業、それがなければ死んでいた。が、しかし。完全には避けられなかった。直撃してないはずの攻撃は、その威力を持って、ソーエンの脇腹を抉り取っていた。


 コートに血が染みる。染みた血は、コートが吸い込める限界を超えて、右足へと滴り落ちる。体も、その衝撃に呑まれて後方へと力なく投げ出されていた。


「不味い!! 虚無の仮面がやられた!!」


「回復できる奴行って来い!! 仮面部隊を死なせるな!!」


「む、無理ですよ、遠すぎます!!援護いけません!!」


 大連団の者達は、遠く離れた空に虚無の仮面が、そして血が跳んでいる光景を眼にしていた。何もしなければ、あの者はすぐに死ぬだろうと、誰もが思うほど、力が無く、血が流れている。


「三回。貴方達の限界。もう一度目、迫ってるよ?」


 アルフローレンは知っている。この者達が、三回死を逃れる事が出来る事を。そして、人はあれほどの傷を負ってしまっては、満足に動けずにただ死を待つしか無い事を。


「――それがどうした。ただ迫っているだけだろう」


 しかし、この男は違う。


 力なく宙に投げ出されているというのに、そのフードの奥からは鋭い眼光を突きつけていた。


 血は流れ、脇腹は抉れてる。そんなこと、この男には関係ない。死の恐怖すら関係ない。


 ソーエンは宙で体を回し、体勢を立て直すと、再度空を蹴ってアルフローレンへと飛んだ。打開する策なんて一切思いついてないなど居ない、そのような思考をするほど、この男は器用ではないから。だからまた、攻撃をぶち当てて力押しをするために、アルフローレンへと立ち向かう。


「冗談だろ……?」


「あ、あれで死んでねぇどころかピンピンしてやがる……」


 どよめく戦場、それを無視してソーエンはまた、銃口をアルフローレンへと向けた。


「力押しで良いなら付き合うわよ? 私もその方が単純明快ですーき」


「自動迎撃が破綻するほどの速度で叩き込め。ゴリ押しの時間だ」


 怒涛の銃撃、怒涛の斬撃。刃が、弾丸が、ぶつかり合う衝撃は、アルフローレンの周囲に風と空の揺らぎを巻き起こさせ続ける。


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