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31.ご一行

「よ、アルフローレン」


 オレは隠密を解いて、白黒の蕾に話しかける。


 巨大な蕾。花開く前の、咲き誇る前の、蕾。この中に、あの子だった奴が居るんだろう。


「……約束。譲歩した」


「ありがと」


 いつも聞いた声が聞こえてくる。


「情けはここまで。あとは審判するだけ。抗うか、抗えないか、視させてもらう」


「そっか」


 知らない奴が話しかけてくる。


「そっち、準備良い?」


「良いんじゃない? もう始めよう。そして終わらせよう」


「わかった」


 話し続けたところで、何も変わりはしないんだ。だから、早いうちに終わらせよう。


 死神ちゃんじゃないんだ。目の前の存在はアルフローレンなんだ。アルフローレンは、ゆっくりと花びらを解き、この平原にモノクロの大輪を咲かせる。


 巨大なモノクロの花。そしてその中、花弁の中心には、オレの知らない、でもゲームでは見たこと在る奴が居た。


 女性の上半身をシルエットで象ったような、灰色の体。顔には眼や鼻は無く、形を模して表面に多少の凹凸があるだけ。精精、口を表してるのか、横一線が口の場所に引かれているだけ。人と似てる部分は、人に似ているだけ。


 髪のように生えた頭の花、そしてツタ。それもただ人の体に見えるだけ。


 それがアルフローレンだ。こいつは天使で、アルフローレンだ。


 オレの目の前にそびえる天使は、戦いを始めようと口を開く。動かない口を動かさず、何処からとも無く声を発した。


「さあ、生者達。抗いを見せて。私はそれを視る、視るから私に見せ付けて。この子達と戦って <記録の写し身>」


 その言葉と共に、アルフローレンは背後や両翼の陣に何かを召喚し始めた。


 その何かとは、大小さまざまな蕾だ。そしてその蕾が花開くと、中から若干薄灰色味掛かった者達が現れる。鎧を着ていたり、剣を持っていたり、ドラゴンだったり、人だったり、モンスターだったり……。


「この子達は、私が観た、視た、いろんな世界の強者達を写したもの。力が強い者、心が強い者、偉大な英雄、誇り高き死者達。果たして生者達は、死者に抗えるかな」


 アルフローレンの問いには誰が答えるのだろう。誰が、は、カフスがだった。


 遠く背後で起こる、まばゆいほどの神々しい光。その光が消えると、そこには蒼く美しい、幻想的なドラゴンが君臨していた。


 その姿、今よりも前に見えておきたかった。そうしたら、もっと興奮して見れてただろうな。


「勝つ。勝って、世界も、皆も、守る」


 ドラゴンになっても相変わらず口数が少ない奴だ。でも、その言葉だけで良かったんだろう、それが何よりのお言葉だったんだろう。大連団からは凄まじいほどの声量が上がり、こちらまでビリビリと響いてくる。


「人よ、抗え。過去の死者達、試練を与えろ」


 その声で戦いは始まった。火蓋が切られた。オレの前には写し身達が迫っている。


 今この瞬間にアルフローレンを攻撃すれば、それで戦いは終わるのだろうか。どうなんだろう、やってみよう。


「混沌滲出。<無頼切り>」


 オレは混沌を体に纏わせ、跳んでダガーを振るう。でもその斬撃は、アルフローレンへ届く寸前に、死者が割り込んできて相殺されてしまった。斬撃と写し身が相殺して消えてしまった。


「視た。識ってる。私は“貴方”を視てたから、こうすれば良いって知っている」


 もはや、キミとは呼んでくれないんだ。目の前に居るのはアルフローレンなんだ。


「こうって、どう?」


「混沌に存在を喰らわせて、侵食される前に消す。混沌だけは認めない。それだけは、絶対に止めを刺させない」


「刺させないって事は刺せるってことでもあるな。じゃあ、このままやらせて貰うよ」


 殺すなら殺す。そこに方法はない。だからオレは、一番早い方法で――。


「貴方は頑張った。もうそこで視てて、休んでて」


「――わお」


 ――オレはアルフローレンの花弁に着地し、そこで……。






見たことある男と対峙した。









 金髪が風に靡きそうで、爽やかという表現がとても似合いそうで、優しくて柔らかで、天然な男。その男と、六人の男女が、花弁の上で、オレを待ち構えていた。


 白く清廉な鎧を身に纏い、正義に輝く剣と盾を持っている男。世界の為に戦った、オレが心の底から尊敬している男。勇者、アーサーとそのご一行だった。


 青い頭冠と白蒼ローブをはためかせる、杖を持った鋭い眼の白髪賢者レリック。

 聖衣に身を包んだ、乳白色の長髪を風に靡かせる女聖職者イヤセ。

 牛を思わせる角が生えた重装に身を包んだ男戦士ガンマ。

 黒鉄の仮面と黒いフードを身につけ、光を吸い込んで反射せず、音も無く立っている暗殺者ザンエイ。

 ベレー帽とケープを身につけ、笑えばきっと可愛いだろう、緑髪で二つ結びの付与師サタナ

 羽の付いた狩人帽と赤い薄手のローブを身に纏った流麗な三つ編み女魔法剣士セプテム。


 きっと、コイツ等は良い奴だったんだろう。でも、今のコイツ等に人間性なんてモノは微塵も感じられない。ただ無表情に、そこに居るだけだ。


「貴方が何もしなければ、この子達も何もしない。何かすれば、何かする」


「アーサー達を相手に七対一か……。もう一人ここに来たら、何かしようかな」

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