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28.アステルの、良い人達 優しい人たち

 イキョウは酒瓶から酒を呑みながらフラフラと去った。集まった者達は皆、それを無言で見送りながら、店に残される。


 残された者達、その中から、ポツリ、またポツリと声が上がる。


「イキョウの顔……不気味だったな……」


「ですね……。怖くて動けなかったです……。でもいつものふにゃーっとした顔を見たら……何故だかこっちもふにゃってなっちゃいました……。私がおかしいんでしょうか?」


「どちらが彼の本性なのだろうか。そして彼は……何を言いたかったのだろうか……全く理解できなかった」


「あの顔……不気味だけど、ちょっと神秘的で綺麗かも……」


 イキョウと比較的関わりの浅い皆は、先ほどのイキョウを人という型に填めて考える。いつもフラフラのへーっとしている男のどちらが、人としての本性なのかを。


 ただ――皆の頭の中に浮かぶイキョウの姿は――普段の腑抜けてよく顔に出るイキョウばかりだったため、皆一様に『そんな奴に裏があるとは思えない』と考えていた。そして出た結論は……。


「世界が崩壊するってのに、勇者様のように頼られるって相当なプレッシャーだろな……」


「だからイキョウさんらしくない顔までして、遠まわしに止めてって言って来たのかもしれません」


「私達も無神経すぎたな。彼に会ったら謝ろう」


 群衆がざわざわとする中、重鎮達四人の口から解散が告げられた。イキョウと関わりの深い者達は残る事を命じられ、その他は今回の行いに少しの後悔と反省をしながら、シュエーの店を出て行く。


 ――残された者達。二等級冒険者三組と太陽の恵み、ローザ、そして四大悪魔達。その者達は、神妙な面持ちをしながらソファへと座りならがらも、誰もが口を開こうとはしない。そして、呼ばれたはずのミュイラスが姿を消していたことについては、何も言わない。


「……このまま黙ってても仕方が無いね。少し、お話をしてみようか」


 今はミュイラスのことよりもイキョウのことが優先だった。そのことを話すため、テモフォーバは口を開く。


「イキョウ君のあの顔……得体の知れない、不気味な顔を……私は見たことがないよ。この中で誰か、彼のあんな顔を見てしまったことがある者は居るかな?」


 その言葉に、誰も口を開かない。


 誰もが理解している。イキョウと関わりが深い者達だからこそ理解できることがある。


 普段から騒がしい男が、顔が素直で喧しくて周りに人が溢れている男が、そしてバカで人間臭い男が、無理をしたからといってあのような顔が出来る訳が無いと。顔も声も、どこにも普段のイキョウが居なかった。イキョウと関わりが深いからこそ、そこにイキョウが居ない事を理解していた。


「そうだよね、居ないよね。……私達大悪魔四人も長く生きてきた。でも、あの人間の顔は見たことが無いよ。イキョウ君の表情じゃない、あんな人が抜け落ちた顔自体を、見た事が無い」


「ギルマスよ。あの顔は裏の者が感情を殺す際に使う表情でもない。心を殺した顔ではなく、心が死んでいる顔だ」


「さ、最近忙しくて疲れが溜まってるとかかニャ?」


「ど、同士やルナトリックさん達、最近旅行してた。て、天使の情報、集めてたのかもしれないんだ、きっと、きっと、それでとっても疲れて……」


「その線も捨て切れん。寧ろその方が幾分か説明がつく分マシだ」


「でもよ、多分よぉ……アイツ、きっと……すっげぇ頑張ってると思うぜ」


「けけ、そうだね。本当に、頑張ってるよ。何かに突き動かされて、一生懸命頑張っろうとしてる」


「助ける……。いままで、イキョウ達に、助けられてた。今度は、俺達が……助ける番だ」


「グルゥ……助けるといわれましても……私達は、彼の何を助けてあげれば良いのでしょうか……」


「わっち、少し席を外すでありんすぇ。ローザはん、ご一緒しなんし」


「え……? あ、はい……」


 話し合いの途中、シュエーはローザへと目線を送り『上の階へ』と言って来た。そして二人は立ち、この場を離れようとする。


「何処行くんですか? お手洗いなら私も一緒しますよ?」


「ロトサラはん、秘密のお話でありんすゆえ、イキョウはんのお話はそちらで何卒よしなに」


「そう……ですか? 悪魔的に了解しました」


「み、皆、同士、良い人。絶対に良い人なんだ!!」


「急に声を上げたね、サンカ。でもそうだね、あの男の底は知れないけど、でも良い人だ。本当に良い人だよ。彼の周りを見れば分かる」


「ははは。そうだね、そうであると良いね。そしてたぶん、彼の全てを知ってるのは――ソーエン君だけなんだろうね」


「グルゥ……先ほども名前を出したとたんにいつもの様子に戻りましたからね……ここに彼が居れば、もしかしたら何か知れたかもしれません」


 シュエーとローザは、そして他は、それぞれの話をするためこの店に残った。そして、この後も、言葉は交わされ続けた。しかし――この店に居る誰一人として、イキョウの事を理解できるものなど居なかった。

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