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27.裏も表も無く、人でもなし

 死神ちゃんと会った夜。その次の日に、死神ちゃんの言う通り、世界に布告がなされた。


 急に神や天使の存在を知らされ、負けたら世界が滅びると知ったこの世界の皆は大混乱、ヤイナとラリルレも知らなかったので、同じく大混乱。ナナさんは知らないくせにめっちゃ普通にお茶飲んで落ち着いてた。やっぱあの人おかしいわ。


 色々とてんやわんや騒ぎが起こる中、カフスと教皇ダキュースが中心となって動き、騒動自体は沈静化を始めている。


 ただし――布告と共にとある事項がアルフローレンから告げられた。


 アステルと王国の間にある大平原。そこに、抗うものを集めよ。という内容の、実質的な宣戦布告だ。どうやらこれが譲歩のようだ。全ての生者を抗わせるのではなく、代表を集めて抗わせるようだ。その選ばれた代表達が負けたら世界は実質的に終わりだから、世界の審判ってことに変わりはない。


 その為現在、国のトップや実力者が王国に集まって協議を進めている。らしい。


 なんでカフスの統治するアステルに集まらないのかってのは、単純にカフスの住居が狭すぎて、国のトップが集まりきれないから。らしい。


 らしい。らしい。なーんでオレがこんなに他人事状態かというと――。


 ――オレは現在ナトリから謹慎をくらって、家に一人ぼっちで残っているからだ。他の皆はカフスに付いてって、仮面部隊として協議に参加している。家の子達は、カフスや皆と離れたくなくて、人数の多いほうに付いて行った。因みに、ひまわり組もカフスのお付きとして同行している。


 ……どーして、オレは謹慎くらっとるんですか?


 大一番の戦いを前に協議が開かれるってときに、ナトリから『貴様等阿呆共が揃ったら場がまとまらん』と言われて、『それは……そう』ってことでオレはソーエンにあちらを任せて、家に一人残ってる。ソーエンはナターリアに会いたい筈だからな、ナターリアも不安だろうしな。今回は譲ってやったよ。


 だからオレはアステルに残った。この、世界が滅びるかもしれないという不安に包まれたアステルに――。


「あれ、イキョウちゃんじゃないかい。お野菜買ってく?」


「今日はパース」


 不安に包まれたアステルに――。


「よ、精剛。シアスタちゃんたちが居ないからってハメ外しすぎちゃだめだぜ?」


「はいはい。お前は財布の紐もっと引き締めろ」


 ――アステルは今日も変わりません。ふっつーに平和な日常が流れてます。


 流石に一部の店は営業を停止したりしてるけど、ほとんどなんにも変わらない日々が流れてます。


 コイツ等能天気すぎじゃね? って思って、何人かに聞き取り調査をしたら……。なんでも、カフスが動いてることや、オレが居ること。なにより、カフスがあれだけ動いてくださってるのに、そのお膝元に住む自分たちがめそめそ落ち込んでたらカフスが悲しむってことで、みーんな元気いっぱい状態です。


 ただ、いつもと違うところがあるとすれば――。衛兵や冒険者達、戦う者達が、訓練や鍛錬をして、自らの腕を磨いてるんだよ。世界の存亡をかけて、皆力をつけようとしていた。墓守とカニ君達なんてあちこちから引っ張り蛸状態だ。


 そんな者達を町の皆が応援している。オレなんて変に期待されてるせいか、行く先々で声は掛けられるわ、女の子からめっちゃ誘われるわ、飲食店で異常なくらいおまけされるわで、嫌な重圧を感じるよ。


 でもオレには関係ない。周りからの期待や重圧なんて関係ない。アルフローレンを殺すのに、周りは関係ない。関係あるのは、オレだけだ。


 オレは間違えない。絶対に間違えられない。殺さなければ世界が滅ぶ、世界が滅んだら仲間達が死ぬ。皆を救うには、アルフローレンを殺すしかない。


 底のオレも言っている、選択を間違えるな、と。でも同時に言っている、正しいのか分からない。とも。結局分からないバカなんだから黙っててください。


 これでいいんだ、それでいいのか。ずっとずっと、頭の中で響いてる。でも殺す。殺して、オレも最後に殺す。この決意だけは、絶対に揺らいではいけない。


 確固たる意思を持ったまま、オレはシュエーの店へ向かう。今回ばかりは遊びに行くんじゃない。呼ばれたから、話をするために行く。


 シュエーの店には、オレが仮面部隊の一員だと知っている者達が呼ばれていた。受付さんやキンス達、役場のお偉いさん、商会の人やグスタフ、夜の者達。


 オレは店に入り、そしてそいつらがオレを立って見る中、重鎮四人に囲まれてソファに座る。


 真剣な顔で、緊張の面持ち――あ。


「お酒頼んでも良い?」


「あらまぁ、イキョウはんは変わりまへんなぁ」


 オレは隣に座るシュエーに一声かけると、シュエーが取り計らってくれて、夜の蝶たちがお酒や氷を運んできてくれた。


 そうそう。このためにわざわざ集合場所をシュエーのお店にしたんだよ。お酒お酒~。


「イキョウおめぇよぉ……」


「んだよ!! 呼んだのお前等じゃん!! ゲストオレじゃん!! だったら酒くらい呑ませやがれ!!」


「んにゃぁ……緊張感にゃいにゃぁ……」


「ど……同士らしい……」


「みゅぅ……ああ、あ、安心、します」


「は? なに? お前等緊張してんの? なんで?」


「グルッフッフ。それは私の方から説明しましょう」


 サイコキーマから、イキョウらしいですね、みたいな笑い方をされながらも、オレは話を聞く。


「先日、アルフローレンと名乗る存在から天使達の名を告げられたことはご存知ですよね?」


「そこ聞く必要ある? ちゃんと聞いてましたぁー」


「グルッフッフ、それは何より。その際にオルセプス、ギルガゴーレ、フォルカトルという名の天使に心当たりのある者達から私達宛てに情報をいただきまして」


「はぁ……? オルセプスはミュイラスか」


「は、はぃ……みみ、見た、ので……」


「フォルカトルはまぁ、皆知ってるしなぁ……。ギルガゴーレは何処筋よ?」


「あのあの、私達です」


「はっきりとした情報ではないけれど、心当たりがあってね。異常な強さを持つ君とソーエンが海で戦ったときに――」


「んはぁ?」


 あ? コイツ等……太陽の恵みってそういやシャーユで一緒したんだっけ? 覚えてねぇから知らねぇなぁ……。


「なんだいそのアホそうな声は……。良いさ、細かい事は省くけれど、あの時君達が戦っていたのは、私達が相手をしたゴーレムよりも数倍強い“天使”だったんじゃないかなって思ったのさ」


「はぁ……? それで?」


「イキョウ。君はソーエンと共に、王国でも正体不明のモンスターを相手していたようですね」


「へい。そのとーりでごぜーますサイコキーマ。因みにそいつがユーステラテス」


「これで四体、天使呼ばれる者達と関わっていますよね?」


「そうだけど?」


「もう、ここまで来ると残りのガランドウルとマリルフォールにも関わってるとしか思えません。

 そして私達は聞きたいのです。君達、今まで人知れず世界を救い続けてたんですか?」


「違うけど?」


「やはり。…………?」


「「「「えぇ……?」」」」


 おや、何か全員揃って予想外なような声と表情をしてる。


「オレがそんな殊勝な英雄様とでも思ってんのか? ふざけんな、そんなご立派な奴じゃない」


「すみません、ちょっと結論を焦りすぎました。えっと……六体の天使を退治したのは、仮面部隊の方々、その中でもイキョウとソーエンが多く関わってる、間違いありませんか?」


「そーねぇ。ガランドウルから通してみれば、オレとソーエンが一番討伐してるかなぁ……今のとこ全部に関わってるもの」


 オレは懐かしき日々を思い出しながら、酒とタバコを嗜む。


「ほっ、ここは合ってましたか。では、仮面部隊は天使を討伐する為に、スノーケア様が極秘に備えていた戦力というのは?」


「成り行きでそうなっちゃっただけなんだよなぁ……仮面部隊になる前から、オレとソーエンは戦ってたよ」


 仮面部隊はオレ達の正体を隠す為。そして、オレ達は天使と神を倒す為にこの世界に呼ばれた。超逆説的に言えば、仮面部隊は天使を倒す部隊ともいえなくもない。


「なるっほどぉ……なる前からですか……。そうなった経緯は窺い知れませんが、やはり、二人は世界を救う為に天使と戦い続けていたのでは?」


「んー……違うかなぁ……。それも成り行きなんだよなぁ……」


「……………」


「「「「えぇ……」」」」


「にゃぁイキョウ、その力は天使を倒す為に身につけた訳じゃにゃいのか?」


「別に? 体の能力は遊んでたらこうなったし、技術は適当に生きてきたら身についた」


「にゃぇぇ……」


「け、けけ。成り行きで世界救うって何? どうなったらそうなっちゃうの?」


「オレの生き様なんて毎回どうなったらこうなるの? って事ばっかりだからしらなーい」


「けけぇぇ……」


「……あーもー!! まどろっこしいことは抜きですクソガキ!! ローザちゃん、言ってやってください!!」


「え? えぇ……私ですか……今イキョウさんと関わり辛い……。……えっと……。細かい事情は一旦置いておいて、イキョウさん達が世界の為に戦っていることは事実ですよね? 合ってるんですよね?」


「イエスマム。それはまごう事なき事実です。戦ってる事は事実」


「まーたおめぇは適当なことを……を……を?」


「ふむ、ようやくはっきりとした事を述べたな」


「嘘……だろう……? あのイキョウとソーエンが、実は裏でそんな事をしていたなんて……」


「ポニテお前さぁ、わざとらしく驚き過ぎじゃない?」


「邪魔しないで欲しい。今を逃したら、私の中に溜めてた感銘の感情が逃げてしまいそうだ。驚けるときに驚いておきたいんだよ。……いや、でも本当に凄いことだ……。正体を隠し、世界の為に密かに戦う……それも、あのフォルカトルのような敵を何回も相手にして……そして生きている」


 シーカの言葉に続き、回りも同じようなことを口々に言い始めた。役場のお偉いさんであろうやつ等や、商会のやつ等、おじさん、おばさん、同年代の男女、知らんやつ等、見知ったやつ等、ここに居る皆が口々に言葉を発してざわざわする。


「あのイキョウとソーエンが……そんな偉大なことをしていただなんて……」


「まさかレベルが高いだけではなく、陰ながら私達の生活を守ってくれてたのか……」


「あのイキョウとソーエンだけど、そんな事してたなんてなぁ……」


「凄いわ!! まるで正義の味方みたい!!」


「あのイキョウさんとソーエンさんですけど、そう思うとあの姿もかっこよく……それとなくかっこよく感じます……」


「懐かしい……子供の頃に読んだ勇者様みたいだ……。世界の為に、身を粉にして戦う……あの姿に憧れない男は居ない……」


「あのイキョウとソーエンも、実は熱い心を持ってたんだね」


 ……おかしい。聞こえてくる声は数多にあるけど、その半分くらいには『あの』っていう訳の分からないワードが付随している。


 でも――誰が言ったか、誰が発したか、いつの間にか目の前に立っているやつ等は、オレを『勇者』だと言って持て囃してくる。


 声を上げる者、羨望の眼差しを向ける者、興奮して騒ぐ者。それが段々と増えてきている。それが、オレはあんまし――。


「何だこれ」


「ははは。イキョウ君、皆はね、君に希望を見ているんだよ。世界が滅ぶかもしれない中、スノーケア様には神のような眼差しを、そして同じ人である君には、勇者として救いの希望を向けて居るんだ」


「まあ、あれですけど? 私は悪魔的にクソガキにはそんな期待してませんけどね。アルフローレンとやらと戦うときは、少しくらいは力を貸してあげますよ? すこーし、すこーしだけ凄いと思ってはいますけれどね。人間にしては大したほうですから」


「あぁ……そーゆーもんか。人ってこんなもんか」


「イキョウはん、そんな卑下なさらず。今のはロトサラの言葉が悪うござんした。貴方様は偉大な事を成し遂げた方でありんすぇ、人を救い、人を導く、そのようなことが出来るお方なぞ、早々にはいらっしゃいません。イキョウはんはとても立派で、とても勇敢な、英雄のような所業をしてるでありんす」


「グルッフッフ。そうですよ、イキョウ。君は普段の態度や行いからは考えられないほどの事を成しているんです。今や天使は皆に知られた存在、ここは包み隠さずに誇って良いのです。

 ロトサラ、謝りなさい」


「ひぇ……」


「別に良いよ。むしろコイツが一番良い。お前等みたいなべた褒めしてくる節穴なやつ等よりも、よっぽど良い」


「……え?」


 オレの言葉で、大悪魔達は止まった。何を言われたのかが分からないような様子で、言葉が出ないままにオレを見てくる。


 この場でオレを理解してるのは一人だけだ。そいつ以外は皆騒いでオレを持ち上げる。皆が騒いでる。静かなのはその一人。止まるのは四人、騒ぐのはその他大勢。


 だからさ、言ったじゃんかよ。オレはそんなご立派な奴じゃないって。そしてここには居ないからさ、ソーエンが。いつもなら一緒に持ち上げられたなら、それを否定する親友が居ないから、だからこんなことになっちまってるんだ。


 人、と勘違いされちまうんだ。オレみたいな奴が、勇者や人だって勘違いされてしまう。皆を救おうとした勇者のアーサーと、限られた者以外どうでも良いオレを同義で語るな。


「なぁ、皆はオレのこと勇者だなんだって思ってんだろ?」


 オレはタバコを咥えながら煙を吐いて問う。


「え、ええ……さっきの言葉……言いすぎましたか?」


「イキョウはん……怒ってはるんですの?」


「いやぁ、そんなこと出来るはずが無いよ。勘違いさせたオレが悪いんだから。なあ、盛り上がってる奴等、オレって勇者か?」


「もちろんだ!!」


「そうよそうよ!」


「なんだよイキョウ、恥ずかしくなっちまったのか? キンスさん言ってたもんな、お前等恥ずかしがりやって!!」


「それは違って……いや、今日くらいはそんなの抜きで称えさせてくれ、お前の功績に声を上げなきゃ冒険者じゃねぇよ!!」


「にゃああ!! 獣人の皆、称鳴をあげるにゃ!!」


 周りからは口々にお褒めの言葉が貰える。じゃあ、やっぱり、コイツ等は何も分かれていない。


「そっかぁ。皆はオレをそう思ってくれるのか。光栄なことだわぁ」


「グルッフッフ、そうですよ、皆が君を称えたいんです。頑張ってきたものとして、そして、希望を託す勇者のような存在として」


「――――じゃあさ、こんな面の奴が勇者って思えるのか?」


 ――……直後。皆は急に何もしゃべらなくなった、動かなくなった。声を上げたいた奴も、オレを称えていた奴も、オレの近くにいた奴も、何も、誰も――。


 ただ起きるのは小さな悲鳴だ。不意に息を吸ったような、喉を鳴らす短く小さな悲鳴。


 そうなるよな。だって、この顔って誰だか分からないもの。眼と鼻と口があるから人の顔って思える、能面のような無表情な顔、何もない顔。冷めた目。


 ただただ不気味で気持ち悪い顔。オレはそうとしか思えない、マネキンの顔。


 ただ、それでも、この中ではこのオレを見ても動じない奴がいる。その方へ顔を向けると――――ミュイラスはニコってしながら小さく手を振ってきた。お前だけなんだよ。この中で、何も変わらずにオレに接してくれるのは。


 この顔っておかしいんだよ、変なんだ、人じゃないんだ。人を心底怯えさせたってのに、この不気味な顔に惹かれるやつ等も居るんだ。


 だから、惹く前にオレは――――どうやって戻すんだっけ……。


「……こうだっけ、どうだっけ」


 ソーエンが居ないときにするもんじゃないな。


「まぁ……良いか。なあ、シュエー。とても立派で、とても勇敢な、って言ってたよな。そんな奴が、こんな顔して良いと思うか?」


 今のオレは、死や普通なんて写してない。何も無い、空っぽなオレを見せている。そんな事人のお前等には分からないだろう、分かれないだろう。人であるお前等が、人でなしのオレのことなんて、なんにも分からないだろう。人でなしのオレが、勇者なんて偉大な者には見えないだろう。


 そんなオレの問いに、シュエーは浅く息を吐きながら眼を見開いて怯えている。理解できないものを見て本能が恐れている、生物の原初にある恐怖だ。


 人の形をしているのに、人ではない。自分と同じ人と思っていた奴が、人ではない。そんなこと、現実にあるはずが無い。


 だから現実を写している眼が、現実を拒んで恐れている。


 そして――分かれないから惹かれるんだろう。怯えているというのに、顔が青ざめているのに、頬は若干だが赤味を帯びている。これも矛盾だ。人には出来ないことが出来るから、結局オレは人でなしなんだよ。


「誰でも良いよ、誰でも良い。シュエーじゃなくても良い。サイコキーマでも、ロトサラでも、テモフォーバでも良い。お前等群衆でも良い。誰だって良い。オレを勇者と呼んでみろよ。このオレを勇者って言って見ろよ」


 オレの言葉に、皆は誰も応えない。


 悪魔達すら怯え、皆すら怯え、そして誰もが何も言えずただ小さく震えているだけ。その中に、たまに惹かれている奴がいるだけ。


 怯え、惹き、それはオレが人ではないからこうなっている。だからこうなっている。そしてこうなってる。


 人であるお前等が、オレを称えられると思うな。人でないオレを、アーサー達と同じに見るな。そして――勇者だなんだと持ち上げて、アルフローレンを殺すことに正しさと栄光を押し付けるな。


「救いを求めるくせにお前等はこのオレを勇者って呼べなくなった。それで良いんだ、オレは正義じゃないし、アルフローレンは悪じゃない。正義を押し付けて悪を見るな、悪を定めて正義を決めるな。勇者じゃないオレが倒すんだから、敵が悪じゃないと知れ。正義も悪も分からない、オレと同じな奴が敵なんだ。オレにしか理解出来ない奴なんだ。理解できないお前等が、アイツを敵って定めるな」


 皆は怯えながら、オレの言っていることが分かれない。そしてオレだって、自分が何を言っているのか理解してない。


 だからオレはタバコの煙を吐く。何が“だから”なんだろうな。


「こんな奴に希望を見出さないでくれ。こんな奴だから憧れとか賞賛とか向けないでくれ。人であるお前等が、オレをそんな目で見てきたら、オレはどうすれば良いんだよ。人に成ろうとしたオレがバカみたいじゃんか」


 自嘲とか泣き言じゃない。ただ、バカなオレが成ろうとした奴等がバカな事をしそうになって、挙句それを押し付けてきたから止めてるだけ。


「何が言いたいんだろな。でも、お前等が正しいって思う事はお前等人でやってくれ。オレに押し付けないでくれ。皆を救うだとか、世界の為だとか、そんなもんはお前等でやっててくれよ。オレはオレだけの理由で戦うから、オレのしたい事をするだけにしか、正しさや間違いってもんで押し付けではな」


  にしても オレってどうやって戻れば良いんだろう。 オレが無いから分からない。 皆の勘違いを否定したくて、それで今のオレは何なんだ。 またオレはオレって奴を理解できない。仮面のオレでもなく 元のオレでもなく オレの無いオレ。 全てを捨てた、本当に何も無いオレでありオレでもある。


「おわり」


 オレが何を基点にしてないはずは成るから忘れがのだったそれでもに戻り元へ。


 ソーエン、コール、ひたすらに掛けて頼む、何度も何度も声を。何時なる時間へオレを使いひたすらがずっと待つそれに何度は何度けど。


「――――しつこい。悪いが後で……まっ、違う、止まれ猫耳を離せナタ――」


 ――――おや? 何度も何度もコールしたら、ソーエンが珍しい反応をしながら通話を切ったぞ? しかもナターリアも居るっぽい。


 っぱソーエンよ。この場とか仮面とかどうでもええわ。そっち気になるんですけど。ソーエンの身に起きてる事を思えば、人である奴らがオレになんたらとか、ぶっちゃけどうでも良いから。こんな興味の向かない話題しかない場より、あっちの事情の方がめっちゃ気になるんですけど。


「え、何今の? ちょっと皆うちのソーエンがさァ!! …………え? 何この空気? さっき『おわり』って言ったよな? 話し終わったのに、お前等気分転換下手くそじゃん。お通夜状態じゃん。とりま酒呑む?」


「「「「「「「……………………………………………………………………………………えぇ……」」」」」」」


 おやおや。青い顔をしていた皆は、弾かれたように息をすった後、急に困惑したような声と表情をオレに向けてきた。


「これはァまるでェ……怖いと思っていた奴が急にバカっぽい顔を見せ付けてきて安心と困惑をしてるようじゃないか……ナチュラルにドン引きされてるみたいだぁ……」


 強張っていた体から急に力が抜け落ち、数秒前の恐怖も忘れて『なんだコイツ……』って目をしながら呆れている。だから結局お前等はオレを分かれないんだ。


「グルルゥ……。…………グルゥ……」


「イ、イキョウはん……ほんに…………えぇ?」


「逆に怖いんですけどクソガキ。急に切り替わらないで下さい。というか……お前の情動どうなってんだ」


「いや……えぇ……えぇ……? イキョウ君…………えぇ?」


 大悪魔四人、そして方々から困惑した声と言葉がオレへと向けられた。


「ま、オレってこんなもんよ。色々変なの。だから変に持ち上げたりすんのやめてーって感じ。ほら? 人には裏表ってのあるじゃん? それの人の裏表が無い感じ」


「言ってる意味が理解できないナァ……」


「それがオレってことよヒライ」


「ふむ。先ほどのイキョウは、深い影に潜む、奥底の裏の存在ということか」


「そうやって言語化しようとしてる時点で間違ってるから絶影」


 ヒライと絶影の言葉に続き、周りから『オレはおかしい』だの『でも今のオレの姿に何とも思えない自分もおかしい』だの、口々に言われるけど、そりゃそうだろ。


「結局オレってこんな奴だから。今お前等に見せてるこの普通のオレしかお前等には見えてない。この普通のオレへしか今のお前等は関われない。だからお前等はおかしくないよ、オレがおかしいんだよ。何故そうなるか、どうしてこんな事になるのか。そんなの、オレの方が知りたいよ。この普通のオレのほうがな」


「……今のイキョウも言うほど普通かにゃぁ……」


「失望したろ、気持ち悪いだろ、訳分かんないだろ。こんな奴を勇者だなんて思うなって、期待しちゃいけないんだよ。だからさ皆、オレは期待に応えられないから帰るよ。今日の集まりで、皆の期待した結果にならないのはしょうがない事なんだ。オレに期待すること自体が間違い」


 オレはこの場に居る奴らが望んだ答えを返すことが出来ない。相当白けただろう、皆はオレを称えようとし、そうする事によって崇め頼れる存在が居るっていう安心感が欲しかったんだ。


 そんなもの、オレには要らない。オレの歩みにも、あの子を殺すのにも、誰かの願いや思いは関係ない。オレがオレだからやる。それだけだ。


 なら、この場にオレが居る意味はない。だからグラスの酒を呑み干し、吸殻を焼き捨ててから、酒が残ってる酒瓶を持ってオレは立つ。


 皆から不思議そうな顔を向けられながら。


「じゃーな、お集まりの群衆共。もし町で会ったら普通に話そうぜ」


 それだけ行って、オレはこの場を去る。やっぱりここも、オレの居場所じゃなかったな。だから帰ろう。オレの家へ。

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