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21.年長者達

 ドーモ。最近のマイブームは、部屋に居るときにラリルレをぎゅーっと抱きしめながらお腹を服越しにもにもにすることです。ソレが最大限の癒しの一時になって中毒になりそうなのが悩みどころです。


 シアスタにやろうとしたら、威嚇されて拒否されました。双子にやろうとしたら、ってかやったら、ひたすらに挑発してくるので止めました。ソーキスは触り心地良かったし、本人ものへーっとして受け入れてるからもちぷるしてたら、ラリルレの代替案としてはあり。


 でもやっぱ、ラリルレが一番。温かいし、にこにこしてくれるし、心地よい触り心地だし、声も良いし、お話しするだけで元気もらえるし……。生きてるだけでオレの活力になるのに、触れ合えるなんてもう、最高でしかないんだよなぁ……。


 そんなオレは、何時も通りソーエンと街を歩いて――。


「なぁソーエン、飯どうするよ」


「そうだな。数日前に食ったアレが美味かった、また行くとしよう」


「アレな。お前ならそう言うと思ったよ」


 二人で、仲良く、いつもと変わらない日常を、残り少ない日常を、お互いに気にせずゆっくりと過ごしていた。


 * * *


 カフスの自室。そこでは、ルナトリック、チクマ、カフスの三名が、ソファーに座って顔を付き合わせていた。


「準備は整ったのである。あとは時が来るのを待つか、我輩が早めるか、それはあの馬鹿の動きで決めるとしよう」


「ん。ルナトリックは良い子、ありがと」


「我輩を子ども扱いするでない、年だけ重ねた未熟な知れ者が」


「――そう言うなルナトリ。――カフスも感謝する。事情も聞かず、私達の行いを是としてくれていることを、だ」


 チクマは頭を下げずに、しかし今言った言葉については心からの感謝を述べ、カフスに向かって感謝の瞳を、ヘルム越しに送っていた。


「事情。聞かなくても分かる。知ってる。ちょっと前に思い出した」


「――どういうことだ」


「この結晶龍は、過去を求めて泣き、そして過去へ縋るものを無くしたのである。あの女狐は未だ記憶の封印が解かれて居ないと勘違いしておるが、仮にも龍という存在がそれを放置してるわけもなかろう」


「ん。ダッキュは良い子。本当に良い子。昔の私、泣いてた。ずっと泣いて、ずっと泣き続けた。だから、ダッキュはそれを見て、私の悲しさを忘れさせた。私は忘れてた、自分の中に何かがあることは知ってた、でも、思い出すのが怖くて、知らないフリをしてた。――――数ヶ月前、イキョウとソーエンが死んだ。死んだのに、死んだはずだったのに、生き返った。おかしいと思った。ありえない事だって思った。同時に、私は何か大事な事を忘れてるんじゃないかって、忘れていてはいけない事を、忘れているじゃないかって、そう思った。二人は良い子、アステルの為に頑張ってくれる、とっても良い子。だから、私も逃げちゃダメって思った。封印、解いてみた」


 カフスは語る。今まで誰にも話してこなかったことを、秘密にし続けてきたことを話す。


 ルナトリックは、そんなことを聞かなくても理解していた。しかし、この場ではチクマがその話を真剣に聞いていたので、口を挟まず黙って聞く。


「悲しさを思い出した。でも、前よりも悲しくなかった。私の周り、沢山居た。町の皆が居た。イキョウが、ソーエンが、<インフィニ・ティー>の皆が居た。弟も出来た。心がぽっかりして悲しかったけど、泣かなかった。

 思い出したの、ダッキュには内緒、だからこっそり書庫にお邪魔して、全部読んだ。ダッキュの残した沢山のメモ。全部読んできた」


「全部か。貴様もドラゴンの端くれならば、大量の文献を読むのにそう時間もかからんだろう」


「ん。沢山あったけど、二時間で読んだ。ダッキュは読みやすい文章を書く、良い友達。

 イキョウやソーエン、ルナトリック達のこと。そしてイキョウが歩む道の先、結末……知った。この世界で今まで起こった事を、これから起こる事を、全部知った。

 大丈夫だよ、ルナトリック、チクマ。私が全部責任取る。子供達に背負わせない。私がちゃんと終わらせる、ダッキュは私がこうすることも知ってて、記憶を封じてた。ダッキュ、ごめんね。でも、今までありがとう。今度は私が頑張る」


「――――イキョウはよく、カフスが皆を傍観していると言っていた。それを止めて、皆と仲良くして欲しいとも言っていた。やはり貴公は残るべき――」


「両者とも甘さは捨て置け。同情などするな。一つでも間違えば、あ奴等が死ぬ。小春が残し、我を笑わせ続けた、特異点ですらない無様な存在だ。散るべき男ではない、散って良い者でもない。死など老骨に任せ、あの馬鹿はバカらしく生き続ければ良いのである」


「……ん。ごめんね、ルナトリック。――――私、人は好き。でも、見ていたかっただけ。平和な世界を見てるだけで、それで満足だった。今は違う。関わったらもっと楽しかった。だから、私を楽しくしてくれた皆に生きて欲しい。私はドラゴン。現代に残る最後のドラゴン、結晶竜カフス=スノーケア。結晶の本質は思いの紡ぎ。私の結晶には散って行った同属の、仲間達の、みんなの思いが重なり合って出来てる」


 カフスの部屋に飾ってある装飾品。それは、かつての仲間や同属が好きだと言っていたものを象っている。それは、記憶が封じられている頃から、忘れて居ても、そして思い出してからも、思い出の結晶をずっと、作り続けている。


「平和な願いを結晶に込めて、イキョウの役割を私達で肩代わりする。

 ――怨嗟は魂の力に匹敵する、人の強い思い。でも、希望も人の強い思い。代償魔法の依り代は、私とこの結晶達が。担い手は二人が。…………まだ小さいのに、ごめんね」


「だから子ども扱いするなと言っておろうが。良いのである、我輩は人の理を捨てた深遠の魔術師」


「――私はただ教師として塔を同じにしていた人間、そして葬骨の魔術師だがな。互いに魔に身を窶すならそれも良いだろう。むしろ、魔術師が魔に窶す事こそ、本懐と言えよう」


「……ん。別世界の魔法使い――」


「「魔術師だ」」


「…………ん。魔術師。二人の本懐に、私のわがままを一緒させてもらう」


「確かに本望である。だがな」


「――結局のところ、私達もあの二人に人生を謳歌して欲しいのだ。それが、何よりの願いだ」


「そう。……宿屋、皆に上げてよかった。遠い理想だったはずを、貰ってくれて良かった」


 * * *


「あれ? ダッキュじゃん。なんでサイコキーマに乗ってんの?」


「親方と呼んで下さい」


「このもふもふが本当にウチよりモフモフなのか試してるのじゃ!! ウチのほうがモフモフだもん!!毛並み良いもん!!」


「お前の尻尾も確かにもふいよなぁ……オレの髪とも比較してみよう」


「ふむ。折角だ、俺も触っておこう」


「やめんかこの助平共!!」


「「は?」」

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