20.もにもに
イキョウの呑み会が終わり、それぞれが帰路に着いた真夜中。
皆が住まう宿屋の一階、その浴場へと続く廊下。そこでは、とある二人が胸をドキドキさせながらこそこそと静かに忍び足をしていた。
「シアスタちゃん……私達悪いオトナだよぉ」
「ふ、ふふふ……。アダルティな私達は時に悪にもなってしまうんですよラリルレさん」
二人はこっそりこそこそ声を落として、緊張を露にしながら、そろーりそろーりと、廊下を一歩一歩進む。
そして、浴場の扉をそっと開け、慎重に閉じ、明かりを灯すスイッチに触れる――――と、二人の手にはお盆が持たれていた。
二人の目的、その第一歩が今完遂した。浴場到着、それをしなければ今宵は始まらない。
二人はお互いの顔を見て、無言で首を頷かせると、手元のお盆に乗ったジュースとアイスを見る。そして、また顔を見合わせる。
「こっそり女子会、インお風呂ばーじょん、だよ……!!」
「体にタオルを巻きながらお風呂に入って、そしてアイスを食べる……なんて冒涜的なのでしょうか……。ぃぇーぃ」
「ぃぇーぃ」
ラリルレ、シアスタ。両名は、何とも冒涜的で罪深いことに胸を躍らせ、二人で小さな声を出しながら盛り上がった。――――入浴中を表す札は、この行いを隠すため、扉に掛けないまま――。
* * *
「なあソーエン。オレはこのまま風呂は居るけど、お前どする?」
「ふむ……面倒だ。最近眠気がどうにも纏わり付いてくる。杖を使ったらすぐ寝る」
「そうかい。じゃあオレにもよろよろ」
「ああ」
* * *
オレはソーエンから杖を使ってもらった後、一風呂浴びるため、廊下を進んで浴場へと進む。
「……あれ? 明かりついてる……けど札出てないな。消し忘れか?」
まさかこんなド深夜に誰かが入ってる訳無いしな。気配察知をしなくても分かるぜ。家の事なら分かりきってるもんよ、ガハハ!!
* * *
「見てくださいラリルレさん。むふー!!」
「すごーい!! 私のもやって!!」
湯船に浸かりながらアイスを堪能していた二人。シアスタは湯船に浮かべたお盆に乗っているジュースをシャーベット状に凍らせるといった、絶妙な魔法捌きを自慢げに見せつけ、それにラリルレが目をキラキラさせながら感動している――――と、不意に、廊下から脱衣所に繋がる扉を開ける音が聞こえてきた。
「「!?」」
その音を聞いた二人は驚いて、瞬時に顔を見合わせる。
「わわわわわ!! どどどどーしよシアスタちゃん、誰か来ちゃった!! 悪い事したからバチがあったのかな!!」
「とにかく隠れないと……!! 私達の悪事が露見してしまいます!! どこに、どこにぃ!! あそこです!!」
シアスタはラリルレの手を引いて湯船から出て、壁際に積んである桶の陰へと隠れ込む。
山積みになった桶。その背後で二人はしゃがみながら震え、そぉっと桶の間から、浴場の入り口を覗き込んだ。
すると現れたのは――――頭と腰にタオルを巻いたイキョウの姿だった。
「大変ですラリルレさん……!! よりにもよって、ヘンタイでロリコンのイキョウさんが来てしまいました……」
「うぅ……私達はだかんぼさんだよぉ……タオルお風呂に落としちゃった……」
二人は体を抱えたまましゃがみこみ、小さな声をコソコソと出す。
そんな事を知らないイキョウはというと。
(体洗うの……ちょっと今日はメンドイなぁ……でも流すだけ流すかぁ……)
そう思考をしながら、ゆったりとした動作で、桶が積まれている場所まで歩みを進める。
「イキョウさんこち来ます、どすれば!?」
「シアスタちゃんシーだよ!!」
桶はシアスタ達の身長程にしか積まれて居ない。しゃがんでは居れど、イキョウの身長だったら近付かれてしまうだけで簡単に見下ろせてしまう。
二人は心臓をバクバクさせながら、口を手で押さえて一生懸命身を潜める。そして――。
(やっぱいいや……浄化の杖使ったんだしこのまま入ろ……)
寸での所で、イキョウが方向転換をし湯船に向かったのを見て、ほっと胸をなでおろした。
「今のは危なかったです……危うくイキョウさんに氷魔法叩き込むところでした……」
「……キョーちゃんの体すごーい。むきむきさんだぁ」
「え? ……確かに……。筋肉質で、男の方の体って感じです。……いつもふにゃふにゃしてるのに体ガチガチです……」
桶の隙間から二人は、意外なものを見るような目で、興味深々な眼を向ける。
いつもふ抜けてフニャフニャしているイキョウの、意外とも思える体付き。その体をみながら、二人は頬を少し赤らめながらも、食い入るように見つめている。
「アレが男の人の体……。……イキョウさん、タオルとるんですかね……」
「ど、どーだろぉ……取っちゃうのかな……」
段々と湯船に近付くイキョウ。その姿をみながら、シアスタは赤らめたお澄まし顔で、ラリルレは赤らめて興味がない訳では無さそうな顔で、二人揃ってイキョウの動向を観察していた。
「私達悪い子ですけど悪くないですからね、入ってきたイキョウさんが悪いんですからね」
「そう……かも? そーかも。皆悪い子さんだよ、だからキョーちゃんが悪い事しても仕方ないもん」
二人はれっきとした正しい理由を述べて、湯船の前に立つイキョウの姿を深々に見る。
「私達もオトナなんです。これくらいどうってことないです」
「そーだよね、オトナだもんね。私達いつもあだるとなお話してる立派なオトナだもんね」
(ほぁ……? 何でタオルとお盆湯船に浮いてんの……?)
二者と一者、それぞれがそれぞれの意思を持ち、熱いまなざしとすっとぼけた眼をして、対象に視線を向ける。
「とるのかなぁ……」
「とらないんですかね……」
(浮かんでるタオルもったいな、アイスとシャーベットもったいな)
緊張の面持ちで見つめる二人。その先では――――イキョウがざぶざぶと風呂に入って、そして――――。
湯船に浸かる瞬間に、腰のタオルを取って、ギリギリで見る事ができなかった。
「「……」」
その光景を、二人は惜しそうに、でもほっとしながら見送った。そしてお互いに顔を見合わせる。
「……ラリルレさん、見たかったんですか?」
「……んふふー? そんなことないよ? 私そんなヘンタイさんじゃないもん。シアスタちゃんは見たかったの?」
「そんなことないですよ? 偶然見てしまったなら、見てあげましょうくらいの寛大な気持ちで見てただけですよ?」
「「だよね(ですよね)……!?」」
二人はお互いに同意をしてまた目を向けると……そこでは。
イキョウが、二人の使っていたタオルを絞って、片方は顔拭きに使い、もう片方も何故か――顔拭きに使ってから、軽く畳んで両肩にそれぞれ掛けていた。
「あわ、あわわわわ、汚くないかな、変なにおいとかしなかったかな……!!」
「あの人私達の体に巻いてたタオルで顔拭いたんですけど……しかも二回も……。ヘンタイさんです……」
(酒呑んだ後にする顔拭き気持ちぃわぁ、タオル二枚使って豪華な二度拭きたまらんわぁ……。しかもめっちゃ良い匂いするし、朗らかな香りと澄ました香りするし……もっかい拭いちゃお)
「良い香りだわぁ……」
「真正のロリコンです……香り堪能しながらまた拭いてます……」
「恥ずかしぃよぉ……私達の体の匂いくんくんされちゃってるよぉ……」
「言わないで下さいラリルレさん……意識するとすっごく恥ずかしくなってきます……」
二人は頬を赤らめながら、自分がまるでイキョウに直接嗅がれているような想像をしてしまう。そして臭くないか気になり、二人してこっそり、自分の脇や手、腕の香りを嗅いだ。
(……んー、何このアイスとシャーベット。食って良いの? もしかして、呑み会終わりのオレとソーエンのために、誰かが用意しておいてくれたの? 粋な計らいだなぁ、でもソーエン居ないから、その粋はオレ一人で堪能しよう。両効きだからスプーン二つ使って、右手はオレ役、左手はソーエン役で、一応は実質二人で堪能したってことにしてやる。感謝しろやバカソーエン)
「……うめー、体に染みるぅー」
「なんであの人躊躇無く食べ始めてるんですか……疑ってくださいよ、食べないで放置して置いてくださいよ」
「シアスタちゃん……あれ、間接キス……」
「……!! ダメですやめてイキョウさん……!! 止まってください、思い届いて……!!」
「キョーちゃんパクパクだ……私達のスプーン使ってる……私とシアスタちゃん、キョーちゃんの三人キス?」
「えっ……」
「……」
ラリルレの言葉を聞いたシアスタは、その言葉で思わずラリルレの唇を見る。ラリルレも、恥ずかしそうにしながらシアスタの唇に視線を送っていた。
「シアスタちゃんって……ちゅーしたことある……?」
「オトナですけど、ない……です……。って、だめですよラリルレさん……!! 私達女の子同士ですよ……!!」
「ち、ちがうよシアスタちゃん……!! ちゅーがどんなのか気になっただけだよ……!!」
「気になるって……したいってことですか……!?」
「ちがうもん、私そんなえっちな子じゃないもん!!」
「ラリルレさんシーっ!!」
(んー、シャーベットも最高……。さっきからなーんか声聞こえてくる気がするけど……酔ってんのかオレ? そこまで呑んでない気すっけどなぁ)
シアスタとラリルレは顔を真っ赤にしながら、イキョウはアイスとシャーベットをのほほんと堪能しながら、それぞれが各々の反応をこの場に示す。
大声を出したラリルレの口を、シアスタは急いで押さえ、二人はバレてしまったのではないかと思いながら、またそーっと桶の間からイキョウを観察すると……。イキョウがシャーベットをグビグビのみながら、またアイスをパクパクしてのほほんとしていた為、バレてないと分かってほっとする。
そして、シアスタはハっとしながらラリルレの口から手を離し、自らの掌に視線を落とした。
(ラリルレさんのお口……ふにふにでやらかい……)
「どーしたのシアスタちゃん?」
「ん!? なんでもないで――」
(おかしい……声が……さっきからシアスタとラリルレの声が……一応確認だけしとくか。もしも、ありえないとは思うけど、泥棒が潜んでる可能性は無きにしも有りシングだしな)
ラリルレは大声を出そうとしたシアスタを止めようとした。しかし、その前に湯船にお湯が落ちる音が響いた為、二人は今度こそバレてしまったのでは思い、すぐに桶の隙間からイキョウの事を見る。
が、すぐに顔を両手で覆った。
「……見ましたラリルレさん」
「見てないよ。ホントだもん、恥ずかしくなってすぐに隠したもん」
「私もです、はい。すぐに手で塞ぎましたもん」
二人が言ってる事は本当だ。一瞬だけちらりと見えた気がするが、ソレよりも早く体が反応して、顔を覆ってしまっていたため、本当だ。ガッツリ見たならこれくらいの反応で済んで居ないのが、この二人だ。
「……って、このままだとイキョウさんに裸見られます!!」
「どどどどどどどーしよ!? 目隠さなきゃ、でも体も……!! どーしたらいーの!? あ、そうだ!! ボックスから――」
「何してんの? 新手の覗き?」
頭上から、腑抜けた声が聞こえてきた。その声に二人は、屈めた体をビクッとさせながら、必死に硬くなる。
あわあわと蹲って目を塞ぎながら、屈めた体をより強く屈めて、顔を真っ赤にしながら必死に見られないようにしていた。
「シアスタだけなら覗きもありえるだろうけど……ラリルレまで居るとなると……」
二人は心臓をバクバクさせながら、緊張と恥ずかしさで何も喋れなくなり、ただただ頭上から聞こえてくる声を、目を塞ぎながら聞くことしかできなかった。
「――あー……? あー。あー? あっ、酔ってんのかオレ」
鼓膜に響くほどの心臓の鼓動音。その上から、イキョウのアホな声が重なり合ってくる。
((見られちゃってる――――!!))
屈んでいるから最低限隠したいところは隠せている。しかし、背中が、肩が、膝が、鎖骨が、隠して居ないところ全てが、イキョウに見られている。その視線を肌に感じる。
隠せていても、それ以外は出ている。結局は、裸を見下ろされている。そのことが二人は死ぬほど恥ずかしくて、体が小刻みに震えて、自分がどうすれば良いのか分からなくなっていた。
「あらぁ、酔いの幻覚二人も寒がるのね……。おいで? 一緒に風呂入ってあったまろうぜ」
「「ふぇ!?」」
イキョウは唐突に、二人の体に触れてくる。両の腕を、それぞれ二人の脇の下から差し込み、そして腕を曲げて抱え上げた。二人は男の力によって成すすべなく、イキョウの腕を支えに、体をぶら下がらせる形で持ち上げられた。
「ちょ、イキョウさん離して!! お腹丸見え……っ!!」
「キョーちゃんの腕にお胸当たっ……うぅん、違うよね、キョーちゃん優しいから隠してくれて……。……キョーちゃんのえっち!!」
二人はイキョウに抱えられながら、大声を上げて抵抗するしかない。それほど、この男の腕が自分を力強く、しかし優しくぎゅっとしてくるものだから、非力な自分達では逃れる術を持っていなかった。
「あわぁーお、ラリルレのそれ癖になりそうだわぁ。酔ってこれ聞けんならアル中にでもなるのもやぶさかじゃない」
「やだ、離して!! ヘンタイ、ロリコン!! スケベ!!」
「こっちのシアスタまでもがオレを……でも、幻覚に噛み付くほどオレは心狭くないんでね。覚悟しとけよ」
「ひぇ……私襲う気ですか!! ロリコン、ロリコン!!」
「きょーちゃんえっちだもん、おとこのこだもん、わたしおとななおんなだもん、どうなっちゃうのわたし、なかよしよししちゃうの?」
シアスタは騒ぎ、ラリルレは混乱している。が、イキョウはそれを全く意に介さずに湯船へとばしゃばしゃ入り、そして腰を屈める。
風呂の中であぐらを掻き、そこに二人をそっと乗せるようにして、優しく降ろす。まるで慣れているように。
降ろされた二人はイキョウの膝の上で、心臓をバクバクさせながら、ただ大人しく事が起こるのを待つことしかできなかった。
自分達が座っているイキョウの足、その堅さを太ももやお尻で感じる。預けてる背中には、イキョウの胸板や腹筋のゴツゴツさを感じる。
二人は普段からイキョウに密着する事はあった。しかし、肌と肌でしか触れ合うような事は一切したことはなく、普段では感じられない事を、胸が一杯になるほど感じ取っていた。
「ふぃー……二人の体はやらかいなぁー……。ほっぺむにむにー」
イキョウの手が、二人の真っ赤になった頬を優しく突いてくる。感触を楽しんで、ぽよんふよんと弄くってくる。
「うりうりー、やっぱ子供のほっぺ癖になるわ。めっちゃ触り心地良いわ……他の柔らかいところってどんな感じなんだ?」
「「!!」」
イキョウがぽけっと放った言葉、その言葉を聞いて、二人の体は強張る。
変なところを触られる。そう、二人は思ってしまう。
イキョウの手が、体を滑っていく。脇を、腰を、そして太ももを……。
(ラリルレとシアスタって、身長殆ど同じだけど、体付きが結構違うな。ラリルレはちっちゃいなりに年相応で、腰やふともも周りがやや女性の体付きになってる、しかもどこもぷにぷに感触だ、全部かわいいー。シアスタはどこもスラっとしてて少しひんやり、でも薄い肉がしっかり指を押し返してくる、結局ぷにぷにだ。二人共ぷにぷにしててやわっこぉ……幻覚の二人やわっこぉ)
(くすぐったいです……じっくりねっとりさわられてます……)
(きょーちゃんのてつきえっちだよ……へんたいさんのさわりかただよぉ……)
体を滑る手は、指で押したり撫でたり、むにむに摘んだりしてくる。その手に二人は抗う事ができず、ただ俯きながら、でもお湯越しでもアレをみないようにしながら、黙り続けていた。
そして太ももをもにもにしていた手は、そぉっと移動して――。
(そこダメッ、自分でも……!! えぇ……)
(……どーしてわたし、おなかもにもにされてるの?)
――二人のお腹を弄くり始めた。
「……え、やば。なにこれ……めっちゃ癖になりそう……。子供のお腹ヤバ、めっちゃぷにぷにで触り心地ヤバ」
「なんかこれ……逆にヘンタイです。やっ、くすぐったい……!!」
「うぅぅ……キョーちゃんお腹もみもみしないでぇ。はずかしぃよぉ……待って、おへそダメ!!」
二人はイキョウにひたすらにお腹周りを弄くられる。揉まれたり、押されたり、ヘソをくりくりされたり。それがただただ――くすぐったい。
「二人のお腹のちっちゃいおへそって思うとただただ可愛く思えてくるな。ってかお腹一番やらかいぃぃ……ぷにぷにぃ……」
「……は? 私の一番柔らかい所がお腹って言いたいんですか? この真正ロリコン!! お腹好きなんてロリコン味に磨きかかってますよ!!」
「わたしも違うもん、もっと柔らかいトコあるもん。キョーちゃんヘンタイさんだからお腹なの? お腹好きなヘンタイさんなの?」
恥ずかしさは恥ずかしさ。乙女の尊厳は乙女の尊厳。二人は自分へ向けられた不適切な評価に異を唱えた。
「これはちょっと、思った以上に良いわ、ラリルレは言わずもがな全部が可愛いけど、お腹が一番可愛いかもしれない」
「きょ、きょーちゃん、そんなぁ……私が可愛いだなんて……んふ!? んふふふふ!! 待ってキョーちゃん、くすぐったいよぉ!!」
「そういやシアスタてめぇ、さっきからオレのことロリコンって言って来てんよな? 報いを受けさせてやる」
「え、なんか手つきが嫌な感じ……ふぇへ!! ふふふははははあはははははははは!! くすっ、ぐり、やめっ!!」
ラリルレはきゃっきゃしながら笑い、シアスタは全力で声を上げながら物凄い勢いで笑い出す。
ラリルレはお腹周りをぷにもにと、シアスタは身体中をくまなくくすぐられ、二人は毛色の違う笑いを、顔に浮かべていた。
「いきょ、さん、えっち、す、けべ、ふふふ、あははははははは!!」
「んふふ~、キョーちゃんにとって私はかわゆいなんだぁ、ちょっと嬉しいカモ、んふふ~。いいよぉ、かわゆいは大事だよぉ、お腹さんいーっぱい触っても特別に許しちゃうよぉ」
「ラリルレのお腹一生触ってたい。顔埋めて全力で堪能したい。最近ズレが酷いからラリルレに癒され続けたい……もう休みたい……」
「うへへへへへ!! へへ……へ? イキョウさん? どうしたんですか?」
「……なんでもない」
二人は背後のイキョウの顔が見れない。見れないから、その力強く抱き締めてくる腕の意味が、良くは理解できなかった。というか――――現状でのこの男の行動全てが良く理解できてなかった。
ただ……その腕に一瞬の寂しさと暖かさを感じたが――――直後に二人は気まずそうにしながら、何かを伝えたいのに口に出せずにいた。
イキョウの堅くしなやかな腕に……当たってる。自分達が一番柔らかいと思ってる場所が、また当たってる。そしてちょっと擦れてくすぐったい。
「……この人さっきからセクハラしかしてこないんですけど……」
「……かわゆいとえっちなことは違うよ? ダメだよ? きょーちゃん」
「……あぁ……うん。……なあ、幻覚で良いからさ、もうちょっとこのまま居させてくれよ。無くしちまいそうになるんだよ……」
「幻覚……? 無くす……? 何言ってるのか分かりませんが、私達本物ですよ?」
「そーだよキョーちゃん。ニセモノじゃないよ、私達ホンモノだよ?」
「……そんなわけないでしょ。シアスタはともかく、ラリルレは人の風呂を覗くようなことしないもの」
「私もしませんけど!?」
「えとね、えっとね? キョーちゃん、その……ナイショ、なんだけどね? その……私達ね、悪い子してたの。……タオル巻きながら、お風呂アイス食べて悪悪してたの……怒られると思って隠れちゃったの……」
「へぁ……。え!? 二人ともホンモノ!? だよな、今の言い訳できるのってオレの幻覚じゃありえないぜ、可愛すぎる言い訳だもん、ホンモノのラリルレじゃなきゃできねぇ言い訳だぞォ!! え……え……マジ? 今の二人って確かにここに存在してる本物なの?」
「逆にどうやったら、喋れて触れてセクハラできる相手を幻覚だなんて思えるんですか……イキョウさんのおバカさにはびっくりすることしかありません」
「キョーちゃん怒んない? 悪い子な私達怒らない?」
「いや全然悪くないし……え? なにさ、今オレ裸のラリルレ見てるの触ってるの? シアスタも? マジ? やっば……とんでもねぇ罪犯してるぞこれ……流石にコレは断罪されよう……あの二人に自己申告しよう。…………二人共マジごめん……今日の昼くらいには罪人の末路見れるから、それで許して……」
「え!? キョーちゃんなにも悪くないよ、悪悪な私が悪いんだもん!! 大丈夫!! ……じゃ、ないカモ……ちょっと、恥ずかしかったもん……」
「私も悪ですから、イキョウさんとお互いに非がありますけど……今も恥ずかしいです……腕が離れてくれません……」
二人は首を後ろに曲げて、見上げるような上目遣いで、『離して?』と、必死に真っ赤な顔で訴える。情けなく落ち込んでるイキョウの顔をみながら、必死に目で訴える。
「ごめんなぁ……一番やらかいお腹触ってごめんなぁ……」
「今の発言で決まりました。イキョウさんが全部悪いです。私達悪くありません」
「一番柔らかいの今触られてるもん、触られちゃってるもん……」
「二人共、今夜の事はオレも全力で忘れるから、そっちも何も感じなくて良いからね。罪人の末路をご照覧あれ……」
「この人ホントに人の話し聞きませんよね」
本当に情け無い表情をしているイキョウは、二人を解放して膝から降ろすと、お湯を巻き上げながらその場に立った。ただし、二人がホンモノと気付いたイキョウに油断はない。
二人が目を塞ぐ間もなく、即座にタオルを腰に巻きつけて、トボトボと風呂場の出入り口へと、哀愁漂う背中を見せつけながら去って行った。
「…………私達、とんでもないことされた気がするんですけど……」
「うん……。でもでも、キョーちゃんお腹かわゆいって言ってくれたし、なんだかしょぼーんてしちゃってるし、私達も悪いし…………」
「……まったくもう、イキョウさんは意気地なしですね!! オトナな私達が寛大な心で許してあげましょう、お互い様にしてあげましょう、そうしましょう!! そう、しましょう……そうしないとダメな気がします。あんな無関心に弄ばれたとなると、ただただ虚しくなってしまいます。…………私子供じゃないですからね!!」
「私も子供じゃないよ!! オトナな女だもん、これくらいじゃ恥ずかしくないもん!!」
「ですよねラリルレさん!! 恥ずかしくないですよね!!」
「恥ずかしくないよシアスタちゃん、私達きっと、キョーちゃん達よりいっぱいあだるとなお話してるし、悪悪なこともしちゃえるもん!!」
「そですよ、そうなんですよ!! おバカで子供っぽいイキョウさん達よりも私達のほうがディープなオトナです!! ……………………ラリルレさん、見ました?」
「ん!? 見てないよ!? 知らないよ!! 桶の間から……ちょっとだけ、しか……」
「……ちょっとだけ、ですもんね。私も、ちょっとだけ、です」
「「…………」」
「…………ちょっと、かわゆい、カモ……」
「私、怖かったです……男の人の体全然違いました……」
* * *
「ソーエン、叩き起こして悪いな。ヤイナ、ナナさんときゃっきゃしてるとこ悪いな」
「なんだ……寝不足と言っただろう……。何故お前の部屋に連れて来られなければ行けないんだ……。俺は加わらんぞ」
「ソーパイセンなら、あたし達は別に良いっスけどね。キョーパイセンはどしちゃったんスか? どよよんモードっス」
「あのな……不可抗力で、ラリルレとシアスタの裸見た挙句弄繰り回しちゃった」
「「は?」」
「制裁は受け入れます。どうぞオレの体はご自由に」
その後オレは――――。
ぼっこぼこにされた挙句、二人に市中引き回しの刑を実行されました。住人からは『何やってんだあいつら……』って目を向けながら、それでもオレは激怒してるあの二人に引き回されて、贖罪を実行しました。
それは、シアスタとラリルレが、二人を説得するまで続けられました。
色恋の恋を持たぬ存在ならば、色によって関係を作るしかなく。
残された猶予の日々に、余裕は無い。




