16.負けたがりわんちゃん
――辿り着いたのは、ナナさんの部屋。
内装は、畳風――ではなく、本当に畳を敷いた床面。そして部屋の中心にはテーブルがあり、その両脇には座布団が敷いてある。照明にはボンボリに似た家具アイテムが用いられ、窓はガラスの内側に、障子の小窓が特別に付けられていた。
言うなれば、和風の旅館のような内装。そしてこの人の部屋にベッドなんてものはない。寝るときにはテーブルをどかして、一々布団を敷くといった手間をかける、敷布団民なんだ。
テーブルをどかさなくても布団くらい敷くスペースはあるのに、なんでか一々テーブルをどかして壁に立てかけ、そして部屋の中心に布団を敷くんだ。ただただ手間でしょ。
そんな和風旅館な部屋は、窓、カーテン、そして障子がぴっちりと閉められて……ない。朝の日差しが流れ込んできて、とても明るい室内だ。
光が入り込む朝の部屋で、オレとヤイナは部屋の中心にしかれた布団の上に座っている。オレの横では、ヤイナが寄り添うように体を預けて、肩を並べて座っていた。
そしてオレ達の目の前では――。
「わんわん♡」
ナナさんが、首輪と犬耳をつけて、堂々と立ちながら犬の鳴きまねをしていた――。
――――何したいのこの人?
「何したいのこの人?」
思わず心の声がそのまま出てしまった。
ヤイナはヤイナで、オレに寄り添いながら、期待するように胸や太ももをそっと撫で回して、オレの顔を潤んだ上目遣いで見てくる。
「くふふ♡ わんわん♡」
「わんわん♡ じゃないんだけど。人の言葉喋ってよ、ナナさんいつも唐突だから何したいのか分かんないよ」
「負けるのって気持ち良いの、負けるの好き。今の私はワンちゃんよ」
「んはぁー……?」
「つまり、いーぬ。わんわん、負けたいワンちゃんだわん。くぅーん……♡」
はぁ……? 口ぶりの割りに、小悪魔的な笑みを浮かべて、座ってるオレを見下ろしてくるんですけど? それが負けたい奴の態度か?
「お手」
「くぅーん♡」
「おかわり」
「くふふぅーん♡」
「ちんちん」
「かー……ぷ♡」
この犬バカか? 途中まで指示にしたがってたのに、急に服越しに甘噛みしてきやがったぞ。
「そうじゃないから。ナナさん犬は言う事も聞けないおバカちゃんなのかな?」
「くふふー♡ キミほどじゃないわよー?」
ナナさんは、甘噛みを止めて口を離すと、さっきの言葉に従ってオレの前で屈服するようにしゃがんだ。でも、その表情は未だ挑発をするように、浮世離れした子悪魔的な笑みを浮かべてオレを見てくる。
――ってか、普通に言葉で挑発してきやがった。
「くふふぅーん♡」
犬がするような芸を模して、ナナさんはポーズをしてる。足を開きながらしゃがんで、手を胸の両脇に持ってきて、指を犬の肉球を象るように丸く曲げながら、挑発的な顔でオレを見てくる。
この人、負けたがりのわんちゃんじゃないの? そうとは思えないくらいに挑発して来るんだけど?
「ナナさん、その首輪ってリード付けられる?」
「くふふ♡ どーぞ、ご主人様」
まるでオレの言葉を予期してかのように、ナナさんは袴の中に手を入れると、そこからリードを取り出して、首輪に繋げてオレに差し出してきた。だったらそれを受け取るしかないだろう。
ナナさんあんた……ボックスから取り出す動作、今までそうやってごまかしてきたんかい。
「ナナさんさ、さっきオレのことロリコンって言ったよな?」
ボックスのごまかし方なんて、今は良いよ。問題は他にある。
だからオレはその問題を片付ける為に、リードをぐいっと引っ張って、ナナさんへと問いかける。
対してナナさんは、引かれたリードに流されるように顎をこちらへ差し出しながら――何かを期待するような、そして挑発するような表情をオレに向けてきた。
「言ったわん♡」
「さっきからオレのこと煽ってきてるよな?」
「煽ってないわーん、バカなキミだからそう思っちゃうだけだわーん♡」
「そっかぁ……。ヤイナ、オレ達だけでしようぜ。あの負けたがりメスガキ犬はダメだ。おあずけだ」
「どこでも良いっスよ……? パイセン、好きなところ使って、あたしのことめちゃくちゃにしてください」
「くぅーん……♡ ロリに手を出せない、い・く・じ・な・し」
「意気地なしじゃないが? 変更だ、あのメスガキ犬を最初にやるぞ。前戯で焦らしまくって絶対にイかせるな」
「…………そしたら、パイセンのおちんちん寂しくなっちゃうスよ? あたしの中でよしよししてあげるっス」
「やっぱお前最高。こいメスガキ犬。オレ達で前後を挟んでやるから、絶対膝付けんなよ、間に跨って立って、その犬の手でポーズ取り続けな」
「…………くぅーん……出来るかしらね? ご主人様♡」
「オレは誰も飼うつもりはないから。負けたら勝手について来きなよ、負け犬ナナさん」
オレは挑発されたから喧嘩を買った。そしてナナさんは、目をゾクゾクさせながらオレの元へと四つんばいで寄ってきた。
その後――――。ヤイナはもう熟れきった状態で、オレを受け入れ、そして二人で繋がったまま、オレは背中側から、ヤイナはお腹側から、舌を這わせたり指でなぞったりしてナナさんが絶対にイかないように調節しながら、二人で犬をじっくり愛でた。
――――それはナナさんが喜々として敗北を宣言するまで続いた。その後は、メス全開のヤイナと負け犬ナナさんを相手に、オレの欲望を全て注ぎ込んで、体や顔や、色々な部分に掛けてやりました。
ただ……ナナさんは何度果ててもずっと挑発的な顔をしてきたのが、腹立ってしゃーない。
* * *
後日談。イキョウに癒されたローザは、行く先々、出会う人々から――。
「あれ!? ローザさんすっごいつやつやしてます!? どこのエステ行ったんですか!! 教えてくださいよ!!」
――と言ったような、美しさに磨きがかかったような言葉を掛けられた。それにローザは、苦笑いをして返す事しか出来なかった。
そしてセイメアは――。
(…………官能的描写が……店長と……イキョウさんばっかり…………)
――そういった本を読むたび、そういった場面を想像する度、二人の事を思い出して顔をまっかにしていた。




