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15.予想外お一人マッサージ

 深夜から早朝にかけての時間帯。空が白みだす前。


 疲れ果てて、深く眠っている受付さんを見ながらオレは思う。


 こんな御礼の仕方、普通じゃないだろ。と。


 でも、オレはこんな方法しか知らない。疲れてる受付さんの全てを癒すには、コレしか知らない。


 びしょびしょになったタオル。汗と涙、涎、そして色々な体液を含んだタオルをまとめてから、オレは裸の受付さんに布団を被せる。出すものを全て出して、デトックスできて、受付さんもすっきりしたことだろう。もう肌ツヤッツヤですよ。


 寝ているはずなのに、布団が擦れてだけで受付さんは短く色っぽい声を出すけど、それは体の性感がまだ開いているから。じきにそれも収まるだろう。それに、肉体に負担は掛けないように、色々弄りながら解したから、起きる頃には心身共に生まれたての赤子のようにスッキリしてるはずだ。


 途中から声が激しかったけど、防音の魔道具を使ってたから大丈夫。これはシュエーのお店でも使われてるような代物で、ヤイナがアステルに移住した時に買って置いた。


 使用用途は、隣の部屋のソーエンに迷惑が掛からないようにするためだったけど、それはオレのささやかな気遣い。アイツが今更嬌声を聞いて文句を言うような奴じゃない。最も主だった用途は、家の子達に悪影響が出ないようにするためだ。ヤイナの声も、なんならナナさんの声も、そして今日みたいに受付さんの声も、うちの子達に聞かせないようにするために買ったんだ。


 余談だけど、ヤイナは隣の部屋がセイメアだしこの魔道具使ってんのかと思ったら、アイツは『メアメアちゃんの隣部屋で、バレないように声我慢しながらするのがたまらなく興奮してヤバイんス』って言って、魔道具の使用を拒否しやがった。


 あの性癖坩堝メイドはホント逞しいよ。そんなメイドにオレはお世話になってるわけで、だから感謝を心の中で済ませておく。


 そして、まとめたタオルを床に置きながら、椅子に座って受付さんを見る。穏やかな顔をして、深い寝息を繰り返しながら、ゆっくりと寝ている受付さんを。


 今後も、お礼できる奴にはお礼しておこう。例え間違った手法でも、感謝を返すことは大事だからな。最期は、皆がオレを忘れたって、オレが皆に感謝してることには変わりないから。


 そんな事を椅子に座りながら考えていると、不意に部屋の扉をノックされた。まだ空が白む前だってのに。


 防音魔道具の機能を切ってから、オレは一声掛けて、ノックした者へと返事を返す。家の中で気配なんて探る必要はない、返事を返せば誰かが分かる。安心できる場所、それがこの家だ。


 でも、ノックの仕方で誰かは分かってしまう。あの慎ましやかで、丁寧なノックをするのは――。


「お早う……ございます……」


 ――この家ではセイメアしか居ない。巫女セイメア、巫女メアが、どうしてかこんな早朝からオレの部屋を訪ねてきた。


 そっと扉を開け、静かに閉めると、そのまま一歩、足を進めたところで……。


「……あっ……」


 受付さんの姿を一目見たあと、足が止まった。――っぶねー……布団かけてるから裸ってのはバレてないだろうけど、もしも裸ってことがバレたら勘違いをされてしまいそうだ。先ほどまで行っていたのはマッサージ。それ以外の意味なんて一切含まれてないからな。


「……タオル……漂う良い香り……男の人と女の人……」


 セイメアは顔を俯かせながら小さく何かをつぶやくと、薄っすらと頬を赤らめて恥ずかしそうな雰囲気を醸し出した。


「す、すみません……私……知らなくて……きょーさんと、ローザさん……そのような間柄だって……」


「待って待って、勘違いしないで。昨日呑み会で受付さんが酔いつぶれちゃったから寝せてるだけ。オレは寝るところが無かったから椅子に座って起きてただけ」


「あ、そうだったの……ですか……」


 うーん、この清らかなお人。オレの言い訳であっさり言いくるめられて、ほっとしたような表情をしてらっしゃる。


 ――直後、眼をオレの後ろに向けたセイメアは、また固まった。


「……それ……服……」


 そして、気まずそうな顔をしながら背けて、そぉっと指を指して、窓際を指す。


 おやおや……受付さんの服が綺麗に畳まれてらっしゃる。


「待って待って、まさかセイメアは受付さんが全裸で寝てると思ってるの? 大丈夫だよ、この布団の下はパジャマに包まれた受付さんの体しかないから」


「で……ですよね……」


 うーん、この清らかなお人。オレの言い訳であっさり言いくるめられて、ほっとしたような表情をしてらっしゃる。


 セイメアは清らかで素直な人だぁ……。それも相まって、静謐、なんだよなぁ……。


「どしたのセイメア。とりあえず座りな?」


 こんなお人を前にオレだけが座って、あちら様を立たせる訳には行かない。だからオレは席から立ち上がって窓際に凭れる。するとセイメアは、少し嬉しそうな表情をしながら、オレの誘いを受け入れて素直に座ってくれた。


「早くに眼が……覚めたので……降りたら……。偶然、キョーさんのお部屋から……薄っすらと明かりが……。なので、稽古が始まるまで……お話できたらなぁ、と」


「全然良いよ、良いけど……オレの部屋端っこだよ? 階段降りただけじゃ明かり見えなくない?」


 オレの部屋は角部屋だ。しかも、階段からは一々廊下を一回曲がらないと部屋の扉なんて見えやしない。


 だからわざわざオレの部屋か、ソーエンの部屋に用事が無い限りは偶然見えることなんてありえないはず……。


 オレの言葉を聞いたセイメアは、少しドキッとした様子を露にして、顔を俯かせた。恥ずかしそうにな。セイメアお前……嘘付くの下手っぴかよ……正直かよ……。


「お話……したくて……」


「いやはいへぃ、ホントごめん……。クソ無粋なこと言ってマジでごめん……」


 どうやらセイメアは、オレと話がしたくて、わざわざオレの部屋の前まで見に来たらしいわ。眼が早くに覚めたのは偶然、そして偶然眼が覚めたから、この家で一番早起きなオレの事を尋ねてきたんだろう。


 セイメアは奥ゆかしくて静かな人だ。そんな事を素直に言うことすら恥ずかしいんだろう。なのに深堀しようとしてごめんなさい。オレの中で察しておくので言わなくて大丈夫です。セイメアはそのままで居て下さい。


 オレはデリカシーを持ってセイメアの事を察したあと、タバコに火を付けながらデリカシーを醸し出す。


「どんなお話する?」


 そして、問いかける。セイメアは自発的な言葉を待つよりも、こちらから声を掛けた方が会話しやすい。そして、セイメアもその方が良いようで、オレが声を掛けるとぱぁっとした雰囲気を出しながら顔を向けてくれた。


「……あ……。お話したいと思ってて……でも……何も、考えて無くて……」


「いやもうそれだけで嬉しいよ。オレと話すのそんな楽しい? オレはセイメアと話すのめっちゃ楽しい」


「キョーさんとお話するの……私も好き、です。言葉を交わすだけで、一緒に居るだけで……小説のアイデアが……たくさん、生まれます」


 セイメアはぽわわぁっと楽しそうな顔をしながら、小説の事を空に浮かべて嬉しそうにしている。


 オレと話すだけでアイデア生まれるの? そんなヘンテコな日常は送ってないぞ。いたって一般的な日常しか送ってない。


「セイメアの書いてる小説って日常モノだったっけ?」


「冒険物ですが……。主人公が、とても賑やかな……いえ、その、内緒です……。完成したら、お見せします……」


 セイメアはあんましオレに書いてる小説のこと教えてくれないんだよなぁ……。小説なんて普段読まないから、別に良いけど。でも、完成したなら読んでみたい。読めれば……良いなぁ、読めねぇんだろなぁ。


「読めたら読むかもしれないかも。オレあんまし小説読まないから、評価や推敲は期待しないでね」


「読んでいただくだけで……良いです。キョーさんに、読んで欲しいので……」


 セイメアはしっかりとはっきりと、顔を向けてそう言ってきた。なんだろう、どんな小説なんだろう……オレに読んで欲しいってことは、ハードボイルドで大人向けな小説なのかな?


「そんな小説……ありだな。きっと主人公はクールでカッコイイ男の人なんだろう」


「いえ……。賑やかで、少し抜けてる……元気な男の人って感じの…………優しくて面白いキャラクターです」


「それでハードボイルド系は難しくない?」


「……え?」


「え?」


 おや? セイメアが不思議そうな声を出したぞ? じゃあハードボイルド系じゃないのか……?


 そしてそんな事よりも気になることがある。…………段々、セイメアの頬上気してね? 赤くなってね?


「どしたのセイメア。この部屋暑い?」


 アステル周辺の気候的に、昼も夜も過ごしやすい丁度良い気温なはず。だから部屋の中が暑いってことはありえないんだけど……セイメアって実は暑がりさんだったのかな?


「いえ……? 特には……。ですが……この部屋の香りを……嗅いでいると。体がぽかぽかして……。……!?」


 そういった直後、セイメアはピクっとして、袴の下で足をきゅっと閉じた。何かを感じて、焦って隠したような様子で。


「ど……どうして……なんでぇ……」


 しかも本人も混乱してるようで、泣きそうな声と困惑の表情をしながら、全身を強張らせて縮こまっている。


 ただなぁ……綺麗な姿勢で、膝に乗せていた手は、肘を伸ばして腕閉じてるから、押されたでっけぇのが潰れてよく主張してきてる。やっぱセイメアでけぇわ。


 ってか、仕草や表情、赤らみ、少し荒い息遣い……全てが色っぽいわぁ……。なんでこんな色香全開にしちゃってるのこの女性? 今のセイメアからはただただエッチさしか感じられないよ。まだ夜明け前だから、時間帯的には一応夜だ。夜だから、少しはアダルティになってしまうのかもしれないけど、ここオレの部屋だよ? そんな色艶出されても困るんですけど?


「……待てよ?」


 そういやこの部屋にはアロマの残り香に混ざって、とある香りが漂ってるな。


 あの謎のローションの香り、そして受付さんから溢れ出た乱れた女の香り…………。これに当てられて、セイメアも無意識に発情しちゃってるんじゃねぇの?


「換気します」


「え……?」


「換気します」


 そうと決まればこの部屋に漂う淫の香りを追い払わなければ。さもないとセイメアに恥をかかせることになる。あの奥ゆかしい女性に、辱めを与えてしまうことになる。


 流石にセイメアにそんな思いはさせたくない。だからオレは窓を開けて、この部屋の香りを逃がそうとする。


 …………けどな、少しだけ、確認したい事ができた。換気はする、ゼッタイする。でもその前に、オレは一旦セイメアの方へと近づいて、目の前に立つ。


「え……だめ、側……来ちゃだめ……です」


 セイメアは足をキュって閉じて、何かを必死に隠そうとしていた。


 そして顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えながら縮こまった状態で、両手と腕を軽く上げて顔を隠そうとしている。


「セイメア、マージでごめんなんだけどさ……。この液体の香り嗅いでもらっても良い? そしたらすぐ離れるし、セイメアが嫌がるようなこともしない」


「ひ……ひぅ……はぃ……」


 真っ赤に困惑しながらも、セイメアはオレが差し出したビーカーに恐る恐る鼻を近づけて、小さく二度三度、息をしとやかに吸い込んだ。……すると……。


 急に背筋を伸ばして、たわわを揺らしながら、全身をぞわぞわさせてるという、なんともドスケベなセイメアの姿が見て取れた。


「これ、ダメ、です」


「やっぱなぁ……。ありがと、もう大丈夫」


 この液体に含まれてるもの、何となく分かったよ。なんなら効能まで推察できたよ。……ナトリのやつ、なんちゅーもん作りやがったんだあの天才バカ。


 一人なら偶然かもしれない。でも立て続けに二人目にも同じような効果があるってことは、この代物はれっきとした効果を持った、いわば薬みたいな液体だ。それを今、確信できた。


 実験台にするようでセイメアには悪い事をした。今すぐ換気をして、少しでもセイメアを落ち着かせてあげよう。


 そう思って踵を返そうとした瞬間――。目の前でぞわぞわしていたセイメアは、少しでも楽な体勢を取りたかったのか、椅子に座りながら右手をベッドに付けた。


 そのせいで、ベッドが少し軋んで、受付さんの肌にシーツと布団が擦れる。


「――んっ♡」


 うーん、今の受付さんは性感がまだ閉じきってないから、些細な刺激で感じてしまうんですよ。そのせいで艶っぽい声を小さく漏らしてしまったんですよ。


 そんな艶っぽい声を、今の発情してしまってるセイメアが聞いてしまっては――あてられるよ。


 もう顔を真っ赤にしながら俯いて、心臓の音が聞こえてくるんじゃない勝手ほど激しく鼓動をさせながら、必死に何かを我慢してる風にしか見えない状態になってしまうんです。


 うっすら汗をかきながら、吐息を吐いて、自分の中の何かを抑えてるようにしか見えないんです。足をもぞもぞさせて、一人で何かをしようとしてるのを我慢してるようにしか見えません。


 こんな状態のセイメア、初めて見たし、見る機会なんて絶対訪れないって思ってたよ。おしとやかで奥ゆかしい人が、人前でこんな風になるなんて思ってませんでした。


 こりゃあ……窓を開けて換気するより、部屋から出して自室に帰ってもらった方が良いだろう。なんなら今日の稽古は休みだ。一日安静にしてもらって、心と体を落ち着けて欲しいわ。


「大丈夫セイメア? 顔赤いけど風邪引いた? 部屋に戻る? 今日の稽古はお休みにしよう」


「かぜ……風邪かも……です……もど、り……ます」


 偉いオレ、ささやかなデリカシーを出せたぞ。


 オレはセイメアの今の状態に気付いてないアピールをした。これでセイメアも恥をかかなくて済むだろう。


 あとはセイメアに部屋へと戻ってもらえば何事も無く終われる――と、思ったけど。


 立ち上がろうとしてるのに体に力が入らないのか、セイメアは立ち上がれない。それどころか、何かに気付いたように、今度は椅子に張り付いたように動かない。


「きょ、きょーさぁん……」


 そんで持って、セイメアは顔を真っ赤にしながら、今にも泣きそうな顔でオレを見てくる。熟れた唇から、熱い息を吐いて。


 眼が潤んで、端には涙が溜まっていた。あれは恥ずかしさと、体の興奮から来る涙だからセーフ。というか……泣き顔、確かに泣き顔なんだけど……クソドエロイせいなのか、オレのセンサーが全く反応しないので堕ちません。まあ、悲しんでる訳じゃないからな。堕ちないのも当然か。


 でもね、セイメア。名前呼ばれただけじゃ、オレなにすりゃ良いのか分からんぞ。困ってしまって、思わずオレに助けを求めてくれたことは嬉しい。嬉しいんだけど……セイメアに対して何をすれば正解なのかが分からない。


 もういっそのことすっきりさせてあげるか? ヤイナも呼んで二人で最上級の気持ち良さを与えるか? でも……セイメアだもんなぁ……。誰にも触れられず、綺麗なままで居て欲しいからなぁ……。


「熱上がってふらふらで立てない? オレが部屋まで運ぼうか?」


「い、いま触れられて、しまう……のは……。それに……その……椅子、から……離れるのは……」


 目の前の奥ゆかしい女性は、何かを言い辛そうに話し、そして言葉を濁す。


 その雰囲気で察せ無いオレじゃない。ローションの効能を知ってるし、セイメアが今いやらしい気持ちになってることも理解している。ということは、椅子から立ったらバレちゃうよな。袴や椅子に染みが出来てるんだよな。


 だったらもう椅子ごと運んでしまおう。セイメアを椅子に座らせて、このままの状態で部屋へと運ぼう。


 スヤスヤと寝ている受付さんを横に、オレは椅子ごとセイメアをお姫様抱っこするように抱え上げる。そのせいで少し、オレの方にセイメアが寄って、耳の横に顔が来た。


 少し驚いたセイメアは小さく声を上げた、が。今は周りより自分の内側に精一杯な様で、艶っぽい吐息を吐きながらオレの行動を受け入れた。


 部屋のドアを器用に開け、『お届けしたらすぐ退散しよう』と思いながら、セイメアに変な刺激を与えないように廊下をゆっくり丁寧に歩いてる――――訳だけど……。顔が近いせいで、吐息が耳に流れ込んでくる。艶っぽい呼吸音が、熱い息に乗って耳に直接入ってくる。


 やーばいんですけどコレ……。右耳こそばゆいし、熱い息が掛かって熱持つし、鼓膜が優しくくすぐられる。セイメアという存在も相まって、めっっっっっちゃ興奮する。


 さっきはお礼をする為受付さんを癒すことに全力をとしてたし、プロのマッサージャーマインドだったから、手を出すことなんて一切考えられなかった。でも、今は違う。今のオレは普通のオレ。普通に欲のある男。


 ヤイナ、シュエーに続いて、オレが元気になってしまう存在が現れなすった……。でも、オレは硬い決意を持って欲望を沈める。元気になんてさせない。抑えるくらい、オレほどの男なら象さんも……じゃなくて造作もない。


 こちとらありとあらゆるトコロがぶっ壊れてる人モドキでまっとうに普通に人じゃい!! 自分の体を操るなんて訳無いんだよ!!


 それに……もし服越しであろうと元気なオレをセイメアに見られたら、清廉なセイメアを恥ずかしがらせちまって、今後顔を合わせてもらえなっちゃうかもしれないもん!! オレセイメアと話すの好きだからそれは絶対にいやだ!!


 だからオレはこの吐息に抗いながら、平静を装って、普通に廊下を歩く。


 全てはセイメアの為。セイメアに恥をかかせず、オレが何も気づいてないと思わせたまま部屋へと返すため。


 そのためにオレは丁寧に、でも着実に、階段を上って三階の廊下を歩く。セイメアの部屋はヤイナの隣。ヤイナの部屋は角部屋で、オレの部屋の上に位置する。そしてセイメアの部屋はソーエンの部屋の上、つまりヤイナの隣の部屋。そこに辿り着くには、廊下を一回曲がらなければいけないから曲がった……ん、だけ……ど。


 廊下を曲がった先、廊下の先。そこにはとある人物が仁王立ちをしてオレ達を待ち構えていた。


 その正体はヤイナだ。今日は受付さんを癒すということで、オレの部屋を訪ねる事を禁止にしていた、ヤイナだ。


 何でこんな夜明け前の暗く薄らんだ廊下で、あのスルメイドが待機してんだよ……何時も通り寝てろよ……。


「ヤ――」


「事情は分かってるっス。あたしのえちえちセンサーを舐めないで欲しいっス」


 ヤイナは即座に手をズアっと上げ、迫真の表情をしながらオレの言葉を遮って来た。


 でも違うんだ、事情は知ってても知らなくても良いんだ。オレはな? お前に『ヤイナどけ』って言おうとしたんだ。


 なのにあのメイドはしなやかな所作でセイメアの部屋の扉に手を掛けると――。


「どうぞ、中へっス」


 ――どうしてか丁寧な所作で扉を開き、招き入れるようにお辞儀をしてオレ達を誘った。


 でもこの誘いはオレの目的とは違う。オレはセイメアを部屋に置いたらすぐに退散しようって考えてた。でもヤイナは、『一緒に入るっス』って物言わぬ雰囲気でオレに伝えてくる。


 そこセイメアの部屋なんだけど……なんでお前が取り仕切ってるわけ?


 オレは迷ってる。このままヤイナの誘いに乗りたくはない。でも……早くセイメアを降ろしたい。


 ずっとこの吐息をかけられるのは正直辛いものがある。今だから我慢できてるけど、長い時間聞かされたら我慢できねぇぞこんなの。だったら耳を離して聞かないようにすれば良いだけの話しなんだけど……セイメアの声、呼吸音、しとやかで好きなんです……オレにはこの熱い吐息ですら最高のASMRになってしまうんです……。


 抱えてるならずっと聞いていたい。聞くのを止めるのは、セイメアを降ろすとき。だったらもう……一旦はヤイナの言葉に乗っておこう……。


 何考えてるのか知らんけど、さすがのヤイナも大好きなセイメアを辱めるようなことをしないだろう。もしかしたら、オレがセイメアをスムーズに部屋へと送れるよう、扉を開けてくれたのかもしれない。その行為は純然たる奉仕の感情で、邪なものなんて一切無いのかもしれない。


 信じてるぞ、ヤイナ。


 オレはそう思いながら、歩みを進め、一歩、また一歩と歩く。そうしてセイメアの部屋へと入り、横になりやすいように椅子をベッドの真横に下ろすと――。


 ソレと同時に扉の閉まる音が聞こえた。そして同時に、鍵の閉まる音も。


 降ろしたセイメアから顔を離し、折っていた腰を上げながら振り向く。


「何してんのお前?」


「メアメアちゃん照れ屋っス、ガードかたかたっス。こんなときじゃないとオトナなお話できないっス。このチャンスを逃すほど、あたしのおメメは節穴じゃないっス」


「弱ってる隙を突くとかお前最低か?」


「手は出さないんで。それにあのえちえちなロザロザちゃんさんに手出ししないでおいて、すぐ後に他の女に興奮するパイセンほど最低じゃないんで。女の敵!!」


 ヤイナはぷんすこと怒りながらオレの方へと近づいて来る。そうしてオレへと手をシッシってして、ちょっとそこどいてとジェスチャーしてきた。


「メアメアちゃん、今すぐ横にするっスからねー。私がしてあげるんで大丈夫っスよー」


 そう言いながらヤイナは、オレからセイメアを隠すように、オレ達の間に体を滑り込ませてくる。


「て、てんちょー……ダメ、です……いま、動かしては……」


「大丈夫っス、あたしも女の子っス。女の子同士恥ずかしいことなんてないっスからね、私もその気持ち分かるっスから」


「あんだけ恥らい無いお前がそれ言う? ってか女同士云々抜きにして、オレとヤイナが出てけばセイメアが恥ずかしい思いすること――」


「パイセンしゃらっぷ!!」


 おへー……ヤイナから威嚇顔をされながら黙れって言われた……。


「あたしのタオル渡すんで使って欲しいっス。是非是非使って欲しいっス。後であたしが責任を持って回収するんで」


「は、はい……」


「それじゃ持ち上げ……パイセン何見てんスか!! 回れ右!!」


「へい……」


 テキパキとバスタオルとハンドタオルの二枚をセイメアへと手渡したヤイナは、これまた凄い剣幕をしながらオレへと命令をしてきた。


 従います……。でもここに残ります……ヤイナが何しでかすか分かったもんじゃない。


 ヤイナの言葉に従って回れ右をする。背後では椅子やベッドが軋む、ギシギシと音がしたり、ごそごそと音がしたりし――そして。


「もう良いっスよパイセン。また回れ右っス」


「へいへいさぁ……ヤイナ閣下……」


 何故かこの場を取り仕切ってるヤイナ閣下から許可が下りたので、オレはまたもや体を半回転させて向き直る。


 オレの眼には……きっちりと布団をかけられ、ベッドに横になったセイメア。そしてさっきセイメアが座ってた椅子に座るヤイナが映った。どうやら一応は、状況が整ったらしい。


 でもセイメアは布団の中で少しもぞもぞしてらっしゃる。敷いたタオルの位置を調整したり、拭いたりしてるのでしょうか――。


「――」


 今、本当に小さな声で、息と錯覚するほどの小さな声で、しとやかな吐息声が聞こえたので、拭いてるようです。


 セイメアは顔を真っ赤にしながら視線でそーっとオレとヤイナの事を、こっそり確認してきました。オレ達はその視線に気付いてないフリをしながら、そしてさっきの声にも気付いてないフリをしながら、特に何もアクションを起こさずにしておきます。セイメアを辱めたくないんです。


 これはオレとヤイナが共通して思っていることなので、二人で結託して気付かなかった体裁を貫きます。


 オレ達の様子を見たセイメアは、またそーっと視線を戻して、何事も無かったかのようにベッドに横になってます。


 この部屋はセイメアの部屋なんだから『出て行って』とかお願いしたり、布団で隠れてるんだからこっそり、とかしない辺り、セイメアという人物が清くて奥ゆかしい遠慮がちな人間性をしてるんだなって良く分かる。


「メアメアちゃんは良い子っス、あたしだったらシてるっスよ」


「な、なにを……で、しょうか……」


 ヤイナは優しく言葉を掛け、セイメアはその言葉に困惑を示してる。セイメアはその言葉の意味を察しているんだろうけど、知らないフリをしているんだろう。


「あたし、いつもの綺麗でおしとやかなメアメアちゃん大好きッス、本当に好きっス。でもでも、あたし達の前くらいではもっとグイグイきて、色んな話して欲しいっス。恥ずかしがらずに、色んな事や色んな話を遠慮なくして欲しいっス。些細な悩みから恋まで、全部お話できるくらいにもーっと仲良くなりたいっス。メアメアちゃんに全部さらけ出して欲しいっスし、全部さらけ出して良いって思える相手になりたいっス」


「わたし……皆さんに、遠慮なんてしてなくて……。毎日、楽しくお話してて……」


「日々の日常はそれで良いっス、メアメアちゃんからそんな素直な言葉が聞けて、あたし嬉しいっス。でも今は日常じゃないんス、イレギュラーマシマシの異常事態っス。いつもカタカタガードなメアメアちゃんっス、えっちな話してくれないっス。けど、えっちって人をお理解する上で大事なことなんス。あたし、ちょっとだけ変なんで、好きな人のえっちなところ知らないと不安になっちゃうんス。性癖の趣向、淫乱度合い、性欲の強さ、これ全部人の本能っス、内側っス。性は人を表すんス。お願いメアメアちゃん、今だけで良いんス、あたしにえっちなトコロ教えて欲しいんス」


 ヤイナは真剣な顔で、自分の考えを伝える。


 こいつは……おかしい。変なところがおかしくなってる。過去の経験のせいで、そして経験のおかげで、人の性という部分に重きを置いてるし、ソレを知れば相手の事は大体理解できる。


 性的なものを通して相手の事を知るのがヤイナって言う人間だ。


 オレ達のおかしさ、普通の人からズレてる部分。オレは人の真似が集合体として動いて生きる。ヤイナは人というものは性こそが根源だと思っている。おかしさの種類は違うけど、どっちもおかしいということには変わりない。


 でも、ヤイナは性を用いて相手を理解できるけど、自分から進んで色んな相手を理解しようとするほど他人に興味があるわけじゃない。


 ここまで自分の考えをさらけ出し、積極的に相手を理解したいって意思を示したのは、目の前に居るのがセイメアだからだろう。ヤイナは本当にセイメアのことが好きなんだ。好きだから、理解したいって思ってるんだ。


「わたし……その、そういったお話は……その……」


 セイメアは熱い吐息を吐きながら、そして照れながら、静かに言葉を紡ぐ。


「話したくないなら無理強いはしないっス。でも、話しても良いかなって思ってもらえるよう努力するっス。メアメアちゃんが話し辛いなら、まずはあたしが話すんで、心揺れ揺れしちゃったらそれとなーく入ってきて欲しいっス」


「え、えと……考えて……みます……」


 セイメアの話を聞いたヤイナは、にこって、可愛らしい笑顔を返す。そしてオレの方を向いてきた。


 お前、下の話したいのにオレを追い出さずにここにおいてたのって……そういう意図があったのかよ……。さっきまでの行動に対してオレから反発され続けてるってのに、それでも出でいけの一言も言わなかったのは、オレを話し相手にしたかったからか……。


 良いよ、付き合ってやるよ。それで、お前とセイメアがもっと仲良くなるなら、これから先の未来が良いモノになるだろうからな。死に行く者としてお前等の未来に協力してやるよ。


 オレは何も言わずにヤイナの視線を受け入れると、ヤイナはいひひと笑いながら可愛い笑顔を向けてきた。


「パイセンパイセン、ソフトな話題から行くんで、そこんとこよろしくっス」


「へいへい。好きにしな」


「最近一人でしたの何時っスか?」


「お前さ、ソフトの意味理解してからもう一回同じ質問してみろ」


「一人でする。それって、自分が自分の性欲に一番素直になれるときなんスよ。内容や頻度、そのとき使ったおかず。それを知るのって『昨日ご飯何食べた?』レベルでソフトな話題なんス」


「そでしたね……。知ってんだろ、最近はしてない。ってか十年くらいしてない。オレはやる相手なんて簡単に見つけられるからな、一々自分で処理する必要も無いわ」


「自分が無い人っス。昔は自分で居れたのに、それを失ったからそうなるんス。これがエチリズム、深層心理を解明っス。

 因みにあたしはさっきまでしてたんで。深層心理関係なく、純情な乙女心がうずいちゃったんでしっとり慰めてたっス」


 お前さぁ……。お互いの事なんて分かりきってんだから、一々質問する必要ないじゃん。……って思ったけど、ここには理解し合ってるオレ達二人の他にも人が居るんだ。


 今のはあくまで実例をセイメアに見せたに過ぎなくて、なんなら解明とかも必要なくて、ただ細かいことは気にせず何でも下の話をするぞって見せただけなんだ。


「今日はちょっとMな気分だったんで、おっぱいの先ぎゅーって摘んで、なかきゅーってして、奥やお尻や敏感なところグリグリしてたっス。声我慢しながらするの最高……」


 一応ヤイナは、セイメアの前だからド直球な単語を出す事は避けてるけど……避けててもセイメアには内容が伝わった様で、真っ赤な顔をより真っ赤にしながら、布団の中で体をもぞもぞさせていた。一応は両手を顔の側に出して布団をきゅっと掴んでるから、弄ったり触ったりしてない。でも、ヤイナの話から姿を想像してしまったようで、多分悶々としてるんだと思う。


 いやぁ……こっそりしても良いよ? 別に見ないフリするし……とは思うけど、セイメアはこっそりだろうと人前でそんな事するお人じゃないって分かってる。


「Sの日は相手を組み伏すの想像しながらベッドの上でギシギシするっス。おもちゃ固定して相手無茶苦茶にするの想像しながらするの最高……」


 コイツなんなの? セイメアの前でえちえちな話できるから喜々として話してるんだけど……?


 でもヤイナの価値観的には、自分のことをもっと知って欲しいから包み隠さず話してるんだろう…………。本当に包み隠さずか?


「お前ホントにそれだけ? 絶対違うじゃん」


「もちろんもっとえぐいことしたり、自己催眠とかノーハンドとかテクニカルな事もしてるっス。あたしは色んなエッチが沢山好きな、純情な乙女っス。気持ち良いこと沢山したいって思える、自分の欲望に素直な可愛い女の子っス」


「それはね、欲望の獣って言うんだよ?」


「実は今もえっちなお汁がとろとろなんス。見てコレパイセン」


 そう言ってヤイナは、メイド服の短いスカートを捲って見せてきた。セイメアにも見えるように。


 染みっていうか、もう普通に下着全体がしっとりしてる。張り付いた下着のせいで、筋と突起が丸分かりだよ。


 原因……分かるんだよなぁ……。お前、セイメアのあれが染みを作った椅子の上に座ってるもんな、お前興奮してるもんな。お前の濡れやすさならそうなるわ。


 そんなヤイナの発情してる下半身を、セイメアはちらちらと恥ずかしそうに、でも完全には眼を背けずに、見ている。


「あたしヌルヌルっス。だからメアメアちゃん、一緒っス。恥ずかしがること無いっス」


「お前とセイメアの具合を一緒にすんな。水溜りと水滴くらい違うだろがい」


「きょ、きょー……さん……? もしかして……気付いて……」


「いやうーんいやねさぁ……。ヤイナの意思を重んじてぶっちゃけるとうん……知ってました……。セイメア、ちょっとエッチな気分になってるんじゃないかって思ってました」


「ぁぁ……ぅぅ……」


 オレの返答を聞いたセイメアは、今にも泣きそうな顔をしながら布団を深く被って、顔を隠してしまった。


「恥ずかしいことは良いっスよメアメアちゃん。思い出しながらするとすっごく気持ちよくなれるっス」


「お前の飽くなき性欲には尊敬するよ」


「でもメアメアちゃんよりあたしの方がしっとりっス。あたしの方が恥ずかしいことになって……あっ……」


 ヤイナは現状を鑑みた上で、そして考えただけで喘ぐ。逞しいやつだなお前。


「だからメアメアちゃんよりあたしの方が恥ずかしいんス。上にあたしが居るんで、メアメアちゃんも安心して一緒に恥ずかしくなるっス。安心しながら恥ずかしさを感じて欲しいっス」


 ヤイナは『一人じゃないよ』って風な言葉を語りかけ、そして優しく布団を捲り顔を出させた。セイメアはそれに抵抗を示さない。


 恥ずかしい自分の気持ちに助けを求めたくて、赤らめた顔にある潤んだ艶っぽい眼を、ヤイナへと向ける。


「ここにはメアメアちゃんより恥ずかしいあたしが居るんス。どんなメアメアちゃんのえっちより、それを超えるえっちなあたしが居るんス。だから何をしても、何を言っても、あたしが全部受け止めてあげるっス」


「てん……ちょー……」


「もっとメアメアちゃんをさらけ出して欲しいっス。恥ずかしいなら、あたしが身も心もさらけ出してもっと恥ずかしくなるっス。一人でしてる姿も見せてあげるっス。だからメアメアちゃん、お布団取ろ? 女の子同士、えっちな思いさらけ出そ?」


「でも……その……きょーさん、居ます……ひ、ひとに、見られるの、ダメ……恥ずかしい……ので……」


 ヤイナに見られるのはええんか……。でもまあ、二人でお風呂とか入ってるし、今は寧ろ服着てるから裸よりはマシ……なのか……?


 でも純然たる風呂での裸の付き合いと、えっちな気分状態で服着てるって、後者の方が性的だよな? どっちが恥ずかしいんだろ。オレには分かんね。


 ただ、ヤイナはセイメアが本当に嫌がることは絶対にしない。そしてセイメアがさらけ出せるように上手く誘導してる。


 セイメアからの信頼を巧みに使い、自らを矢面に立たせることでセイメアが辱められないようにしてる。


「え? オレも脱いだ方が――」


「パイセンは良いんス。男の体はメアメアちゃんに刺激を与えるだけなんで。今はメアメアちゃんがあたしと一緒に、自分の恥ずかしさを、そこいらの男じゃなくてパイセンっていう信頼できる異性の前でさらけ出すことが重要なんで。居てくれるだけでいいんス、喋んなくても良いっス」


「ほえ……」


「メアメアちゃんも性の悩みあるっスよね。ずっと隠してたらお悩み解決しないっス。えっちなお話と、オトナなお話して、悩みも気持ちもすっきり気持ちよくなっちゃうっス」


「おとな……。きもちよく……」


「体の悶々は我慢すればするほど気持ちよくなれるんで、後にしても良いっス。でも、悩みの悶々は先に解決したほうが気持ちよくなれるっス。女性としてのお悩み、ここで解決しちゃうっス。思い切っちゃうっス」


「……………………て、てんちょうは……その、見せても……はい……。女の子、同士……なので……?」


「そう言ってもらえると嬉しいっス。あたし女の子でよかったっス」


「きょ……きょーさん……は…………異性経験豊富、ですか……? 私、さらけ出しても、なんとも……思わない、ですか……?」


 セイメアの聞き方的に、オレは男ではなく性の先達者として見られているのだろう。異性ではなく、経験豊富な性の先輩として。


「んまねぇ……色んな女見て来たから安心してよ。恥ずかしい姿なんてメッチャ見て来たし、させてきた。でもセイメアは違うわ、オレはどんなセイメアを見たって、ただただ綺麗としか思わない。どんなセイメアだってずっと見て居たいくらいには好き」


 セイメアの声大好き。見た目も大好き。綺麗で素直な人間性が好き。


 だからその事を知ってもらうため、オレは眼を向ける。


「……パイセン、いつもその顔できたらなぁ……」


「…………見せて……みます……。て、てんちょう、手、を……」


「りょっス。いひひ、ぎゅー」


 ヤイナが何かをぼやき、セイメアは思案をする。


 セイメアは手をそっと差し出し、その手をヤイナは優しく笑いながら受け入れるようにとった。


 不安と恥ずかしい心は、ヤイナが居るから軽くなってる。


 布団の中には熱が篭っていたのだろう。セイメアが片手でおずおずと布団を捲ると、心なしか部屋の温度が温かくなった気がした。気がしただけだ、赤く上気したセイメアが布団を剥いだからそう思っただけ。


 巫女メアの体は汗ばんでいるけど、どこぞのメイドのように滴らせたり濡れていたりはしていない。パッとに袴越しにはね。その奥がどうなってるのかは知らないし、この眼を持って暴こうとなんてしない。


 セイメアがもっとさらけ出さないなら、自分から見せてないなら、オレから暴きに行こうとなんてしないよ。この場は全てセイメアのペースに任せる。


 …………わぁ、セイメアの香りが布団の中に篭ってたんだね。ふわっとした色香が部屋の中に柔らかく漂うよ。良い香りだなぁ……。


 ヤイナもこの香りを感じ取ったのか、腰をもぞもぞさせながら堪能してらっしゃる。それでも自分の好き勝手をしないのは、この場の主役がセイメアだって思っているからだろう。


「メアメアちゃん、下着外して楽にするっス」


 そう言ってヤイナは巫女メアの白衣に手を入れ、下着を抜き取った――んだろう。


 オレはそれを見ないように、回れ右をして顔を背けていた。セイメアの何処までを見て良いのか分からないし、セイメアの事は見ても良いけど下着は見ちゃダメって言われるかもしれないからな。コレがデリカシズムです。


 オレは背後の音を聞くことしか出来ない。でも、音的にヤイナは袴の下にある下着も――。


「くちょくちょっスね、これじゃ履き心地いやいやっスね」


「ちょっとだけ……はい……張り付いて……」


「後であたしの下着と一緒に洗うっス、二人で一緒にえっちな濡れ濡れ感じて洗うっス。とりあえずコレは一旦あたしが回収しておくっスね」


「あ……わかり、ました……」


 ――脱がしたようだ。いや見てえなぁ……あのお淑やかなセイメアの濡れたパンツとか、気になるわぁ……。


「パイセン、合格っス。偉いっス。もう振り向いて大丈夫っスよ」


「ありがとう……ございます」


「了解しましたヤイナ閣下、セイメア嬢」


 良かった、下着見たさに振り向かなくて。オレのデリカシズムからとった行動は、二人にとっての正解だったようだ。


「こういうことされると嬉しいっスよね」


「は、はい……」


 ヤイナとセイメアは、女の子同士で分かり合ってらっしゃる。


 でもな……いや……でっか。未だベッドの上で横になってる巫女メアだけど……横になってるのにお胸が未だ大きさを誇っている。重力にしたがって肉は流れてるけど、それでも大きさゆえに胸が胸って主張してきてる。


「メアメアちゃんのおっぱい、おっきくてふわふわっスよね、パイセン」


「ご立派で凄い。こんな絶景が見れてオレは最高……」


 見ただけでふわふわさ加減が良く分かるよ。


 前に武器を選ぶときに知ったけど、セイメアの体は脂肪や筋肉がとっても柔らかい。でも、体で一番柔らかいのはやっぱそこなんだろう。


 オレはただただ極上の双丘に感心して眼を向けている。そんなオレを、セイメアはベッドで横になりながら上目遣いで覗き込んできて、そーっと両腕で胸を抱えて隠そうとした。


「勿体無いっスよメアメアちゃん。今は折角さらけ出せる時間なんスから、いっぱい見てもらうっス。見てもらって恥ずかしくなるっス」


「えと……はい……。きょ、きょーさん……あの……あの…………。服……着てますので…………見て……下さい……」


 見ます。寧ろ服越しブラ無しのセイメアは今しか見れないと思うので拝ませていただきます。


「うおー……でっけー」


 巫女服越しにうっすらと浮かぶぽっちも見させてもらいます。多分こっちセイメア気付いてない。浮かんでるって気付いてない。


「あたしも……どうするっスかね。……こうするっス」


 ヤイナは一緒に恥ずかしくなる約束を、自分はもっと恥ずかしい姿をするって約束をしてたから、メイド服の胸元をぐいっと下げて、胸をさらけ出す。お前はナチュラルにブラつけて無かったんかい。そりゃそうだよな、さっきまで一人でしてたんだもんな。


 ヤイナはヤイナで胸をさらけ出した後、そっと腕を添えてムニっと隠した。先端が見えないように胸抱えてる。


「手で隠さない方がもっと恥ずかしくない?」


「あたし的にはパイセン相手に隠してる方が恥ずかしいっス。何でこの人の前で今更隠しちゃってるんだろう、ってなって興奮するっス。……メアメアちゃん、あたしのおっぱい触ってみるっスか?」


「え……? えっと、その……はい……」


「同性のおっぱい気になるっスか? 自分以外のおっぱい触ってみたいっスか?」


「あの…………きになります……」


「はいどうぞ」


 ヤイナは慈しむような笑みを浮かべると、セイメアの手をとって自分の胸に押し当てた。


「わたしと……ちがうふかふか……」


「そっスね。あたしのは弾力のあるふかふかっス。メアメアちゃんのは指が沈み込むふかふかっス。どっスかメアメアちゃん、えっちなお話して、えっちなことして、初めての事を知るのは」


「恥ずかしいです……けど……恥かしくなら無ければ……知れませんでした……。知る……ことは好きです……でも、大人なお話は……知りたいですけど……知らない世界で、怖い……です……」


「一人で知らない世界に踏み込むのは怖いことっス。だからあたしも一緒に歩くっス。ここにはあたしが居るんで、メアメアちゃんは怖がらずに勇気を出してあたしに付いて来て欲しいっス」


「は、はい。……て、てんちょう、掌に……硬いものが……」


「メアメアちゃんみたいな綺麗な女性におっぱい触られたらこうなっちゃうんス。気になるなら弄ってもいいっスよ」


「…………すこしだけ……」


 ヤイナの言葉に好奇心を刺激されたセイメアは、恥ずかしがりながらも掌をそっと浮かせて、綺麗で細い指をヤイナの胸にそっと触れさせた。


 優しく突くように、怯えながらそっと触れて撫でるように、そして軽く擦るように、感触を確かめている。


 その指を受けたヤイナは、少し切なそうな表情を浮かべた後、愛おしそうな顔をセイメアへと向ける。


「今の触り方って、メアメアちゃんが一人でするときの触り方っスか?」


 ヤイナは優しく問いかける。でもセイメアは言葉を返さずに、どきっとした反応を体全部で返した。


 それはもう、言葉で言わなくても返答してるようなものだろう。


「言わなくても大丈夫っスよ、わかるっスから。因みにあたしは、焦らした後にお乳ぎゅーってしながらさきっぽもぎゅーってするのが好きっス。いひひ、これであたし達二人とも、おっぱいの触り方分かり合いっ子しちゃったっスね」


「わ、わたしの……って、変……ですか? それとも、普通……ですか?」


「えっちなことに変も普通もないっスよ。メアメアちゃんが気持ち良いならそれがえっちなことっス。でもあえて言うならメアメアちゃんは普通っスよ、普通の女の子っス」


 セイメアってこういった話をするのは始めてたんだろうな。ただでさえあんまり人と関わってこなかったから、こういったちょっと踏み込んだ話はしたことが無かったんだろう。


 セイメアも年頃だ。興味が無い訳じゃない、知りたくない訳じゃない。


 大人の悩みや好奇心が無い訳じゃない。自分の中に溜め込んでたそれらは、話せる相手が出来たらそりゃ話すさ。それが人間というものなんだろう。


「…………てんちょうのは……ふつうですか……?」


「普通のときはあたしも普通の弄り方するっス、自分で舐めたり噛んだりクリップとかで挟んだりもするっス」


 ヤイナの言葉を聞いてセイメアは想像したのだろう。少し、胸にむずむずするものを感じたようだ。――クリップで挟むのが普通?


「そうやって想像して、自分の中にえっちな気分を溜めるのは気持ち良いっス。人って、脳や心、体で気持ちよくなれるっス。それぞれで感じたり、全部で感じたり、色んな満たし方があるっス。脳がじゅわじゅわぁって白くなったり、心がぽかぽかで満たされたり、体がびくびくってして刺激が溢れたり。メアメアちゃんも無いっスか? そんな感覚で幸せーってなるとき」


「わたし……その……あまりしないので……。少し、むずむずしたときに……ちょっとだけ触れて……。体、だけ? で、気持ち良くなるだけ……なのでしょうか……」


「なるほどなるほどぉ。じゃあメアメアちゃんは、まだ感じたこと無い、もっと気持ち良い経験が先に待ってる、えっちの未来が溢れる乙女っスね。全部満たされる快楽を知ったら、病み付きになるっスよ」


「全部……」


「あ、でもメアメアちゃんえっち初心者なんで、快楽の飛び級はダメっス。脳味噌ぐちゃぐちゃになって中毒者になっちゃうっス、イキ癖付いちゃうっス。もし、もっと気持ち良くなりたかったらあたしかパイセンに相談して欲しいっス。ちゃんと段階を踏んで、怖くないようにいーっぱい気持ちよくなるなり方を教えてあげるっス」


「ぐちゃぐちゃ……いっぱい……」


 興味が出てしまったのか、単純に気になったのか、セイメアはそうつぶやく。そして、足を静かにきゅうっと閉じた。セイメアのもちもちとした太ももが袴越しに密着してる。


 ヤイナはさっきから、セイメアにえっちな気分を溜め込ませてる。目的は知らんけど。


「男の人に弄ってもらいたいなぁ、でも本番をするのは怖いなぁ……ってときはパイセンに頼んでみるっス。あの人眼がおかしいんで、きっと声や手だけでメアメアちゃんに合った気持ち良さと満足感を届けてくれるっス。しかもメアメアちゃんがお願いすれば絶対手出さないんで、安心して人型のおもちゃと思いながらえっちに浸れるっスよ。ね? パイセン」


「んあ? それはそう。安心してオレに任せてくれ」


「……きょーさんの……手……」


 セイメアはオレの手を、ちらりと見て来た。


「ゴツゴツしててえっちいっスよね。あんな手で弄られたら絶対気持ちよくなっちゃうっスよね」


「…………その……いえ……。さすがに……そのようなお願いは……悪いです……出来ないです……」


「良いんスよ、メアメアちゃんが決めることなんで、お願いしたくないならしない。したいならする。それで良いんス。あくまで方法の一つってだけっス」


「は、はい……」


「自分のえっちには素直になる、それだけでメアメアちゃんはもっと大人になれるっス。――メアメアちゃん、さっき『むずむずするとき』って言ったっスけど、それってどんなときっスか?」


「……。本で……官能的な表現が出てきたり……官能小説そのものを……読んでいるときとか……です」


 セイメアはベッドに横になりながらも俯くようにして、自分が悶々とするときのことを話す。


「メアメアちゃんもそんな本読むんスねぇ、えちえちっスねぇ……。最近何時読んでいつむずむずしちゃったんスか?」


「その…………一ヶ月ほど前……です」


「むずむずしちゃう頻度はどれくらいっスか?」


「…………一月に一度……です」


「ありゃぁ、丁度今日辺りでむずむずの周期来ちゃうっスね。というか今来てるっスもんね。一人でしてるときってどんな風に弄ってるんスか?」


 ヤイナは、セイメア自らに性を思い返させ、セイメア自身の中に在るエッチな経験を思い出させ、さらにセイメアにいやらしい気分を溜め込ませてるよ。


「……小説の、情景を……頭に思い浮かべながら…………お胸と、あの……下の、ほうを……ちょっとだけ、撫でます……」


「可愛らしい仕方で、メアメアちゃんきゃわわっス。座る派っスか? 横になる派っスか?」


 セイメアは話すたびに、段々と恥ずかしそうにしている。でも、今は少しだけ性に大胆になってるからか話す事は止めない。


「本を読んでて……切なくなったときは……その……椅子に座ったまま……。寝る前に思い出してしまったら……お布団の中……で…………します……」


 オレは思う。月一だけど、セイメアもそんな感情を持っちゃうし、やることはしちゃってんだなぁ。と。


 艶っぽい唇から、吐息と共に言葉を紡がれると、どうしてもその情景を思い浮かべてしまう。でも、かわいいー、セイメアの仕方めっちゃかわいいー。引っ込み思案な女の子が控えめに致すように、セイメアもそうやってしてるんだろう。かーわーいーいー。でもドスケベ。


「してるときにする想像って、どんな視点っスか? 男視点? 女視点?」


「えと……私、その……小説を読むときは……傍観視点なので……どっちがという訳では……。でも、あの……女性側が気持ち良さそうに、書かれていると……その姿を想像して……しまいます……」


「自分もああなってみたいって言うことっスか? それとも乱れてる女性を想像してエッチって思っちゃうんスか?」


「どっちも……です……。その……わたし、女性の体しか、知らないので…………情景を思い浮かべるときは……どうしても……想像しやすい、女性のほうばかりを……」


「良いっスね、段々メアメアちゃんのえっちな所が分かってきたっス。メアメアちゃん、今切ないっスか? 悶々しちゃってないっスか? 気持ちよくなりたくないっスか?」


「……………………少し……だけ」


「いひひ。じゃあじゃあ、私も気持ちよくなるんで、メアメアちゃんもなっちゃって良いっスよ」


「……え?」


 ヤイナお前、ついにセイメアに手出すのか?


 ……って思ったけど、どうやら違うらしい。


 ヤイナは椅子から立ち上がると、そのままベッドに上がって、セイメアの体に跨るように膝立ちをする。セイメアへ、自分の体を下から見せ付けるように、片手で胸を覆いながら、膝立ちしてる。


「メアメアちゃん、見て」


 そう言ってヤイナがスカートの裾を軽く持ち上げた。立ってるオレからじゃ見えないけど、跨られてるセイメアからはよく見えるだろう。


 ただ、オレからじゃスカートの中は見えないけど、ふとももに伝って滴り落ちてるものは見える。もうびしょびしょじゃんかい。


 そんなヤイナのスカートの中を、セイメアは恥ずかしそうにしながらも、まじまじと見ていた。


「今のあたしは、メアメアちゃんがいつも想像してるような小説の女の子っス。かわいーえっちしか知らないメアメアちゃんが一生懸命想像してた女の子を、想像でしか見てこなかったえっちな女の子を、現実で見せてあげるっス」


 なるほど、ヤイナはセイメアにエッチな女の子というものの姿を教えるつもりらしい。文ではなく現実で。


 スカートの裾、その下へとヤイナは手を滑り込ませた。恐らく、その奥にある下着の中へも手を入れたのだろう。


「こんな透け透け濡れ濡れの下着越しにぱくぱくさせるのどっスか。見たこと無いっスよね?」


「て、てんちょ……形が、浮いて……」


「顔隠しちゃダメっス。今はメアメアちゃんに気持ちよくなってもらう時間なんス。

 今メアメアちゃんはベッドに横になって、いつものように一人でしようとしてるんス。あたしはそのメアメアちゃんの妄想。だからメアメアちゃんは周りを気にせずして良いんス。恥ずかしがる必要ないんス。見てみてメアメアちゃん、おっぱいぎゅーっとして、きゅーって握ってるっス、おっぱい強く握るとこうなる……あっ」


 ヤイナの小さな喘ぎ声を聴いたセイメアは、顔や体をぞわぞわさせて、思わずその姿を見てしまっている。


 オレ……何見せられてんだろ……。


「パンツ邪魔……えい」


 しかもヤイナは、紐パンを解いてオレに投げてきやがった。思わずとっちまったけど、ぐしょぐしょだよ。これボックスにしまいたくねぇなぁ。このまま持っておこう。


「てんちょうの……綺麗……」


「メアメアちゃんもお風呂で見たとき綺麗だったっス、ぷにぷにでふっくらしてて、お毛毛ふわっとしててえっちだったっス」


「……ダメ、です……きょーさん、聞いて……ます……」


「大丈夫っスよ。メアメアちゃん、お腹失礼するっスね」


「え……? あ……はい」


 パンツを脱いだヤイナは、セイメアの巫女服を捲り、お腹だけを露にさせる。そのお腹はとても女性的で、ふわふわむちもちっとしていて、肉感がとても柔からかそうで……セイメアの体ってどこでもやらかいのかよ、全身えちえちのえっち人間か?


 そんなふわふわお腹にぽたりぽたりと滴るものがある。白く透き通る柔肌に雫を作るそれは――。


「んくっ……ふっ……あ♡」


 まあ、跨ってるお前だよな原因は。それ以外ないもんな。


 その雫が滴り落ちるたびに、セイメアの体は小さくぴくっ、ぴくっ、ってしてて、落ちる雫に体が疼かされているようだった。


「メアメアちゃんももう辛いっスよね? 本当はさっきからずっとしたかったのに、今はもっとしたくなっちゃってるっスよね? あたしと一緒に気持ちよくなっちゃうっス、一緒にしちゃうっス」


 そのセイメアの反応を見たヤイナは、喘ぎ混じりに熱を吐きながら、恥ずかしいことへと誘う。


 誘われたセイメア、悶々し続けてるセイメア。もうセイメアも限界だったんだろう。片手をそおっと静かに巫女服の襟に差し込むと、服の中で慎ましやかに指を動かし始めた。もう片方の手は、下へ下へと下がり、お腹の上を滑らせる。そして指で滴たった体液の感触を確かめ、少し、おへその周りで滑らせた。


 その行為と共に、セイメアからは熱い吐息が漏れる。そして濡れた指は、ぬるぬるさせたまま、袴の脇へと入れ込まれた。その指は、袴の中で何かを優しく撫でるように、布をそっと押し上げて上下に動かしている。


 ヤイナは声が漏れ出ているけど、セイメアは熱い吐息を吐き出すだけ。声が出るほどの弄り方をしないし、したことも無いのがセイメアのいつもの触り方なんだろう。


「やぁ、ダメ、メアメアちゃんに見られてるっスっ、あたしの弄り方知られちゃう、見られちゃうっ……!!」


「――」


「メアメアちゃんイクとき言って? 一緒にいこ? それまであたし我慢する、っス……あ、おっ♡」


「――――」


 ヤイナの声はクソほどエロい。マージでエロい。メスの声全開の声ですっごく股間に来る。しかも姿もエロい、膝立てにした太ももを震わせ、腰をくねらせながら胸弄ってるのがもうエロい。


 セイメアはもう……今の全てが股間に来る。息も姿も、切なげで悩ましげな表情も、全部がエロい。


 そして……この二人が出してる匂いがヤバイ。ヤイナのメス全開のにおいと、セイメアの色香が混ざり合って、この部屋全体に芳醇で色っぽい女の香りが漂っている。


「ふぅ、おぐっ♡ あ、あ♡ …………あー、パイセン、お元気さんっスね」


 目ざといヤイナは見つけやがった。セイメアはヤイナと自分に夢中だったから気付かなかったのに、ヤイナは気付きやがった。


 エロイ目つきをしながら、にやにやとオレの方を見てくる。


「やっとパイセンえっちになったっス、メアメアちゃんの前で冷静ぶって我慢してたのに、我慢できなかったっスね」


「……? ……ぁ」


 ニヤニヤヤイナの言葉が気になって、セイメアは顔と視線を少しだけオレに向けた。そして、見上げるようにオレのことを見ると、小さく声を上げる。


「可愛いお前と綺麗なセイメアのそんな姿見たらこうなるわ。安心しろって。元気になっちゃいるけど、頭は冷静だから。今の二人に手を出そうなんて思ってないよ」


「にひひー、だからパイセンここに置いてるんスよ。パイセンのパイセン、みーせて」


「て、てんちょう……!?」


「まあ、見せるだけなら」


「きょ、きょー……さん……!?」


 体は興奮してるけど、頭はいたって冷静だから、見せたところで手出しはしない。これは後でヤイナに沈めてもらうから今沈める必要ないしな。


「メアメアちゃん、あたしは小説の女になれても男には成れないっス。だ・か・ら」


 ヤイナはべとべとな手をオレのズボンに引っ掛けて、そして躊躇無く降ろしてきた。


 セイメアは反射的に、見ないようにしようと目をきゅと瞑って、視界を閉ざす。


「見て欲しいっス、パイセンのおちんちん元気っス。実物見て妄想を捗らせるっス。小説を読んでるとき、えっちな女の子はあたしを、おちんちんはパイセンのを思い出して、えっちな妄想をもっとえっちにするっス」


「男の姿じゃなくてオレのオレだけか? オレはええんか?」


「わたし……おとこのひと……あれ……むり、です……はずかしくて、こわい……」


「気持ち良いときって頭働き辛いっス。知らないモノを想像するより、知ってるものを思い浮かべた方が、えっちな妄想をするときには捗るっス。それに恥ずかしいは気持ち良いっス、今のあたしは最高に気持ち良いっス。怖くない、あたしが一緒に居るっスから」


「セイメアさ、オレのことは標本や教科書だと思ってくれて良いよ。オレは見本みたいにして何もしないし動かないから、ヤイナと一緒に一歩踏み出してみてくれ」


「…………」


 オレの言葉が響いたのかは分からない。でも、確実にヤイナの言葉は、セイメアの中に響いている。


 それにセイメアも興味がない訳ではないだろう。小説で何度も文字を読んで、でも本物は知らないという、頭の中の想像だけの産物だったから、実際の代物を見て見たいという思いはあるだろう。


 だからセイメアは、一瞬だけチラッと見て眼を瞑り、その後に恐る恐る瞼を開きながら視線を向けてきた。


 その顔は、ずっと恥らってるから赤さは変わらない。でも、内面がより恥ずかしさを覚えてる。セイメアの眼がそう語っている。


 視線をキョロキョロと動かし、アレやオレの顔、ヤイナを見て、なるべく見つめないようにしてる。見たいけど、見たくない、恥ずかしい、そんな感じだ。


「…………これ……おとこのひと……」


 でも、最終的に視線は戻ってきて、マジマジと見つめられる。


「パイセンのはもーおっきいっス。反ってて高くて、中に入れるとみっちり抉ってくるっス。えぐえぐのおちんちんっスよ」


「…………本と……ちがう…………。生生しくて……」


 セイメアはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。そしてマジマジとしていた眼をハッとさせた後、おずおずとオレの顔を覗き込んできた。


「大丈夫、どんなに見られてもセイメアが今更エッチな子なんて思わないから」


 オレの言葉を聞いたセイメアは、表には出さないけど、内心ホッとしながら、またそーっと視線を下に向けた。


 エッチな子だなんて今更思わないよ。だってずっと前から存在自体がエロいなぁって思ってますし。


「何も言ってないのに察してもらえるって嬉しいっスよね」


「は、はい……きょーさんと、てんちょう……お二人共……私、話さなくても……分かっていただけるの……嬉しくて、好き……です……」


 二人はお互いに理解し合って、艶やかな笑みを浮かべあっている。


「匂いかいでみるっスか? それとも触ってみるっスか? 小説では分からなかったこと、感じてみるっス」


「え……? え、えっと……。そこまで……は、わたし……まだ……」


「じゃああたしと一緒に、においくらいは感じてみるっス」


「……え?」


 ヤイナは積極的にセイメアのことを誘うと、跨った状態からセイメアの上半身を抱き締めて起こす。そして、二人は抱き合いながら、顔を近づけて来た。


 二人の顔の間で、オレのオレはただ居るだけ。二人はそれを見つめながら、お互いの胸と胸を密着させて押し潰しあいながら、近くで観察してくる。


 近くなったセイメアは、二度三度瞼をぱちくりさせて食い入るように見つめると、小さな呼吸音でスンスンと鼻を鳴らした――。


「!!」


 ――直後、またセイメアは背筋を伸ばして体をゾクゾクさせる。


「この匂い、脳に染みちゃうっスよね。魔性のパイセンの、一番濃いところの匂い、すんすん……ゾクゾクするっス。…………でもメアメアちゃん、この匂い嗅ぎながらしちゃったら頭バカになっちゃうんで、一旦降ろすっスね。段階踏んでから一緒にしよ?」


「はぃ……」


 ヤイナはセイメアの身を案じて、抱いていた体を下ろす。


 そして、先ほどと同じ体勢になったようだけど……ヤイナより先に、セイメアの方が指をこっそり動かしていた。それに気付いたヤイナは、だが何も言わずに先ほどの行為を再開する。


「メアメアちゃん、さっきより気持ち良い? 恥ずかしいこと知って、もっとえっちな気持ちになっちゃったっスか?」


「…………はぃ」


「じゃあ、あたしももっと気持ちよくなるっス、メアメアちゃんがえっちな小説を読むときにいつも思い出しちゃうくらいエッチ見せるっス。んぁ♡」


「――――」


 にちゅにちゅぐちゅぐちゅと、くちょくちょと、さっきよりも二人の音の主張が激しくなっている。


「指、中、イキ……グリグリ……良い……切ない、もっと、もっとっす♡ すッ♡」


「――――くりくり……気持ちぃ……」


 そして、セイメアはヤイナを真似するように、自分から恥ずかしさを求めて、自ら言葉を発した。


「メアメアちゃんに見られながらするのやバイっす……ッ!! あたしダ、メ、かも!!」


「――――てん、ちょー……わたし、も、もう……ぁ♡」


 ヤイナは両手で下を弄りながら、激しい音を立てて切なそうな、でも一生懸命我慢してるような表情をしている。


 セイメアは、甘くとろけた、艶めいた眼でヤイナを見ながら、深い呼吸と熱い吐息を繰り返している。


「メアメアちゃん、あたし感じて、おちんちんも感じてっ、手、こっち……っ!!」


「――――は、い……っ」


 そして何でか、二人でオレのご立派様に手を添えてくるんですけど。ヤイナの方なんてべたべただし、それがオレの御神体とセイメアの手に絡まって、ぬるぬるする。


 でもセイメアの手ヤッバ。すらっとして儚い指と柔らかい肌が吸い付いてくる。


 そんで二人は、オレの神木をはさみながら、二人で指を絡ませて、恋人つなぎを反射的に行っていた。二人共、えっちなお互いを求め合ってるような手付きだ。


「も、だめ、メアメアちゃんいきそ? もういく?」


「――は、いっ、い、き……ますっ♡」


「「――――!!」」


 セイメアの最後の言葉。あの色香全開にした『ます』がヤイナのとどめになったのだろう。


 ヤイナは体全体を激しく跳ねさせ、セイメアは静かにふるふると小さく振るえ、お互い同時に絡め合わせた手をぎゅぅっと握り合ってくる。


 二人の快楽の度合いは違うんだろうけど、どっちも気持ち良さそうに余韻に浸っていた。熱い呼吸と視線をを二人で交わし、まだ、体に残ったじんわりとした快感を味わっている。


「あっ……腰が……」


 膝立ちしたまま余韻に浸っていたヤイナだったけど、ふらふらっとした直後、セイメアの元へと倒れこんだ。


 オレの御神木から手がずるっと力なく離れ、ふとんへポスンと落ちる。


 …………はい今の嘘ー。ヤイナはそんな簡単に腰抜かすほど軟弱な腰してませーん。セイメアに体くっつける口実つくっただけでーす。


 その証拠に、ヤイナはセイメアの体側に腕を組むように密着して、余韻に浸ってるセイメアの顔を超至近距離で見つめている。しとやかに荒い息を吐いてるセイメアを、未だ興奮冷めやらぬ獣が後のおかずにするためにみつめていまーす。


 あと、セイメアが手を離してくれない。まだ、優しくオレのオレを包むように握り続けてくる。


「めあめあちゃん……手、えっちっすね」


「……て……? あっ……」


 自分の行いに気付いたセイメアは、すぐさま手を離して、気まずそうにしながらオレの事を覗き込んで来た。


「オレ、標本。標本は何も感じない」


「めあめあちゃんのお手手にゅるにゅるっス……あたしの香りとパイセンの香り、纏わり付いちゃってるっスね」


「かお……り……?」


 ヤイナの発言で、セイメアは気になってしまったのだろう。果てた直後でぼーっとしてる頭は、その手を反射的に自らの鼻元へとそっと運んだ。


 そして――。そのにおいをかいだセイメアは、体を小さくぞくぞくと震わせた。


「ありゃりゃぁ、またエッチな気分になっちゃったっスねぇ……」


 ヤイナコイツ分かっててやらせたろ。したり顔をしながらセイメアの事を見てやがる。


「でも今日はおしまいっス。あたし達が今日できるのはここまで、後はメアメアちゃんに任せるっス」


 おや? ヤイナの事だからもっと色々エッチなことをするんだと思ってたけど、予想外にもあっさりと手を引いたな。


 ヤイナは、未だ発情してるセイメアの側を離れると、そのまま体を動かしてベッドの横、オレの隣へと立つ。


「じゃ、メアメアちゃん。自分のえっちとこっそり向き合って欲しいっス」


「えと……」


「パイセン、邪魔しちゃいけないっス。出るっスよ」


「ほぇ、了解しましたヤイナ閣下」


 オレはヤイナの言葉に従い、ズボンを上げてから、颯爽と部屋を去ろうとしてるヤイナの後に付いて行く。


 ヤイナお前……良いの? 今のセイメアだったらもっと先まで行けるんじゃないの……?


 扉を閉める際に、ぽけぽけぽかぽかエッチな気分になってるセイメアへ二人で手を振ると、小さく振り替えしてくれた。


 そしてそっと扉を閉める直前、ギリギリのタイミングでオレは見た。セイメアは小さく振り替えしていた手を、そっと自分の鼻元へと持って行った姿を。


 その光景はオレの眼でしか確認できない。でも、ヤイナはその光景を見ずとも、セイメアがそうするって分かってんだろう。こいつだからな、性にはめっぽう聡い。


 セイメアはこの後、どうするんだろうね。分かんないけど、何となくは察せる。


 そんな察しをしながらオレは、隣に立っているヤイナへと顔を向けた。未だ手に持ってる、熱が残り続けてる紐パンを手渡しながら。


「どしちゃったのヤイナ。あれ押せば行くとこまで行けたでしょ、行かなくてもお前の大好きなピロートークくらいはしても良かったんじゃないの?」


「パイセン、ピロトはえっちが終わった後にするのが良いんスよ。でも、メアメアちゃんのえっちはまだ続いてるっス。……それに、メアメアちゃんを押してまでしたくはないっス。汚いあたしが押して汚すのは絶対にダメっス、最後までするときはメアメアちゃんから求められたときだけっス」


「……お前、ほんとにセイメア大好きなんだな」


「しゅきしゅきだいしゅきっス。パイセンと同じくらい大好きッス。もし将来、お互いに結婚相手が見つからなかったら、あたしとパイセン、そしてメアメアちゃんも入れて三人で暮らすっス。三人でしゅきしゅきな毎日送るっス」


「……いや、ヤイナはセイメアと繋がりな。折角好きな相手が出来たんだから、そっち優先しなよ」


「ダメっス、メアメアちゃんは多分、あたしとパイセン二人を好きになっちゃうんス。だから三人揃って……パイセン……?」


 将来。そんなもんオレにはないよ。なくなっちまったんだよ。ごめんなヤイナ、約束守れなくて、お前との約束、果たせなくて。…………オレはダメだな、皆とした色んな約束を、何一つ守れてない。


 ダメで情け無い奴なんだよ、オレは。約束した事も守れない奴なんだ。守れる約束は守る……そう言って、結局守れない男なんだ。


「パイセン、ちょっと眼が冷めてるっス。……どしたんスか?」


「ん? いやな、さっきのヤイナ、なんか初心で可愛いなぁって思ってさ。あんな素直なエッチするヤイナ、始めて見たから」


「嘘っス、絶対嘘っス。今の眼、そんな眼じゃ――」


「可愛かったのはホントだぞ。さっきのヤイナ本当にずっと可愛かった」


「――――……もぅパイセン……いっつもは可愛いって言わないくせに。ずるいっス、ぷぃ!!」


「いっつも可愛いって思ってるから言わないの。そう拗ねんなよ、うりり~」


「きゃはー!!」


 可愛いヤイナを抱き締めて愛でる。この行いを、ヤイナは嬉しそうに受け入れてくれる。そんなお前が、本当に可愛いんだよ。お前は汚くない、いっつも可愛い女の子なんだ。


「えー? もー? もー……パイセンしゅき!!」


 ヤイナは抱きってしてくる。胸に顔を埋めてくるから、オレもそれを抱き返す。ぎゅうって抱き締めて、最期まで忘れないようにヤイナの存在を感じる。


「……キョーパイセン、今日は力強いっス……あたし欲しいんスか? えっちになっちゃって、求めちゃってるんスか?」


「――当たり前よ。あんな光景見せられたらお前が欲しくなるに決まってんだろ。覚悟しとけよ、嫌って言っても全力で求めてやるからな」


「……すへへ……えへへ…………あたし求められちゃってるっス……」


「くふふ、私も求めてちょーだい?」


「おわぁ……この人ホントに……」


「ありゃぁ、ナナナちゃんさんじゃないっスか」


 オレとヤイナは抱き合いながら、唐突に現れた声の主に顔を向ける。


 そのお人は、最初からそこに居たように、当たり前にそこに立っている。夜明けの薄やかな光が照らす廊下で、しとやかにしゃなりとしながら、浮世離れした子悪魔的な表情で、オレ達の側に立って見上げてくる。


「くっふっふー。二人から淫靡な香りする。しちゃった? 弟子と三人で交わっちゃった? ねぇバカ、ローザちゃんに続いて二人としちゃうなんて、絶倫じゃなーい」


 ヤイナとナナさんには、オレが受付さんを癒すから絶対に部屋に来るなっては伝えておいてある。でも、癒すだけで手は出してないから、あの時のオレは本心からマッサージャーだったから。


「してないよ、誰ともしてない。一切手出してない」


「パイセン偉いっス、自分の役割をずっと守りきった、誠実な男の人っス。でもでもっス。ナナナちゃんさん、ここ」


 ヤイナはオレの体に腕を絡めながらも、少し間を空けて、視線でオレの下を指す。イマハゲンキジャナイヨ、部屋の外に出て落ち着いたから、無理やり沈ませてるよ。


「ここー? ……イキョウのイキョウ、ぺーん」


 この人遠慮無しに叩いてきやがるなおい。ふざけんな、少しでも刺激されたら――。


「わーお。くふ、くふふふふ。なーにイキョウ、こーんなロリロリしい私に興奮しちゃったの? へんたーい、ろりこーん、くふふー」


「はっはっは。覚悟しとけこの負けたがりのメスガキがよ……。ヤイナ共々オレに付き合え、泣いても絶対にとめねぇからな」


「…………あたしは全然良いっスよ?」


「くふふ~、今日は稽古お休みかもしれない。だから、イキョウにつきあって、あ・げ・る」


 朝稽古のメンバーで、未だ寝ているバカは一人。でもあいつは、オレは起こしてくるって信頼してるからこそ、起こすまで起きない。自発的に起きても昼過ぎになるだろう。だからアイツは放置。。


「オレの部屋は受付さんが寝てるからダメだ。ヤイナの部屋は汚いから論外。ナナさん」


「良いわよ、行きましょ。丁度私も、してみたかったことがあるのよ」


「パイセン、抱っこ、だっこ」


「してやるよ」


 可愛らしく抱っこを求めてきたヤイナを抱えて、オレは歩き出す。ルンルン気分で歩いているナナさんの後に付いて。


 ナナさん先導の元、オレは廊下を歩いて――。

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