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08.うぐぅ……ひぐぅ……

 とある日。オレはキンス達からとある話を持ちかけられた。


 内容は『冒険者の中から希望者を募って、ギルドの中庭にて手合わせをする事になったから是非参加して欲しい』といったもの。


 フォルカトルの騒動を経て、冒険者が全体的にレベルアップしたからその力の確認と。今の強さに疑問を感じて互いに切磋琢磨しより強くなることを目的とした催しらしい。


 んな面倒なもんに参加するわけねぇだろ――って思ってたけど、参加からサンカ……じゃなくて、サンカから『同士、参加してくれないのか……?』って懇願するような目で見られたから参加することにしました。


 家の子達も参加するらしいし、まあ、しゃーないから参加してやるよ。


 ってことで、今日はギルドの中庭に来てるわけだけど……。


「なにこれ? もう小規模の祭りじゃん」


 のらのらと遅れてやってきたオレとソーエンは、ギルドの中庭の様子を見てポケーっと感心する。


 広い中庭には大勢の冒険者が募っていて、しかもここに納まりきらずにギルドの二階、三階の窓から中庭を見下ろすように大勢の者達が顔を乗り出していた。観衆の中には職員も混ざってる。


 辛うじて裏庭への扉や、裏道に繋がる通路は人だかりが避けていて道が出来てるけど、中心を除いた場所には人が集りに集っている。


 シートを広げたり、壁にもたれかかったり、地べたに座ったり、観戦している者達は皆、他の者が観戦しやすいように、また、自分自身が楽に観戦できるようにしながらこの場の中心に目を向けていた。


 皆が目を向ける先、そこでは、テモフォーバ立ち合いの下、大剣を持った奴と剣盾を持った奴が互いに力をぶつけ合っている。


「皆気合入ってんなぁ」


「ふむ、どうやら俺達の仲間も気合が入っているようだ。見ろ」


 そう言ってソーエンが指差す先。そこでは、最前列から少し後方の位置に、シートを広げて、まるで運動会を見に来た奴等のようにそこに陣取っている奴等が居た。


 家の子達をはじめ、オレ達の仲間はそこで観戦をしながらお茶と御菓子を嗜んでらっしゃる。


 今オレ達は気配をそれとなく消してるから周りに気取られないけど、流石にあの位置に行ったら注目されちまうよ。


「あそこ行きてー、皆でお茶呑みてー」


「このギルドのやつらはそこまで野暮ではない。行ったところで好機の目を多少向けられるだけで邪魔はしてこないだろう」


「ここの民度良いね、人柄良すぎない?」


「それをお前も知っていたはずだったがな」


 そう言ってソーエンは気配を消す事を止めて歩き出す。こいつがここまで言うなんてなぁ、よっぽどここの奴等は良いやつららしい。だからオレも気配をあらわにして皆の下へと歩っていく。


 確かにソーエンの言う通り、軽く声を掛けられる事はあっても足を止められる事は無かった。誰が誰だか分かんないけど、適当に返事を返したら皆笑顔を返してくれたよ。どうなってんだこのギルド。


「くふふ、注目の的のお二人さん。座りなさーい」


 オレ達が到着すると、ナナさんが浮世離れした笑みを浮かべながらそう言ってきた。その言葉とともに仲間達が皆反応して、各々言葉を掛けてくる。うーん、ここが一番安心するなぁ。


「お二人ともベストなタイミングですね!! 次ぎは私の番なのでしっかり見ててください!! 強くなったシアスタをお見せしますから!!」


 そんで持って、シアスタは立ち上がって自慢げにしながらオレ達に言い放ってくる。


「ほえー」


「気張らずお前のペースで圧倒して来い」


「はいソーエンさん!! ……イキョウさん!!」


 んあぁああ? シアスタは未だに胸を張りながらオレに何かを求めてくる。ソーエンの言葉はオレの言葉だぞ、オレはこれ以上何も言うことないぞ。


「……イキョウさん!!」


「…………え? 何さ。アメ欲しいの?」


「……イ・キョ・ウ・さん!!」


「へいへい……頑張れよ」


「はい!!」


 胸を張ったシアスタは、オレの言葉でようやく返事を返しやがった。


「双子とソーキスの番はいつだ」


「わたしたちは」「なーい」


「ソーエン話聞いてなかったのー? パーティから代表出すのー、だからボクだらけられるー」


 オレの横では、ソーエン達が言葉を交わしてる。……横じゃねぇんだよなぁ、ソーキスはオレの肩に乗ってくるし、双子は膝に乗ってきてるんだよなぁ……。


「――あぁぁ……」


 そんでもって、オレが来るまで椅子代わりになってたチクマは、惜しそうな声を出しながら子供達を見てくる。


 その姿を見たラリルレが、ニコニコしながらチクマの膝に座って、収まりの良い感じにはなった。二人でロロのこと弄って可愛がってる。


「…………あぁぁ」


 オレがラリルレを乗せたかった……。


 そんでもって、ヤイナがなんか言って来るかなって思ってたけど、あのメイドはセイメアと手を繋ぎながら肩を寄せ合って座ってて、心底良いニコニコ顔をして満足そうにしていた。あいつホンットセイメア大好きだもんなぁ……。セイメアも嬉しそうにしてらっしゃる。


「くふふ、私達だけ寂しいね、おじいさん」


「達ではないのである、ナナよ。貴様一人で寂しがっているが良い」


「何ナトリ寂しいの? オレと手繋ぐ?」


「――くっくっく、止めてくれ……そのような提案をされると、くっくっく」


 どうしてかナトリは右肩を抑えながら堪えるように笑っていた。なんだろ、痒いのかな? そう思った……けど。


「煩わしいな、我輩も肉体なぞ気にせず笑うとしよう。ふははははは!!」


 そう言って大笑いを始めたからどうやら痒くは無かったらしい。


「なぁに? おじいさん四十肩になっちゃった? 四十、じゃ、すまないわよね。何十肩?」


「――ナナよ、もしかして感づいているのか? ならば私から言おう。ルナトリは二百肩だ」


「うわーお、とっても重そう」


 なんか横では気になる会話をしてるような気がするけど……。


「おにーさん」「ソーエン」「シアスタのおうえんきめたの」「ソーキス、せーの」


「「「ふれふれシアスター、さいきょーシアスター」」」


「むふー!!」


 なんか家の子達が応援してて良く聞き取れませんでした。


 * * *


 シアスタの番になり、イキョウ、ソーエン共々その様子を見ていた。


 シアスタと相対するのは、リザードマン三人で構成された、<紅のトサカ>を率いるパーティリーダー、ショラグ。


 リザードマンのショラグは土魔法、その派生の泥属性の使い手。魔法使いには魔法使い同士の戦い方がある。


 この場を取り仕切るのは、大悪魔の一人であるテモフォーバ。その力を持って戦いの場には透明な防壁を張っていて周りに被害が出る事は無い。


 だから、二人は互いの魔法をぶつけ合いながらたたかって居る訳だが――。


 シアスタが押されそうになる度に――。


「キョーパイセンナイフしまって!!」


 シアスタが負けそうになる度に――。


「ソーパイセン銃しまって!!」


 ヤイナは躍起になって二人の事をとめていた。


 * * *


 試合が終わり、シアスタが戻って来た。


 蹲り丸くなり、大福になったシアスタを撫でながらオレとソーエンはタバコを吸う。


「うぐぅ……ひぐぅ……」


 大福シアスタは……結論から言うと負けました。<紅のトサカ>は三等級のパーティだったようで、力はシアスタが勝っていたけど、圧倒的な経験の差で負けました。


 そんな大福シアスタに双子は引っ付いてよりおっきな大福になってるし、なんなら<紅のトサカ>は態々オレ達のところまで来て、全力でシアスタの事を慰めて、褒めて、賞賛して行ってくれました。そのおかげでシアスタは大泣きをせずに済んでます。


 あのトカゲ達……めっちゃ良い奴やん……。


 なんならオレ達の周りからもシアスタを褒める声聞こえてくるし……どんだけお前愛されてんだよ……。


 加えて、無言でお菓子置いて去っていく強面の奴等なんなの? 家のシートお菓子の山出来上がってんだけど? 逆に怖いよ、強面の奴等なんなんだよ!? 記憶無いから何考えてるのか全然分からんわ!!


「つよつよシアスタに成れたと思ったのにぃ……ふぐぅ!!」


「お前この環境作れる方が何より強いぞ……一人で強くなるより味方大勢居る方が絶対強いからな……」


「シアシアちゃん立派っス、凄いっス。抱き締めてあげるっス」


 そう言ってヤイナがでかい胸にシアスタを埋めるように抱き締めると、シアスタも抱き締め返して体をギュうっと押し付け返していた。そんで双子もそんなシアスタをぎゅうっとして、シアスタはサンドイッチになってる。


 そんな姿を見ていると、背後から声を掛けられた。その声の主はシアスタと戦った、<紅のトサカ>のリーダー、何とかだ。


「シャルゥ……イキョウ、ソーエン、シアスタは立派な戦士だった。どうかこの経験を、挫折ジャなくて糧にして欲しい」


 わざわざ再度声を掛けに来てくれたようだ。舌をちろちろと鳴らしながら、それだけ言って、また去っていく。


 そんな緑の鱗を見ながら、なんでアイツ紅のトサカなの? って思いながらも、オレとソーエンはこの勝負における本質を伝える為にシアスタに声を掛ける。


「なあシアスタ。今回の催しって別に勝ち負けを決める戦いじゃないんだぞ? 自分の力を見直して、他の奴の戦いを吸収して、そんでパーティ全体の実力を高めるもんなんだよ。勝ち負けに拘ってちゃ勝ちは勝ち、負けは負けだけになっちまうだろう」


「シアスタ、結果ではなく過程を活かせ。負けた過程を思い出せ。それでお前は、そしてお前が率いるメンバーは、また強くなれる」


「パイセン達なんでそれ理解しててさっきは強硬手段に出ようとしてたんスか……」


「ひうぅ……頑張ります……みんなで強くなります……」


「もぉー、シアシアちゃん可愛すぎるっスよ……メアメアちゃん、この愛おしさをあたしたちで包み込むっス」


「え? あ……はい、店長……」


 シアスタと、そして双子は、でっけえヤイナと豊満なセイメアに包まれて、絶対柔らかい体に温かく包み込まれていた。


 それを受けてシアスタも、少しは落ち着いたのか、泣く様相は露にせずに大人しくなって安堵した呼吸をしている。


「――なんて……美しいのだろうか……骨の体になり涙を流せないのが惜しくてならない……」


「うぅ……クマちゃん……私が代わりにいーっぱい泣くからね、私、いっぱいないじゃうもん!!」


 家の良心組は感動してその様子を見てらっしゃる。


「強くなりたい……分からないわねー」


「そう言うでないナナよ。誰しもが我輩等と同じ特異点ではないのだ」


「トクテイン? げーむの言葉わかんなーい」


 家の最強組は良く分からんこと言ってる。


「おにーさんとソーエンは何もリアクションないのー?」


 そして未だにオレの頭に乗っているソーキスは、そんなことを尋ねて来る。


「いや別に……だって、なぁ? ソーエン」


「ああ。俺達はシアスタを信じているからな」


「良い感じの事をソーエンに言わせるのがおにーさんらしー。ふへへー、じゃあいいやー」


 そう言ってソーキスはオレの上でだらぁっとしながら、お菓子の山に触手を伸ばして食べ始めた。


 オレとしては何が良いのか分からないケド、シアスタの番は終わって、そして、シアスタはまた大切な経験をしたんだ。だったら、それで良いんだ。


 オレが居なくなっても、お前自身で強く在れるなら、お前はずっと生きていられる。お前が、家の子達を引っ張ってくれる。


 立つ鳥は後を濁さないわけじゃない。それでも、やっぱり、立つ後を考えたくはなるんだ。


 でもシアスタ、そして皆。お前等は強い奴だから、オレなんか居なくても大丈夫だよ。


 そのことが分かっただけでも……いや、そんなこと前々から分かっていた。だから、この場にてそのことを再認識出来ただけでも十分さ。


 もう、オレは良いよ。そう思って、この場から立ち去ろうとする――が。


「ちょっと順番は狂ってしまうけどね。皆、イキョウ君とソーエン君が来てくれたよ。さ、こちらへ」


 たった瞬間にテモフォーバから声を掛けられた。


 そういや本来の目的忘れてたわ。オレ達って、一応はこの催しに参加する名目でこの場所に居るんだった。

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