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 ――記述者の無い世界記録②―― 5

 後日。大学をサボって、恭介の家に集まり酒を呑んでいる三人は、昨日の疲れを癒す為にだらだらまったりとした時間を過ごす。刀は昨夜の内に、指定の手段を使って郵送を終えた、完了報告も済ませてある、今日はもう何も予定が無く、このままだらだら過ごして居れば良い。そう思って、穏やかな時間を過ごしていると。


 チャイムが、鳴った。予定に無い呼び鈴の音に二人は恭介へ顔を向けるが、部屋の主も何も知らないと首を振って返す。知り合いが来る約束も連絡も無い、荷物の受け取りも無い。だったら、集金か勧誘だと判断し無視しようとする。それでもチャイムはしつこく鳴らされるもので、ついに切れた恭介と双間は同時に玄関へ駆け出し、締め上げてやろうかと扉を開ければそこには――――。


「くふふ、来ちゃった」


 みやびな和服を着た小柄の黒髪美人が、風呂敷を片手に、堂々と刀を携えて立っているではないか。


「……あっれぇ……おっかしぃな……家の住所どころか住んでる県も地区も教えてないはずなんだけどなぁ……ソーマ、お前が教えたの?」


「いや……言った覚えはないが……ココアだろう」


「来る途中で貰ったお酒あーげる」


「「中へどうぞ」」


 急な訪ね人とは言え、見知った者であり酒がタダで貰えるならば是非も無い。二人は七を中へと通し、風呂敷から感じる高そうな酒の雰囲気に足を浮つかせながらリビングへと通した。


「誰だったんスか――――ナナナちゃんさん! きてきて、こっちきて! あたしと一緒に座ろ!」


「くふふ、はぁい」


 ダラダラのんびりモードだったココアは、七を見るなりテンションを上げて、すぐさま自分の下へと呼び寄せ抱きかかえながらテーブルに座った。


 その姿を目にしながらも、男二人は風呂敷の中にある地酒っぽい日本酒に心躍らせながら、七の分も含めてカップを用意しテーブルに座る。


 和服の七は、ココアにきゅむきゅむと抱き締められながら酒の場に加わり、いつもの薄い笑みを浮かべながらお酒を口にしていた。


「ココアさぁ、勝手に人の住所教えるの止めてくれない?」


「なーななちゃんさーん……っス? 何のことっスか……?」


「え、だって、お前がオレの住所教えたから、ナナさん来れたんでしょ?」


「あたし人ん家の住所勝手に教えないんスけど。キョーパイセンが自分で教えたんじゃないんスか?」


「んぉ?」


「ふむ?」


「っス?」


「くふふ?」


 ココアに抱かれる七は、三人から疑問の視線を向けられて、逆に疑問符が付いた笑い声を返す。


「いやナナさんがその反応するのはおかしいでしょうけけ…………えっ!? あんたホントになんで家に来れてるの!? どうやって来たの何してオレの住所知った実はオレ達の事全部調べ上げてて昨日は道化やってたんじゃねぇだろなァ!?」


「なーんにも知らないわよ? たーだ、面白かったなぁ、また三人に会いたいなぁ、って思って、あっちにふらふら、こっちにふらふらしてたら、楽しいがここにあったの」


「えっそんなことあって良いワケないじゃんえっ」


「冗談はよせ、何も知らずに狙い打ちが出来るはずも無いだろう。家に車は無かったはずだ、公共交通機関を利用しようともゴールを知り最短ルートで移動しなければあの距離を一日で移動は出来ない。何処で情報を仕入れた、名家なりの人脈か」


「くふふ? ふつーに会いたいなぁって歩いて、ここに来ただけ。私、でんしゃもばすも使い方分からないし、使わなくても歩けば良いし歩くの好きだから歩いてきたわ、歩き歩けば歩いてね、あるあるある~」


「……歩いて一日で来れるんスか……? あの車で大移動した距離を……?」


「家を出たのは今朝よ? 十時間くらいかかっちゃった」


「……ふざけんなよ十時間かけたってそんなんワープしねぇとありえねぇよしかも和服なんて歩き辛そうな服もしてんのに十時間もぶっ通しで歩けるわけねぇじゃん」


「あっちに寄ってご飯ご馳走してもらったり、こっちに寄って色んな人と話をしたり。ちゃんと休憩はしたわ。そのお酒も、この道中での貰いもの」


「じゃあもっとおかしいよ。仮に十時間ぶっ通しで歩いても辿り着かない距離に休憩挟んでんならもっと可笑しいよ。ナナさん、オレ達からかって遊ぶのは良いケド、もうちょっとマシな嘘を――」


「…………恭介、この酒、調べたが、九州の、ものだ」


「じゃあもう何もかも可笑しいじゃん。オレさ、ナナさんがお散歩してあっちこっちふらふらしてるって事聞いたときは、ご近所や近場の町を歩ってるんだって思ってた。全国区じゃん、おさんぽの範囲。うん、ナナさんは和服似合うね、小柄だけどとっても和風な美人さんだ」


「くふふ♡」


「キョーパイセンが諦めた……」


「ああ、こう言った場合に使えば良いのか。フッ……おもしれー女だ」


「ソーパイセン吹っ切れた……。ま、あたしもナナナちゃんさんに会えたんならそれで良いっスけどね! ナナナちゃんさん、和服きつきつじゃないっスか? キョーパイセンのシャツ貸すんで、だるだるで無防備な格好しちゃおっス!」


「しゃつ? およーふくってやーつね。下着着けてないけれど、着て大丈夫なやつ?」


「――ナナナちゃんさん、今もしかして下裸なんスか」


「上はおっきいおっぱい抑えるためにサラシ、下は勿論何もはいてないわよ」


「はぁ、やれやれっス。パイセン、ナナナちゃんさんに服着せてあげてくださいっスやれやれ、あたしはトイレで一回落ち着いてくるんで濡れ濡れ」


 やれやれと言うココアは部屋から立ち去り姿を消したあと、恭介が七へ『着替えたい?』と聞けば『和服慣れてるからだいじょーぶ』との回答を得て、そのままの服装となった。


「ナナさんは浮世離れしてるなぁっては思ってたけど、まさか人間離れしてるとは思わなかったよ。因みに北と南は何処まで行ったことあるの?」


 恭介と双間は酒をグビグビと呑みながら、七はクピクピコクコクと嗜みながら、思考停止の二人と変わった当たり前を持つ七は言葉を交わす。


「いつも気の赴くままだから、そこが何処かは分からない。でーも、氷だけの大地でおーろら? ってものを見たり、砂漠でらくだに乗ったり、治安は良くないなぁ好きに刀振れちゃうって思う場所に行ったり、へぁんぶぁーがー? って食べ物食べたり、あまーいお菓子が沢山ある場所に行ったり。

 その時々で、様々な所に行ったわ。言葉が通じなくてもわーって手を上げたり振ったりすれば伝わるから、人ってものも面白い。不思議な景色も、面白い」


「……あ。全国区じゃねぇわこれ、ワールドワイドだわこれ」


「電車やバスが使えずとも船や飛行機は使えるのか」


「船はお散歩先で乗ったことがあるけれど、ひこーきは無いわよ? どっちも、使えないなら使えない。けーれど、凄いわよねぇ、ひこーき。あんなおっきな塊が空を飛ぶんだもの。一回斬ってみたくなって、ひこーじょーに入ったら、銃撃たれて沢山追いかけっこして、あれはあれで楽しかったわぁ」


「……へー、絶対それ軍事基地じゃん。いやまぁ違うとしても少なくとも日本じゃねぇわそれ」


「良くそこまで方々に出歩けるだけの金があるな。流石は財ある名家と言ったところか」


「お金なんて持ってないわよ? 私の周りは物々交換が基本だから、持ってても使わないの。お散歩するときもいっつも無一文で、気の向くままにふらふらと」


「オレもさ、外国回ってた事はあるけどここまで何でもありじゃなかったんだなって。ちゃんとあの頃のオレも考えながら生きてたんだなって」


「お前にすらそんな自覚をさせるなど……フッ、おもしれー女だ」


 二人は乾杯をし、それを見て七もグラスを伸ばして来たから、三人で乾杯をする。


「そーそー、あのお家、欲しい?」


「あー、うん、何が? 転換がね、急だよ」


「宝刀は無くなっちゃったし、人を引き寄せる宝刀が無いあの家で、このまま待ち続けるだけなんて詰まらない、君達との心躍る戦いを知って待ち続けるのは気が遠くなる、今期のお野菜を全部収穫し終わったら旅にでもでよーかなーって思ってるの。戦いと、旦那を、探す旅に。刀は近所のおじいちゃんおばあちゃん達が引き取ってくれるけど、他はどーしよっかなー、捨てるの勿体無いし、三人にあげよっかなーって思って、ね?」


「あんまりにも自由が過ぎない? 別に何をしようがナナさんの勝手だとは思うけど、流石にここからじゃ遠すぎる電気も通わない土地や家を貰ってもなぁ……家もそうだけど、蔵に眠るお宝含めて、人にあげるんじゃなくて金に換えたら?」


「そーゆーものであるならそうするけれど、別に私が必要としていることじゃなーい」


「住処を捨て旅をするに当たって先立つものすら必要ないのはもはや異常ともいえるな」


「ちょっとそれは流石にどうかなって思うよ。ナナさん、きっとオレ達が止めたところで止まらないとは思うから止めないけど、もしも帰りたいなって思ったときのために、おじいさんやおばあさんの家でも良いし、オレの家でも良いし、ソーマでもココアでも良いから、帰る場所は決めておこうよ。

 住んでいた場所を手放すにしても、まずは価値ある物はちゃんと換金して、物をお金に変えて所有しておこう。あの立派なお屋敷や土地も、価値が分かる人に査定して貰おうよ。捨てるんじゃなくて、別な形に変えてナナさんのカードにしよ。交換できる札があるのにそれごと捨てるのは勿体無いよ」


「くふふふ♡」


「……なんで膝に乗ってきたのこの人」


「じゃーあ、ここに住む。お金は全部あーげる」


「…………旅する話ししてて定住先の話はしてなかったはずだけど……ソーマ? 話しの流れ理解できた?」


「ふぅ、流石九州産の酒だ、辛くて美味い。確か戸棚にあたりめがあったはずだな」


「んまぁそうなるよねオレも分からないもん。あたりめオレも食べたいから取って。

 …………え? 何、ナナさん家に住むつもりなの? 旅の話は? 強い奴に会いに行ったり旦那さん探す話は!?」


「村のおばあちゃん達はね、みーんな旦那の話をするときに、呆れて嫌い嫌いって態度とりながら、しゅきしゅきーってするの。おじいさん達にその話しをするとね、どーでも良いワシにゃ関係ないって態度とって、でも帰るときはいつもより足が速いの。皆から、私も良い歳なんだから結婚しなさいって言われるけれど、おばあちゃん達みたいにしゅきしゅき出来る人知らなーいの。村の若い衆紹介されてもうーん、ふらふらお散歩して会う男もうーん、しゅきっての、よく分からない。でもしゅき! ってなってみたい。面白そうだもの」


「違うのナナさん。オレが聞きたいのは、何を思ってさっきまで財産捨ててまで旅だなんだって言ってたのに、急にこの部屋に住むって判断したのかを聞きたいの」


「おじいちゃん達、心配しぃなの。奥さんのおばあちゃんたちのこと、とーっても心配してるの。夫婦ってそーゆーものっぽいから、いーっぱい心配してくれるきょーすけは、そーゆーこと」


「あんた判断基準が自由すぎだよ。言っておくけど、あんたが認めたソーマだって似たような、心配とまでは行かなくてもソーマも認めたあんたにオレと似たような考え向けてたからね?」


「くふふ? じゃーあ、そーまの家にも住む」


「ふざけるなほざけ黙れ。ナナ、あたりめだ」


「あー、ん。むぐむぐもぐ」


「そんで同性のココアなんて、あんたが向けたいしゅきしゅきよりも莫大で絶大なしゅきしゅきを返してくるからな」


「女の子、同士……なら、私が旦那? けれど、私は女だからお嫁? それも良いかも。お嫁同士しゅきしゅきして、二人でしゅきしゅきできる旦那を探すのも」


「ソーマ、オレにもあたりめくれ。

 ダメだこの人、俗世の倫理観が適応されてない。なのに結論は言わず話続けちゃうからやろうと思えば永遠とふわふわした問答ができちゃう」


 恭介と双間はするめを噛みながら互いの顔を見合わせ、七は恭介の体に背を預けながらスルメを噛んで、両手でグラスを持ちながらリラックスしてお酒を口に含んでいる。


「きっとナナさんって、ふわふわしてる人だから何かに執着するような人ではないんだとは思う。それこそ旅にもそんな執着してないんだとも思う。それでも、これからする質問は『はい・いいえ』のようにキッパリ答えて」


「はーい」


「旅だろうが定住だろうがそれはあくまで手段であって、求めているものは面白いことに出会うこと」


「はーい」


「宝刀が無い家に居続ける意味は無く、引き取り手がいる刀は別として、それ以外の全部は金に変えずとも捨てて良いと思ってる」


「はーい」


「同性でもしゅきしゅきは何の問題もないけど、最終目標としては異性の旦那が欲しい」


「はーい」


「それはどうして? 具体的な言葉で教えてください」


「はーい。

 私の一族は強き血を求めて交配をしていたらしいの、でも、私はそんなしがらみとかどーでもよくて、しゅき! ってなった人の子供を産みたい。しゅき! ってなった旦那と産んだ子供なんて、絶対にしゅき! ってなるじゃない。そうなったら、楽しいことが増えるじゃない。別に、私の旦那が別の女と交わって子供を産んでも良いわ、しゅきな旦那の子なら、私は絶対しゅきになる。旦那が私を愛さなくても、こんな私がしゅきってなった旦那の血なら、ずっとずっとしゅきで居られる。

 一夫多妻なら、しゅきな旦那が愛したお嫁達を私も愛するわ。だって、この私がしゅきってなった旦那が好きな女の子たちだもの、しゅきにならなきゃ勿体無いじゃない、面白くないじゃない。くふふ、くふふふふ!」


 楽しそうに笑う七の笑顔は、無垢で朗らかで心から楽しそうではあるが、常人とは決定的に何かが違う無垢であることは確かだった。


「最後に、一応、自意識過剰とかじゃなくてナナさんの目的や判断を加味して確認の為に聞くんだけど、ナナさんにとってオレはしゅきの対象に入ってるの?」


「……? ……んー……あら……? …………うーん…………きょーすけ、しゅーき」


「あぁうん……?」


「しゅーき、うーん……。そーま、しゅき」


「そうか」


「んー…………」


 七は、お酒を両手で持ちながら頭を左右にからんころんとする。しゅき、と、言葉に出してみても、心の中でピンと来ない。七は武を持って本能を知っているからこそ、口にしても本能からビビビっとなる刺激が無くて、口にした言葉がしっくりと来ない。


「良かったわ、ナナさんの旦那になったら毎日がやばばなライフになりそうだもん。あでも、ナナさんの口ぶり的に、旦那さんへ献身的に尽くすような考え方をしてる……気もする、な……合ってる?」


「合ってないわよ? 私がしゅきになるくらいなんだから、楽しいことをいっぱいしてもらうの。楽しいことをしてくれるためだったら、私だって何でもしてあげちゃう、どんなコトだって許しちゃう、一方向の献身じゃなーくて、二人でいーっぱい楽しいことするの。でもこう思うのも、まだ男を知らない身も心もうぶうぶな女の子だからで、知ったら変わるのかーもね。良い方にも悪い方にも」


「へー……あぁ、そぅ……」


「お前の性事情などどうでも――」


 ふと、双間のスマホがなり、彼は画面を開いて中身を見る。


「ふむ? あのサークル、明日発売だというのにもう……フッ、ご贔屓だから、か。個人サイトで毎回注文していた礼とでも言いたいのか」


 七は自由なら、ココアも今自由をしているなら、というかこの場に居る者たちはそもそも好き勝手する者達ならば。


 スマホの画面に目を向けた双間は、恭介へ断りを入れて帰ろうとする。その足取りは、お気に入りと期待が入り混じった新発売のものへ、浮き足を向けるように。


「良いよ帰りな。元々今日は大学サボってこの部屋で呑む予定なわけじゃなかったし」


「俺が好きなことを楽しむのだ、お前も好き勝手して楽しめ親友」


「あぁ行っちゃった。好き勝手すんのがオレ達クオリティだけど……随分上機嫌だったなアイツ……。んまぁ、今日はオールフリーな一日だからこうであって良いケド」


 本日は、各々が好き勝手するサボり日だ。この部屋に集まったのも、誰かが取り決めて集まったものではない故に、去る時も好きにして良い。現に今だって、人の家のトイレで好き勝手を続けている輩も居るのだから。


 リビングに残された恭介は、七を膝に乗せながら酒を呑む。七は、この場に居ない二人へ『面白ーい、どーして居なくなったんだろう、もっと楽しいことがあるのかしら』と、一度面白い者達認定をした者達に興味を向けながら、恭介の膝に乗ってゆらゆらとお酒を呑む。


「くふふー、くふふふふー、くふふー」


 この場に居るだけでも楽しい七は、恭介の手を持って自分の首に当てた。


「え、何ですか急に。実は昨日のこと恨んでるの?」


「くっふふー、くふふ~」


 七は今、上機嫌だ。楽しいことに巡り合ってもここまで心が踊ることは無く、浮ついた機嫌は首に当てた恭介の手とは逆の腕を体に纏わせる。本当は、居なくなったココアが戻ってきてから、自分を負けさせた恭介と、その恭介と同等の力を持つ双間と、二人とはまた違う力を持ったココアに、昨日の気持ち良さを突きつけてもらおうとした。別に七は弱者に手加減をして敗北を齎されたいわけではない、弱者になど微塵も興味は無い。望むのは、自分が認めた勝者である恭介と、同等である二人から、寧ろ楽しいと認めた三人から、必死に抵抗しても逃れられない敗北を突きつけて欲しかった。


 だからココアが帰ってくるのを待っていたというのに、双間も居なくなってしまったならば、もう待つことも無く恭介に甘える。勿論、無抵抗で敗北を受け入れるわけではない。抵抗するなかで、あの時と同じようにギリギリの負けを突きつけて欲しいのだ。あの楽しさと気持ち良さが、欲しい。


 七は恭介の手を喉に当てたり、体に巻きつけたりする。だが、恭介はその手や腕に力など入れる事は無い。そもそも、常人の仮面を被ってる男は、よっぼどのことが無ければバカを晒す事はあっても倫理を逸脱することはない。


「どーしたのナナさん。甘えん坊になっちゃったの?」


 流石に逸脱している恭介も、異なる逸脱をしている七の思考は理解できず、見えていて見えない彼女だからこそ出会って数日では理解することなんて出来なくて、とりあえず七を抱き締める。


 ナナの小柄だが豊満な体は、恭介に抱き締められたことによって覆われた。


「しゅき? しゅき……。きょーすけのこと、しゅきじゃない。ぎゅーってして、苦しくして、気持ち良いことして」


「ちょっと何言ってるか分からない」


「私も始めてでよく分からない」


「あーたしには分かるっスよナナナちゃんさん!」


 リビングのドアを開けてエネルギッシュに現れるは、顔を紅潮させて全身から甘い匂いを放つココアだった。


「ソーパイセンも居なくなったんで――あたし、えっち全開!

 ナナナちゃんさんは気持ち良いことしたいんス! 楽しいから繋がる初めて感じた気持ち良さが欲しいんス!

 やっぱり、お年頃だし一人でしてるのかなw?」


「なーにを?」


「週何回?」


「くーふふ?」


「これが答えっス! ナナナちゃんさんは気持ち良くなりたいのに気持ち良くなる方法を知らないんス! なのにナナナちゃんさんは上限が高すぎて満たされない日々で満たされないことを自覚できないまま急に最高の絶頂を知っちゃった女の子っス! でも! 気持ちよさには! 『あ♡ じわっとして満足♡』と『んッ♡ 腰逃げる♡』と、『あーやばいこれ以上はお潮ヤバイあー♡』と、『んほ、お、やば、やば、無理、無理無理無理何も考えられない♡』と、『お゛♡ やっべ♡ おッお゛ お♡』 『あ゛ー♡ あー♡ おぅ♡ あ゛ー♡ あ゛ー♡ あ゛ー♡♡♡』って段階があるんス! 女の子は、その段階を一人でこっそりお勉強して、気持ち良いことの本番前に学習してるんス!」


「世の中の女の子に謝れよお前、品の上下の下をそこまで掘れる奴が世の一般的な女子なわけねーだろ」


「パイセンにえげつないえっちしてもらっちゃうと、一人でしても物足りなくなっちゃうんス……。だからあたしも女の子達に同じことしたらまー皆気持ち良いこと大好きになっちゃって、ドエッチな一人えっちの動画めッちゃ送られてくるんスよ。はぁ、最高、無限にオカズが舞い込んできてもう最高」


「くふふ? おかず欲しいなら漬物作ってあげるわよ?」


「じゃあナナナさんの蜜壺で漬けたお野菜を…………は、あとでやって貰うとして。ナナナちゃんさん! まずはじっくりゆっくりと気持ち良いことを知っていこっス! あたし達三人でえっちぃコトしよ、絶対楽しいからしよ! ねーねーパイセンしよしよ! あたしナナナちゃんさんとパイセンとえっちしーたーいー!」


「うっるせぇなコイツ……」


「えっちって楽しい? 気持ち良い?」


「楽しいし気持ち良いっス! ナナナちゃんさん和服ならあれもするべきっス! あ~れ~ってやつ!」


「んまぁ……。ナナさん、住むにしても旅するにしても、お野菜の収穫が終わるまでしっかり考えてね。そんで、家の処分するときはオレ達に絶対声掛けて。お手伝いするから」


「はーい」


「パイセン、えっち! ナナナちゃんさん、えっち! はやくはやく!」


 騒がしいココアの声の中、二人は約束をしてから――あ~れ~をして、始めた。

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