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 ――記述者の無い世界記録②―― 1

 恭介、双間、心愛の三人は、大学生なりの――一部逸脱する事はあっても、彼等なりに大学生としての生活を送っていた。


 大学生活を送る日々の中で、ココアは一人暮らしを始めた。というのも、ココアは同級生や先輩、果ては町で見かけた女の子を恭介の部屋に連れ込んでえっちをし、恭介も最初は混ざっていたものの生活圏を侵害される事に不満を持って、ココアに一人暮らしをさせることにした。恭介は自らが話した事情――自分は恋することができないと言う事情を話したことで、ココアが『じゃあ愛は全部パイセンに向けるんで、恋の浮気えっちは他でするっス』となった故こうなってしまった事に文句を言わなかったのは……始めの内だけだ。流石に頻度がえげつないから一人暮らしさせた。


 ココアが借りたのは、女性でも安心して暮らせる設備が整ってるマンションで、それに関しては恭介と双間が念入りに下調べをして不動産屋と綿密に話し合って決めた。自分達の近場であることも条件に加えて。


 ココアは基本的に、大金が入っている通帳の金を使うことは無い。二人と一緒にバイトをして得た金が大切なお金であり、それを使って二人のように生活をしようとしていた。だがマンションを借りるときは、二人が説得をして通帳の金を使ってでも安全な場所を選ぶべきと説いて、ココアは大学生にしては良い部屋を借りて住むこととなった。


 そうしてココアが借りたマンションへ、件の二人が訪れる。エントランスの番号式呼び鈴を何度も何度も鳴らしても、ココアが出ないため扉が開かない。だから二人は合鍵を使ってロックを解除し、エレベーターに乗ってココアの部屋へと向かう。


 向かったところで部屋の鍵も開いてなかったため、ここでも合鍵を使って二人は玄関の扉を開いた。もはや、手馴れた事だった。


「相変わらず汚ったねェなマジでコイツんィ……!」


「ゴミだらけだというのに匂いだけは良いのが腹立たしい。あの体臭を芳香剤として売るべきだろう」


 玄関を開いた二人は、視界に伸びる廊下にある乱雑に捨てられた服や、一応は捨てる用意をしてあるのであろう酒瓶や缶、結ばれてないゴミ袋を横目に足を進める。


 ココアが借りている部屋は上等なものだ、3LDKの、立派な間取りの立派な部屋だ。だが、汚い。ゴミ屋敷とは行かないまでも、出したものを片付けないせいで物が溢れている。


 一応、二人はトイレと風呂をチェックした。なぜなら、これだけ汚い家の癖にその二箇所だけは絶対に綺麗だったから、ここが汚れればそれはもう限界だろうからある種のラインを確かめる為に。


 因みに、その二点が綺麗なのは、ココアが女の子とえっちするときにそこが汚いと相手が嫌がるから。水周りの清潔感とは部屋の不清潔さとは一線を画すもので、特に体を洗う風呂やおトイレをする場所は清潔さが大切だ。何よりお風呂でもトイレでも、ココアはいちゃいちゃえっちをする。そういったプレイもする。そのために相手が萎えない水周りの清潔さ“だけ”は自主的に保っていた。


 そんな家を二人は歩いて、リビング横の扉を開いてココアの部屋に入る。ここもある種の汚さがあって、棚には本やフィギュアが並んでいることはまだ良い。壁にはタペストリーやポスターが飾られているのもまだ良い。だが、パソコンデスクには酒の缶や瓶が、床にはお菓子の袋や、服ブラパンツ使ったおもちゃ、ゴミ箱は部屋のゴミを捨てれば良いのに乾いたティッシュしか捨てられておらず、部屋の中で唯一ゴミが置かれていない生活圏は、ベッドだけだった。


 汚い家はされど匂いだけは本当に良い、甘く心地良い香りが漂っている。その匂いのおかげで家がどれだけ汚くても嫌悪する不潔は感じない。が。寝室は別で、甘ったるくドエロイとしか表現できない香りが充満していた。


 二人は阿吽の呼吸で動き、カーテンを開けて窓を開くと、ベッドの布団を剥いでココアへ強制的に朝日を浴びさせた。何かをしている最中に寝落ちして、全裸で睡眠していた彼女を、日光のパワーで叩き起こす。


「んにゃぁ……すへ……ありゃ、ぱいせんたちおはよーっす……」


「はいお早う。ふざけんなよお前今日バイトあるから出かける準備しとけって言ってたよな、この時間には下の駐車場で待機しておけって言ってたよな」


「さっさと支度しろ。移動時間が長い分、少しの遅れでも時間の無駄となる」


「ぁへ~……。おしっこしたいんで、キョーパイセン抱っこして連れって? あたしおしっこするとこ見て、終わったら拭き拭きして?」


「いつもなら良いケド、今日は駄目に決まってんだろ無駄な時間使わせんなアホ。ソーマ、コイツの家のどっかにオムツあったよな。それ持って来い」


「ふざけるな長時間移動する車内で漏らさせる気か。エレベーターの中で済ませろ、慈悲で監視カメラは破壊してやる」


「なんかあたしの扱い雑じゃないっスか? ぶーぶー! れでぃー大切に扱って! 紅一点可愛がって! 前みたいに二人共あたしのことあまあまに甘やかして!」


「お前この時間の遅れ作っておいて甘やかされたいとか贅沢言ってんじゃねぇぞ。あと分かってるだろうけど、オレ達が自分本意で甘やかすんだったらココアの事置いてくからな。オレもソーマもお前を同等って見てて、でも可愛い後輩なんだぞ」


「寝ていたいのならば寝ていろ。遠出は俺とこのバカとでする、お前を置いてな」


「ぶー……ぶー…………キョーパイセン、おしっこしたいから抱っこして? 終わったらちゃんと準備するっス」


「へいよ」


 恭介に抱えられたココアは、二人でトイレに入り手を繋ぎながら用を済ませたあとに、しっかりと身支度を整えて――その間に双間が荷物の準備をしてくれていて、用意が済んだ三人は車に乗り込みエンジン音と共に出発する。


 四人乗りのレンタカー、運転は免許を持っている恭介と双間の担当、最初は恭介が運転をし、双間が助手席に乗り、ココアは後ろに座って道路を走る。


 関東圏に住む三人が目指すのは、東北地方の山奥だ。道のりは長く、高速を使っても時間を要する大移動。遊びに出かけているわけではなく、あくまでバイトの依頼をこなす為に目的地へ向かっているわけだが、いかんせん道のりが長い。


 だから三人は、途中でコンビニに寄ったり。


「ぱいせんぱいせん、ポテトあーん」


「あーん」


「ソーパイセンもあーん」


「……ああ」


 助手席の双間がスマホの地図を見ながら道案内をしたり。


「なぁソーマ。次どっちのレーンに入れば良い?」


「ふむ。待て、ソシャゲのキリが悪い」


「はったおすぞテメー。ココア!」


「レイド来てるんス無理っス」


「今度からバイト中スマホ持込禁止にすんぞ」


 ココアがトイレに行きたいと騒ぎ出しサービスエリアに寄れば。


「ふぃ、すっきりしたっす~。めっちゃ込んでて遅くなったっスごめんなさーい」


「お帰り、別大丈夫よまだ帰ってこないやつ居るから。

 双間おっせぇなぁ……腹壊してたんか?」


「自販機の前に猫ちゃんいてずっと可愛がってたっス」


「……あんのバカがよ……ォ……! ココア! 引っぺがしてでも連れて来るぞ!」


「りょーっス!」


 運転を双間が担当すれば。


「おっそろしいほどスピード出すな……レーシングカーじゃねぇんだぞ」


「遅れは速度で巻き返す」


「ぎゃーーーー怖い怖い怖い怖い! 安全運転して怖いやだ死んじゃう!」


 昼食で大き目のサービスエリアに立ち寄れば。


「なんでサービスエリアの玉こんってこんな美味いんだろ」


「たこ焼きもな」


「牛タン焼きも美味しいっス。ご飯まだなのに摘み食いでお腹いっぱいになっちゃうっス」


「でもラーメンも食わなきゃ。チープであればあるほど『これで良いんだよ』ってなるあのラーメン」


「べちゃついたチャーハンも欲しいな」


「あたしも同じの食べたいっス。でもパイセン達ほど食べられないんで残したら食べて欲しいっス」


「「任せろ」」


 彼等三人は、移動中の時間を小旅行するように過ごし、東北地方の北部を目指して車を走らせる。


 車窓に映る景色は次第に自然が多くなり、そして空も太陽が真上へ昇って段々と西に傾き始め――高速を降りる頃には、雲に茜が写る空になっていた。


 しかしまだ、目的地には到着しない。流石に彼らも日帰りを想定していた訳ではなく、一旦は目的地近場の町にある旅館へ荷を降ろし、車や持ち物を身軽にしてから再度移動を開始する。


 田舎町から更に田舎へ、山道を走り街灯もまばらにしかない道は更に街灯が無くなり、真っ暗な道路――とも呼べない砂利道を、ガードレールもない崖際の道を、双間が手に持つ地図を頼りに進んで行く。


 途中で三人は車を止め、目的地側まで徒歩で移動を始めた。

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