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05.聴取

「――どうやったらそんナに強くなれるんだナァ。出来れば、少しだけでも良い、だから教えて欲しいナァ……」


 そう言いながら、ヒライは自身が無さげな様子で顔を少し俯かせた。


 その様子を見て、みんなも似たような反応を示す。


 恐らく、フォルカトルの一件を思い出してそうなってるんだろう。


 だろうな。だってコイツ等オレにすら勝てねぇだろ。オレがこの体になってなくても絶対勝てるから。キアルくらいだよ、元の体で勝てなさそうなこの世界の住人は。


 オレの力は人じゃないから備わってる力。この体の力は人間辞めた歪なモノだから身に付いてる力。


 そして今回相手したのは天使とか言う外界の存在。別にお前等ヒトが勝てなくて落ち込む必要なんてないんだよ。


 そもそも鍛錬だとか修行だとかしたこと無いオレが誰かに強くなれる方法を説けるはずが無い。


 だから、ヒライの質問に関してはこう答えるほか無い。


「教えられる事なんて無い」


 ソーエンもオレと同意見なんだろう。何も言わずにただジッとしている。


「そう……ナァ。了解したナ」


 ヒライはそれだけ言って、それ以上は何も返してこなかった。


 残念そうにしてるけど、それでも納得したような表情をしている。初めから、教えてもらえるとは思ってなかったんだろう。質問してきたときの口ぶりがそうだったからな。


「えとえと……じゃあ、次は私達……ですよね?」


 順番が回ってきたマールとか言う奴は、周りをキョロキョロしながら声を上げる。


 その声にオレ達が反応をしてターンは回った。


「あのあの……今回の敵、フォル、かとる? って一体なんんだったんですか? もしかしてあのシャーユでの一件と関係があるんですか?」


 マールが尋ねてきたシャーユの一件とは、ギルガゴーレ及びゴーレムの事だろう。


「ちょっとごめんなさい。私達もそのことは聞こうと思っていたわ」


 そう言って順番を無視して金髪……名前忘れた、は、声を出す。


「王国で確認された正体不明の大型モンスター、総魔の領域で戦ったオルセプス、そして今回のフォルカトル。私達ですら知らないモンスターが全て、例外なく未知の強さを持っている。仮面部隊が確認されたシャーユの件、ゴーレムの発生もどうせ、親玉か黒幕には似た存在が関わってるんでしょう? コイツ等の正体は何、何が目的で動いてるの」


 マールと金髪からされた質問。それは、他に類を見ない強敵達について知ってることがあれば聞かせろ、的な内容だった。


 オレは知ってる、ソーエンも知ってる。ナトリの野郎も何故か知ってる。ただ、答える気なんてない。なんで態々コイツ等に教えなきゃいけないんだ。


「答えたところで何になるの? お前等戦うの、戦えるの? 止してくれよ、余計な手出しなんてしないでジっとしてろ。ぶっちゃけ毎回周りに居る奴等邪魔なんだよ、全力出し辛いんだよ。戦う意思だとか高潔な精神持ってさ、戦場に出られても困る。なんで適いもしない相手に態々死に出て邪魔してくるんだよ」


「何その言い方ッ……!!」


 ここで釘刺しておかないと、また同じようなことをされかねない。だから打てる釘は打たせてもらう。


「文句あんのか?」


「な、ないでしゅ……」


 口喧嘩でもするなら買ってやろうかと思ったけど、予想以上にあっさり引かれた。顔を赤くした金髪はそのままストンと椅子に座って大人しくなる。えぇ……なんだアイツ……発情してやがる……。


 その光景を見てか、ソーエンは軽くため息を付きながら口を開いた。


「その質問に関しては答えるつもりはない。次に移れ」


「あ……はい……」


 マールはマールでしょぼんとしながら返事を返した。周りのやつ等も多少なりとも気まずそうな顔をしていた。まあ、オレの言葉が原因なんだろなぁ。これで良いんだよこれで。お前等程度の奴等なんて邪魔だからもう戦場出てくんな。


「なんだか質問し辛いね……。えっと、君達とは前みたいに気軽に接して良いんだよね?」


 シーカはそう尋ねて来る……けど。前って言われてもそんなん分からんわ。


「好きにして良いよ? 別にオレ達偉ぶりたい訳じゃないし。もし気が引けるとか気まずいとかならシカトや無視してもらっても構わんわ」


「偉ぶりたくない、好きにして……か。普通そんな力を持ってたらもっと高い地位を得たり威厳を振りまいたりするというのに……簡単にヒトを御せるってのに……。ずっと、初めから、出会ったときから君達は君達だったんだね。変わってしまったのは私達の見方、かな。…………レベルを知って、君達を見て、それでもやっぱりイキョウはイキョウ、ソーエンはソエーンだったよ。これからも気軽によろしくして欲しいね」


 シーカは自分の中で答えが出たのか、すっきりとした笑顔を浮かべている。


 お前がそれで良いならそれで良いよ。別にオレとしてはどっちでも良いし。


「ど……同士……」


 シーカの話が分かった事を察したサンカは、不安そうな顔をしながらオレを見てくる。


 んー……同士、同士なぁ。ソーエンから、オレとサンカは火属性魔法の良さを分かち合ったって聞いたけど、全然ピンと来ない。ただ、オレが知識面でめちゃめちゃお世話になったってのは聞いたからなぁ、少しは配慮をして――。


「同士は私と同士で良いのか……?」


「良いに決まってんじゃん!!」


 そんなウルウルして不安そうに聞かれたらそう答えるしかないじゃん!!


 何この子、めっちゃいじらしい態度だし、小動物っぽい感じびんびんに出してくるからよろしくしたくなっちゃう。


「ふ、ふへへ……嬉しい……」


 しかもにへら笑い浮かべてめっちゃ嬉しそうにしてくれる。いやぁ……サンカ、ごめんなぁ……お前が大切そうにしてくれてる思い出無くしてごめんなぁ……同士になった経緯忘れてごめんなぁ……。


「えとえと、どうしてでしょうね……。さっきまでちょっと怖そうなオーラ出してたイキョウさんが物凄いしょぼくれた顔してます……」


「というか、他と比べてサンカの質問に対しては食いつき方が違かったのだけれど……反応が違い過ぎないかい?」


 今初めて記憶を無くした罪悪感が沸いてきた……サンカにだけだけど。あんな控えめ小動物魔女っ子が大切にしてる思い出とか絶対貴重なモノじゃん……。


「サンカ、こっちおいで」


「……? どうしたんだ? 同士」


 しょぼくれオレが手をちょいちょいとやってサンカを呼びつける。


「ふぇ……!?」


 そして隣までやってきたサンカを抱え上げて、膝の間に座らせた。


「お前は何をやっているんだ」


「いやなぁ……。せめてもの贖罪をなぁ」


 失った記憶はもう取り戻す事は出来ないから、せめて少しでも思い出を増やしてサンカへの贖罪をしよう。


 その考えをソーエンは理解したようで。


「独特な贖罪の仕方だな。というか、それでは何の罪滅ぼしにもなって居ないだろう」


「そんな事無いよな? サンカ。これから二人でいっぱい思い出作って行こうな」


「えッ……!? どど……同士…みんな、見てる……恥ずかしい……」


「アイツよぉ……告白じみた事言ってやがるぜ……。でも違ぇんだろなぁ……」


 サンカは帽子をぎゅうっと握って、そのまま帽子のツバで顔を隠してしまった。


 やーん、この反応がいじらしいわぁ。ぎゅっとしてあげよう。ハグするときはきゅっとすると心地良いからな、ラリルレとの抱擁でそれはちゃんと理解している。


「や、やめ……どうし……私、死んじゃう」


 凄い。サンカの体って薄いから、背中越しでも心臓の鼓動が感じられる。めっちゃ激しく鼓動してる。


「……ねぇ~? 私、時々思うのよぉ。貴方ってもしかしてロリコ――」


「人前で堂々とそんな事しないで!! ハレンチよ!!」


「キョー!! 私も!!」


 魔女が何か言った気がするけど、金髪の声によって掻き消されて何言ってるか分からなかった。そんでもってピウっていう青髪の子は、ちょっとムっとしながらオレの側に駆け寄って来た。


 だから他を無視して位置変更をし、二人を膝に座らせるようにする。サンカは未だに帽子をぎゅうっとしてて、ピウは『ぴゅふふー』って笑ってご機嫌にしてた。


「子供の扱い上手よねぇ……やっぱりロリ――」


「二人を下ろしなさい!! ここはそう言う場じゃないのよ!!」


「うるせぇぞ金髪」


「ひゃい……」


 オレはサンカを抱きたいだけ、ピウに求められたから抱いてるだけ。外野からキャンキャン言われる筋合いは無いんだよ。


 金髪お前よ、周り見てみろよ。皆は大人しく座って呆れ笑い浮かべてるだろ。……ん? 呆れ笑い?


「何だお前等その顔はよぉ」


「いやなぁ……もっと仰々しい空気になると思ってたのによ、突拍子の無いことして……やっぱイキョウはイキョウだなって思っただけだぜ」


 その言葉に同意して首を縦に振るものが多数居る。なんだろう、オレには推し量れないけど、皆の中での疑問が何かしら解決したようだ。


 なんかしかも、そのせいか分からないけど、さっきまで流れてた変な緊張感は無くなっていた。良く言えば緩やかな雰囲気、悪く言えばたるんだ空気になってる。


 これがコイツ等と過ごす時のいつもの雰囲気なんだろうか。既視感も懐かしさも、安心感も覚え無いけど、今後とも記憶の損失がバレないようにするためにはこの空気感を覚えておこう。


 この空気感を知れたのも……サンカのおかげだぁ。サンカは凄いな、オレに色んな事を教えてくれる先生だ。


「サンカ先生ありがとな」


 だからお礼にもっとぎゅっとしてあげちゃう。この子との距離感は分からないけど、ヤイナやナナさん、シュエーもそうだし、ラリルレや双子もこうすると喜んでくれるから、多分これが正解なはずだ。


 片手でサンカをぎゅうっとすると、すっげぇ心臓の鼓動が聞こえてくる。耳で聞こえるんじゃないかってくらい聞こえてくる。


「いっ、うっ、し、しんじゃっ、うっ」


 サンカは喉が張り付いたような話し方で、すっごく小さな囁き声で、何か言ってる。何て言ったんだろう。


 * * *


「……いいなぁ」


「何か言ったかい? マール」


 * * *

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