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01.重鎮達

 どうやら、オレが今回失った記憶はアステルギルドに居る冒険者達に関するものらしい。


 それに気付けたのは、ソーエンのおかげだ。オレの言動をすぐに見抜いて教えてくれた。


 シアスタに、ラリルレに、仲間達に、今回の記憶の消失を知られる訳には行かない。また泣かれてしまうだろうから。


 だからオレはソーエンに色々教えて貰った。覚えて無くても、知識として知っておけば話をテキトーに合わせられるから、周りに悟られる事も無いだろう。


 そして老い先短いんだから、わざわざ新しく関わりなおす必要も無い。それに、変に関わるより、距離を置いた方が記憶の消失を隠しやすい。


 街の奴等の記憶は健在だから、日常を送る分には問題ない。


 皆、カフスの命があるからかいつもと変わらないような感じでオレとソーエンに接してくれる、もちろん仲間達にも。でもたまに、正体がバレてるオレ達二人だけには好機の目線が向けられたり、好意、感謝を言ってくる奴がいる。


 それでも普段通りに接してくれる辺り、アステルは良い町だよ。ありがたいことだ。


 ここ数日、オレは冒険者との関わりを避けるためにギルドへは行ってない。ソーエンと一緒に適当に街を歩いたり、ナナさんとセイメアの稽古に付き合ったりしてる。クエストは受けない訳じゃないけど、オレは直接出向かずに、誰かが受けたものに付いて行くって感じだ。


 金はあるからな。そこまで必至に働く必要も無い。


 今日はとある奴等に呼ばれてあの場所に赴くことになった。


 あの場所とは、シュエーが経営している男のロマンを提供する店。そこを貸しきって、オレ達に関しての話し合いが行われる。


 まあ、シュエーの店に行くって事はもちろん呼んだ者の中にシュエーも居る訳で、そこの関わりがある者達といえば。


「まーた町の重鎮達だよ」


「カフスの家臣とも言えるな」


 シックな広い店内、ぶっちゃけてしまえば高級キャバクラ店みたいな内装。その中を、女の人達の案内でオレ達は通されると、ソファに座って待っていた奴等が目に入る。


 一人はもちろんシュエーだ。キセルを蒸かしながら気だるげだか悩ましげだかな表情をしながら艶めかしくオレ達の方へと目を向けてくる。


 そして他はというと。山羊頭と蕩けた瞳が特徴な冒険者キルドのマスター、テモフォーバ。見た目は野生中身は理性の狼男、サイコキーマ。カフスの秘書兼真面目風ヤンキーの……カフスの秘書。この町の重鎮四人がオレ達の到着を待っていた。


 それぞれが軽く挨拶をしてきたのでこちらも軽く挨拶を返し、オレ達はコの字型のソファの中心に座らせられる。右手にはテモフォーバとシュエーが、左手にはサイコキーマと秘書が座ってオレ達に顔を向けてくる。


「で、何? オレ達に聞きたい事あるの? 無い訳ないよなぁ」


「ははは、イキョウ君は良く分かってるね。でもその前に、私達から報告することがあるから聞いて欲しいね」


 右手通路側に座るテモフォーバは、その蕩けた瞳を歪ませながらそう言ってくる。


 オレが座ってるのはテモフォーバ達側、奥がテモフォーバで手前がシュエー。対してソーエン側は奥が秘書で手前がサイコキーマという配置になっている。


「イキョウはん、ソーエンはん。以前にスノーケア様がおっしゃられた通り、わっち達が坊や達の件をあずかることになりんした」


「グルルゥ。この事は町の皆が把握しているので、二人に直接探りを入れる者は居ないはずです。どうですか? この数日で規則を破った者は居ましたか? 居ないでしょうが、もし居たら遠慮なく報告してください。しかるべき処置を取らせていただきます」


 しかるべき処置……まあ、普通に言葉による注意とかなんだろうけど、この狼男が言うと別の意味合いに聞こえるからこえーよ。


「一人もいなかったよ。皆普段通りに接してくれてる」


「仲間達からもそのような話は出て居ない」


「そうでしょうそうでしょう」


「ただね……皆聞かないだけで聞きたがっては居るんだよ。実際、私達のところにも多くの声が寄せられててね。私はギルドの皆から、シュエーはこの色町の皆から、サイコキーマは商人や労働者から、ロトサラは市民からね」


「……チッ。なんで私がクソガキ共のために苦労しなければいけないんですか腹立たしい」


「一人圧倒的に比重が思い奴居るけど、しゃーねーわ。全然罪悪感生まれないわぁ」


「精精言われた事を全うしていろ」


「クソガキ共ォ!!」


「ぐるゥ!! まあまあロトサラ」


「放してくださいサイコ!! こいつらぶっ飛ばしてやる!!」


 怒り心頭な秘書は、サイコキーマのガッチリとした腕に捕らえられてギチギチと音を立てながら抑えられている。


 その光景を前に、テモフォーバは瞳を楽しそうに歪ませながら口を開く。秘書の気性を前々から知ってるようだし、こんなことは慣れっこなのかな?


「あまりに声が多くてね、一旦私達のほうで選別をしてからスノーケア様の方に上げようと思っているのだけれど、君達二人の方からは何か要望はあるかな。知られたくないヒトや教えたくないヒト、反対に教えても良いヒトとかね」


「別にないけどなぁ……ソーエンは?」


「イキョウと同じだ。そちらで適当に決めておけ」


「承ったよ。一先ずはこちらの裁量で判断することにするね」


「よろよろー」


 めんどくさそうな事はこの四人に丸投げだ。オレ達は何時も通り適当にすごせば良いだけ。


 話が一区切り付くと、店の女の子達が食べ物や酒をオレ達、そしてテモフォーバ達の前に置いて行く……けど、その度に好奇な目を向けられるのはなんだかなぁ……。一応は大事な話をしているからか、女の子達は運んできたものを置くと店の奥に姿を消して、この話を聞かないようにしてくれる。この察し力も、シュエーの教育の賜物なんだろう。


「二人共モテモテでありんすぇ。わっちの娘達みーんなが自分のお客様にしようとしてるでありんす」


「グルッフッフッフ、二人共まだ若いのですし、さぞ嬉しいでしょう。シュエーのお店の子達からモテるなんて」


「いや別に……モテるの慣れてるし……なんなら狙えば誰でも落とせるし」


「これがモテてる範疇に入るのならばさぞ世界は生き易かっただろうな」


「……ぷっ、なにスカしてんのよクソガキ共!! あーっはっはっは!! その見た目でその言葉はピエロですよピエロ!! 傑作ー!!」


 アイツ、ホントにカフスの秘書やれてんのか? サイコキーマの腕からズルリと落ちて腹抱えながら笑ってやがるぞ。


 見た目良いから無視するだけに止めてやるけど、次ぎ煽ってきたらまた戦争仕掛けんぞ。


「力を持つ故の羨望だね。もしかして二人は、自分の力を隠すためにその格好をしてるのかな?」


「いや?」


「一番の理由はカッコイイからだ」


「あーっはっは!!」


 ついに秘書は腹抱えながらテーブルに突っ伏した。でもここまで豪快に笑ってもらえると逆に気持ちが良いな。理由は知らんけど。


「秘書秘書」


「なっ……なに?」


 笑いを堪えながら顔を上げた秘書に、オレとソーエンはシジミハマグリを繰り出す。


 すると――秘書は大爆笑しながらまた机に顔を擦り付け始めた。


「ほんに不可思議な坊や達でありんすねぇ。稀有な力を持ってるのに、それが微塵も感じられないでありんす」


 今回ばかりは悩ましげな顔確定のシュエーは、片手を顔に添えながら、艶やかに小首を傾げてオレ達を見てくる。


「どちらかといえば親しみ易い二人、とでも言っておきましょうか」


「おいサイコキーマ。『と言って』じゃなくて本心言ってみ? 怒らないから」


「親方と呼んでください。……まあ、その。未だにいつものお気楽でおバカな二人組にしか見えない……ですね」


「君の感でも、私の眼でも分からないんだ。皆恐らく、まだその評価が上回ってると思うよ」


「ですね、だからこそ声が殺到してるのだとも言えましょうか」


「そうかえ? わっちはこの坊や達から並々ならない魅力を感じるのでありんすが」


「私達は魅力、までは分からないからねぇ」


「そうですねぇ」


 重鎮達はそれぞれ言葉を交わしながらそれぞれの意見を述べている。


 その光景を横目に、オレとソーエンは煙草に火を付け酒を嗜み始めた。うん、やっぱシュエーの店の酒は美味いなぁ。


「強いのに、親しみ易い。強く感じないのに、その実強い。そういうミステリアスとギャップは、ヒトの心をくすぐるでありんすぇ」


「あららどーも」


「あらら、こちこそ」


 シュエーはここに居る奴らに言い聞かせるように言葉を紡ぐと、オレの空いたグラスにお酌をしてくれた。だからオレもお返しにお酌をしてあげる。


 ソーエンはシュエーからのお酌を欲したがらないから、呑むときはオレだけにしてくれる。


 そうして、話は本題の筋へと戻って再開された。


「君達二人のレベルは聞いたよ。未だに信じられないね、どうやってあの水晶の鑑定と審議師の審判をかいくぐったんだい?」


「あの水晶がポンコツなんだよ。あれは三百の上限を越すと一週回って表示されるの。だから三百二十は二十レベルに」


「三百二十一は二十一となる。審議師の方は俺達の魔法態勢が高い故効力が働かなかった。ローザが悪いのではない、あの指輪がポンコツなんだ」


「なるほどね……そんな落とし穴があったとは……。二人の件は出鱈目な事例ではあるから早急に対策する必要はないかな」


「グルルゥ……? そういえばローザさんは君達の事情を知って、今まで協力をしてくれていたんですよね? 君達二人が良く叱られるって噂は、もしかして何かしらの行動をカモフラージュする意味合いがあったのですか?」


「いやぁ? ナチュラルに叱られてた」


「まごう事なき事実だ」


「ぶふぅ!!」


「えぇ……」


 オレ達の回答を聞いた秘書は笑い、サイコキーマに至っては引いてらっしゃる。


「ローザはんは、テモフォーバはんのお気に入りでありんすぇ。前々からお話は?」


「聞いてないかな。二人のことは全面的に任せていたからね。こちらはスノーケア様の采配が大きいところはあるよ、イキョウ君とソーエン君を相手できるのはローザ君しか居ないからね」


「受付さんオレ達のこと知ってなお、真正面から叱ってくるからマジで怖い」


「一時の怯えはどこへやら。最近は益々恐ろしさが増すばかりだ」


「ローザ君も立派になったものだよ……」


「さすがの胆力とでも言いましょうかね。テモフォーバの恐怖に打ち勝った者ですから、そうなるのも当然でしょう」


 テモフォーバは浸り、サイコキーマは認める。この重鎮達の話しに出てきてその上褒められるって、やっぱ受付さんすげぇお人だぁ……。


「坊や達やそのお仲間の方々は転移事故前は何をしていたのでありんすかぇ?」


 ほあ。オレまで浸っていたらシュエーがまた小首を傾げて尋ねてきた。しかも今度はオレの腕に手を添えて。


 浸ってたオレの意識を自分に向けるためにしたことっては分かってるけど、シュエーは手法がもうお淑やか。全ての所作が艶かしい。


 この場に居る四人は仮面部隊の構成員の正体を全て知っている。それも、カフスが提供した情報の一つに含まれていた。


「適当に旅してたよ。あっちをふらふらこっちをふらふら、テキトーに日々を満喫してたんでありんす」


「くすくす、そうでありんすか」


「グルゥ……。そのような生活で、どうやったらそこまでの強さを手に出来るのかは想像できませんが……君達が居たなら、壮絶な経験などもしてるのでしょうね。壮大な旅を繰り広げて居そうです」


「種族も様々、果てはハイウォーリアースケルトンまで所属してるからね。でもそうなんだよね……あの優しいチクマ君が、実はスケルトンだったなんてね……。意外な事もあるものだよ」


「グルッフッフ。彼の戦い振りは尊敬に値します。皆を守り、自らを盾にしてあの強敵を何体も同時に相手していました。剛の私には出来ない、堅の戦い方です」


「わっちとしてはヤイナはんが気になってるでありんすぇ。たまにわっちの店に来ては勧誘していた故」


「おい待ってくれや、今シュエーなんつった。あのスルメイドこの店来てたの?」


「夜の匂いを纏う娘でありんした。同業の者かと思えば冒険者、かと思えば巧みに娘達を誘う。惜しいでありんすぇ、是非わっちの娘に欲しいでありんす、店の華に成れる人材でありんした」


「ヤイナ君は冒険者だからね、引き抜かないで欲しいよ」


「なあソーエン。アイツこの店以外にも絶対行ってるぞ」


「ああ。たまに一人で外出をしていることは知っていたが、まさか風俗巡りをしていたとはな……。まあ、アイツの勝手だ。何も言うまい」


「あの底なしの性欲お化けがよ……」


 ――――オレも誘ってよ!! なんて思ってないからね。オレには固い決意があるし、まだ完全復活はしてない……ってか、ヤイナが居ないと元気に立ち上がれないから誘われても全力で楽しめない。だからしゃーない、ああ固い決意固い決意。


「引き抜きの話でしたら、私はルナトリックさんが欲しいですね。あの方は聡明な方です、きっと、私の商会に富を齎してくださるでしょう」


「ははは、ルナトリック君のことも引き抜かないで欲しいかな」


「ラリルレちゃん下さい。私、それだけでこのクソガキ共の仕事も頑張れます」


「ラリルレ君は……方々からの人気が凄いからね……。絶対に渡したくない人材だよ。どこに行っても皆の士気を高めてくれるだろうね」


「やるわけねーだろバーカ!! ラリルレはオレ達の太陽なんだ。これでも喰らって笑っとけシジミ!!」


「赤貝」


「ぶふぅー!!」


「グルッフッフ。――ズルイですね、テモフォーバ。貴方の元に仮面部隊の者達が集まっていますよ」


「別に御している訳ではないからね。皆自主的に居てくれるだけだよ」


「で、ありんすね。坊や達を見ていれば御せ無いことなぞ一目で理解できるでありんす」


「あらら、どうもでありんす」


「くすくすくす。こちこそ」


 オレ達と秘書で争っていると、魔性の微笑みを浮かべたシュエーがまたお酌してくれた。だからオレもまたお返しをする。


「最近、イキョウ君とソーエン君をギルドで見かけないけど……ほとぼりが冷めるまでは皆と距離を置くつもりなのかな?」


「んー? そうそう、そんな感じ。皆が落ち着くまでオレ達二人は活動控えめにしてお休み多めにするから、そこんとこ宜しく」


 なんかテモフォーバが良い感じに勘違いしてくれたから、それに乗っておこう。


「成る程ね。うん、仕方ないね。――それまでお金はどうするのかな、私の懐から出してあげようかい?」


「ぐるぅ……私も出しましょうかね。二人にお金を出す価値、そして多大なる礼がありますから。遠慮せず受け取ってください」


「わっちが養ってあげてもいいでありんすぇ?」


 わお。町の重鎮達がポケットマネーやヒモ生活を提供しようとしてくれてる。


 うーん……貰いたいけど……。シアスタ達は頑張ってお金稼いでるしなぁ……。一応この提案はオレ達の行いに対しての対価ではあるんだけど、でも家の子達を前に働かずして金を貰うって行為をするのはなんだかなぁ……。


 あと、オレは大金持ってるし、ソーエンも帝国の地下組織の奴等から金巻き上げたから懐潤ってるしで、今のところ無理に金を受け取る必要もないなぁ。なんなら、隠し財産として帝国の城から盗んだ高そうな品々もあるわけで……。


「いや、今は良いかな。もし金に困ったらそんときは宜しく」


「俺もだ。立派な家の子達を前に、施しを受けるほど落ちぶれては居ない」


 オレ達の返答を聞いた三人は、惜しそうな目をしながらもこちらの意見を呑んで了承してくれた。


「活動休止中はどうするのかな? 私と一緒にお仕事でもするかい?」


「寂しがり悪魔がよ……。適当に散歩でもして時間潰すよ、あー……でも、町の奴等からも好機の目線向けられるんだよなぁ……過ごし辛ぇ……。痒いんだよなぁ……」


「ならば俺と一緒に引きこもってれば良いだろう」


「オレずっと家に居れないからなぁ……外出たくなっちゃう。ヒトとは会っておきたいわ」


 じゃないと人を忘れそうになる。この外面無くしそうになる。


「ならば俺と一緒にナターリアにでも会いに行くか」


「お前の提案『俺と一緒』ばかりじゃん。ナターリアなぁ……会いに行っても良いんだけど、ニーアには会いたくないからなぁ……」


「ははは、さらっと大物の名が出来てきたね」


「わっちのお店で働くのはどうでありんすかぇ? 限られた者しか居ない故多くの者に関わらない。イキョウはんの意思に沿ってるでありんす」


「えぇ? オレもこの店でドレス来て働くの?」


「くすくす、それで良いならそうしなさんし。ただ、わっちの傘下に、行為までは及ばず、ただお話とお食事を楽しむお店があるでありんす」


 ふーん、ホストまではいかず、コンセプトカフェ的な軽い男女のサービスがある店かぁ。


「悪くは無いけどなぁ……ソーエン、どうする? 一緒にやる?」


「お前も結局は『一緒』ではないか。俺は断る、そのような事をするくらいなら家で寝ていたほうがマシだ」


「ふふふふふふ――く、クソガキ達に女の相手が出来る訳無いじゃない……ぷふぅー!!」


「ロトサラはんは見る目がありんせんわぁ。坊や達は原石でありんすぇ。すこーし磨けば必ず輝く宝石でありんす」


「グルルゥ……ソーエン。君のフードの下を見せていただいても?」


「断る」


「イキョウ君。バンダナ外してもらっても良いかい?」


「え、やだ」


「即答でありんすかぇ。イキョウはん、もし取ってくれたならわっちが特別なサービスをさせていただくでありんす」


「オレには固い決意取るから待ってろ」


「ソーエンはん、わっちの子猫ちゃん達ににゃんにゃんさせて上げるでありんすぇ」


「……………………ふむ。人掃いをするのならば考えてやる」


「シュエーは扱いが上手だね」


 オレは固い決意を持ってシュエーの言葉を呑んだ。ソーエンは……このネコバカ、子猫の意味勘違いしてねぇか? いやそんなはずないか。オレの親友はそこまでバカ……な可能性がある。猫関連はバカになるけど……まあ、大丈夫だろう。オレの親友はバカだけどバカだ。結局バカじゃね?


「ねえソーエン。お前シュエーが言った子猫の意味分かってるの?」


「当然だ。まさかコイツが子猫を飼ってるとは思ってなかった。俺の中では評価が鰻上りだ。シュエー、今までの扱い済まなかったな。これからはもう少し扱いを良くしてやるから代わりにその子猫にいつでも会わせろ。何猫だ、オスかメスか」


「みーんなメスでありんすぇ。可愛い可愛い自慢の子達でありんす」


「ふむ、多頭飼いか。子猫、子猫か……」


「うーん……この猫バカ。良いの? お前の顔晒すのってそんな軽くなくない?」


「子猫を対価にされては仕方ない。最近メイメイ夫妻に子猫が生まれたろう、あのおかげで俺の中の子猫欲求が爆発しそうになっている。可愛いぞ子猫は、幼げな猫特有の甘い魅力が溢れている」


「ここまで熱く語るソーエン君を見るのは初めてだね」


「私もですよ、彼がこれほど饒舌になることがあったのですね」


「ねえソーエン? シュエーが言った子猫の意味よく考えてみ? この店で子猫だぞ? にゃんにゃんだぞ? 冷静になってよーく考えて見みなさい」


「…………………………………………殺すッ」


「まてやバカ!!」


 意味を理解したソーエンは、即座に立ち上がり銃を取り出してシュエーにぶっ放そうとしやがった。オレはその動きを察知してソーエンの両腕をガッチリ掴みながら制止させる。


「あらあら……わっち、ソーエンはんと色々話して分かったことがあるでありんす。猫耳っ娘のこと悪く思ってないでありんすぇ? 情欲無く可愛がってくれてるでありんす。どうでありんすか? わっちの猫耳娘達集めてにゃーにゃー愛でるのも良いでありんしょ?」


「……………………………………………………………………………………ふむ……猫、そしてホンモノの猫耳に悪などない。ふむ、悪くない、悪くないな」


「お前の猫に対する情熱って凄いよね。お前の人間性ブレさせる位には熱々だよ」


 この猫バカ親友は猫の事になると人が変わるなぁ……。猫バカの範囲は猫耳にも適応されるようだ。


 まあ、顔を見せる判断をしたのは猫以外の要因もあるんだろう。この場に集まってる奴等が、何処か特別なものを持つ奴等だって事はソーエンも感じてるだろうし…………あと、コイツはオレに見せたいんだ。顔を晒せるようになった世界を。悪いな、先が短くて。


「ま、シュエーの店なんだし、人掃いなんてする必要ないからここで着替えちまおうか」


「そうか、そうだな。お前等、俺の顔を見る覚悟をしておけ」


「わっち達の目の前で着替えるなんて、大胆な――――」


 オレとソーエンは、シュエーの言葉を他所に思考でUIを操作して装備の切り替えを開始する。


 オレは前に買った、ラリルレからかわゆい判定を貰えたスーツを。ソーエンは<宵のスーツ>を軽く着崩して。


 傍から見ればオレはバーテンダー、ソーエンは俺様系のクールなホストに見えることだろう。


 バンダナを失ったことにより気合の入らなくなったオレは、緩やかな所作で煙草に火を付ける。


 対してソーエンは、伏目がちにその鋭く美しい目を煙草に向けながらジッポライターの火を見つめて、燃える炎を美麗な瞳に写す。


 うん。やっぱりソーエンはかっこい。

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