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05.MP(マジックポイント)がMP(マジでピンチ)

「いいかシアスタ、そーっと、そーっとだぞ」


 オレ達は今、アステルから離れた場所にある深い渓谷にいる。

 ワイバーンの巣は渓谷の窪みや穴に作られているから、オレの<壁走り>を使えば問題無く巣まで辿り着くことが出来た。

 ソーエンが囮役をやって無差別にワイバーンを引き付けている間に、オレとシアスタが<隠密>を使って卵を回収する作戦だ。シアスタには辺りの警戒と、もし発見された場合オレだとワイバーンを殺してしまう可能性があったから迎撃を頼んである。


「分かってます、そーっと、そーっとです」


 オレとシアスタはこそこそ話しながら最後のワイバーンの巣へ侵入して歩いている。

 ワイバーンの巣は崖の壁面に点在していた。そしてさっきから、巣を見つけ次第卵を2個残し全て回収して回り、回収した卵はアイテムボックスの中にしまい込むという作業を続けている。今は見つけた中で最後の巣にいるんだけど、そこは浅い洞窟になっていて奥にはワイバーンが鎮座していた。

 <隠密>で存在を隠しているとはいえ、巨大なワイバーンの近くに行くのは流石に慎重になっちゃうな。起きられたらめんどそう。

 洞窟の中を、そろりそろりと足を進めてワイバーンの奥にあるであろう卵を目指す。


「気づかれて無いようですね」

「みたいだな」


 暗い洞窟の中ワイバーンを観察してみると、卵を隠すようにしながら座ってすやすやと寝ていた。

 でも寝ていようが、そろりそろりはやめない。

 慎重に横まで接近するとワイバーンの寝息が腹に響いて、内臓を揺らされている気分になる。


「卵ありましたね」


 ワイバーンの奥を覗き込むと大きくて丸いものが見えた。あれは……恐らく卵だろう。暗くてシルエットしか分からんけど、こんなところにある大きくて丸いものとか卵しかない。


「よし、回収だ」


 回収係のオレがアイテムボックスに入れようと手を伸ばす。

 そして卵に触れた瞬間……。

 何かが抜ける感覚がしたと同時に、何故か<隠密>が解けた。


「ありゃ?」

「グル?」


 訳が分からなくて停止するオレ。

 そして、声を上げたワイバーンの様子を確認すると、オレ達に反応したのか目覚めたワイバーンと目が合ってしまった。


「オレ達のことは気にせず、ゆっくり寝ててください」

「グルル……」


 ……数秒、オレとワイバーンは無言で見つめ合う。いけたか?


 お互いにお互いの状況を理解していないし、どうか見逃してはもらえないだろうか。


「ガーーーーー!!」

「ひん!!」

「ダメかぁーーーー!!」


 どうやら素直に眠ってくれないようで、ワイバーンは吼えながらオレ達を睨みつけてきた。


「撤収ッ!!」


 右には卵を、左にはびっくりして涙を浮かべているシアスタを担いで、大急ぎで巣穴を出で真下に落ちる。


「<壁走り>!!」


 洞窟の外に出るともうそこは崖だから、<壁走り>を使って駆け上らなければ落ちてしまう。

 オレが壁を駆け出した瞬間、火が洞窟から溢れ出す。あれはワイバーンのブレスだ。

 真上に駆け上がらず穴を避けててよかった。じゃなきゃ今頃ゆで卵と溶けたシアスタを抱えているところだった。


「イキョウさん、何持ってるんですか!!」


 シアスタはオレが卵をアイテムボックスに仕舞わなかった事に対して文句を言っているのだろうか。


「だってしまう暇なかったんだよ!!」

「違います!! 何を持っているのか聞いているんです!!」

「卵に決まってんじゃん」


 シアスタは何を言っているんだ?


 崖でワイバーンに追いかけられながらも、一応自分が担いできたものを確認してみる。


「……なんだこれ?」


 卵かと思って担いでいたものは、卵と同じくらいのサイズを誇る、水色の水晶だった。


「ガーーーー!!」


 下からワイバーンの吼える声が聞こえてくる。


「卵じゃないなら追っかけてくんじゃねぇよ!! ワイバーンに水晶なんて必要ないだろ!!」


 今オレが担いでいるものは一体何なんだ? でもワイバーンが執着するくらいなら相当な値打ちもんになるかも。


「捨てましょうよその水晶!!」


 せっかく金になりそうなものを手に入れたのに捨てるなんてもったいない。


「嫌だね。持ち帰って売る」


 今は何が何でも金が欲しい。というか余裕が欲しい。金がいつかなくなるかもしれない不安に迫られる生活をするのは勘弁だ。


 オレは崖を登りきった後、森を走りながらパーティチャットでソーエンに撤収の指示をしようと思考でUIを動かす。


「あれ!? MPが無ぇ!!」


 パーティの欄にあるオレのステータス表示のMPバーが空っぽになっていた。

 <隠密>をずっと使ってはいたけど、それだけでMPが空になるほどオレのMPはやわではない。

 ……<壁走り>が基本スキルで消費無しじゃなかったら、今頃気がつかずに崖を落ちていたところだったぞ? あっぶねー。

 MPが枯渇するような大技は使っていないのに何で空になったんだ?


「んー……思い当たる節が一つしかない。絶対この水晶のせいだろ!!」


 <隠密>が切れたのはこの水晶に触れた瞬間だった。つまりこの水晶にオレの残りMPが全部持っていかれた。そうとしか考えられない。


「ソーエン緊急事態!! 早く戻ってきてくれ!!」

「分かった、すぐ戻る」


 パーティチャットの事はシアスタに魔道具だと伝えてあるから隠すことなく使える。

 とにかく、アステルまでダッシュで逃げ切るかここでワイバーンを撃退しなければ。


「シアスタ、魔法を!!」

「なら抱っこしてください!!」


 小脇に抱えているシアスタは、顔が進行方向側にある状態で抱えられているからワイバーンを狙えずにいた。担ぐときに焦っていたから、向きまでは気にしていられなかったのでこれは仕方がない。

 左手でシアスタを支えて抱っこし、迎撃の態勢を整える。


「当たってください、アイスランス!!」


 後ろで不安になる言葉と魔法の発動音が聞こえる。やったか!?


「ダメです、避けられました!!」

「あんなでかいのに器用なやつだな!! とにかく撃ちまくれ!!」

「アイスランス!!アイスニードル!!アイスエッジ!!」


 その魔法何が違うんだろう。見たいけど、森を走る為に前を見る必要があって後ろを見れないから見れない。そのせいで余計気になる。


「ダメです!! 空を飛んでる相手に氷魔法は相性が悪いです!!」

「このまま追われ続けるのはまずいって、また火を吐かれたら森が火事になっちまう!!」


 そうならないためにもどうにかしたいのは山々だけど、オレじゃ殺してしまう可能性がある。このまま走り続けるしかないのか。最悪火を噴きそうになったら石でも投げるか。


「愉快なことになってるな」


 手詰まりかと思っていた矢先、ソーエンが空から降ってきて合流を果たす。


「おお!! オレ達がここに居るって分かったな!!」

「森にワイバーンが見えたからな」


 急いでいたせいでソーエンに位置とか方向を伝えるのを忘れていたから、丁度今連絡しようと思ってたところだった。手間が省けたな。


 三人そろったし、ワイバーン一匹程度どうにかできるだろ。


「イキョウさん大変です!! ワイバーンが三体に増えました!!」

「なんで!? どっから沸いてきたんだ!!」

「俺のワイバーンだ」

「なに引き連れてきてんだこのボケ!! 撒いてから来いよ!!」

「緊急事態と聞いて急いで戻って来たというのに、来たら来たらで今度は文句か」


 まさか、緊急事態だって言ってるのにそこに問題を追加するとは誰も思わないだろうがよ。


「まあ見ていろ」


 そういうとソーエンは<空歩>で空に駆け上がって行く。


「シアスタ、報告頼む!!」

「今ソーエンさんがワイバーンに向かって飛んでいます、あ!!ワイバーンの顔を蹴りました!!」


 その報告と共に、後ろから何かが落ちる音と木を薙ぎ倒す音が聞こえてきた。


「そのまま二、今三体目を蹴って落としました!! ソーエンさん凄いです!!」


 二回、三回と背後からさっきと同じ音がする。

 周囲が静かになったから、立ち止まって後ろを確認すると空にワイバーンの姿は見えなかった。


「これでどうだ」


 一仕事終って戻ってきたソーエンが誇らしげに言ってきた。


「殺してないよな?」

「当たり前だ」

「なんでこれを二体引き連れて来る前にやらなかったの?」

「銃以外にも出来ることがあると証明するためだ」


 コイツ、今まで銃が使えないときは逃げることしか出来なかったのを気にしていたのか……。でも確かに、この体がゲームの体なせいで、戦い方はゲームの頃のスタイルに固執してしまう気持ちも分かる。どうやらソーエンは数週間のときを経て、ようやくゲームと現実を組み合わせた戦い方を確立したようだ。


「そっかぁ……おめでとソーエン。おめでとついでにこの水晶持ってくれ」


「重いのか? 貧弱なやつだ。どれ、貸してみろ」


 ソーエンは手袋をはめた手で水晶を受け取る。

 これは検証だ。布越しでもMPを吸うかどうか確認をするためだ。

 別に、『火を噴くワイバーンを森に不用意に引き連れてきた罰だ。オレが吸われたんだからお前も吸われやがれ』とか思ってはいない。


「なんだ、何か抜ける感覚が……MPが……空、だと?」


 ソーエンもこの水晶の効果に気づいたらしい。

 どうやら水晶は薄い布越しでもMPを吸収する出来るみたいだ。これにて検証完了。


「これで、アステルに戻るまで散々お前のやりたい証明ができるぞ。良かったな」


 ソーエンは銃弾が補充できないこの世界では、MPを消費して撃つ魔法銃をメインに使っている。だからMPが切れると実質銃が使えない状態になる。だから回復するまでは望むままに肉弾戦やっとけバカ。


「おい、知ってて俺に渡しただろう」

「なんだよ、文句があるならその水晶に言えや!!」

「いいから早く逃げますよ!! ワイバーンがいつ起き上がるか分からないんですから!!」


 このまま睨み合いを続けてワイバーンに見つかったら元も子も無い。ここはシアスタの言う通りにし、オレ達はお互い引き下がり、逃げるのを続行することにした。

 逃げる間、ソーエンはオレに何か言いたそうな目を向けて来たけど、こちらから聞いてやるほどオレもお人好しでは無いから無視させてもらった。

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