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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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51.つかれた

 光の剣が走れば、景色に映るものが全て切り裂かれる。


 剣は森の木々を、岩を、霧を、空気を、易々と切り裂く。


 それは、抗うものさえも切断する剣。何モノも切り裂く剣。その刃を向けられ続けた二人は、それでも倒れる事はなかった――。


 * * *


「これは……、マ、ジで……ヤバ、イ……」


 オレは息を切らしながら途切れ途切れに言葉を吐く。もう何時間戦ったんだろう。もしくは数分か? ……わかんねぇや。必死に戦うと時間の感覚忘れちまう。


 オレの声はチャットを通して、離れた場所に居るソーエンに伝わった。


 オレ達は現在森の中で戦闘してる。というよりは逃げ回ってる間に隙を付いて攻撃しているといったほうが正しい。


 周囲に生えている木々や、魔法で作り出した障害物を利用して姿を隠し、立ち回りによって鏡への映り込みと攻撃を回避しながら何とか攻撃を通してる。


 そして現在オレは、作成した土壁に背を預けながら体を休めている。が、オルセプスの足音が壁越しに段々と近づいて来てきている。


 ソーエンはというと、オレから離れた位置で木に身を隠していた。


「クソッ、畳み掛ける事ができん。これではDPSが稼げない」


「分かってる、けど。さ。盾ヤバイ、って。お前さっき、ヒビ入れたのに、元に、戻って、やがるぞ」


「分かっている。だからDPSの話をしてるんだこのバカが。盾すら再生するならば、その再生能力を上回る速度で一気に壊しきるしかないだろう」


「盾壊して、再生、するまでの、間に、本体、スキルブッパで倒す。やれる、なら、やってんだよなぁ……」


 オレはそう言った直後に咳を吐く。手で押さえている暇が無いからそのまま咳は放たれるけど、口からは咳き込むよりも前から大量の血が流れ出していた。


「おい、大丈夫か。腹に穴が開いたせいで喋り辛いようだな」


 そう。オレは一度だけ回避をミスして右脇腹から胸部にかけて光の剣に貫かれていた。多分肺に切れ込み入ってる。腹部も臓器やられてる。それでも呼吸は出来るし、身体は動かせるから何の問題も無い。


「お前も、痛いだろ、左肩」


「痛みなど無視すれば良いだけだ。動くならそれでいい」


 ソーエンも同じく攻撃を喰らっていた。左肩が離れるくらいの深い切り傷を負ってしまっている。それでもアイツは左腕を無理矢理動かしている。だったらオレだって止まってられない。


 どれもこれも全部あの盾が悪い。あの、ゲームと違って再生するインチキ機能搭載の鏡の大盾に映らないようにしながら回避と攻撃をするんだ、いつもの動きが狂わされても仕方が無い。しかも霧が邪魔だ。薄くなってても視界に入ってきて邪魔臭い。気の抜けない攻防をしてるから余計に邪魔に感じる。


「どう、するよ。ナトリの、秘策信じて、このまま、同じように、戦い続ける、か?」


「先ほどからナトリにコールをしているが一向に出ない。アイツはオルセプスを俺達に丸投げしたんだろう。ナトリならばやりかねん」


「まったく、信頼されすぎて、こまっちまう、よ。それって、オレ達が、負けるって、思ってないって、ことだもんな。

 戦い方、変える、か」


「ああ」


 ソーエンから返事を聞いた直後にオレは煙を巻いて土壁から飛び出す。飛び出すのは上空、狙うのは上からの強襲だ。


 即断即決。示し合わせる必要なんて無い。示し合わせている時間も無い。


「チィ!! ちょこまかと鬱陶しい!!」


 その直後にオルセプスの怒声が聞こえてきた。その声は、壁から飛び出したオレの眼下から聞こえる。


 だからオレはダガーによる渾身の一撃を、オルセプスの左肩口に叩き込む。


「<無頼切り>」


 魔力を反射するのは大盾だけ、鎧は魔力を反射しない。だから本体は、スキルを使って攻撃をしても問題はない。


 再生能力と光の剣のせいで、ゲームでよく使われていた、先に鏡を壊す戦法は使えない。

 その二つが脅威で、鏡に映り込まないように立ち回ることも出来ない。余裕が無い。


 だから従来の戦い方は止めよう。生身だから出来る戦い方をしよう。


 今の攻撃はオルセプスの体力を削る為に行った攻撃ではない。

 不意を付いてようやく一撃を与えられる攻撃なんて、どうせ当てても次の攻撃をする頃には再生されているだろう。それほど、この戦況では攻撃のスパンが空くから。


「効かぬわぁ!!」


 オレが持つ攻撃の中で最も威力の高い攻撃を、平然と鎧で受け止めたオルセプスは、オレへと顔を向けてきた。


 この瞬間、オルセプスはオレに注意を向けたんだ。いや、オレに注意を向けさせたんだ。だからヤツがオレに意識を奪われている隙に――。ソーエンが煙の中に飛び込んできて、オルセプスの左腕を捕らえた。


「撃ち砕く」


 そして、オルセプスの手首に銃を突き立て、問答無用に立て続けに連射してぶっ放す。目的はダメージを稼ぐためでは無い、部位の破壊をするために。


「っしゃ、おら!! 手首破壊、成功!! 追加で、もいっちょ、<煙幕>!!」


「よし、大盾を持ってズラかるぞ」


 そう。オレ達の目的は大盾の破壊から奪取へと変わっていた。これがゲーム時代では出来なかった戦法。示し合わせなくても取れるこのコンビネーション、やっぱソーエンだぜ。


 オレ達は、手首を破壊したことで支えを失い、倒れ始めた大盾の下へ身体を滑り込ませると、ソーエンは片腕を、オレは両手を上げて下から支えて即座にダッシュを始める。


 大盾の裏面には鏡が無いから映り込むこともない。


 何故だかオルセプルからの反応は無いけど、それはそれで都合が良いので、オレ達はそのまま煙から躍り出て木々のを駆け抜けることにした。


 ダッシュ、全力ダッシュ。


 そのまますたこらさっさと駆け抜け、光の剣戟によって辺りの木々が切り倒されている森を駆け抜ける、駆け抜け駆け抜け、グングンと距離を離す――けど――。


「…………くそがあああああああああああああああ!! ちょこざいな戦法をとりやがってえええええええええええ!!」


 結構距離を開けたところで、遠く背後から絶叫にもにた雄たけびが聞こえてきた。


 煙が晴れたからか、それともオレ達の取った戦法に度肝を抜かれた挙句、ようやく怒りを表せる状態まで戻ったのか。オルセプスの事情は知らない。知らないけど……一つだけ分かることがある。


「……ヤベー、よ。めっちゃ、ブチ、切れてん、じゃん」


「どうでもいい。……おいバカ、力を緩めるな」


「は? 緩め、てんの、お前、でしょ?」


 どうしてだろう。急に鏡の盾が重く感じるようになったぞ? というか、重いってよりどこかへ引っ張られているような感覚だ。


 ……そういえばガランドウルが復活しようとしたときって、核に全部の装備が集まろうとしてたよな。


「……いやー、な、予感する、わ。この戦法、失敗かも」


「いや、成功だ」


 オレの言葉を聞いたソーエンは、即座に身体を動かして盾の支えから離脱する。


「いや、重い、重いって。なに、楽しようと、してるの?」


「お前はそこで盾を抑えていろ。その間に奴は俺が叩く」


「なー……るッ!!」


 こいつの提案は一理ある。


 その提案を理解したオレは、瞬時に行動を始めた。


 オレは全身に力を込めて、思いっきり地面に盾を突き立てると、寄りかかるようにして盾がオルセプスの方へ引き戻されないようにした。


 確かにその作戦で役割分担するなら攻撃役はソーエンの方が良い。オレよりも攻撃スキルが多彩で威力も高いから。


「死んでも、盾死守する、から」


「屍になってもつっかえ棒なり何なりやれ。その盾が奴に戻ってしまえば、俺達に勝ち目はなくなる」


「へいへい。いって、らー」


「ああ」


 ソーエンは短く返事を返して即座に行動を始めた。


 突貫に次ぐ突貫作戦。果てさて、上手く行けば良いんだけどなぁ。と思いながらオレは疲労と傷が蓄積した体を、盾に預けて休ませることにした。


 ナトリとヤイナが居なくなった。ソーエンも行ってしまった。また……一人になっちまった……。


 血が、流れ落ちて地面に溜まりを作る。この体は死に至る傷を経ても、まだ生きてしまっている。


 ……つかれた。


 重い体を預けるように、最近、一人になると不安定気味のオレを、安定させたくて、もたれさすかのように。


 * * *


 イキョウ達が戦闘を繰り広げている最中、ひまわり組と王国騎士、そしてミュイラスの六人は森の中を全力で駆け抜けていた。


 この場に居ないダグラスは、防壁の総指揮を担っている。ダグラスを抜いたこの場に居る六人が現状での最強戦力であり、危険地帯に赴くのに適しているこの六人が先行部隊として任命されていた。


 目的は爆発が起こった地点への到達。


 霧が通常よりも薄まっている今なら、比較的良好な視界と活動時間が得られるだろう。それ加えて今はモンスターが防壁に集中しているため、辺りを気にせずに駆け抜けることができる。


 だがしかし。六人は、遠くから何者かの――怒号としか思えない声が響いてきて思わず足を止める。


「なんだい今の……」


「どうして人の声が!? というか何処から!?」


「多分あっち。どうするティリス、皆。

 行ってみる?」


「行くぅ……しかないわよねぇ。だって異変に次ぐ異変ですもの。絶対とは言わないけど関係してるとしか思えないわぁ」


「みみみ、みな、みさなんが行くなら……ハイ。わたし、も……」


「そんなご謙遜しないでほしいでありますよ、ミュイラス殿。この中では貴殿が二番目に強いのでありますから。いわばサブリーダーみたいなものであります」


「は、は……ハイ……」


「でしたら、臨時で組んだこのチーム。リーダーはキアルロッドさんになりますね。どうしますか?」


「うーん……本当は二手に分かれたいところではあるけど、今は何が起こるか分からないし固まって動こうか」


 キアルの提案にほかの五人は同意を示してすぐに行動を開始した。それは後から見れば英断では有ったが、同時に愚断とも取れてしまう判断だった。

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