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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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43.一刀両断ゴライタス

 霧の中を早足で進んでいくと、段々と地面が微弱に揺れるようになってきた。


 この振動から逃げるように周りのモンスター達の反応は一目散に逃げている様子が、周囲の音や気配から感じ取れる。


「なるほどなぁ。強そうだな、そのゴライタスって亀は」


 ひまわり組からゴライタスについて、巨大で堅牢な超重量の体に、広範囲で岩を落とす魔法を持っているでっかい亀という説明を聞いてオレはそう答える。


 最近もでっかい亀見たけど、あの亀よりよっぽど強そうだ。金髪からの説明を受けたらそうとしか思えないくらいに強そうだ。


「とっても強いわよぉ~。モンスターの中でも上位クラスには強いわぁ。

 巨大なだけでも脅威なのに体表は分厚い皮膚に覆われてるしぃ、身体を守る殻なんて硬くてあらゆる攻撃が効かないわよぉ」


「それに加えて超強力な広範囲の無差別魔法も使えちゃうんだもの。並みの冒険者じゃ太刀打ちできないわ」


「マジでヤバ……。オレって対大型には弱いからほとんど力になれそうにもないわ」


 そんだけ強いモンスターだとオレでも苦労しそうな可能性はある。


 オレって対人型や小型、中型はまだ戦えるけど大型は辛いステータスしてるからな。


 強力な一撃も無ければ高い防御力も無い。おまけにオレの目も、回避できないような超広範囲の魔法を使われては意味を成さない。


 これはちょっとマジでやった方が良いか? 最悪<叛逆の意思>使って火力の底上げでもしようかな。


「あんたは戦力外でも問題ないわ。索敵に集中してちょうだい。対象の体が外に出てるときは私の剣とレレイラの魔法で攻撃して――」


「殻に篭ったら私の魔法で蒸し焼きよぉ~」


「ほぇー。すげーなお前等」


「ふ、ふん!! 一等級なんだから当然よ!! あんたに私達の強さ見せてあげる、ちゃんと見ててよね!!」


「なんなのお前、力誇示したいの? 褒められたいの?」


「わたしはほめられたい!! いーっぱいほめていーっぱいなでなでしてもらって……あらぁ~?」


「あらぁ~?」


「もう慣れてきたわよ。はー……」


 オレと魔女のやり取りを見て金髪は頭に手を添えていた。


 さすが一等級。順応性も一等級だな。


「そうだ、カニ君達も一緒に戦えない? 戦力多いに越した事無いからさ」


「「ファック」」


 オレの問いに対して、カニ君達はハサミをビシッとしながら返事をしてくれる。


「そっか、一緒に戦ってくれるんだな。ありがと」


「貴方ってテイマーの素質あるんじゃないのぉ?」


 テイマーか……なっつかしー。ゲームの頃にもいたっちゃあ居たけど、オレにはその職業のスキルや特性が無いからモンスターを従わす事は出来ない。……はずなんだけどなぁ。


 テイマーはモンスターと共に戦う職業で、スキルや声でのコミュニケーションを通してモンスターに命令やお願いを出す。テイマーの強さはモンスターに依存すると言われているほどモンスターに重きが置かれてる職業で、動物好きの層から絶大な人気のある職だった。本物の動物を参考にしたアルゴリズムを組んでいたらしく、現実ではお眼にかかれないようなモンスターと現実との謙遜無しに関われるからな。そりゃ動物好きの奴等はその職選ぶよ。


 なんならゲームをプレイするってより、空想上の動物をペットとして飼って見たいってことでプレイしている奴等も多かった。


 テイマーの職業についていた奴等を懐かしみながら、オレはふと思う。


 カニ君達って強いのか? この領域に生息してるからただの平べったいカニって訳じゃないだろうけど、どれくらい強いのか知らないぞ。


「なあ金髪、魔女。カニ君達って強いの?」


「えぇ……あんたモンスターに関しての知識無さ過ぎじゃない?」


 そういわれましても……。オレがやってたゲームには放送コードに引っかかるような言葉を言うカニなんて居なかったし……。ゲームの頃に居たモンスターのことならある程度は分かるけど……暴言吐くカニは居なかったからなぁ……。


「おバカな貴方に教えてあ・げ・る。通常種のクライブの爪はねぇ、一般人の指なら簡単に切断できるくらいには挟力が強いわよぉ。甲羅も硬いから中々割れないしぃ。変異種ともなると通常種の何倍も強くて、レベル50の戦士の指すら切断しちゃうのぉ、堅い外殻で重打も防ぐわよぉ」


「それにね、変異種のクライブには一番の特徴があるのよ。それはね、爪を高速で回転させる事が出来るの。それを使って通常種よりも早く穴を掘ったり、挟んだ相手の部位を引きちぎったりするのよ。飛ばして遠距離攻撃も出来ちゃうんだから」


「えっ……カニ君達めっちゃつよない?」


「「ファックファック」」


「えー、オレに比べたらってそんな。お前らも十分凄いから。

 でもそれだとゴライタスとかいう奴と戦うのは厳しいだろ、穴に潜って隠れる?」


「「ファック」」


「ハサミで穿つって……。ま、良いよ。危なくなったらオレがちゃんと助けてやるからな」


「クライブと普通に会話するの止めてくれないかしら?」


「何となく言ってる事が分かるだけで、完璧に理解してる訳じゃないから」


「何となく分かってる時点でおかしいのだけれどぉ?」


 あの時、あの眼でカニ君達を視界の外で見てたら何となく分かるだけ。あっちのオレがちょっとだけ蝕んだからなんとなく分かるだけ。


「ティリス、深く考えるのはやめておきましょう。私達までおかしくなりそうだわぁ」


「もうなってるけど……そうね。ゴライタスとも大分近づいたようだし、ここからは気を引き締めていきましょう」


 ゴライタスとか言う亀の反応はもう二百メートルも無い。流石に相手が巨体だからか、この二人もどれだけ接近してるかってことは理解しているようだ。


 ここは丁度良い位置だ。森の中に点在する開けた場所だから、大型の敵を迎撃しやすい。二人もそう思ったのか足を止めてこの場にて武器を構えている。


「……にしてもこの視界不良の中で戦うのかぁ……」


 見えないって事はオレの目が十全に機能するわけじゃないから嫌だなぁ。


「泣き言言わない!! キアルロッドさんはこの状況でゴライタスの首を一刀両断したのよ、私達も負けていられないわ」


 マジで何々だアイツ。度々一等級のひまわり組から絶賛されるほどにはやっぱスゲー奴なんだ。


「アイツスゲーなおい。……ん?」


 あれ? でもアイツが首切れるならオレでも出来るんじゃね?


 いや、油断は禁物だ。アイツは天才であり、純戦士であり、この世界で戦い抜いてきた経験豊富な騎士だ。その天才的な頭脳と確かな経験を持って強敵の首を落としたんだろう。


 やっぱりアイツは天才だぁ。バカなオレには真似できない芸当をやってのけるぜ……。


「でもやっぱこの霧邪魔だわ。どうにかなんねーかなぁ」


 オレはピウを片手で背負ったまま、前方に広がる霧に腕を伸ばしながら手で軽く仰ぐ。


 風魔法で風を流しても霧が循環するだけで吹き飛ばせる訳じゃないしなぁ。いっそ、オレを中心に爆発的な強風を起こして押し広げるように霧を周囲に押しのけるか?


 でもなぁ。それだと一時的に霧をどかすだけで、いずれは元の視界不良状態に戻るだけだしなぁ。これだけ濃い霧だと、押しのけても数分すればまた霧に包まれるだろう。


「いっそのこと掃除機みたいに霧を吸い込めればなぁ……。試しにやってみるか、すぅぅぅうううううううう え?」


「え?」


「え?」


「「ファック?」」


 嘘……だろ? 冗談半分で大きく霧を吸い込もうとしたら、オレの体全体がマジで霧を吸い込み始めたんだけど? 風も無いのに強烈な勢いで霧が集まってきてオレの周り全てが濃い霧に包まれてんだけど。


「ものは試しでやってみるもんだなぁ……じゃねーんだけど!?」


「何やってるのあんた!! ホントになにやってるの!?」


「何もっ……見えないわぁ!!」


「「ファック!! ファック!!」」


「んー……うるさいよー……。……なにこれ!? 紫色しかない!! あでも緑!!これキョーのバンダナ!?」


 不足の事態がいきなり起こったせいでオレ達はパニックになる。とにかく吸い込み止めないと!! じゃないと何も見えない!!


「ちょちょちょ、やめ!! 電源オフ!! 吸い込み終了!! 霧共も入ってくんなやボケェ!!」


 なにをどうすれば良いのか分からないケド、どうやって起こったかも分からないからケド、何もわかんねぇんだけど!?


 とりあえずオレは焦りながらも霧を吸い込むことを全力で拒否する。心の底からマジで断る。


 すると、何故だかどうしてか霧の吸い込みは終わった。周囲に渦巻いていた霧を全て吸い込み終わると、とりあえずは停止した。


 晴れた視界は、とってもクリアだ。霧に日光が遮られているから若干は薄暗いけど、それでも霧が無くなったおかげで周囲が良く見える。


 まるで霧をこそぎ取ったかのようにドーム状に晴れている視界には、灰色の木々と草、そして前方にはでっかい亀が写ってる。見覚えのある亀だなぁ。


「……ヴァアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 亀も驚いたんだろう、こちらと目が会った直後に、野太い怪獣のような唸り声を上げて大きく口を開けてる。


 そりゃそうだ。まさか急に霧がこそぎ取られて視界がクリアになり、オレ達と目が合うとは思っていなかっただろうから。


「でも待っててねでっかい亀。今はお前の相手をしてる暇は――」


「ヴァアアアアオオオオオオオオオ!!」


「不味いわ!! 魔法を使おうと――」


「うっさいんじゃいこのクソ亀がぁ!! 確かお前有益だったよなァ!! ピウ、ちょっと降ろすぞ」


「え? う、うん」


 オレの思考の邪魔をしてくる、クソデカ大声を出す亀に向かって、スローイングナイフを投擲する。


 そして――。


「<ナイフシフト>」


 即座にクソ亀の頭上を取る。


 こちとらお前に構ってる時間なんて無いんだよ!! 今は霧の問題考えたいし、この後に控えてるクソ強そうな亀を……おや? ゴライタスって言われてた反応ってコイツからするじゃん。


 前に討伐したことのある亀もクソデカだったな。んで、この亀もクソデカ。なにより金髪や魔女から聞いていた特徴と何もかも一致する。


 そっか、コイツがゴライタスだったのか。あの二人は強敵のような口ぶりで語ってから身構えてたけど、蓋を開ければこんなもんか。


「<下弦の蒼月><上弦の紅月>」


 だったらゴライタス問題終了!! オレは亀の首を二刀両断するとその首に乗って一緒に地面に堕ちる。


 背後では残された巨体がゆっくりと崩れ落ちていっているけど、んなことどうでも良いんだよ。こっちはもう過ぎた問題よりも今晒されてる問題のほうを思考したいんだ!!


「もしかしてオレって……掃除機だったのか?」


 ありえないことはありえない。だったらオレだって掃除機だという可能性も無くはないんだ。オレは人の形をした掃除機なのかもしれない。


 霧を吸い込める可能性としてあらゆる可能性から導き出した、一番高い可能性を考えながら、轟音を上げて首と共に地面へと堕ちる。


 それからすぐに背後でも、力を失ったゴライタスの胴体が地面へと叩きつけられた。


「なによ……コレ……」


「一瞬でゴライタスを討伐したっていうのぉ……?」


「ありえないよ、こんなことできるのキアルロッドさんだけだよ……」


 首が堕ちると同時に接近してきたひまわり組はおどろきの表情を浮かべながらこの光景を見ている。切断された胴体と首、そして首に乗ってるオレを見てくる。


 その表情は驚愕にも怖気にも似た、とにかく心底びっくりしたような表情してるけど――。首に乗ったまま言わせて貰おう。


「いや、いまそう言うの良いんで。聞いてくれよオレ掃除――」


「良いじゃないわよ!! どうなってんのよあんたの強さ!!」


「しん……じられない、わぁ……。嘘よね、これって夢?」


「キョー、あの動きなに……? 一瞬で移動したようにしか思えなかったんだけど……」


「ちゃんと話聞いて? いまそう言うの良いんで。聞いてくれよオレ掃除――」


「あんたが話聞きなさいよ!! 説明しないさい!! あんた大型の敵苦手って言ってたわよね!? もう苦手とか得意とかそう言う次元じゃないじゃない!! ありえないんですけど!!」


 ダメだ金髪がオレの話を聞いてくれない。


 ここはピウに話を聞いてもらおう。


 と、思ったけど、ピウはピウで訝しげな顔しながらゴライタスの死骸を観察していた。


「この切り口と殺り方……。あっ」


 そして何かに気付いたように小さく声を上げた。


「ねえピウ、オレって掃――」


「そっか、あのときゴライタスを倒したのはキアルロッドさんじゃなかったんだ。でもだったら、私が痕跡を見逃したっていうの? 違う、あの場に他者が介入したような痕跡は無かった。だったらキョーは私以上の隠密能力を……」


 ダメだ、ピウもなんかブツブツ言ってて話を聞いてくれない。


 もしかして、オレの話ってこの場じゃ不要な話題なのか?


 いやまだだ。まだ魔女が残ってる。


「魔女ォ!!」


「ッ!? え、なに、なにかしら!?」


 オレが大声で魔女を名指ししたところ、全身で驚きと困惑しながらオレを見て来た。


「オレって!! 掃除機!! らしいんだわ!!」


「……はぁ……? 掃除機?」


「あらぁ~、ここで間違ってるのはオレだったかぁ」


 おかしいなぁ。ソーエンとかシアスタとか、オレの仲間だったら絶対にこういう時は一旦話を聞いてくれるんだけどなぁ……。


 でもコイツ等は仲間じゃないしな。仕方ないか。


 オレは心で分別を付けながらゴライタスの首から飛び降りて、三人の下へと降り立つ。


 その瞬間、三人は同時に身体を大きく震わせてオレを見て来た。その顔は、化け物の類を見るものの表情だ。その顔は良く見知ってる。あっちのオレが人を脅すときに良く見る表情だ。やめて欲しい。


 今のオレはその表情はあんまし好きじゃない。折角由緒正しき一般人になってるのに、化け物として見られるのは嫌だなぁ。人と違うって言われているようでいやだ。


「あ、あんた……。なんでそんなに強いのに、私達からバカにされてヘラヘラしてるのよ」


「って言われてもなぁ……別にイラつかないし」


「強者の余裕ってやつ……ですか?」


 金髪は睨み身構えながらも、急に口調が変わる。


 余裕なんてものじゃない。元の世界に居た頃のオレやソーエンでも人型のお前らなら制圧可能だけど、今ゴライタスを倒したのは純粋にゲームの頃の力だ。その力をオレの力と思うほどオレは傲慢じゃない。


 でも最近分かってきたことがある。


 この世界の人型なら、以前のオレ達でも何の問題も無い。


「オレは余裕なんてもんはないくらいに一生懸命我慢して生きてるから違う。あとその口調止めて? お前が敬語使うと上下関係生まれたみたいで嫌だ」


「え? あ、はい……じゃなくて、うん……」


 今の力を見て格上だと錯覚してしまった金髪は、恐れていた存在から、オレから言われた言葉に困惑しながらもちゃんと口調を治した。オレは格上なんて立派なモンにはなれないんだよ。


「どうしてあんたみたいな強者が三等級冒険者で止まってるのよ。というか、それだけ強ければ絶対に名が轟いてるはずなのにイキョウなんて名前は一回も聞いたこと無いわ」


「ギルドにはレベル二十で登録してるし、特に有名になるようなことしてないしな。ってか止められてる。だから今の等級が適切だろ」


「してる? 止められてる?」


「まま、ここら辺は答えられない質問の部類だから。もし知りたいなら、この霧の中だし教えるけど……絶対に黙っててもらうからな。教える代わりにオレの協力者としてこっちに引き込むし」


「教えられなくても分かるわよ。レベルは確実に百超え、恐らく実力込みで百五十相当。しかもそんな成りでゴライタスを倒せるくらいには近接戦闘超特化型。どう? 合ってる?」


「んー、じゃ、それで」


「絶対違うじゃない……」


「ティリスティリス、キョーは戦闘特化じゃない。それなら私が絶対に痕跡を見つけてる。

 でもキョーはなんの痕跡も、足跡も気配も何も残してなかった。しかも私を簡単に補足できる。全てにおいて完全に私以上の隠密能力を持ってるよ」


 ピウは真剣な顔をしながら金髪に説く。


 なんかやだなぁ、この流れ。ソーエンや皆が恋しいな。


「はぁ!? じゃあこの人……じゃなくてこいつは近接だけじゃなくて隠密も私達以上って訳なの!?」


「いいえティリス、魔法も上よ。だから、この方は――」


「やめて」


「あ、え、ええ。この……お、おバカ?」


「それでいいよ」


「わ、わかったわ……。この…おバカ……は全てにおいて私達より上よ。つまり、キアルロッドさんに匹敵するか、それ以上の力を持ってるわ」


「う……そ。でしょ? そんあのありえないわよ……どう見たって私達より弱そうなのに……」


「でもそれが真実よぉ。貴方じゃゴライタスの首を一刀両断できないし、私は魔法で負けたし、ピウが認めてるものぉ。疑いようの無い事実よぉ」


 オレはひまわり組の言葉を聞きながらボーっと立って煙草を吸う。


 なんか居心地悪いなぁ。この疎外感というか、特別視というか。ソーエンが横に居ないから余計に感じる。


 ソーエンが居れば少しは面白おかしい空気に成れたのに、アイツが居ないからならない。


 あいつ今頃なにしてるんだろ。猫の出産上手く行くと良いなぁ。たぶん、上手く行ったらソーエンウキウキで通話かけてくるんだろうなぁ。あっちには博識なナトリと治癒魔法のスペシャリストラリルレも居るし、絶対に上手く行く。というか、上手く行かないような状況をソーエンが作るはずが無い。


 だから絶対に上手く行く。コレは希望的観測とか成功を願ってるんじゃない。マジで確実に、アイツが猫に関わるなら絶対に上手く行くっていう事実を知ってるから確信して言える。


「――!!」


「――――!!」


 ソーエンに思いを馳せていると、なんかオレの目の前では色んな事実確認とかありえるありえないだのの議論が繰り広げられてる。


 三人ともこっちを見て何か言ってきてるけど、どうでもいいんだよなぁ。こんな感じでどうでも良いと思ってしまうのも、横にソーエンが居ないからだろうな。あいつが居ればこんなつまらない状況は生まれなくて、もっと面白おかしい状況になってたはずなのに。


 なんか、もったいねぇな。


「おい」


「……んあ?」


 横から急に声が聞こえた。


 無愛想で遠慮なんて知らなくて、いっつもズケズケものを言ってくる刺々しい奴の声が。


 その声が聞こえてふと顔を向けると、いつのまにかフードとマフラーをして顔の見えない男が立っていた。


 ポケットに手を突っ込んで、偉そうに立ってて、話しかけるなオーラをびんびんに出してる男がな。


「んだよ、ソーエンじゃん」


 そう、ソーエンだ。ソーエンがいつの間にか居た。気配察知も<生命感知>も使うのを止めてボーっとしてたから気付かなかったわ。それに加えて、ナトリに送ってきてもらったんだろう。だから気付かなかった。


 そんな男を、ひまわり組は驚いた顔で見てるけどそんなの関係ない。


 コイツは今オレを呼んだ。その声はオレ以外が聞いたら不機嫌そうな声だったけど、オレが聞けば上機嫌そうでウキウキしている声なわけで。つまりそれは。


「良かったな」


「まだ何も言っていない。語らせろ。つまらん態度を取っているお前に朗報だ。

 ガルルとメイメイ夫婦の出産が上手く行った。一時は危ない状態だったが俺とナトリの猫知識、シアスタやセイメア達の協力、ラリルレの回復魔法が功を奏した。七匹だ、七匹も頑張って産んだんだぞ。あいつ等は良く頑張った、本当に良く頑張った。シアスタ達にも良いモノが見せられた。俺は今日という日を記念日にしても良いくらいには上機嫌だ」


「んなこと言われなくても分かってるよ。おめでとう、そしてご苦労さん」


「巫山戯るな、苦労したのは夫婦であって俺ではない。俺は何の苦労もせず、そして苦労とすら感じずずっと側に居られる」


「めんどくせー奴だなコイツ……。だったら今は側に居なくて良いのか?」


「ああ。夫妻の面倒はシアスタ達に任せてある。良い教育になるだろう。

 さっさと終わらせて帰るぞ、早くお前に見せたくて叶わん。お前が居ないせいで俺が日常でどれ程苦労してきたかを教えてやる。子猫の愛らしさと日常の苦労を同時に語ってやる」


「はー!? こっちの方が苦労してたんだけど!? っざけんなよ大親友が!!」


「くたばれ大親友」


「「はっはっはー」」


 そっかそっか、ソーエンも色々苦労してたんだな。


 だけどオレの方が絶対に大変だったからな!!


 ってオレ達は同じ事を思いながら肩を組んでお互いを労う。これよこれ、この感じがなきゃ始まらない。


「なに……これ。ってか誰……」


「この男と居ると訳分からないこと続きで疲れるわぁ……」


「……ずるい。私と居るときより楽しそう」

 

 なんか言われてるけど気にしにないわ。今のオレは上機嫌だから何でも許しちゃうわ。


「ふむ、この金髪と魔女は……まあ、いいだろう。今の俺は上機嫌だからな。イキョウが見逃したなら見逃してやる」


 ソーエンも似たようなもんで、ひまわり組のことを水に流した。ほんとうに、今のソーエンは本当に上機嫌なんだ。それが分かるのは、この場にはオレしか居ないだろう。


「ナトリは? 送ってきてもらったんだろ?」


「帰らせた。ラリルレやロロ、セイメアと一緒に子供達と猫のことを任せてある。あいつがあちらに居るならば何の問題も無いだろう」


「素直に言うこと聞いちゃうあいつ本当になんなの? そう言う義理堅いところマジで好きだわ」


「ああ。だから任せた」


「私達の話聞いてくれないわねぇ……」


「大丈夫かい!? ……ってイキョウに加えてソーエンもいるよ……。だったら大丈夫じゃん……」


「ありゃ、ソーパイセンも来てたんスね」


「あらぁ~、やっとまともにお話出来そうな方々が着てくれたわぁ」


 何かごちゃごちゃ消える声の中に、ヤイナの声も聞こえてくる。


 だからその声の方向へ向くと、キアルとヤイナ、そしてマイスウィートエンジェルボイスコロロが居た。


 三人は森の木々を抜けてこちらへと落ち着いた様子で近づいて来る。


「これはこれはソーエン殿、シャーユ以来でありますね」


「ああ」


「そっか、コロロはそっちで会ってるんだもんね。この前ぶりだねソーエン。ナターリア様に会うのは良いんだけど、無断で入るのだけはやめてくれない? 毎回裏で手続きする俺の身にもなってよ」


「そうか」


「うーんこの親友……。もっと返す言葉あるだろ」


「ちょっとあんた!! そろそろ答えなさい!! あんたって何者!? あとこの男誰!?」


「色々立て込んでるね~、まーた周りの話聞いてなかったねイキョウ」


「キアルテメェ何笑ってんだ?」


「はいはーいっス、とりあえず場の整理するっスから一旦あたしに従って欲しいっスー」

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