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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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36.それでもオレはバカなんだ

 ――ヤイナへの報告、そのときの会話を簡単にまとめると、モンスターの複製体に関してヤイナ的には『そう言うこともあるっスよね』というオレと同じような意見を貰った。でも、キアルとコロロの反応が知りたくてヤイナから伝えてもらったら、あっちもどうやら深刻そうな顔をしながら話し合ってるそうな。


 オレは情報を収集することは得意だ。でも、その情報を統合して結論へ至るのはヤイナに任せている。だからオレはヤイナに情報を渡すだけで良い。


 オレが情報を伝えると、ヤイナは必ず情報の中の情報を知ろうとする。例を上げるなら、オレが群の報告をしたときには共通点や差異が無いかを聞いてきたし、今回の複製の情報を渡したときは複製のパターンや同一個体と思われるモンスターは何体居たのかを聞いてくる。


 そんな会話が繰り広げられるから、オレはちゃんとした情報が渡せるわけで。


「っスねー。因みにっスけど、パイセンがこの情報に気付いた取っ掛かりは何スか?」


「調査初っ端に右目を負傷したトラと出合ったんだけど、次は左目を負傷したトラに会ったのよ。んで、最初はなんとも思ってなかったんだけど、オレの目って脳みそより優秀だから、そこで違和感を覚えたっぽいわ。

 負傷部位が反転してたから気付くの遅れたけど、よくよく考えてみたらあいつ等左右反転させただけで何もかんも一緒だったの」


「なーる。右目負傷一体、左目負傷三体って考えると、複製元は右目負傷個体っスね。複製元の個体はどっちの群に属してたっスか?」


「普通に暮らしてた個体群。オレをエサとして喰うために襲ってきたけど、複製された奴らは違う。殺すために襲ってきてる。だって殺意マシマシだったもん」


「じゃあ大分答えが見えてきたっスね。複製された個体群が防壁に向かってるっス。状況からの推察っスけど」


「そうなるよなぁ……。んでさ、歴代と今回の異常発生って原因同じだと思う? ここの原因が同じなら、今回を解決すれば今後起きるはずだった異常発生事態が永久的に起こらずに済みそうなんだけど」


「そーっスねぇ……。情報が少ないから断言できないっスけど、モンスターが徒党を組んで行動する時点で何かしらの原因はあると思うっスよ。

 ただぁー……原因が共通してるかまでは分からないっス。ごめんなさいっス」


「謝らないでくれよ。お前のおかげでここまで情報が絞れたんだからさ」


「っスねー……。あたし、度々思ってたんすけど、キョーパイセンとソーパイセン達ってやろうと思えばあたし以上に何でも分析できるっスよね? なんでいっつもしないんスか?」


「二人揃ってヤイナに甘えてるから」


「………………もう」


 チャット越しに、照れくさそうな声を上げながら切られた。


 とまぁ、そんなこんなで大分真相に近づいてきたわけで。今回の異常発生は、複製されたモンスター達が防壁を目指して特攻してることが明らかになった。


 何故防壁を目指しているのか、どうやって複製されているのかまでは分からないけど、調査一日目で集められる情報としては結構上質なものが出揃ったろう。


 浅層の調査、しかも初日でこれだ。自画自賛ながらも、オレは良くやってるほうだと思うよ。


「ねえ」


 オレが自分の行いを賛美していると、金髪と魔女が静かにオレの方へと寄って来た。


 その顔は何かを孕んでいるとしか思えないほどには、酷く冷静な顔つきをしている。


「あんたが合流してから急に色々な事が分かり始めたわ」


「嘲笑の仮面も気付いてると思うぞ? オレが特別なんじゃない。お前らが節穴なんだ」


「そんなのどうでもいいの」


 ――え? どうでもいいんスか? スッスー?


 なんだろう。金髪の顔が冷静すぎて怖い。てっきり食い掛かってくると思ったから、そんな返答されるとは思ってなかったわ。


「あんた、私達が護衛してあげるから、調査に集中しなさい。実力はゴミだろうけど、その観察眼は信用に値するようだからね」


「これは公平な取引よぉ。私達は事件解決の手がかりがつかめる。貴方は調査に集中出来る。無償で一等級の力を借りられるんだから、コレ以上ないくらいの好条件よねぇ」


 えぇ……。コイツ等目がマジじゃん……。


「なんでそんな必死なの? さっきまで喧嘩してたじゃん。喧嘩別れする流れだったじゃん」


「今日の今日まで何の進展も無かったの。この総魔の領域の問題は波及すれば多くの国々に被害を齎すわ。それなのに、本当に今の今まで何の進展も無かったのよ」


「おバカな貴方でも分かるでしょぉ? 私達には世界の命運が掛かってるのよぉ? 手段を選ばないとは言わないわぁ、でも、選んで良い手段があるならなりふり構わず使うわよ」


 なるほどなぁ。コイツ等は総魔の領域で起きてる異常に関して、進展が無くてやきもきしていたらしい。いや、コイツ等だけじゃなくて全員がやきもきしてるんだろう。


 そんな中で、オレが重要そうなヒントを二つも見つけたもんだから、金髪と魔女は本気になってオレの力を借りようとしているようだ。


 …………ほえ。何が護衛してやるだ、使うってなんだ。こちとらお前等が居ないほうが楽に調査進められるんだけど? ってかこのくらいの問題で命運だとかなんだとかほざくなや。こちとらもっと重い問題抱えてるんだからなぁ!!


「「ファックファック」」


 カニ達は二匹揃ってハサミを掲げながら、二人に向かって威嚇のポーズを取っていた。


「おお、このカニたちはオレの胸中を代弁してくれる。良く出来たカニだなぁ、ちょっとは心が晴れやかになったよ」


「それで、返事は?」


「カニ君達、ゴー」


「「ファックファック」」


「ふざけないで。あんたが断るなら力付くでも従わせるわよ」


 金髪は真剣な顔つきをしながら手に持った剣を構えてオレに向けてくる。それはまるで、脅すように、オレが言うことを聞かないって分かっていたから、元から力ずくで従わせようと思っていた風に、切っ先をオレに向けてくる。


「そんな見下されちゃあ、オレとしては従えないわ。ってかそんなに見下してるならオレに頼るなよ。剣を向けて脅すって事は、お前はバカバカ言ってた相手に頼るしかないけど、言うこと聞かないから最後の手段を取ったって現してるようなもんだぞ。

 一等級なら剣じゃなくて振る舞いで掛かって来い。威厳で示して見せろ。実力行使ってのは、言葉が出ないか、言葉を交わすよりも手っ取り早いからやる行為であって、上に立つ者がやって良い事じゃないからな」


「ほら、またあんたはそうやって粋がって言葉をダラダラ垂れる。言っても聞かないから剣を向けてるのよ。

 的外れの言葉を言ってるバカなあんたに教えてあげるわ。言葉を交わす価値もないから剣を向けてるの。あんたみたいなバカ相手に今まで言葉で合わせてあげたことを感謝しなさい」


「ここからは力の世界よぉ。残念ねぇ、私は優しさで対等な提案をしてあげたって言うのに、貴方はそれを無碍にしたんだのものぉ。

 おバカな貴方にも分かるように説明してあげるわ~、護衛担当と調査担当って関係は対等なのよ、私達、と、貴方、を対等にしてあげようとしたのよぉ。でも、ここからは屈服の時間。対等の提案は終わり。私達の指導と制裁を受けて、貴方はようやく本来の立ち位置に戻るの。後輩なら先輩の事は敬うものでしょ?」


 魔女も黒い含み笑いを浮かべながらオレに杖を向けてくる。


「……キンス、お前がアステルの代表するべきだって。旗印の方がよっぽどトップに向いてるよ」


 オレは、霧で遮られている空を仰ぎながら、アステル冒険者ギルドの二等級の面子を思い浮かべる。


 あいつ等の方が全然良かった。こんな奴等がアステルのギルドに居るって知ってたら、オレとソーエンはとっくにアステルを去ってただろうう。本当に、アステルで始めに出会った冒険者が、旗印や絶影、にゃんで良かったよ。懐が深くて、オレ達程度のやつ等でも尊重してくれて、優しく接してくれるお前等で良かった。


「勘違いしないで。キンス達や他の冒険者にこんな事はしないわよ。だって、皆はあんたみたいにバカじゃないもの」


「ね~ティリス。皆良い人達よぉ。だから貴方みたいな物分りの悪い残念な子には先達として指導を施さなきゃいけないのぉ」


「なぁピウ。これってホント? オレからしたらこの二人って、自分の思想と会わない奴等全員に問答無用で教育的指導してそうなんだけど」


「私達は一等級だから、皆のお手本になるよう振舞ってるところはあるよ。特にティリスはその気持ちが強いの。でも、実力行使するのはキョーが始めて。普通は話し合いで終わるもん」


「そっかそっか。オレが始めてかぁ」


 オレはピウの頭をポンポンとしながら教えてくれたことに感謝する。


 そのポンポンを受けたピウは、オレから離れると、両者の間に割って入って、短剣を構えた。……なんで?


「約束した。キョーは私が……ピウが守る。ティリスとレレイラも冷静になって。いつもみたいに皆で話し合おうよ、その方が良いよ」


「どいてピウ。そのバカには何を言ってもダメ。力で分からせないとどうにもならない」


「そうよぉ~、対等でも主従でもダメなの。隷属させるのが一番よぉ、私が骨抜きにしてあ・げ・る。抜く前に消し炭にならないでね~!! うふふ~!!」


 どうやらピウは、言葉を交わして説得するという手段を提案することによって、一生懸命オレを守ろうとしているらしい。


 うーん……ここでピウがコイツ等と争うことになると、パーティの関係に亀裂が入るかもしれない。


 ピウだけは大事にしたいから、そんな後腐れあるような状況にはなってほしくないなぁ。


 でもなぁ、オレの中にある相対的な規準では、こいつらに実力行使をするほどのラインを満たしてないしなぁ。


 こういう時って、絶対的な規準がある奴はどうするんだろ。他人に依存したライン設定をしていると、自分の取るべき行動があやふやになる。


 この世界に始めて来たときは楽だったなぁ。深く考えずに元の世界の規準を流用できたし、ここまで深く考える必要も無く日々を謳歌できていた。


 そのラインも、異世界の日々を過ごして少しずつ不和が生じ始めている気がする。この世界と元の世界は同じじゃないのに、それに加えて様々な重いイベントに巻き込まれて規準があやふやになってきた。


 アステルを離れてからだ。あの穏やかな土地を離れると、絶対に変なイベントに遭遇する。今は仲間が誰も居ないから、余計にズれていく。


 ただ唯一、命を奪う行為に関しては大丈夫だ。ソーエンと二人で有益と無益の規準を設けているから、そこは揺らぐことが無い。


 分からない。この世界に来てから、段々と自分の中で正しいと思っていたはずのラインが分から無くなる。


 だったら、殺さなきゃ良いんだ。ソーエンと決めたラインさえ超えなければ良いんだ。


 ここなら仲間が誰も居ないから、目撃者の封殺さえも簡単に出来るから、殺さなければ何をやってもいいんだ。


 ――――ああ、そっか。こんなに簡単なことだったんだな。


「止めろ……そうじゃないのかも。やったらダメかも」


 分からない。そのラインを設けたのは、破綻しているオレとソーエンだ。あの有益無益の規準さえも間違ってるのかもしれない。まただ。また上辺のオレと底のオレが混ざりそうになる。


「何一人でブツブツつぶやいてるの? ついに本格的にイカレたのかしら? それとも怖くなって命乞いでもしてるの?」


「いやぁ……。分からねぇんだ。何処がラインなんだ? 何が規準なんだ? オレは誰を参照すれば良いんだ? ここには誰も居ない」


「キョ、キョー? 様子がおかしいよ?」


 ピウはオレの顔を見ながらそんな事を言ってくる。


 でもなにがおかしいのかも、自分には分からなくなってくる。オレと人は違うから、何が違うのかも分からない。


「仲間がな、何をしたら否定してくるのかは知ってるんだよ。でも、どこまでがセーフなのかが分からない。悲しむような事って、怒られそうな事って、違うコトって、叱られそうなコとって、見放されるようなこトって何? 人の目が無いここじゃ、皆の表情が無いここじゃ、何を基準にすれば良いんだ? なんだろう。ズレてく」


 目が混ざる。


 皆はちゃんとした規準を持ってるから凄いよ。規準を持ててるから凄い。


 でも、オレって心底バカだからさ。ちゃんと言葉で言ってくれないと分からないんだよ。横に居て貰わないと、直接言ってもらえないと、分からなくなるんだよ。

 こういう風に、武器を突きつけられて脅された場合ってどうすれば良いの? 元の世界のようにして良いのか? それともやっちゃダメなのか? 教えてもらわなきゃ何も分からない。仲間が居ないから、おかしいソーエンが側に居ないから、何もかも分からなくなる。


 オレだけが脅されるのなら何度も経験してきた。でも、世界の命運背負って、総魔の領域の一件を解決しようとしていて、コロロに安心して欲しくて、ラリルレと一緒にお散歩したくて。こんな状況に陥ってる状況で脅された場合ってどうすればいいの? 初めての経験だよ。異世界に来てから初めてばっかりだよ。ごちゃごちゃしすぎてて分からなくなってくる。


 自分が何を考えているのかすら分からなくなってくる。何もかも、分からなくなっていく。上っ面のオレが、底のオレと混ざって行く。






 なあアーサー。オレを呼んだのは完全に失敗だったんじゃないか? お前が涙を流してくれた男は、世界が変わったくらいで何も分からなくなる不甲斐ない男なんだぞ。






 何処に規準を敷けば良いんだろう。それすら見失う。孤独の思考に沈むから、自分の中でしか反芻出来なくなる。思考が自分の中でしか反響しなくなる。


 ソーエン……そうだ。あいつだ。あいつだけは、絶対にオレにぶつかってくる。チャットであいつに聞けば――――。


 オレは、アイツ、の、言葉が、聞きたくて、手を、チャットに、伸ば


「訳の分からないことを言って時間を稼ごうとしてるの? でも確かに、口先だけしか取り得の無いあんたがやりそうなことよね!!

 仲間がなんですって? 規準が何ですって? はっ!! あんたみたいなバカがリーダーやってるパーティなんて、仲間の質も高が知れてるわ!!」


「ティリス、それは言い過ぎよぉ。質が良い方は居たわよ、顔の質、わねぇ。だから私が訂正してあげちゃう。

 貴方をリーダーに据えてるなんてみーんなおバカな頭してるんでしょうから、中身の質が知れてるって言ったほうが正しいわぁ。禄でもないおバカが集まっただけの、冒険者舐めてるなんちゃってパーティさん」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――そっか。こいつら、二度目だな。


 オレをバカにするのはまだ許す。だって、オレってバカだから。


 でも。オレが大好きな仲間達を侮辱するのは許さない。こんな上辺のオレが愛着を持った奴等は絶対に良い奴等だ。だから、そんな良い奴等を知らずに侮辱したコイツ等は絶対に許さない。


 もういいや。綻びかけてる一般人のペルソナは捨てよう。こんな仮面は剥いで、元のオレに全て任せてしまおう。

 ユーステラテスの一件ではまだ混ざってた。少なくとも、まだオレはこのオレを失っては居なかった。シアスタの為、双子の為、怖がらせたくなかったから。あいつ等にあれ以上泣いて欲しくなかったから。


「怯えて言葉も出ないようね!! だったら今すぐ降伏――」


「もう、いいや」


 初めてだな。この世界で元のオレだけをさらけ出すのは。シアスタ、双子、ラリルレ。ありがとう。お前達のおかげで、オレは普通で居られたんだ。ソーエンもありがとう。こんなオレの為に楔を作ってくれて。


 でも、ここには居ないから。普通じゃなくて良いから。もういいよ。


 そうしてオレは、全部をかなぐり捨てて二降りの漆黒のダガーを取り出した。


 捨てるなら孤独に、痛みさえもどうでも良くなって。

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