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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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35.〇。。クライブ

 口喧嘩開始からどれだけ経ったのだろうか。


 大声で喧嘩をしていたオレ達。こんなモンスター蔓延る領域で大声を出していれば当然――。


「邪魔!! あーもう何でこんなことになるの!!」


「そこのおバカと関わると悪いことしか起きないわねぇ。<フレイムバースト>!!」


「感知範囲内だけでも凄く沢山に囲まれてる。結構ヤバめかもー」


 ――こうなる。


 オレの周りでは大量に押し寄せてくるモンスターを切って刺して焼き払いがひたすらに繰り広げられていた。


 木々の隙間から押し寄せてくる大群、それを都度移動しながら迎撃を繰り返すこと幾度。


「がんばれー」


 オレは三人が囲む防衛ラインの中心でまったりと煙草を吸っていた。


「何も出来ないなら囮でも何でもしなさいよ!! ホント役立たずね!!」


「そう言う事言われると萎えるわぁ。何もしたくなくなるね」


「したくても出来ないでしょうにぃ、口だけは良く回るわねぇ。危機感あるの?」


「なーい。オレだけならどうにでもなるから全くなーい」


「キョーはそこから絶対に動かないでね、ちゃんと守ってあげるから!!」


「んー……ピウだけは絶対に連れて帰るからお前らは安心してくたばっとけ」


 どうやら一等級冒険者でも、絶え間なく押し寄せる変異種の前では厳しいものがあるらしい。


「信じられない!! この状況でよくそんな事が言えるわね!! もう良い!! アレ使うから皆伏せてて!!」


「だめよぉ、こんな所で使ったら深部の調査に支障が出るわぁ」


「そうだよ、切り札は取っておいて」


 ほえー、金髪は何かしらの隠し球を持ってるっぽいな。


 しかも三人は、この状況でも探索を続行することは確定らしい。この戦いで多少は消耗はするけど、調査を中断するほどの支障は出ないってか。流石は一等級様だな。


「何? 金髪って何か凄いの持ってるの?」


「話しかけないで!! あんたまで切っちゃいそうだから!!」


 金髪はオレに向かって、イライラしてる口調でそう言い放った。


 さっきはお前から話しかけて来たじゃーん。とは口では言わないよ。多分この反論したらマジで切りかかられそうだから。


 にしても……やっぱ違和感あるんだよなぁ。具体的にはモンスターに。


 襲い掛かってくるモンスターの種族は同じじゃないから、群れや特定の本能で行動してわけじゃない。


 同種の中でも全部に共通した何かがあるわけじゃないしなぁ。


 魔法を使うサル、複眼の狼、ファングボア、流動酸スライム、一つ目のでかくて丸い蝙蝠みたいな奴、浮遊する手、でかくてキモイ羽虫、白いトラ、硬いカタツムリ、プラントレント、変な鳴き声を発するカニ。

 

「ファック」


「オレこのカニが一番嫌いだわ。鳴き声が罵声にしか聞こえない」


 足元が掘られて、防衛線の内側に侵入して来た、五十センチくらいのカニ。それを踏み潰しながら文句を言う。


「そのカニはクライブー!! 個体によって鳴き声が変わるの!!」


 敵と応戦しながらも解説をしてくれるピウ、なんて優しいんだぁ……。


 ……は? 個体によって?


 ちょっと気になることがあるぞ。でも、また足元の土が盛り上がってきて――。


「ビッチ」


「うっざ」


「ザーコザコザーコ」


「声が野太いんだよ」


「マザーファ――」


「それはきわどいから先手で封じる」


 一気に現れた三匹のカニを、丁寧に踏みつけてあげる。こいつらマジうぜぇ!! さっきからこれだ、鳴き声が酷すぎて聞いてらんねぇぞ。


 オレの足元には土に半分埋まって絶命しているカニの死骸が四つある。移動しては潰して移動しては潰して。コレで計二十匹くらいは潰してるぞ。


 ただね、多分このカニが一番のヒントになりそうなの。だって……。


「ファック」


「てめぇだオラァ!!」


 オレはまた足元に現れたカニを、素でで掴んで地中から引きずり出す。


 こいつだ、コイツが直近で一番ヒントに近い。ってかなんなら、ここに現れたカニの鳴き声って、どれも全部一回は聞いてるぞ!!


「なに騒いでるの!! 一旦移動するわよ!! ついてきなさい!!」


「遅れても助けてあげないわよぉ。って……なんでクライブ持ってるのかしら?」


「いやぁちょっとね」


 オレは撤退の指示に素直に従いながら森の中を移動する。


 こりゃ都合が良い。モンスターが押し寄せてくるのがとても良い。あともう一匹カニを捕まえられれば、それで終わる。


 オレ達は四人で一斉に移動した後、再度防衛の陣形を組む。移動する理由は単純、モンスターの死体が邪魔になるからだ。だからその都度移動して万全に戦える状況を作ってる。


「ファック、ファック、ファファファック」


「このカニ何匹か捕まえてソーエンの部屋に放流しようかな」


 手でジタバタしながら攻撃的に暴れているカニを見ながらふと思ってしまう。


 そんな思考をしながら移動をしていたのも束の間。


「ストップ、ここで迎え撃つから!!」


「わかったわぁ」


「了解」


 金髪の一声で場所の移動は終わって再度迎撃の態勢に直る。見事なチームワークだなぁ。


 後一匹、あともう一匹さえカニガチャが当たれば良いんだ。


 戦ってる奴には目もくれない。オレは期待を込めて地面だけを見る。……キタ!! 地面盛り上がった!!


「ビッチ」


「お前だったかぁ」


 残念、外れてしまった。


 目的の個体とは違うけど、さっきお前を捕まえてればこれで終わってたんだよなぁ。ってことで潰す。


「マザ」


「だからそれは危ういんだってば!!」


 ってことで潰す。


「ファック」


 ってことで潰――。


「あー違う違う!! お前だよ!! お前を待ってたんだよ!!」


 流れ作業で潰しそうになったところを、オレは寸でのところで中止して腰を折り曲げる。


 そしてさっきと同じように地面に向かって手を伸ばして無理矢理に地中から引きずり出した。


「「ファック、ファック」」


「っしゃ、やっぱそうじゃん!!」


 二匹のデカイカニは、オレにつかまれながらワシャワシャ暴れている。


 このカニ、やっぱりだ。


「何また騒いで……ってクライブ増えてる!?」


「貴方ってカニマニアなのぉ? 偏屈な趣味ねぇ」


「クライブは臭み強いから食べられないよ?」


「違うから、バカ二人とピウは何か勘違いしてるから。お前等左目潰れてるトラいたら教えろ!! 絶対に殺せ!!焼くなよ!!跡形残して!!」


「はぁ? 左目? ってコイツじゃない」


「何言って……あらぁ~? この個体もよね?」


「スイッチレレイラ、私が殺す」


「「ファックファック」」


「このカニうぜぇ……」


 違和感の正体はコレだった。オレの目は、何度も同じものを見ていたんだな。高性能な目に脳が追いついていてないわ。


 後はトラだ、カニの次はトラだ。それで確信はより確信へと至れる。


 でもこの襲撃が終わらないとしっかり確認が行えない。


 オレの<生命感知>では、こちらに標的を定めている周囲のモンスターの反応は大分減ってはいる。反応は百とちょっと。あとこの移動と迎撃を五六回繰り返せば終わる。でも速く終わって欲しいわ。もう雑魚モンスターには興味ないんだわ。


「へいへーい、殲滅ってあとどれくらい掛かりそう?」


「っさいわね!! そんなこと私が分かる訳無いじゃない!!」


「金髪に聞いてねぇし。周辺情報知ってるピウに聞いてんだし」


「ホントコイツうっざーい!!」


「予想だけど三十分くらいで終わると思う。それまではキョーはクライブとお喋りしてて」


「「ファック、ファック」」


「えぇ……コイツ口悪いから嫌だァ」


 ピウの提案を受け入れるわけには行かない。オレは品行法制で清廉潔白な人間だからお上品な話し方しかできないんだ。


 だから、このカニは一旦地面に落として。


「<ロープバインド>」


 ロープで縛って、散歩に行く犬のように逃げられないようにしておこう。


 平べったくて大きなカニだけど、ロープバインドで縛るとこうなるのか。ロープは胴体の両脇に巻きついて、背中部分でバッテンが作られてる。そのバッテンの交差部分からロープが伸びていて、その先がオレのそれぞれの手に握られているんだ。


 あとは右手に握っているロープを左手に移して、二本のロープを片手で持って。


 空いた右手で仮面を被って。

 

「<煙幕>」


 それと同時にあたりに煙を撒き散らす。


「なにこれ!? 一体何が起きてるの!?」


「けほ、霧と煙で何にも見えないわぁ」


 お前等が見えてようが見えてまいが関係ないんだよ。ってかむしろ、お前らが居るせいでこっちは全力出せないんだからな。


 視界を潰して正体も隠した。これで下準備は整った。


「<ホーミングサンダー>」


 空いた右手を掲げて、指先から無数の雷を轟音と共に放つ。


 水中機動型ゴーレムと戦ったときにはあいつ等自体強いし、後に大ボスが控えてたからMP節約してたけど、雑魚しか居ない今ならコレくらい簡単に一掃可能だよ。制限解除且つ後を考えなくて良い。たったこれだけでオレはこの世界でも異常な戦い方が可能となってしまう。


 そんなんだから、カフスが規制を敷いたのも分かるよ。カフスとの約束が無かったら、オレはこの力を何も考えずに使っていたのかもしれない。先んじてその可能性を潰してくれたカフスには感謝しかない。規準を、外部から作ってもらえればオレだって従える。


「っと、そっちは違うから」


 オレは自分で放ったホーミングサンダーが、高速でカニに当たりそうになったので足で蹴って消滅させる。


 この魔法の効果は十秒間だ。でも、このモンスター達を殲滅するには三秒もあれば十分。殲滅が終わった雷は順次カニに向かって跳んでくるけど、それすらオレの目があれば対応可能だ。

 

 雷はキアルとの戦いで散々見た。初めから脅威じゃなかったけど、もう注視すらしない、流し見するくらいでいい。それくらい平凡な速度だ。


「邪魔な煙ねぇ!! <ジェットストリーム>!!」


 魔女は煙を消し去る為に風の上級魔法を使用して、強制的に煙を吹き飛ばしてく。


 風に流された煙は霧に溶けてどこかへと消えていく。そして霧も、一時的だけど少し薄くなって視界が多少は晴れた。


 万が一のために付けていた仮面はもう外しておこう。魔法の使用時にオレって認識されなければよかったわけだししな、もう必要ない。


 段々と露になる景色。それを見て、金髪の顔は段々と青ざめていった。


「なに……これ……」


「一体、何が起きたの……?」


 同じく魔女の顔も青ざめていた。


 原因は、目の前に居たモンスターが何かに穿たれて絶命していたからだ。それだけじゃない。周囲の気配も根こそぎ消えている。空気が、とても静かだ。


 全てが視界を奪われた一瞬の間に起きた出来事だ。何も把握していない状態で、この状況になったらさぞかし怖いだろう。


 でも一番の反応を見せているのは……周囲に蔓延るモンスターを捕捉していたピウだった。


「……」


 黙ったまま肩を抱えて身体を震わせている。目を見開いたまま、歯をカチカチ震わせて……。


 怖いんだろう。何も分からないまま、反応が一瞬にして消えたんだから。ありえないことが起きたんだから。


「ピウ、大丈夫だぞ。怖いことなんて何にも無いから」


 流石にここまでのを反応されるとは思ってなかったから、すっごく申し訳なくなる。


 だからカニを連れながらピウの側によって、肩を軽く叩いて落ち着かせようとした。


「キョー……ッ」


 ピウは不安げな顔になりながら、オレの名前を呼んで抱き付いてくる。


「「ファック」」


「このカニマジうぜー……。

 大丈夫だって。この土地って急に雷落ちたり竜巻起きたりするんでしょ? だったら急に砂塵が待っていつの間にかモンスター死んでることもあるだろうし、怖がる必要ないない」


「貴方、よく平然としていられるわねぇ、無知って羨ましいわぁ。それはもっと奥の方で起こる現象よぉ」


「今は異常事態なんだろ? 何が起こるか分からないんだから何が起きたって不思議じゃないじゃん」


「あー言えばこう言う……。あんたって減らず口が本当に減らないわよね」


「お前等頭固いんだって。起こったことを考えるのは後でも出来るけど、今起きてる事は今しか起きてないんだよ」


「頭の悪い考え方ねぇ」


「へいへい。ってことでコレ見てよ」


 オレはピウを片手で抱き締めながら、目で足元のカニを指す。


「「ファックファック」」


「バカにしてんの?」


「そうじゃねぇんだよなぁ……。このカニの鳴き声を踏まえてそっちの左目が潰れてるトラも見てくれ」


 オレはまた目で二人の注意を促す。その促した先には、屍となって地面に転がっている二体のトラが居た。


 証拠ってのはあればあるほど核心に繋がる。その証拠に気付けないほど、一等級はバカじゃないだろ。


「トラって……ガイラーね。そこら辺に居るような雑魚がどうしたって……あっ」


「これはぁ……まさか――」


 何かに気がついた魔女は、すかさずその屍に駆け寄って行く。それに続いて金髪も同じように行動を起こした。


 どうやらお前等も気付いたようだな。


 魔女はトラを弄繰り回しながらブツブツとつぶやく。


「傷の跡、牙の状態、歯列、耳の位置、足の長さ、毛の生え方ぁ……。全部同じじゃない……」


「で……でも、そんなことってありえるの……? まるで複製されてるみたい……。まだ、双子のガイラーが偶然同じ傷を負ったほうが現実味があるわよ……」


 魔女と金髪が言葉を交わしながら驚愕の表情を浮かべている。


 でもなぁ……ありえないことはありえないってソーエンから聞いたことあるしありえるでしょ。ここまで証拠が出揃ってるのに疑う方がおかしいわ。現実は素直に受け入れたほうが楽だぞ。


「キョー……」


 魔女の言葉はピウにも聞こえていたようで、さっきの殲滅と今のありえない現象があいまってまたカタカタと震え始めていた。


「そんな怖がるなって、オレがいるから大丈夫。昨日みたいにリラックスしようぜ?」


「う……ん。ぴゅふふ、キョーのニヤケ顔面白い。それってかっこつけてるつもりなの?」


 顔を上げてオレの顔を見て来たピウは、急に煽って来やがった。


 そっかぁ、オレって今笑ってるのか。意識しなくても勝手に動いてくれるこの表情筋には感謝だな。そのせいでシアスタからは頻繁に、顔に出てますよって言われるけど。


「いんや? ただピウに安心して欲しいから笑ってるだけ。ってかやっとその笑い方聞けたわ。ずっと隠してたでしょ、気になって仕方なかったわぁ」


「うそ……。今出てた? やだ、一生懸命隠してたのにー」


 ピウは目を一文字にしながらドヨヨンと落ち込んで、マフラーをギュッとしながら口元を隠した。もう何時も通りのピウだ。


 たしか、あの笑い方は恥ずかしいから隠してるって言ってたな。だから今日も一生懸命隠してたのか。


 ひまわり組って仲良さそうだから明かしても良いと思うけど……。いや、仲が良いからこそ隠したいことってのもあるのかもしれない。仲が良いからこそからかわれるのが嫌とか、イメージと違うから隠しておきたいとか、そんな感じだろう。


「そう落ち込むなって。ピウの笑い声って可愛すぎるからめっちゃ好きだぞ」


「だからヤなの……。私の掴み所がなくてで飄々としたイメージと全然違うじゃん」


「……え?」


「キョー以外にはそんな感じなの!!」


「あ……へい。そうだったんだ……」


 ピウは必死に訴えかけて来たから、オレはこう返答するしかない。


 そっかぁ、ピウって普段はそんな感じの雰囲気を纏って活動してたのかぁ。全然知らなんだぁ。


「キョーと一緒に居るときだけだからね!! こんな私見せるの!!」


「あー……い。あざっス」


「「ファックファック」」


「カニ君達は相変わらず口悪いな……」


 ってことで、オレはモンスターが複製されている可能性があることをヤイナに報告することにしました――。

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