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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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34.駄々子ねヤイナ

 イキョウがティリスとレレイラを相手に罵り合戦をしている最中。ほかの場所では。


「――ってなわけで、パイセンは早速有力情報掴んだっス」


 森の中ではヤイナがキアルとコロロへ報告を行っていた。


 三人は現在休憩中であり、キアルは木に寄りかかりながら、コロロは木の根に座りながら報告を聞いていた。対するヤイナは両手を組んで胸を乗せながら片足に重心をかけて立っている。


「凄いなイキョウは。まさかこんなに早くヒントを掴むなんて」


「パイセンじゃなかったら分からなかったと思うっス。あの人の感知能力だけっスよ、こんな視界悪い中あんな事が分かるの」


「ヤイナ殿はイキョウ殿がどのような方法を用いたのか分かっているのでありますか?」


「完璧に分かるっス。あーっ、でもコレって言っちゃって良いんスかね? どーなんでしょー、スススーっ」


 コロロの問いを受けたヤイナは両手を頭の横に当てながら眉間にシワを寄せる。


 ヤイナはイキョウが取った手段を理解はしている。しかし、それをおいそれと明かすのは良いモノなのかと悩んでいた。


「多分アレじゃない? イキョウが良く使ってる感知系の魔法かスキル」


「おお!! 以前、キアル殿がおっしゃっていたあれでありますか。魔力や生体反応以外の何かを感知しているとかなんとか」


「まあ、そんな感じのアレっス。それを何回かに分けて広範囲で使ったって感じっスね」


「広範囲ってどれくらい?」


「さぁー……あの人テキトーにやってそうっスから、想像っスけど……。多分半径一キロくらい?」


「んなアホな……。規格外過ぎるでしょ……」


「あのひまわり組のピウ殿ですら感知は二十メートルが限界と聞いてるのであります……。比べ物にならないでありますね……」


 ヤイナの話を聞いた二人はトンデモな回答に呆れながらも、心の中では(まぁ……イキョウだしなぁ……)と思う。


「きっとあんなヘラヘラヌラっとしてるパイセンだから呆れてるんスよね。もしこれがパイセンじゃなかったらどんな感じの反応するんスか?」


「俺は腰を抜かしながら、脅威的な存在が現れたことに対して対策を考える。広大な感知能力はそれだけで脅威になりうるからね」


「私は思わず放心してしまって言葉も出ないでありましょう」


「ッスよねー、因みにパイセンだから?」


「まあ、イキョウだしなって思える」


「イキョウ殿でありますからねぇ」


「ホンットあの人の評価って面白おかしくなるっスね。あの格好のせいでメチャクチャ損してるっス。

 ……悔しいっス!! あたしのパイセンがかっこ悪いみたいで嫌っス!!」


 自分が大好きな、カッコ良くはないけど蠱惑的な目を持つ、不思議な魅力があるイキョウの姿を想像してヤイナは頭を抱えながら駄々を捏ねる。


 あの、魔性な姿のイキョウが、ヤイナは大好きだった。もちろん、今の姿のイキョウもあの目のイキョウも全部、イキョウの全部が大好きだし、全部を大好きで居られるのは自分しか居ないと思っている。


 ただし好きだからと言って、かっこ悪い姿のせいでイキョウの評価がおかしくなってることを、ヤイナは認めていない。認めてないけど、あの男が自分の装備を嬉々として自慢する姿もなんだかんだ可愛くて好きだから止めろと強くは言えない。


「ジレンマっス。浅ましく卑しい強かなあたしの最悪なジレンマっスゥ!!」


「どうしちゃったのヤイナは……」


「さあ……? ヤイナ殿の言葉にあった『あの格好』とは、イキョウ殿の装備のことでありましょうか」


「ああ、あれね。アイツ四六時中あの格好してるもんなぁ。一回だけスーツ着てるところは見たことあるけど――」


「ホントっスか!? どうだったっスか?」


「バンダナしてたからねぇ。独特なスタイルとしか……」


「あんのバカパイセン!! どんだけ感性歪んでるんスかぁ!!」


「思えば、イキョウ殿がバンダナを外した姿を一度も見た事が無いのであります」


「それ言ったらソーエンもずっとフードとマフラーしてる――」


「あ、そっちの話はパスで。あたし何にも言えないんで」


「「えぇ……」」


 急に冷静な態度で話を遮ってきたヤイナに対して、困惑の表情を浮かべることしか出来ない二人。


「でも、イキョウより顔の見えないソーエンの方が気になるよ。寧ろソーエンしか気にならなくなってきたよ」


「気になるなら頭下げてでも見せてもらってくださいっス。

 あたしはキョーパイセンの話がしーたーいーのー!! ソーパイセンに関しては何にも言えないっス!! 言ったらあたし殺されるー!!」


「えぇ……。ヤイナが死んじゃうほどなら気にしないことにするけど……。というか、もしかしてヤイナってイキョウの事好きなの? 家の娘の恋敵?」


「好きっスけど、別にパイセンが誰と付き合おうがどうでも良いっス。全然恋敵じゃないから安心して良いっスよ、キアルロッさん」


「その考えわっかんないなぁ……どこに安心して良いのかも分からないよ」


「恋敵じゃないって所っス」


「そっかぁ……そこだけ聞けば良かったのか。おじさん分からなかったよ……今も何も分からないよ……」


「イキョウ殿はモテモテさんでありますねぇ」


 ヤイナの話を聞きながら、コロロはのほほんとしていた。まるでそれは、他人事のように。自分には関係ない話を聞いているかのように。


「ココロロちゃんも油断してるとコロっといかされちゃうっスよ。マジになったパイセンってマジでヤバイ系のマジヤバっスから」


「私はイキョウ殿に安らぎを与えてあげたいだけでありますから。恋愛とはまた別の感情でありますよ」


「あー……っスね。そっスねぇ」


 ヤイナは(それってもう、一歩手前っスよ)と心で呟きながらも、ニコニコ笑顔ののほほんとして自覚の無いコロロの事を可愛いなぁって愛でて楽しむ。


「あ、そうそうっス。そんでパイセンの話なんスけど!!」


「その前に……。ヤイナが大きな声出しちゃったから周りに色々寄って来ちゃったよ。一旦片付け――」


「うざ。一掃しろっス<ホーミングサンダー>」


 キアルの言葉を受けたヤイナは、両の指先から、計十本の雷撃を即座に発生させて木々の間に放つ。


 その衝撃は凄まじいく、雷の発生と共にヤイナの周囲には光と蒸気が巻き起こり、騎士達の鎧には振動が、ヤイナのスカートと髪の毛は衝撃の余波で生まれた風に勢い良く揺さぶられた。


 間近で突然、そんなモノを発動されたキアルロッドとコロロの二人は両手で顔を覆って、心臓を早打ちさせながら反射的にガードの姿勢を取ってしまうほどだった。


 <ホーミングサンダー>とは雷属性の上級魔法で、敵の反応を自動で追尾する効果を持つ。放たれた雷撃のレーザーは相手を貫通して、十秒の間ひたすらに敵を狙い穿つ。使い勝手が良い分威力は低くなっているその魔法は、ヤイナの魔法特化型ステータスによってキアルロッドの最強の魔法すらも凌駕する威力になっていた。


「あたしのパイセン語りを邪魔するなっス」


 冷たく暗い顔で冷静に言い放つヤイナの言葉は、魔法の轟音がこだまする森へと溶けていく。その言葉は誰の耳にも届かない。


「い……今のは……?」


「あたしのマホーっスよ。敵が寄って来たって言ってたんで周辺一掃しておいたっス」


 そう答えヤイナの口調は、普段通りの人懐っこい口調だった。


「これがイキョウ殿と同じ実力を持つ者の魔法の威力でありますか……。魔法に疎い私でも異常な事は一目で分かるのであります」


「ヤイナがイキョウの身内でよかった……じゃなきゃ今頃本気で危機感抱いてたところだよ。

 ……あれ? でも普段って能力制限してるんだよね、制限下で今の威力出せちゃうの? おじさんのプライドぽっきり折れちゃいそう」


「んな訳無いじゃないっスかー。危ないところの調査をするってことで、今のあたし達はカフカフちゃんに許可貰って制限解除中っスよ」


「そうだったのか……。頼もしいやら恐ろしいやら」


「いやいやそんなッス。どこぞのパイセン二人と違って、あたしはちゃんとした倫理観持ってるから人を襲ったりしないっスよ」


「そうなんだよねぇ、あいつ等ってどっかタガが外れてるから……。だから昨日の会談が怖くて怖くて仕方なかったよ」


 キアルは会談で起こった一件を思い出して、深くため息を付く。


 キアルがイキョウの側に控えていた最たる理由は、ブレーキが居ないあの場で、イキョウが好き勝手しないように監視することだった。


 全然思惑通りには行かなかったが、意外にあっさりとイキョウが引き下がったので、キアル的には大金星だ。イキョウが温厚な人間であったことに深く感謝しているほどには。


「そういえばキアルロっさん言ってたっスね、お偉いさんのお話し合いでパイセン大バカなことしてたって。あの逆張りパイセン何言われて逆張ったんスか?」


「そこまで酷くは言ってないけど……まぁ、いろいろ言われてたよ」


「結構、そう……白熱した話し合いだったのであります。私はああいった難しい話は苦手なので、聞く側に回っていたのでありますが……」


「もう、ね。神経すり減らしまくってヘトヘト。凄いんだよ? まずはイキョウがスノーケア様にね――――」


 休憩中ということもあり、キアルは長々と話して、まるで愚痴を吐き出すように昨日の情景をヤイナへ伝える。


 記憶力が良い故に、誰が何をどんな風に話したのかまで詳細に覚えているキアルは、それはもう懇切丁寧に話していた。


 その話を、ヤイナは呆れながら『まーたパイセンは』とか言って一歩引いた態度で聞いている。


 しかし、しかしだ。


 キアルが語り終わると同時に。


「ふーん、なるほどっスね……ハインツ」


 と、一言だけ、一瞬だけ、冷めた声で皇帝の名を発したことを、キアルとコロロは聞き逃さなかった。


「えっと……何がなるほど、なの……かな?」


 普段の態度からは考えられないほど冷たい声を聞いたキアルは、もしかしてまずった? と思いながらヤイナに問いかける。


「えー、あの人のバカさ加減に呆れてただけっスよ。ただそれだけっス。やっぱりパイセン舐められてる!! あのバカみたいなダッサイ格好やめて欲しいっス!! いーやーだー!! パイセンかっこ悪いー!! でもそれも良いー!! かーわーいーいー!!」


 ヤイナは元の様子に戻りながら、さっき以上に駄々を捏ねて灰色の草が生い茂る地面にジタバタする。


 その姿を形容するならばまるで、心からワガママを言っている子供だ。図体以外の全てが子供にしか見えない。


(イキョウの周りはクセが強い奴が多いなぁ……)


(あわわわわ、ヤイナ殿、下着、下着が見えちゃうのであります!!)


 その姿に先ほどの冷たさを強制的に忘れさせられた二人は、駄々を捏ねるヤイナをただ見ていることしか出来なかった。

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