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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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33.領域内の見えない差異

 調査のために探索を続けていると、もちろんモンスターに遭遇する。


 例えば、白いトラや。


「ほーら見なさい!! コイツはね、ガイラーの特殊個体で二等級冒険者のパーティが討伐するような強力なモンスターなのよ? 私は一撃で倒せるけど、あんたみたいな奴はすぐに食べられちゃうんだから!!」


「へーすげーなぁ。このトラ左目潰れてるぅー」


 例えば、金属の殻を纏ったでっかいカタツムリや。


「ド・ロ・ド・ロ。総魔の領域にいるケースネイルはねぇ、物理攻撃の態勢が高いのよぉ? でも生半可な魔法でも傷一つ付けられないの。でもでも~? 私ほどの実力者なら、有無を言わさずに溶かせちゃうわけ。貴方は逆にケースネイルの溶解液でドロドロに溶かされちゃうわぁ」


「へーこえーな。ドロドロのドロじゃん」


 例えば、木に擬態した人面樹や。


「ねーねーキョー、気付かなかったでしょ。コイツね、プラントレントの特殊個体でね、普通の個体より擬態が上手なんだよ。当然、私くらいのレンジャーになると簡単に見つけられるけどー」


 ピウは自慢げ、というよりは当然の事って感じの雰囲気を醸し出しながらオレに色々なことを教えてくれる。倒したモンスターの名前や特徴を、しっかりとオレに教えてくれながら討伐してる凄腕のレンジャーさんだ。


「へースゲー!! ピウマジ天才じゃん。ってかこいつの名前プラントレントって言うのか。さっきは変な木だなぁって思ってバッサバッサ切ってたわ」


「ふふふー、キョーはすぐ冗談言うんだからー」


「ねえあんた。私達とピウで露骨に態度違くないかしら?」


「そんなことないわの?」


 とまあ、こんな感じでオレが特にアクションを起こさずともひまわり組の奴等が敵をバッタバッタと切り倒してくれてる。オレはその様子を、後ろからボケっと見ていた。煙草を吸いながらだけどー。


 あいつ等が戦っている様子を見て分かった事はいくつかある。


 金髪は剣士系の戦い方をしているけど、たまに回復魔法も使っていた。メイン剣士のサブで回復仕込んでるタイプだな。


 魔女は話に聞いた通り強力な風と火属性の魔法を操ってた。


 ピウも予想した通り索敵や感知に優れてて且つ戦闘もこなせるタイプだ。


 三人は全員が戦えるし連携も取れている。実力も相当高いみたいで、諸々の能力を加味すると恐らく王国四騎士並かそれ以上だろう。でもそれまでだ、キアルほど強そうじゃないし、脅威にすらならない。


 ひまわり組の戦闘分析はここまで。これ以上見る必要はない、コイツ等ならこの程度の情報だけで良いわ。


 にしても……あいつ等が戦ってる敵も、オレが遭遇したモンスターばかりでコレと言った新しい発見はないな。どうやらオレは、この表層時点でのモンスター分布を網羅したらしい。


 一応、地形情報やモンスターの足跡や痕跡、空気の流れや気配諸々収集できてる。でも、その情報の中に原因に繋がりそうなモノは一切ない。もうこの深度で調べられることは調べたな。


「……いや、違うなぁ? 違うのかぁ?」


 背の高い灰色の木々が生い茂る森の中を歩きながらオレはつぶやく。


「どーしたの? キョー」


 オレが煙草を咥えながらノラノラと金髪と魔女の後ろを歩いていると、横を歩いていたピウが声を掛けてきた。


 なーんか戦ったモンスターに違和感を覚える。全部のモンスターじゃない、戦った中でも稀にその違和感を覚える奴が現れるんだ。


「違うのは違うんだけど、何が違うのかが分からないわ」


「バカみたいな発言ね。そうよね、あんたバカだもん」


「そう突っかかって来んなよ」


 前を歩いていた金髪は、態々振り返って悪態をついてきた。


「分かるよー。あるあるだね、直感的に何かを感じ取ってるんだけど、それが何かまで分からないって感じ」


「まさにそれなんだよなぁ……」


 ピウの言うことに同意しながら、頭の中にあるモヤモヤを探ってみる。でも、自分自身で何に気付きそうになってるのかが分からない。


 うーん……なんでしょ。


 オレは吸い終わった煙草をボックスにしまって、新しい煙草を咥える。どうして煙草って考え事をしてるときにパカパカ吸ってしまうんだろう。


「げ、まーた煙草吸ってるわ。それで何本目? ずっと吸ってるじゃない」


「苦言はまだ許す。止めようとしたらマジで許さん」


 オレは煙草に火を付けながら金髪へと反論する。


「随分ちっちゃい火ねぇ。私が点けてあげようかしらぁ? 特大の火でねぇ」


「もう点けたんで大丈夫ですぅー。ってかお前等って何処目指して歩いてんの? まさか闇雲に歩いてんじゃねぇだろな」


 一応、ひまわり組はさっきから迷わず一直線に歩いてるから何かしらの目的があって行動してるんだとは思うけど。


「バカなあんたと一緒にしないで。私達は前回調査を終えた地点に向かってるの、バカとは違って計画的に行動してるの!!」


「なーる。んで、今日明日はそっから先を調査する予定なのか?」


「一々確認する必要ある? それくらい考えれば分かるでしょ」


 金髪はふんっと良いながら前に向き直ってオレから顔を外した。


「トゲトゲしいなぁ」


「ティリスがあんなムキになってるの始めて見たー」


「オレはあの態度しか見たこと無いー」


 のほほんと横を歩くピウと言葉を交わしながら、オレものほほんと歩く。


 のほほんとはしてるけど、現在ピウは索敵をしながら歩いている。抜け目の無い奴だ。


 ピウの感知方法はオレの生命感知と似ていて、無属性上級魔法の<魔力感知>というものを使用しているらしい。半径二十メートル圏内を定期的に魔力のソナーでスキャンして、範囲内の魔力反応を感知するとか。


 魔力感知は習得した者でも通常なら五メートルくらいが限界らしく、ピウほどの広さをスキャンできる者はそう居ないらしい。ピウは天才さんだなぁ。


 ただ、ソナーを発するときに位置情報を得ているので断続的な情報になるとか。動き回る相手の位置を逐一感知する場合は、都度ソナーを発して短いスパンで位置を特定し続けるか、いっそのこと多くの魔力を消費して範囲を犠牲にスパンを極端に短くした狭いソナーを出さないといけないらしい。


 生命感知と比べると結構不便だ。オレの方は一度捕らえたら生命感知を切るまで捕捉し続けるし、範囲もやろうと思えば広大な町一つでさえ全てスキャンできる。


 ただし似ているところもあって、オレもピウも相手の存在を反応として捕らえるだけで、魂や魔力の強さや質は分からないって事だ。分かる事は対象のある程度の大きさと位置情報だけ。魚群探知機と一緒のようなもんだ。位置や体躯の大きさは分かっても、それ以上は分からない。


 ひまわり組がこの霧の中でモンスターに襲われても遅れを取らずに済んでいるのは、ほとんどがピウのおかげだ。視界不良の中、周囲に居るモンスターの位置や数を的確に捕捉できるのは相当な強みになってる。


 総魔の領域に入る場合は、索敵係が居るか居ないで大きく変わることだろう。


 どらどら、オレも見るもの見たし、そろそろ探知を再開するか。飯食い始めてから今まで索敵してなかった。飯はカレーとしっかり向き合ってゆっくりと堪能しながら食いたかったし、飯の後はピウの感知にまかせっきりだったし。


 まだ表層ではあるけど、ある程度進んで深度も変わってきたからな。ちょっと位は総魔に関しての情報収集を再開するとしよう。


「<生命感知>」


 オレは煙草を吸いながら小さくつぶやいて索敵を開始する。


 魂の反応を捕らえるソナー。そのソナーを発してすぐ、ひまわり組の三人がピクっと反応した。


「……あんた、今何かした?」


「いんや、何にも? 三等級冒険者なんで勝手な行動は慎みますよ」


「あっそ」


「う~ん、気のせい……よねぇ」


「なんかチョワっとした気がするー」


 オレの言葉を聞いた三人は、全員が気のせいってことで済ませている。まあ、それくらい本当に微弱な反応だったんだろう。


 一等級冒険者が三人揃って、何かしらされた気がするってのに気のせいで済ませてるからな。マージで常人は気付けないほどの弱弱しいソナーだ。


 そんな気のせいで済まされたスキルを使いながら、霧に覆われた森の中を歩く。


 モンスターの反応はもちろんある。でも何でだろう、この反応には大きく分けて二つの群が存在している。


 一つは城壁を一直線に目指して向かっている群。もう一つはその他の、言ってしまえば生物として当たり前の生活行動を取っている群。


 何かの目的を持って城壁を目指している奴等と、普通に生活してる奴等。この違いは一体なんなんだ?


 この違いに気付いているのは、多分オレだけだろう。この視界不良の地を広大にスキャンしなければ絶対に気付けないことだ。


 このことについてひまわり組へ報告は……しなくていいか。コイツ等とは行きずりの関係だから報告する必要はないし、なんなら今回調査に当たってる帝国や他の奴等と協力する気なんてサラサラ無いから、わざわざ上に報告する必要もない。


 するならヤイナとキアル、コロロだけでいいや。


 早速チャットで報告するか。


「あ、もしもしヤイナ?」


「どしたんスかパイセン」


 オレがひまわり組に特に何の断りも入れずにチャットを開始すると、金髪と魔女がギョッとしながらこっちを見て来た。


「え、何急に。どうしたのコイツ……」


「霧に当てられちゃったのかしらぁ?」


「違うよ、これはね――」


 訳を知ってるピウが二人に説明してる。じゃあ、こっちは無視してヤイナへの報告を続けるか。


「あのさ、多分だけどこの領域内のモンスターって二つの組みに分けられるわ」


 チャットでそういった瞬間、ひまわり組は驚きながら揃ってこっちを見て来た。でも無視だ。


「二つっスか? 何と何的な感じっス?」


「一つはひたすら城壁に向かってる奴等。もう一つは特記することが無いくらいに普通の生活してる奴等。今んとこ判明してるのコレだけ」


「その二つの群の違いは何かあるっスか? 例えば種ごとに分かれてたり、群ごとに共通するものがあるとか」


「たーぶん種族関係ないわ、特徴もコレと言って特には……。でもさっき違和感あったからそれが判明したらまた連絡するよ。キアルとコロロにも伝えておいて」


「じゃあ郡内の共通点もまだっスね。めっちゃ雑な報告っスけどそこそこの大発見っス。あたしの方でもその情報踏まえて調査してみるっス」


「へーい。よろしくなー」


「はーいっス」


 よし、これにて報告完了。チャット切って調査の再開を……。


 ひまわり組がメチャクチャこっち見てきてるぅー。


「ねぇあんた……」


 金髪は肩を震わせながらオレを睨みつけてくる。


「なんだよ……あ、今の魔道具だから。冒険者同士詮索は禁止な」


「そうじゃないわよ!! どうしてそんな重要そうな情報握ってるのに私達には報告しないわけ!? 信じられない!!」


「まずはこの場に居る私達を優先するものでしょぉ? そもそもぉ、どうやってその二つのグループが存在してることを見抜いたのかしらぁ?」


「ここに居たのがオレの仲間だったら優先してたよ。でも別にお前等仲間じゃねぇし、ってかお前らに何の期待もしてないし。だから情報も方法もおしえませーん」


「ピゥ……」


 オレの言葉で小さな囀りを上げながら肩を落としたピウ。


「訂正、ピウは別です」


「三等級の二十レベル風情がどの口して私達に期待してないとかほざいてるの!?」


「大方ぁ、私達が戦ってる様子を見て気付いたんでしょうね? とってもいい目をしてるわ、観察はお上手なようね。でもぉ、それって私達が戦って上げてたから気付けたわけよね?」


「はいそれ間違い。全部間違い。お前等と合流する前から何となく気付いてましたぁ。ようやく確信に至ったので今報告しただけでーすぅぅぅぅううううけけけけェ!!」


「ムッカつく口調してるわねぇ……」


「一等級でさ、しかも長い間調査続けてる癖に気付けないお前等が悪いだけなんじゃねぇの? 調査初日だってのに気付いたオレに感謝しろ無能一等級共!! やーいやーい」


「ぴぅ……」


「訂正。ピウは良く頑張ってます」


「あ、なた、ねぇ!!」


 おっとぉ? 金髪が顔真っ赤にしながら怒り始めたぞ?


 売り言葉に買い言葉だぞ。口喧嘩合戦の開幕だオラァ!!

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