27.朝ぎゃーぎゃー
帝国城横にあるワイバーンの発着場を目指すために、寝ているヤイナを抱えてホテルからでる。
そこには、約束をしたキアルとコロロが待っていた。朝っぱらから鎧に身を包み、準備万端のご様子で。
ただなぁ……。もう一組居るんだわ。キアルとコロロはそのもう一組のことを宥めながら、ホテルの前に立っていたんだわ。
「出てきたわねこの誘拐犯!! こっちから向かおうとしてたから丁度良かったわ!!」
「ね~え? ピウがまだ帰って来てないんだけど……何か知らないかしら」
そのもう一組はというと……ひまわり組だ。
生意気そうな金髪とイキリ魔女が詰め寄って来た。まさか朝っぱらから会うなんてなぁ……気配察知完全にオフにしてたから気付かんかったわ。
「朝っぱらうるさいですわの、近所迷惑ですわの」
まったく。この静かで透明な朝の時間に騒ぐんじゃないよ。オレの優雅さを見習えってんだ。
「ふざけないで答えて!! ピウを何処へやったの!!」
「はぁ? お前等一等級だってのに、仲間がこの三等級のオレにやられたって疑ってるわけ? もっと信じてやれよわの」
「あ・な・た みたいな雑魚にやられる心配なんてしてないわよ!! 仮面部隊の誰かに気取られたかもしれないことを心配してんの!!」
「尾行の件隠す気ないじゃん。言い分的にやましいことしてる自覚ある?」
「いいえ~? まったくこれっぽちも無いわぁ。貴方みたいな無礼千万の輩が失礼を語る資格ないわよぉ?」
「なあ魔女、あれやってあれ。殺すよって言って?」
「なぁに? 貴方もしかしてドM? いいわ、言ってあげる。私達を舐めてると、殺すわよ?」
「うっけけけけけっけっけけうー!! あー、サイコー!!」
「何コイツ……心底キモイわ……」
「生粋のドMのようねぇ……」
なんか目の前でドン引きされてるけど知らんわ。やっぱこの魔女おもしれー女だわ。
「うけけけ、がっはっはー!! っふぅー――――。笑わせてもらったお礼に教えてやるよ。ピウはな、あまりにオレが碌な情報を出さないってんで、姿を現してきてな」
「そんなはずないじゃない!! ピウは任務中、どんな理由があっても人前に姿を現すことはないわ!!」
「まってティリス……。この男なら可能性が有るんじゃないかしら……」
魔女は、オレのことを探るような目をしながら金髪に言っている。
「……!! 確かに……ありえるわね。そもそも姿を隠してまで探るような手段を取る価値はないってこと?」
「ええ、きっとそうよぉ。貴方ぁ、もしかしてピウに脅された?」
「部分的にそう」
「やっぱりね。うふふ、分かっちゃったわぁ」
魔女は自分の中で明確な答えが出たようだ。全てを理解できた風な雰囲気をかもし出しながら、それでいてオレなんて取るに足らない存在だと言いたげな視線を向けてくる。それと同時に、分かったように口を開いた。
「その腕に抱えているとっても可憐で可愛らしくて、いくら払ってでも夜を共にしたいような女の子は、この町でも高級ランクの娼婦ね?」
なんだろう。普通、ヤイナを娼婦って言われたらブチ切れるところだけど、この魔女に限ってはなんとも思わない。それどころか、何でか褒め言葉にすら聞こえてきたわ。
だって、この魔女目はヤイナをうっとりしながら見てたから。ワンチャン、欲が漏れ出る様な目で見てたから。
「そして貴方は生粋のドM。つまり、変態的なプレイをしてるところをピウに見られた。そしてその光景を目撃したピウは一緒に貴方を苛めるために夜を――」
魔女は途方も無い答えを自慢げに語ってるし、横では金髪が耳を塞ぎながらスン……とした態度で立っていた。
「待て待て魔女、まだ朝。そしてその想像は全然違うから。大外れ過ぎるから。お前の頭の中は欲しかねぇのか?」
「じゃあどうだって言うのよ!! 早く説明して!! ピウを開放して!!」
金髪は、魔女の語りが終わったと判断して、耳から手を離すとすぐに食って掛かってきた。
「酒呑んでたら寝ちまった。それだけ」
「だめだわ……貴方と話してても埒が明かない……。今すぐ部屋に案内しなさい!!」
「やだぁ……本当のこと話しても信じてもらえない。そんな心配すんなって、カフスやソーキスと同室だから変なことしてねぇから」
「ありえないわ。スノーケア様と同室ですって?」
金髪は半笑いになりながらオレの言葉に反論してくる。
「それがねぇ~、ありえるんだよ」
「キアルロッド様!?」
今まで我関せずの態度で、空を見たり装備を点検していたキアル。だけど、話が終わらないと思ったのか、ようやく口出しをしてきた。
「イキョウが大丈夫って言うなら大丈夫。それとも、俺のこと信じられない?」
「いえ……その……」
キアルは穏やかな微笑みを金髪へ向けながら話す。
対して金髪は、顔を背けてちょっとオロオロしながらキアルから目を逸らしていた。
「ここは俺を信じて、エントランスで待っててごらん? 朝御飯食べて無いようだし、ついでに食べてきちゃいなよ」
「は……はぃ……」
キアルが諭すと、金髪は大人しくなりながら話を聞いてる。
んー?
「ちょっと魔女」
「な~に?」
二人を横目に、オレは魔女にちょいちょいとやってこそこそ話をする。
「金髪ってキアルのこと好きなの?」
「貴方に教えるわけないじゃな~い。でも教えてあげちゃう。今すぐここで土下座してくれたら、ね?」
利用できそうな情報だったから知りたいけど、そこまでして知る必要ないしなぁ……。
「ここはさ、こいつ見たよしみって事で教えてくんね? 因みにコイツ、オレの仲間な」
「あらぁ……こんなに麗しい女性がぁ……先日貴方の仲間を貶した事は謝るわぁ……。ごめんなさいね?」
「欲にすなおー。一ミスは一ミスだけど謝罪は受け取るわ」
ただ、次はねぇからな。
「貴方を侮辱したくて間接的にでもこちらの可愛い女の子を侮辱しちゃったお詫びとして教えるわ~。ティリスはねキアルロッド様が好きってわけじゃなくて、落ち着いてて大人っぽい男性に迫られるのが苦手なのよぉ。照れちゃうんですって、可愛いわぁ~」
「マジか……。じゃあオレもダメじゃん、照れられちゃう」
「……っぷ、あっはっはっはっはっはー!! 無理無理無理よ!! 貴方の何処に落ち着いてるところと大人なところがあるのぉ? ふざけるのはその頭のバン――」
「レレイラ……、キアルロッド様の言葉を信じましょ。エントランスで大人しく待つわよ」
「あら? あら~」
いつの間にか説得が終わったのか、金髪は顔を真っ赤にしながら魔女の袖を強引に引っ張って連行してく。
顔真っ赤で俯きながら、そそくさと去るその姿。ただの女の子じゃん。
騒がしい二人が居なくなったところでキアルに目を向けると、微妙な顔をしながら立っていた。
「何その顔? ってか最初からあれやってくれよ、要らん時間使ちゃったじゃんか」
オレはキアルに対して言及をする。
オレが到着する前に、キアルが今の方法で窘めててくれれば良かった話だろ。
「いやね~……。ティリスはああいう子ってのはさ、前々から知ってるわけなの。だからそれを利用するのはなんだか良心が痛んでねぇ~……」
キアルはしみじみと、それでいてちょっとしょんぼりしながら言ってくる。
「昔は手段選ばなかったんだろ? 今もそうしろや」
「昔は昔、今は今さ。それに……ニーアと同年代の子を……ね? 垂らしこむような行為をするのは……ね? 娘が居る父親としては……ね? そんなことして嫌われたら……ね? 俺立ち直れなくなっちゃうから……ね?」
「んだこの親バカ!? お前そんなね?ね?繰り返す奴だったっけ!?」
「朝空が綺麗でありますねー」
現実逃避をしているコロロを横目に、オレはキアルが知らんうちにポンコツ極まってたことに驚愕していた。
――――――――びっくりしたってやつだ。