26.朝ぴうぴう
翌朝早朝、早起きして部屋のソファで煙草吸ってたらピウが起きて、それと同時にめっちゃ驚かれた。
「何で私ヤイナと寝てるの!? ってかスノーケア様と弟様まで居る!? どーして!?」
困惑しながらピウはしどろもどろになりながら、ベッドで上半身をあたふたさせてた。
「しーっ、皆起きちゃうでしょ」
「キョーまで居る!!」
「しーっっつってんだろ!!」
「……パイセン、うるさい」
オレの大声に反応したヤイナは、ベッドでめっちゃ不機嫌そうな声を出しながら文句を言ってこられた。その声は、眠いような、まだ寝て居たいような、むにゃむにゃとした喋り方だ。
「へい……すんません……。小鳥娘、ちょっとこっち来い」
「うん……。ヤイナ、怖いね」
「怖くないっスよー、ピウピウちゃんの声は可愛いんで全然おっけーっす」
そう言ってヤイナは本格的に寝入った。
「そっか……」
対してピウは、微妙そうな面持ちをしながらベッドを降りてオレの方へと向かってくる。
「ねえねえキョー、私ってもしかして寝落ちしちゃったの?」
ピウは寝起きだってのに、軽やかな身のこなしてソファの背もたれを飛び越えて、そのままストンとオレの横に落ちてきた。
「そうだぞ。頭撫でてたらいつの間にか寝てたわ」
「……ぴぅぅ。私酔いつぶれたんだ……恥ずかしい」
ピウはまさか自分が先にダウンするとは思ってなかったらしく、そのことを恥らいながらマフラーに顔を埋めて隠していた。
「全然恥ずかしがること無いだろ。んな初めてって訳じゃないだろうし」
「初めて……」
「ほぇー、じゃあおめでとうじゃん」
「心なしか、ちょっと頭痛いかも……。これが二日酔いってやつ?」
ピウは頭を少し押さえながら言ってくる。
「じゃない?」
「こっちも初めて……。なんで? どうしてキョーは平気なの?」
「オレの肝臓君は信頼できるやつだから。そんで一番信用できないのは脳味噌」
「意味わかんない……」
「いやー、昨日はメッチャ楽しかったわ。付き合ってくれてありがとなピウ」
「……うん、うん。私もね、すっごく楽しかった。キョーが居るとね、すっごく落ち着くの。今もね、つい警戒するの忘れちゃうくらいホッとするの。キョーがよわよわで良かった」
ピウは、マフラー越しに笑顔を浮かべながらこちらを見てくる。
なんか複雑な褒められ方だけど、ピウが良かったっていうんなら、それは良い事なんだろう。
「ピウ、また呑もうな」
「うん、また飲もう。……って、キョー、何処行くの?」
煙草を吸い終わったから立ち上がって歩き出すと、ピウから声を掛けられた。
「朝っぱらからやることがあるんだわ。おーい、ヤイナ。起きれー」
「起きないっス……チューしてくれたら起きるっス」
「キョーとヤイナって付き合ってるの?」
「「全然」」
「…そう…なんだ?」
ピウはソファ越しにキョトンとしながらオレ達を見てくる。
見られているオレはというと、ヤイナが寝ているベッドの側に寄り。
この色々とデカイヤイナの図体を、ベッドから引きずり出して、肩に抱えた。
「ぎゃー!! 最低最悪!! あたしとおふとんちゃんが離れ離れになっちゃったっス!!」
「コイツホントに低血圧かぁ? 喚くな、寝たきゃオレの肩で寝てろや」
「やだぁっス!! あたしにはフカフカでポワワなおふとんちゃんしか居ないんス!! なんスかこの肩寝辛ッ!! ガッチリ、姿勢最悪っス!!」
「ソーキスには好評なんだけどなぁ……」
「パイセンだっこ!! おんぶ!! せめて寝やすくして!!」
「じゃあ姫様抱っこで」
「っス!! これなら良いっス。すやー」
ぎゃーぎゃーうるさいヤイナの頭を身体に沿わせるようにして抱えると、ようやく静かになった。
こいつよぉ。寝る前に、今日は早く起きろって言っておいたってのにまだ寝てやがる。
「本当に二人は付き合ってないの? 普通の仲良いカップルにしか見えないよー?」
「全然」
「すやすやっス」
「そう……なの? かなぁ? ……もしかしてセフ――」
「じゃ、オレ達は出るから。一応寝る前にも言っておいてはあるけど、ソーキスに宜しく言っておいて」
「あ、え? 弟様にだけ? スノーケア様には良いの?」
「いいよ、聞いてるから」
「わぁ!?」
ピウは、カフスの声に驚いてちっちゃく飛び跳ねる。
隠密が得意なピウでも分からなかったようだ。カフスは最初にお前が起きたときの声で起きてたぞ。ただ、どうしてずっとベッドから動かないかというと……。それは、ソーキスが添い寝してるからだ。
カフスは、ソーキスと一緒に寝るときや膝に寝ているときは一切動こうとしない。理由は、まぁ、ソーキスが寝ている姿を可愛がって見てるんだろう。
この状態のカフスがベッドから起きるタイミングは二つ。ソーキスが起きたときか、朝ごはんの時間になるかの二つだけ。ご飯の時間になったら、ソーキスを優しく起こして、二人でご飯を食べに行くんだ。カフスは睡眠よりも飯優先のドラゴンさ。
「スス、スノーケア様!! 無断でお部屋に入った挙句、許可も無しに寝てしまって申し訳ございません!!」
ピウはきびきびとした態度でソファから立ち上がり、深々と頭を下げて謝罪をしていた。
「いいよ」
カフスはというと、ベッドに潜ったままピウの謝罪を簡単に許す。
「え?」
「いいよ。昨日は私も一緒にお酒飲みたかった」
「えっと……?」
「カフスは寛大で大らかだから許すってよ。三人で朝飯食って来いや」
「ん? あれ? そもそも何でキョーってスノーケア様と同じ部屋で寝てるの?」
「宿代の節約。じゃ」
「テキトーそうな返事……。ってか何処行くの?」
「ワイバーン便の騎手とっ捕まえて、自分の足で総魔の領域目指すわ。キアルとコロロも連れてな」
昨日、キアル達と飲んでいるときに、今日の移動手段を聞いた。
何でも、帝国側が用意したワイバーン便をいくつか使って、オレやキアル達、そしてひまわり組や一部の帝国騎士が一斉に移動するらしい。
オレはそんなの御免被るから、勝手にやらせてもらう。
別に、帝国側がまた何か企んでても潰せるから、用意されている手段に警戒をしている訳じゃない。
ただ単純に、ひまわり組や帝国のやつ等と一緒に行きたくないだけ。絶対難癖つけられて、不条理に問題を起こされるのがオチだ。まったくよ、こっちは一度は許す度量の広さ持ってるってのに、あいつらは心が狭くて適わない。
「えぇー……。私も一緒に行っちゃダメ?」
「ワイバーン便の定員は原則で四人。オレ、このむちむち、キアル、マイフェイバリットエンジェルボイスコロロを入れたらもう限界だわ」
「じゃあキョーの膝の上に乗る。私軽いし、そうすれば皆座れるよ?」
「一等級は一等級で固まっててくれ。もし無断でピウを連れてったら、まーたオレがイチャモン付けられる」
「んー……じゃあ、私が説得するからー」
「めっちゃ食い下がってい来るじゃん」
「だって……昨日楽しかったしー……」
ピウはもじもじしながら答える。
でもその態度は愛だ恋だというもんじゃない。ピウは初めて現れた、警戒する必要が無く、それでいて無防備状態で安心させてくれるオレに甘えてるだけだ。
初めて現れた甘えられる存在だからこそ、思いっきり甘えられなくて恥ずかしがってる、それだけだ。昨日は酔ってたから甘えてきたんだろう。
「そろそろ時間だから。総魔の領域でまた合おうな。そんで酒呑める時はいつでも呑もうな」
「うん……わかった……」
ピウは不服そうに答えながらも、手の平だけを小さく降ってきた。
オレはヤイナを抱えてるせいで手を降り返す事が出来ないから、言葉だけを短く返して部屋を出た。




