25.ハメを外しておやすみ
まあ、酒を呑んでる場にそんな物騒な出来事は無粋だから。
「おちつけー」
ピウが動き出す前に、オレは身体を倒してピウに体重をかけ、そして抱き締める。
これにてピウの拘束完了。
「止め……ぴう~、なんかキョーに抱えられると力抜けるー」
抱えられたピウは、ジョッキを持ちながら無抵抗に抱き抱えられている。そうそう、ラリルレが言ってた通り、ハグにはリラックス効果があるのよ。緊張状態に陥りそうになったピウも、これには逆らえまい。
「っスねー、あたしもキョーパイセンに抱かれたいっスよ」
そう言いながら、ヤイナはソファを回ってオレの横にストンと座ってきた。ピウを抱えて座っているオレの横にな。
「ねえねえ、キョー。この人誰?」
オレに抱えられたピウは、リラックスしたようにのほほーんとしながら右を向いてヤイナの事を見る。
「コイツね、オレの仲間。さっき連絡した奴」
「よろよろっス、あたしはしがないメイドのヤイナちゃんって言うっス」
「んー……色々聞きたい事あるけど……。キョーの仲間なら良いかなぁ」
「お前が良いならオレもいいや」
「これ。パイセンまた垂らしたっスね」
ピウお前……情報収集担当の癖に……なんては言わんわ。オレもなあなあで済ませたいことなんて沢山あるもの。でもなんでしょう。理由は分からんけど、オレはピウから無条件の信頼を得ているようだ。
まあ、細かい事を聞かれても適当に流すだけだから、聞かれないならそれでいいわ。
「ナトリは?」
オレは送り迎え担当のナトリが、どうしてヤイナを連れて来ただけで姿を現さないのかを聞く。
周囲にナトリの気配がないから、ヤイナを影から出してすぐに帰ったっぽいな。
コイツを運送してくるってことで、折角ならナトリとも一緒に酒呑みたかったんだけど。
「それがっスね、ソーパイセンと猫の見張りを交代する時間だったんで、あたしを放り出してすぐに帰ったッスよ」
「ホント身内には律儀なヤツ……」
「送るってなにー? そのナトリって人はワイバーンの騎手なの?」
ピウは、話題の一環として話しかけてくる。この質問に、探るような意図は全く無い。相当リラックスしてらっしゃる。
「そんな感じの、家のパーティで頼れるヤツ。超頭良い天才の変人で律儀な野郎だよ」
「ぴゅふふ」
「今笑うとこあった?」
「ッスー……パイセン、この娘めっちゃ可愛いっスね。なんすかこの小鳥が囀るような愛らしい笑い方は」
ヤイナはピウを見ながら、真剣な顔をしてオレに問いかけてくる。
「ピウはね、ピウだよ。よろしく」
ピウはというと、オレの足の間に座りながら、気だるげな眼をのほほんとヤイナに向けながら挨拶をした。
「ハアハア……。ロリ? いや……これはロリでありながら経験が多い気がするっス……。ロリビ……ノー、ビッチではないっスね……」
オレの横でヤイナは顎に手を当てながらブツブツと何かを言っていた。ぶっちゃけ怖い。
オレは酒を呑みながら冷めた目で横に居る性欲の化け物を見る。
こえぇ……。んだこいつ……、一目見ただけである程度の分析終えてやがる。
「ソーパイセン……これはノータッチに入らないっスよ。あたし、どうしたらいいんスかね、異世界サイコー」
まだブツブツ言ってるヤイナは、真剣な顔しながらふざけたことを言っている。……寧ろ、オレがどうしたら良いんだよ。
「よし。ピウピウちゃん、よろしくっス」
ヤイナは優しい微笑をしながらピウに手を伸ばす。その手をピウはのほほんとしながら取って握手をしてるけど……。なにが良しなんだろ、こいつの中で何の審判が終わったんだよ。
「さてさーてっス、あたしも呑んじゃうっスよ」
「ヤイナも飲める人?」
「そこの肝臓お化けには負けるっスけどね」
オレを化け物呼ばわりした性欲お化けは、こっちに向かって手を差し出してきた。
分かってるよ。ここにはピウが居るから、メイド服のお前は堂々とジョッキが出せないわな。オレにはこの外套があるから、どんな場面でもカモフラージュして取り出せるんだ。
「ほれ」
「あざーっス」
オレは外套の裏から取り出すように、予備の木製ジョッキを出現させてヤイナに渡す。
「ねーヤイナ、氷欲しくない?」
「っス? 別に自分……いーや、欲しいッスね!! ピウピウちゃんから出して貰った氷がめっちゃ欲しいっス!!」
何かを察したヤイナは、自分で氷が生成できるってのにわざわざジョッキを差し出してピウにせがみやがった。
コイツ……。シアスタに氷作ってもらったときは『何時にも増して美味しいっス!!』とか言って嬉々として呑みやがる。その言葉を聞いてシアスタも『むふー』とか言って自慢げにしてやがるからウィンウィンな関係ではあるんだろうケドさぁ……。
目の前では、ピウが律儀にヤイナのジョッキに氷を入れてるし。そんでヤイナは嬉々としながらそのジョッキに酒注いでるし。
ヤイナは並々と酒をジョッキに入れて、そのままグビグビと呑み始める。
「かぁーっ!! ピウピウちゃんの氷絶品ッ!! サイコーっス!! スへへ……」
ドデカイジョッキの半分を一気に煽ったヤイナは、豪快な声を上げながら下品な笑みを浮かべてピウを見てる。
多分、口と眼でピウを堪能してやがるなコイツ。
「やめて、オレのピウにそんないやらしい目向けないで」
「いやっスねー、愛でてるだけっスよ。こんな可愛い子が居るのに見ないって方が失礼っスからね」
「キョー、私可愛いだって」
「子供としては可愛いんじゃね? 顔面偏差値高いもんな」
「ぴゅふふ、キョーはヌラっとしててだらしない顔ー。この目おもしろーい」
そう言ってピウは、ジョッキを自分の膝で挟んでから両手でオレの顔を触ってきた。
その見上げてくる顔は、のほほんとしてるけど真っ赤に赤らんでいて……。コイツ結構酔ってね?
「お前大分酔ってるだろ」
オレは顔を目元をグニグニされながらピウに尋ねる。
オレには不安があった。オレやソーエンの前で酒が強いって言った奴等がオレ達二人のペースに合わせて呑むと、例外無く泥酔してダウンする。その姿を見てオレ達は『ああ……またか……』って思いながらちょっとガッカリするんだ。
オレ達と対等に呑める奴は居ないんだなって思って。
泥酔する奴等を沢山見て来たから、オレ達は泥酔しないようにしてる。ってか中々出来ない。泥酔するのにどれだけ酒が必要になるか分からないくらい、オレ達はザルだ。だから本当に、二人で泥酔したあの日は特別な日だったんだよなぁ。二人でパーっとやったからなぁ。
そんなこんなで、昔をちょっと懐かしんでいると。
「そんなことー、ちょっとふわふわするだけだよー。キョーが平気なんだから私が負けるわけなーい」
「ピウピウちゃん、この人と比べるのだけは止めた方が良いっスよ。肝臓ぶっ壊れるっス」
「ねーねーヤイナー。キョーの目面白くない? ダラダラタレ目ー、ぴゅふふー」
今のも笑うところあった? ……分かった。コイツ笑い上戸だ。酔うとずっと笑うタイプだ。
「分かるっスよ、パイセンってこのバンダナしてるとメチャクチャ腑抜けて見えるんスよ。ってかあっちに居たときもダサいキャップ反対に被ったりニット被ったりタオル巻いたりしててホント……この人ずっと頭に何かつけてるんスよ、ずっと府抜けて見えるんスよ!! たまーに髪縛ったり垂らしたりしてると別人に見えてビビルっス、この人イケメンじゃないんスけど魔性なんス、えっげつないほど魔性でかっこいいんス。……はぁ」
「何で不満そうに言ってくるの? オレはいつでもカッコイイでしょ。…………は? 今お前ダサいっつったか?」
「言ってないっスよ? 聞き間違いっス」
「だよなぁ、ごめん」
「ぴゅふふー!!」
おやおや、オレの膝では笑い上戸の小鳥ちゃんが噴出しながら囀ってらっしゃる。何が面白かったのでしょうね、笑い上戸だから何でも面白いのでしょうね。
「ねぇねぇ、なんでキョーはそんな格好してるのー?」
「なん……で?」
唐突にピウが尋ねてきた意味が良く分からない。
このオレの格好は怪しくもカッコイイという最高にクールな見た目をしてるはずだから、疑問を呈される謂れはないはずだぞ。
……いや、そうか。ピウが聞きたいのは、『どうして日常的にオシャレでカッコイイ服を着てるの?』ってことか。そりゃそうだよな。冒険者ってのは肉体労働だから、装備が汚れるのは当たり前だ。パッと見ではこの服装はカッコイイだけの汚す事が惜しい私服って思ってしまうほどカッコイイんだろう。
でもな、この服ってオシャレでカッコイイながらも性能はぴか一だから、戦いには適しているんだよ。
だからオレはこう答えよう。
「コレがオレを際立たせてくれるからな」
日常的にも、戦闘的にも、この服装がオレの最上の最高なんだ。
「ぴゅふ、ふっ、ふふ、ふっ」
「せめてそのバンダナ取れば……とは言わないっス。あーれはダメっスよ、安易に人前に出しちゃダメっス、特にあの目に依存させられる人多いっス」
「おねんねした奴等からちょくちょく言われるけどそれなんなの? 理由聞いても絶対に教えてくれないんだけど」
「あー……。気持ちは分からなくないっス……」
「ってかお前も言ってたよな。んで理由言わなかったよな?」
「っスねー……。……自慢するっスよ? あたしがパイセンを一番理解してるって自慢して良いっスか? パイセンと雑にお寝んねした奴等にマウント取りたいっスんけど」
「きーきーたーいー、キョーってそんなにすーごーいーのー? ぴゅふふっ」
「あっ、ピウピウちゃん今の会話がお酒の冗談と思ってるっスね? 良いっスよ、かわかわなピウちゃんにも教えてあげるっス。
パイセンの目を向けられると、独り占めしたくなるというか…………。というかというか、ぶっちゃけ独占したくてたまらなくなるんスよ。パイセン魔性っスよ、尽くしたくなっちゃうんスよ。あの孤独な目を向けられるとこの人には私しか居ないってなって、あの甘く優しい目を見ちゃうとこの人は私を受け入れてくれるってなるんス。依存したくなって、依存しても良いって思わせるんス。あたしも一時期はそう思ったっスもん」
「んー……良く分かんね」
「そりゃそうっスよ。パイセンがパイセン自身の目を向けられることは無いっスから。パイセン自身が知らないから、それがまた良いんスよ」
「オレの眼ってそんなもんかねー、良く分からんからやっぱ今のオレが一番だわ」
「そんなもんすよ、だから良いんスよパイセンは」
と言いながら、ヤイナは眉をひそめて困ってるけど、優しい笑みを浮かべながらオレを見てくる。その笑顔は理解しているからこそ満足そうで、満ち足りた微笑とも取れるのかもしれない。
そんでピウは――。
「それおもしろーい。キョーって女たらしだー」
頭を使わずに脊椎反射で、この場のノリが面白かったから何も考えずに楽しい方向に身を任せたような口調で話しながら、またオレの目元をムニムニしてきた。
分かる、メッチャ分かる。酒飲みの場って、楽しければ嘘だろうと誠だろうと、話題に乗っかるのが一番楽しいんだ。
でも待てよ? そんな通常時でさえ人を魅了してしまう目を持ってるオレなんだから、今の歴代最強にクールで最高にカッコイイ姿をしているオレが人を魅了できない訳が無いじゃないか。
魔性とかっこよさが合わさったら最強のはずじゃん。ソーエン並みとは行かないまでも、オレだって女の子からのお誘いあっていいはずじゃん。なのに、アステルでは女性陣から避けられてるんだけど? 今のこのカッコイイオレは女の子からのお誘い受けたことないんだけど?
「え? ヤイナお前、もしかして嘘付いた?」
「っス――――。ソーパイセン!! 翻訳プリーズっス!!」
「ぷりーずー。ぴゅーふーふー」
「なるほど……この場で理性保ってるのはオレだけか」
「っス……確かにあたしも酔い始めたっスけど……」
何かを言いたそうにしたヤイナだったけど、すぐに表情を変えるとオレに肩に寄りかかってきた。
「ま、パイセンっスからね」
その顔は、やれやれって言いたそうな顔で、仕方ないなぁって表情でオレを受け入れるような態度をしてきてて。まるで、何も言わずに遠まわしに甘えられてるようだった。その理論が分からないけど、とりあえず頭撫でとくか。ヤイナがこうするってことは、撫でて欲しいってわけだから。
ヤイナの頭を肩に寄せながら、右手でヤイナの頭に雑に手を置いて適当に擦る。
「ススス、えへへ……」
「なにして……ずーるーいー。私も撫でてー」
「へいへい。三等級冒険者が一等級様の頭撫でますよ」
「いーもん、キョーはリラックス出来るから等級なんてどーでもいー。労って、撫でて私を癒して」
「へーい、色々お疲れ様ですよ」
「ぴぅ~」
オレが手を頭に置くと、ピウはジョッキをテーブルに置いてオレに身体を預けてきた。
そしてそのまま段々とオレに体重が寄って来て、体から力が抜けていってる。これは……寝るな?
案の定、そのまま撫でてると、数分も経たずにピウはオレに全身の体重をかけながら小さな域をしながら脱力する。つまり寝た。
ハイペースに酒を呑んで酔った挙句、その酔いに身を任せて睡魔に堕ちた。
案外早かったな。もっとオレと一緒に酒を呑んでくれるのかと思ってた。ちょっと残念だな。
「パイセンに撫でられて、ピウピウちゃんの寝息を聞けて。来た甲斐があったス……」
ヤイナは心底リラックスしながら、穏やかな表情と声色でそう言ってきた。
「ヤイナも寝るか? 急に呼んで悪かったな」
「スへへ、えへへ……そう言う易しさはキュンと来るっスよ」
「どうでもいいけど、ピウどうすんだよ。こいつの泊まってる所しらねぇぞ。送れねぇわ」
「どうでも良い……最悪っス……。あたしの乙女心バイバイっス」
ヤイナはスっと身体を起こすと同時に、覚めた表情と低い声でそう言ってきた。
「パイセン、ピウピウちゃん頂戴っス」
「あいよ?」
覚めた表情のまま、ヤイナは冷たい瞳でオレを見ながら手を伸ばしてきた。
言われるがまま、オレはピウを持ち上げて、そのままヤイナに渡すと。
「ふん!! 不貞寝するっス!! そこのベッド借りるっスよ!!」
ヤイナは怒りながら立ち上がって、ピウを抱っこしながらソファを離れた。
「こういうホテルで無断宿泊するのってどうなの?」
「知らないっス!! 何か言われたらその分のお金はあたしが払うんで!!」
「めっちゃ怒ってるじゃん……」
「そう言うとこっスよ!! パイセンに女の子が居着かない訳は!!」
ヤイナはプリプリ怒りながらピウをベッドに寝かせて、ちゃっかり自分も添い寝しながら布団を被って寝の体勢に入った。
「別に居着いて欲しいわけじゃないからなぁ……。なんならワンナイトが一番良いわ。そっちの方が性分に合ってる」
「最低!! 下種!! 女の子を性欲満たすだけのモノとしか見てないゴミっス!!」
「ヤイナぁ」
「っス!!」
やっべ、完全に拗ねてる。布団越しに不機嫌そうな声で返事された。
でも、これだけ言っておこう。オレが無理矢理呼んだんだしな。
「来てくれてありがとな」
ごめんないとありがとうを言う事は大事。それは知ってる。だから言っておこう。拗ねられても、これだけはちゃんと言おう。この言葉は口に出さないとな。
「……っす」
拗ねてたから返事が無いと思ってたけど、ヤイナから小さい返事があった。そして、意外にもベッドから出て、スタスタとオレの横まで戻って来た。
ストンと横に座ったは良いけど、ヤイナは唇を尖らせながら、顔を赤らめてそっぽを向いてる。
「パイセン」
ヤイナはそっぽを向きながら、机に置かれていたジョッキを持ってオレに突き出してくる。
ってことは、拗ねてたのに酒に付き合ってくれんだな。
「ヤイナ、ありがと」
これは素直に嬉しいから、ちゃんと氷を入れてからジョッキに酒を注がせてもらう。
一人でダラダラ呑むのも好きだけど、誰かが居る方がもっと好きだから。それが仲間なら、より嬉しい。
「……ふんっ、そんな優しい声で言われてもあたしはまだまだ拗ねるっスよ」
酒を注いでも、ヤイナはそっぽを向きながらジョッキに口を付けてそう言ってくる。
「拗ねてても良いから、まだ寝ないで欲しい。お前が横に居るとそれだけで酒が美味いんだ」
「……パイセンのそう言うところほんと嫌いっス!! ずるいっス!! 嫌い!! ホント嫌いっス!!」
ヤイナはようやくこっちを向いて、頬を膨らませてムーっとしながらオレを見てくる。
「その方がいいよ。こんなポンコツはさっさと見限って他に行けって」
「だから、そう言うとこなんスよ……。……好きっスよ」
ヤイナは膨れながら、またオレの肩に身体を寄せてきて、すりつくように寄り添ってくる。そして、剥れながらも甘えるように言ってくる。
「あたしがパイセンを嫌いになることは無いっスからね。一生好きっス、ずっと好きっス。どうせあたしも結婚できないっスから、老後まで二人で過ごそうっスよ。元の世界でした約束っスから……」
「…………」
「どうしたんスか? パイセン」
ヤイナは不思議そうにオレを覗き込みながら見てくる。
「ああ、いやな。お前なら絶対良いやつ見つかるから、その約束は無理だなって思ってさ。ってかセイメアとかどうなのよ、めっちゃ仲いいじゃん」
「っスねー。あの透明感溢れるきゃわわさに一目ぼれしたっスけど、あたしが押し付けることじゃないんで……男でも女でも、メアメアちゃんが幸せになれる相手を見つけたならあたしは応援するっスよ……好きの隙を見つけたら逃さないっスけど――。ってか、なんならパーティの皆で今の楽しい生活がずっと続けば、それだけであたしは幸せっスよ。毎日ハッピーっスもん」
「まあそうだよなぁ。そもそも、オレ達って現代っ子だから結婚とか遠い未来か、半分幻想ってところあるしな。むしろ結婚したら幸せになれるとか全然思えんわ」
「っスよねー、仲良い人たちとシェアハウスして一生過ごす方がまだ現実的なところあるっス。だから、あたしは今が一番楽しいっスよ」
「なー」
「ねーっス」
オレ達二人は、お互いに顔を見ながらお互いに同意をする。
そしてそのまま酒を呑んで、一息つく。
オレはジョッキを机に置くと、そのまま煙草を口に咥えて火を点けて煙を肺に含んだ。
二人で身体を寄り添いながら無言で夜の時を過ごす。オレは煙草を含んで、ヤイナはジッとオレの体に体重を預けてくる。この無言は嫌いじゃない。
区切りが無ければ、ずっと二人きりでこのままで居られる。でも、区切りがあったらこの時間はすぐに終わる。
灰皿に押し当てた煙草の吸殻が時間を告げると同時に、部屋の扉から鍵を開ける音が聞こえて来た。
その音に続いて声が聞こえてくる。
「ただいま」
「ただただー」
声の主はカフスとソーキスだ。
入り口から続く廊下を歩く音が聞こえてきて、次第に二人が部屋へと足を踏み入れてくる。
その寸前にヤイナは身体を起こして、何も無かったかのように平然としながら姿勢を正してソファに座りなおした。
「あれー、ヤイナだー。やっほー」
「やっほーキスキスちゃん、おいでーっス」
「いくー、ヤイナふかふかで好きー」
ヤイナが腕を開くと、ソーキスは特別な反応も示さずにトテチテと小走りしながらヤイナの方へ寄って来た。
「ふへー、ふかふかむにむにー」
「あぁ~、キスキスちゃんの抱き心地サイコーっスー」
オレの横ではむちむちがぷにぷにを抱き抱えて、二人してのへーっとしている。
その姿を薄っすらと微笑みながら、ふらふらーっと近づいてきたのはカフスで。
「ヤイナ、来てたんだ」
「実は来てたんスよー。カフカフちゃん、お勤めご苦労様っス」
平然と会話しながら、オレの膝の間にちょこんと座ってきたのはカフスで。
「なんで?」
「疑問に思うなら、何で止めないんスか?」
「いや……経験上止める意味無いって知ってるから」
「イキョウは慣れてる」
「ふへー、おにいさんはボク達で慣れてるー」
「慣れてるなら疑問を言う必要は……ま、いいっス。パイセンってそう言う人っスからね」
「カフス、酒呑む?」
「飲む」
「キスキスちゃん、おっぱいに顔埋めるっスか? ってか埋まって欲しいっス、ぎゅーぎゅーぎゅぅってしたいっス」
「あーい」
オレは新しく取り出したジョッキに、酒を注ぐ。
ヤイナは横で、ソーキスを抱き締めて体全体であのプニプニを堪能していた。
「ぐへへっス、ショタ欲求と男の娘欲求を満たせるのはキスキスちゃんだけっス……ノータッチじゃないんス……」
クッソ下品な顔をしながらヤイナはソーキスを抱き締めてる。ソーキスは無抵抗でヤイナのむちむちに身体を預けてた。
「お前……ホント……」
「ショタと男の娘って、実質女の子なんすよ。でも女の子じゃなくて、男の女の子で男の子なんスよねぇ。これもまた良いっス……」
「わっかんねぇわぁ……」
「イキョウ、ハインツとの話し合いどうだった?」
カフスは弟がヤイナの欲求を満たすために抱かれてると知らずに、普通に酒を呑みながらオレに尋ねてくる。
「んー、めっちゃ平和的に終わったわ。円満解決」
「ん、良かった」
「逆にカフス達はどうだった? ご婦人と一緒に色んな所行ってきたんだろ?」
「食べ歩きと観光してきた。シーライサは凄い、色んなところ知ってた。知らないお店有った。食べ物も、雑貨も、装飾も」
「そっかそっか」
「レストランでお話してたら遅くなった。沢山お話できた。ありがと、イキョウ」
カフスはオレの膝の間に座りながらお酒を呑んで、抑揚の乏しい口調でお礼を言ってきた。
「別にお礼されるほどの事はしてねぇよ、成る様に成っただけだから」
「ん。ありがと」
「だから別にお礼されるほどの事はしてないって言ってんじゃん。人の話聞かねぇやつだなお前はよぉ」
人の話を聞かないドラゴンは、そのままオレの膝の間に座って酒を呑み続けた。
カフスから今日あった色々な事を沢山聞かされて、オレも明日のことを伝えて、その後カフスはソーキスと、オレ、ヤイナはそれぞれ風呂に入って仲良くご就寝。
ピウが寝てる件については、ざっと大まかに『オレやヤイナと一緒に酒を呑んでたら寝ちまった』って言ったらカフスとソーキスはあっさり納得してそのまま寝た。
相も変わらずカフスはソーキスとで、オレとヤイナはピウとな。
広い部屋、二つのデカイベッドで五人がでスヤスヤとしましたとさ。