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働かざる者も食う権利はある

 家を貰って数日、夜の食堂でオレとソーエンは酒を呑んでだべっていた。

 ほろ酔い気分、良い気分。


「でさぁ、オレ思ったんだよ」

「何をだ」


 木製のジョッキを片手に、向かいに座っているフードを被ったソーエンが尋ねてくる。


「不労所得を得られるようになれば、働く時間を安全に減らせて仲間捜しにもっと時間を使えるんじゃないかって」


 ソーエンと同じ木製のジョッキを右手に持っているオレは、空いている左手でナッツをつまみながらソーエンにオレの天才的な思い付きを教えた。


 テーブルの上には軽くつまめる食べ物と酒瓶、灰皿が乗っている。

 晩飯を食べ、風呂に入った後だからもう腹に溜まるような食べ物は要らなかった。

 シアスタは風呂を上がるなりすぐに、師匠に手紙を書くからと部屋に引っ込んだから、今食堂にはオレ達二人しかしない。


「そんな簡単に得られる訳無いだろ」

「チッチッチッ~」


 指を振ってソーエンの言葉を否定する。

 確かにソーエンの言う通り、そんな簡単に出来ることなら皆やる。

 でも。


「オレ達にはこの世界に無い知識があるだろ?」


 オレは振った指をそのまま頭に持っていってとんとんとする。


 そう、ここは元の世界とは別の世界。魔法とか言うよく分からない力によって独自の文化が発展している部分はある。しかし、オレ達の世界よりも科学的側面の発展は遅れてる。なら、元の世界での知識を流用し、この世界でも需要がありそうなものを作れば一儲けできるのではないかとオレは考えた。


 って、ソーエンに伝える。


「色々侵害しそうな気はするが」

「この世界でパクったところで元の世界にはバレないって。大丈夫だ、バレなきゃいいんだよ」

「方々に喧嘩を売るような発言は聞かなかったことにしといてやる。具体的な考えはあるのか」


 さっき不労所得のことを思いついたから、具体的な案はまだ考えていなかったな。

 何かあるかな。元の世界にあってこの世界に無く、かつ需要がありそうでオレにも作れそうなもの。


「具体的……例えばマヨネーズ量産するとか」


 この世界でマヨネーズは見たことないし、あれ美味いからバカ売れすんだろ。


「作り方を知って言ってるんだろうな」

「多分……色的に生クリームで……味の方は……なんだろ、ヨーグルトと、塩?」

「お前、本当にマヨネーズを食べたことがあるのか」


 ソーエンはオレをありえないような目で見て来る。

 そこまでか?


「しょうがないじゃん。材料知ってるわけ無いじゃん。お前こそ知ってるのかよ」


 コンビニやスーパー行ったらすぐ買える物だし既製品で十分美味いから、自分で作ろうだなんて思ったことが無い。


「知らん。店に行けば簡単に手に入る物を態々作ろうとは思わん」

「はい理由同じー。ボツ、マヨネーズボツで。他の案考える」


 オレ達は料理人やグルメでもなく、料理が得意って訳ではない。なのに作り方を知らない料理をこの世界で広めようなんて土台無理な話だったんだ。

 そもそも料理に限らず、作り方を知らない物なんて作れる訳が無い。

 何か、シンプルでオレ達でも作れそうなもの……。うーん。


 オレが頭を働かせている間、ソーエンは黙々とナッツと酒を嗜んでいた。


「本!! 本なんてどうだ?」


 文字を書くだけならオレ達にだって出来る。

 この世界の本はまだ量産技術が無いらしく高価だから、客層は上流階級がメインだ。一発当てれば相当印税が入ってくるだろう。


「元の世界のアニメやマンガ、小説からちょいと話を拝借してオレ名義で本を出そう」

「盗作か、感心しないな」

「マルパクリはしないからセーフ」


 だって、完全に暗記してる訳じゃないからオレなりのアレンジを加える予定だ。


「お前に本が書けるとは思わんがな」

「やってみなくちゃ分かんないだろ」


 確かにオレは今まで小説なんて書いたことが無い。生きてきた中で一番長く書いたものはレポートで、二番目が読書感想文の男だ。

 でも、何事も試してみなきゃ分からないこともある。もしかたらオレは未来の文豪になれる才能を秘めている可能性だって無くは無い。


「だったら、試しに俺が今からすることを小説風に表現してみろ」


 可能性を試す機会がとんでもなく早く訪れたぞ。


「やってやろうじゃないか。オレの言語能力に恐れおののけ」

「期待はして無い。とっとと始めろ」


 開始の合図と同時にソーエンは左手に持った酒を口に運ぶ。


「ソーエンは酒を飲んだ。おいしそう」

 ソーエンは酒を飲んだ。おいしそう。


「そしてナッツを食べた。味はナッツ味だ」

 そしてナッツを食べた。味はナッツ味だ。


「ソーエンがこっちを見る」

 ソーエンがこっちを見る。


「ソーエンはそのままオレに呆れたような目を向けながら、深く息を吐いた。恐らく、ソーエンはオレの文学的表現に感動をして思わず感嘆の息を漏らしてしまったのだろう。当然だ。おバカなソーエンは――」

「止まれ」


 折角オレが素晴らしい文学を披露しているっていうのに、ソーエンは無粋にも遮ってきた。


「前半はアレだったが、後半は饒舌になったじゃないか。お前の(うぬ)には惚れ惚れする」


 自惚れと惚れ惚れを掛けたのか。


「ほえー、面白い言葉遊び。バカにしてんだろてめぇ」

「あの国語力でよく分かったな。お前のバカにされた言葉全集でも出せば売れるかもしれん」

「その本出した場合、著者はお前にしておいてやるよ」

「だったら安心だ。お前に本は作れないから世に出る事も無い」


 くっそ、あーいえばこう言ってくるじゃないか。

 怒りたい。怒りたいけど今は考える場だ。云わば企画会議みたいなもんだ。そんな場で怒るほどオレは子供じゃない。


 とりあえず本を出す件は保留にして別な案を考えよう。


「別案提示しまーす。トランプ作って一儲け」

「却下。この世界の紙はカードに出来るほど上質なものではない」

「オセロ」

「却下。店で似たような物を見た。すでにこの世界にある」

「将棋」

「却下。ルールを知らん」

「ミートゥー」

「だったら初めから言うな」

「石鹸」

「すでに風呂場にあるだろう」


 その後もオレは案を出したがことごとくソーエンに却下を喰らい、ついにオレの脳細胞は停止を迎えた。


「…………」


 オレはオーバーヒートした頭を冷やすようにテーブルに突っ伏し、ナッツをポリポリと虚しく齧る。ついでにチーズも齧る。


「オレ、理解したよ……」

「何をだ」

「オレを構成する要素、ゲーム関連以外の部分はこの世界じゃなんにも役に立たねぇ…」


 これまで生きてこれたのも、このゲームの体とアイテムが有ったからだ。てか、その二つさえあればオレじゃなくても生きていけるだろう。

 しかも、その力が借り物って……。虚しい。


「役に立たなければ生きている意味は無いのか?」


 ソーエンは何かいいことを言おうとし始めている。させるかよ。


「そこまでは言って無いじゃん。別に生きるのに誰かの役に立つ必要なんて無いし。オレが生きた結果、偶然誰かの為になったくらいが丁度良いし」


 絶対こういうニュアンスのことを言おうとしていただろうからオレが先取りさせてもらう。

 これはオレの理論じゃないけど、ソーエンにマウントを取るためならオレの理論にしてやる。


「はい勝ち。オレの勝ち!!」


 先取り気持ち良い!!

 ……こういうちょっかいを出すだけでオレの中の虚しさは簡単にどっか行ってしまう。とんだお気楽脳ミソだ。


「立ち直ったならさっさと酒を飲め。酒も時間もまだまだあるのだからな」

「……見透かしてやんの」


 変に長い付き合いだからオレはソーエンの感情が大体分かるし、その逆もまた然り。その感情に対してもどうしたら良いか知っているし、色んなラインだって分かってる。


「で、次はどんなバカ話を始めるつもりだ」

「そうだな……クランで面白かったエピソードランキング作ろうぜ!!」

「いいだろう。のった」


 不労所得会議の末、なぜか自分の無力さを思い知らされたオレだけど、別にそんなことでへこたれたりはしない。

 自分が楽しく生きていく。そのために生きる。だから、今楽しく飲んでいるオレは生きている。

 バカ話も生きるためには必要だ。

 何度も過ごしたこの世界の夜は、そんなバカ話で盛り上がってまたいつものように過ぎていく。

第二幕の書き溜めが順調に出来たので、来週辺りから公開します。

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