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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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22.冷めたなら居る意味は無い

 * * *


「ちょっと今の言葉は聞き捨てなりませんよ、皇帝陛下」


 イキョウを背に、キアルロッドは何時も通りの飄々とした様子でハインツに語りかける。が。言葉を返したのは粗暴な見た目の厳つい騎士、ダグラスだった。


「そこをどけキアル!!」


「やだよ~、やめようよダグラス」


「お前が邪魔しようがよ、そいつを腐りきった根性ごと叩きき切るくらい訳ねぇ!! 目だ、そいつの目がどうにも鼻持ちならん!!」


「分かるよ、分かる。腐ってるよね」


「国の、周辺国家の一大事ってのにヘラヘラしてやがるのがイライラする!! 力の無いくせにふんぞり返ってるのも気に食わん!!」


「ダグラスってそういうの嫌いだもんね~。……でもねぇ……。ここは話し合いをする場なんだ。俺達も話し合いにおける立会人としてここに居る訳。

 そっちが暴力で領分を越えるんだったら、中立の立場捨ててイキョウ側に付くよ」


「チッ……、これを見越してそこの雑魚はスノーケア様が居なくてもイキってたって訳か……ふんっ!!」


 ダグラスは剣の柄から手を放し、キアルを睨みながら鼻を鳴らす。


「キアルロッド君。君はそこのバカの味方なのかな? それとも世界の味方なのかな? 頭の良い君なら、どんな選択肢を取る事が平和に繋がるのか理解できるよね」


 それに続くように、ハインツは湾曲的にそこをどけとキアルロッドに言い放った。


「陛下。お言葉ながら、スノーケア様を愚弄するような発言をする者が正しいとは到底思えませんよ」


「勘違いをしないで欲しい。私はカフス殿を心から尊敬はしている。でもね、私が一番に優先するのはこの国だ。この国のためだったら、私の行いによってカフス殿に裁かれることも辞さない。必要ならば命だって差し出そう。

 その覚悟を持って……いや、その覚悟を持たなければならないほど、総魔の領域の問題は重いんだ」


 ハインツの言葉は嘘ではない。この男が最も大事にしているのは自分ではなくこの国の未来と行く末だ。その為だったら何だってする覚悟はある。


 だからその覚悟を持って、今回は様々な領分を越えている。


 普段だったらそれでよかっただろう。今回以外であれば智謀の策略だっただろう。しかし、その行いの全てが間違いだったってことを本人は知らない。イキョウを相手にするに限っては、全て裏目に出ていることに全く気付いていない。


「ハインツさまはこんな覚悟までしてこの場に居るってのによぉ……。その雑魚は何だ? 終止煽るような態度で話すわ、ずっと喧嘩腰でへらへらしてるわ……事の重大さが分かってるのか? そこのバカはよ」


 ダグラスは、キアルロッド越しにイキョウを睨む。しかし、睨まれても尚イキョウは、口に煙草を咥えたまま何も反応しない。


「チッ」


 キアルロッドの影に隠れて何もしてこないイキョウを見て、ダグラスの中にさらに怒りが積もる。ふてぶてしく影に隠れやがってと怒りがふつふつと沸いてくる。


「ダグラスさ、間違っても手を出してこないでよ? 王国騎士のトップと帝国軍のトップが争ったら国交問題になっちゃうから」


「じゃあ、私達が手を出さなければいいのかな? ね、ひまわり組くん」


 現状を落ち着いた様子で傍観していたひまわり組は、その声でようやくこの場の舞台に上がる。


 ハインツの言葉を受けて口を開いたのは、パーティーのリーダーであるティリスだった。


「先の言葉、私達は聞き逃す事は出来ません――――が。あれは私達に向けた脅迫と取れば納得は致します」


 国の主に噛み付くほど、ひまわり組は愚かではない。一等級であろうと結局は冒険者であり、国を治める者と身分を比べることなどおこがましいことなど、誰から言われるまでも無く知っている。


 特に、こういった場では言わぬ駆け引きというものが重要となり、時には聞き過ごす必要もある。しかし、この場においては『聞き過ごし』で無視する事は出来ない。


 ティリスは思う。もしこの男の身をボコボコされ、その姿をカフスの前に晒すようことになれば、カフスは確実に悲しむ。そんなことは絶対にさせない。


 自分達がそう思うことを皇帝は理解しているからこそ 『カフスに知られたくなかったらイキョウをこの場で御す為に力を貸せ』といった、遠まわしな脅しをかけてきたのだと、ティリスは無理矢理納得する。


 あれはあくまでもカフスに向けた言葉ではなく、自分達を動かす為に発せられた言葉なら無理矢理納得は出来る。


 ティリス等が敬愛する、偉大なるスノーケア様に向けた言葉でなければ、他国の王が発した言葉に怒る必要は無い。


「ですが、私達も他国の者に剣を向けることは出来ません。特にキアルロッド様が相手では無理です」


「じゃあそこのバカだけだったら出来るかな?」


「もちろんです。同じ冒険者のよしみとして教育をする、という名目でボッコボコにします」


「協力するわよぉティリス」


 ティリスと共にレレイラが立ち上がる。その横では青髪の少女、ピウが誰にも聞こえない声で『私は遠慮するー』と呟いていた。


「ははっ!! だってよキアルロッド君。この場の障害になってるのは君だけだ。

 そこをどいて、この場で彼に一言『協力させていただきます』って言わせれば全部丸くおさまるんだよ? カフス殿は悲しまないし、多くの国や民が救われる。

 なのにどうしてそこのバカを守るんだい? 全く意味が無いじゃないか」


「騎士道精神ってやつですよ。弱きを見過ごしては騎士の名が廃りましょう」


 愚か者を切り捨てて、国や民を救おうと言ってくる皇帝。キアルロッドはその言葉を飄々としながら受け流す。


 しかし、心の中では――――。


(やめてくれ……本当にやめてくれ……。イキョウ怒らせたらどうにも出来ないから!! 最悪あの変な目されて全部壊されちゃう!! お前等全員縊り殺されるから止まって!!)


 と、必死になって叫んでいた。


 そう。キアルロッドはイキョウを守ってるのではない。むしろ、イキョウ以外の命――この場に居る自分とコロロ以外の命を必死に守ろうとしていたのだ。弱きを見過ごすの弱きはイキョウの事を言っているわけでは無い、この場に居るその他全員の事を言っているのだった。


「君のその高潔な精神には敬意を表するよ。でもね、それでは救えないものがあることは君だって分かってるはずだ。

 もし君が自分の手を汚したくないなら私達だけでやろう。というか、人類種最強の肩書きと君の手を汚させてしまうのは私としても避けたいね。

 出てっていいよ。ここは私達に任せて」


「いえいえ、一度見てしまったら見過ごすことが出来ないんで遠慮しときますよ」


(不味いな……。これどうすればいいんだ? 俺としてもイキョウに協力はして欲しいけど、無理矢理頷かせる様な事はしたくない。そして、こいつが素直に言う事を聞くような奴じゃないって事は重々承知してる。

 こんな状況になっちゃったんだもん、絶対コイツが首を縦に振る訳無いじゃん……)


「もういいぜキアル。考え纏まったから」


 悩みに溺れそうになってるキアルの肩を、イキョウが軽く叩く。


「えっ、イキョウって考えまとめるほどちゃんと思考できるの?」


「お前ぶっ飛ばすぞ?

 いいかお前等ー、良く聞けー」


「なによ、ビビッちゃって協力する気になった? 怖くなちゃった?」


「煩いぞクソメスー」


「はあ!?」


「あははっ!! ティリス君は良いこと言うね」


「煩いぞクソハインツー」


「なっ!?」


「おい雑魚!! てめぇ皇帝陛下に向かってなんてことを!!」


「わっはっは!! 突き抜けたバカは見ていて気持ちが良いわい!!」


「良いから人の話はちゃんと最後まで聞けって。仮にも一等級と国の重鎮なら、それくらいやろうよ」


「聞く必要なんて無いよ、だって君には協力する以外の選択肢なんて――」


「しないから」


「え?」


「協力しないって言ってんの」


 イキョウはきっぱりとしっかりと、はっきりと言う。『協力しない』と。


 帝国側、ひまわり組、双方予想外の言葉が飛び出てきて、思わずあっけに取られる。


 そして揃って、このバカは状況が理解できてないんじゃないか? と思う。高い戦力を前にノラっと答えるその姿は、自分の置かれている状況が理解できていないとしか思えないほど、危機感も無くヘラっとしている。


 その姿は豪胆や虚勢の類ではない。何も感じていないとしか思えないのだ。


「防壁ぶっ壊れるまで精精頑張ってろバカ共。ぶっ壊れたら考えてやる。じゃあな~」


 愚かとしか思えない男は、フラフラ歩きながら手を軽く振って、煙草を咥えながら扉へ歩こうとする。


 その姿を見て全員が思った。『バカだ』と。


 一等級や帝国軍を前に部屋から出られると思って歩いているその姿が、全員の目にはバカの姿にしか映らない。


 そして呆れる。自分達と己の力量の差さえ測れないほどの弱者が、自分は危機に晒されてることを理解してないその姿に。


「ちょ、イキョウ!!」


 その背後をキアルロッドは焦った様子で付いて行く。


 しかし、キアルロッドが近くに居ようと関係ない。イキョウの後姿は、武を嗜んでいない皇帝でさえも簡単に殴り殺せてしまうと思わせるほど隙だらけだ。


 背後からの奇襲による制圧。それを行おうと、ひまわり組とダグラスは鼻で笑いながら動こうとする。が。


「ちょっとよろしいでありますか?」


 扉の前でずっと黙っていたコロロが口を開いたことにより、全員の動きが止まる。


 この期に及んでまだイキョウに対して言葉を発するものが居るとは思っていなかった。


 相手は立会人の王国四騎士であり、キアルロッドの部下でもあるコロロだ。扉の前にいると言う事は、こちらの動きを見ているということ。


 迂闊に動く事は出来ない。だから顔を強張らせて全員が睨む。武器には手を掛けたまま。


「あの、イキョウ殿?」


「なに?」


「私はイキョウ殿の意志を尊重したく、黙って見ていようと思ってたのでありますが……。正直に言うと協力して欲しかったのであります」


「する」


 しょんぼりした顔のコロロを見て、イキョウは一言答える。


「やはり、総魔の問題は――え?」


「協力する」


「おや? え、あれほど頑なに断ってたでありますよね?」

 

「コロロにお願いされたら断れないからやる。んじゃ、オレと嘲笑の仮面はコロロに協力決定だから。お前らには協力しないけどな。勝手にやらせてもらうからお前等も勝手にやってろよ。そんじゃばいばーい」


「はあ? なによそれ!! 意味わかんない!!」


「コロロ君に協力するなら私達に協力したも同然だろう!!」


「ちょっとは足りねぇ頭で考えろクソメスとクソハインツ。そんなんだからオレは反発すンだわ。そんじゃ」


 軽い言葉と共に、イキョウはコロロとキアルロッドを連れて扉の外に出て――。


「この後飲み行こうぜー」


 ヘラヘラとしたその言葉と共に、帝国城の会議室の扉は足で閉められた。無作法に、無遠慮に、自室の扉を雑に閉めるように。


 自分勝手に動き、そして部屋を出て行ったイキョウの姿を、取り残された者達は唖然としながら見ることしか出来なかった。


「…………はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? なんなのアイツめっちゃムカつくんですけど!!」


「うっざいなぁあのクソ冒険者ァ!!」


 速攻で口を開いたのはティリスと皇帝だった。


 ティリスはその美しく長い金髪が乱れるほど頭を掻き毟り、皇帝は産まれて初めて拳を思いっきりテーブルに叩き付ける。


 苛立ちと怒りが混ざった叫びは部屋の外まで響き渡り、それを聞いてイキョウがほくそ笑んだことを、部屋に居る者は知らない。


「ピウ!! アイツの尾行して!! アイツが死にたくなるような恥ずかしい秘密とか泣き付いて謝ってくるような情報握ってきて!!」


「やだ。めんどくさーい」


「はぁ!?」


「マクグリス!! あの男を殺せ!! 誰にもばれないようにだ!!」


「こほ、断る。関わりたくない」


「はあ!?」


 怒りに満ちた二人は、その怒りが消えることなくまだまだ口を開いた。


「じゃあピウ、こうしましょ。総魔の件の報酬、私の分は全部上げるから!!」


「私のも上げちゃうわぁ。徹底的にやってちょうだい」


「ならやる。あんなのラクショー」


「マクグリス!! 金か? 金が欲しいのか? いくらでも払うぞ」


「貰ってもやらん。絶対にいやだ、本当にいやだ」


「だったら俺が今度飲みに連れてってやる。だからぶっ殺せ」


「ダグラスと行っても詰まらん」


「クソッ、一旦執務室に戻るぞ!! そこで話し合う!!」


「こほ……はあ……メンド」


 こうして、それぞれの集団は一人のムカつく男を貶める為に動き出したのだった。


 * * *


 皇帝執務室へと戻った皇帝ハインツ一行。


「死ねあの冒険者ァ!! クソイキョウがァ!!」


 廊下を悠然としながら歩いていたハインツは、部屋に入るや否や産まれて二度目となる叩きつけを、書類が溜まったテーブルに振り下ろしていた。


 その振動で、書類の塔は無慈悲にも床へ崩れ落ちていく。


「わーっはっはっは!! 陛下がこれほどまでお怒りになるなど、思っても見なかったわい!!」


「ゲール!! てめぇ、ハインツさまがあそこまでコケにされたってのになーに笑ってんだ!!」


「面白いものが見れたから笑うのは当然のことよ、わーっはっはっは!! あれほど濁った目を見るのは初めてじゃ!!」


「目だぁ? あークソッ、アイツの顔思い出すだけで苛立ちが止まらねぇッ!!」


 ゲールはイキョウの目を思い出し、盛大に笑い飛ばず。


 ダグラスは苛立ちが濁流のように押し寄せてきて、座ったままの足はその怒りを表すようにガタガタと揺らしていた。


「マクグリス!! 話の続きを……マクグリス……?」


 倒れた書類を横目に、皇帝はマクグリスの名を呼ぶが返事は無い。それどころか、いつの間にか姿を消していた。


「あ、あの、こここ、ここに来る途中、透明化して、めんっ、面倒くさいって伝えておいてって……」


「何やってんだあの野郎!!」


「いやマクグリスの気持ちは分かるよ私だって可能ならばあのクソ雑魚に関わりたくないッ!!」


 部屋に鈍い音が響き渡る。三度目の拳だ。


「痛いなあもう!! ちくしょうどれもこれも全部アイツのせいだっ」


 ハインツは、拳を睨みながら吐き捨てるように言う。


「あんな奴、生きてる価値もないッ!! ……そっか。いいねぇ、価値が無いなら死んでも誰も困らないじゃないか。ねぇ、ミュイラス?」


「えっと、それは……」


「良いよ良いよ、今は君の意見は要らない。

 昨日の夜、君に聞いたよね。あいつ殺せるかって」


「は、はい。お、お、仰いました」


「早速命令を出そうじゃないか。アイツを殺せ。

 あいつは言ってたよね? 自分も協力するって。だったら総魔の領域内で誰にもばれずに殺して来い。そうすれば事故死として扱える」


「あ、はい。是非」


 皇帝の命令に、ミュイラスはあっさりとした口調で答える。その態度や声色には、いつものオドオドとした雰囲気は見られなかった。


「感謝するよミュイラス。明日からお願いね」


「あ、あ、明日……。はい……総魔に行く準備しておきます……」


「丁度良いワイ。ミュイラス嬢、奴の死体は研究部門の方へ回してもらえんかの?」


「どど、どうして? ですか?」


「なーに、ただ解剖してみたいだけだわい。あの空っぽそうな頭にどれだけミソが入ってるのか見てみたい!! わーっはっはっは!!」


 怒りや笑いが渦巻く皇帝執務室。そこでは思惑も渦巻いていたのだった。

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