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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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20.いってきまー

 時間となり、迎えに来たメイドに案内されて立つは三階にある大扉の前。


 メイドさんの案内はここまでのようで、一礼をしてから扉のそばでこちらを向いて控える。そして扉の両脇には黒い鎧を着込んだ騎士がそれぞれ待機していた。


 動かないところを見ると、この先はオレ達が自ら進むらしい。


 カフスを先頭に、その後ろにオレとソーキスが並んでいる。


 カフスはこちらを一瞥することなく扉をノックすると、内に居た騎士が大扉を開いて招き入れた。


 扉を潜る前、カフス越しに見えてきた会議室の中は、七メートルほどある長机と椅子がある。その長机がすっぽり入るほどの大部屋は、左右が窓になっていて、奥は壁。この部屋は城から凸状に突き出す形で作られているようだ。


 権力を示す為か、窓の上には等間隔に旗が掲げられていて、部屋の端には細やかな装飾が施された台と花瓶、花が配置されている。


 向かって右側にはテーブル中ほどの位置に皇帝とガチムチのおっさん、年の行ってそうなジジイ、そしてミュイラスが立って待機していた。ついでに、オレがカツアゲボーイって勘違いしていた騎士も。


 オレ達はその向かいに座る様なので、カフスの後ろに付いて入室する。と、ドア側の壁にはキアルとコロロ、そして見たことない女三人が両端に控えてるのが横目に見えた。後ろでは、扉を開けた帝国の騎士達が部屋の外側に移動している。中に居る必要あった?


 なんか色々と仰々しいなぁ。と、思いながら椅子まで移動すると、皇帝側の奴等が自らの地位や名前と共に短い挨拶をしてきた。


 ガチムチのおっさんは総司令ダグラス、じじいはゲールって言うのか。そして、ミュイラスは皇帝補佐、カツアゲボーイは総長補佐だったのかぁ……。お前等偉くね?


 そんで……。なんでオレめっちゃ見られてるの?


「ん、こっちはイキョウ」


 カフスはあいつ等の挨拶を受けた後に、オレの方を見ながら言う。


 あ、これ。もしかしてオレが挨拶するパターン?


「どーも始めまして。アステルのしがない一市民やってます。名前はイキョウです。一応、仮面部隊の代役で同席させてもらうので、よろしくおねがいします」


 まさかこんな場で挨拶するとは思ってなかったから、ちゃんとした言葉なんて用意してない。


 だから即興で挨拶したのがまずったかな。グスタフっておっさんが、その厳つい顔に眉間を寄せてオレの方を見てくる。


 いいや、無視しよ。この場での付き合いで終わるだろうし、気にしなくて良いだろう。


「こっちはソーキス」


「ふへー、よろよろー」


 嘘だろコイツ? ソーキスの奴だらっとしながらテーブル越しに手を振って気楽な挨拶しやがったぞ?


 でも、あっちはそんなソーキスを見てこれと言って特別な反応は示していない。


 おかしいだろ!! オレの方がちゃんと挨拶したのに、なんでオレ睨まれたん!?


 しかも、あいつらオレにはお辞儀しなかったのにソーキスにはしやがった。あつかい全然違くない?


 でも、小市民のオレがお偉方にたいして苦言を呈することは出来ず、カフスが座ったので仕方なく続いて椅子に座った。それに続いてあっちも座ったけど、席についたのは皇帝だけ。その他は一歩引いて後ろに控えている。


 立会人としてこの場に居る奴等は、入り口側の席に離れて座ってるけど……。これ、立ち位置的にはオレって側控えだよな?


「おんやぁ? カフス、これオレも立たなきゃダメ?」


 オレは横であり、皇帝の対面でもある席に座っているカフスに尋ねる。並びはカフスを真ん中に、右側にはオレが、左側にはソーキスが座った。


「大丈夫。扱いは私と一緒」


「そっかぁ……。????」


 カフスの言葉を聞いてオレは疑問を感じる。だったら何でダグラスは未だに眉間にシワを寄せてオレを見てくるんだ? 間違った行為はしていないはず。


 悩んでいるオレの横では、皇帝の紹介を受けてキアル達が立会い人をするからと名乗っていたけど、どうでもいいや。あの女三人の紹介よりも、オレはダグラスの目線が気になる。

 

「――――でして、つきましては早速本題のほうに――」


「ん。ハインツ、楽にしていいよ」


「では、お言葉に甘えて」


 おっと、話が始まるようだ。本題に入るようだから、一旦切り替えてちゃんと話を聞こう。


 カフスの言葉を受けた皇帝は、爽やかで落ち着いた笑みを浮かべながら答える。


 その顔は、人によっては一発で引き込まれる類の笑顔だろう。いや、笑顔だけじゃない。立ち振る舞いや仕草、細やかな表情には、いわゆるカリスマと呼ばれるようなオーラが付きまとっているように思える。


 確かに皇帝の顔立ちは整っていて、評価するならイケメンの部類には入るだろう。でもな、こっちにはぶっ壊れのイケメンがいんだよ。あいつの美貌とくらべりゃ、お前の顔はブサイクの部類だ。――――やっぱ、ソーエン……なんだよなぁ。


 オレは親友の美しさを思い出し、しみじみと浸りそうになってしまう。でも、ちゃんと話を聞かなければならないから浸るわけにはいかない。なにせ、オレは名目上代理人としてここに居るんだから。


「……現在、総魔の領域で異常事態が発生してるのは知ってるよね?」


 おお、皇帝はカフスに向かって敬語を使っていない。


 さすがカフスが気軽に接してくれると言うだけあるな。


 でも、話始めにオレの方を一瞥したのはなんでだ? 一瞬だけど、観察された気がするぞ。


「手紙で読んだ。知ってる」


「イキョウ君は知ってるかな?」


「え? オレですか? いやぁ……全然知らないっすね」


「そっか。じゃあ、手短に説明するね」


 そう言うと、皇帝は簡単な説明を始めた。


 なんでも、総魔の領域内部でモンスターの異常発生が続いているらしい。


 普段なら数ヶ月スパンで起こる事が、こう連続して起こっているのは過去に例を見ない現象で、このまま続くと人員や物資の補給が間に合わないとか。


 日を追うごとにモンスターの強さも段々と上がっているらしく、このまま上がり続けてしまうと数週間もすれば一般の戦力では太刀打ちできなるだろうとのこと。


 周辺国家の猛者を帝国にかき集めればいいじゃんと思ったが、皇帝に先読みされたのか、回答として力を持つ者全てが国を離れると治安維持の観点で問題が生じるとのこと。


 その他の話もいくつか言われたが、全部逃げ道を塞ぐように話されたのがどうにも腑に落ちない。


 もっと腑に落ちないのが、この異常事態については国のお偉いさんしか知らない話だって事だ。じゃあなんでナトリの奴知ってたんだよ。


 ナトリから概要を聞いたときは、別に他人事だし他がどうにかするだろうから関係ないやって思ってた。だから特に疑問は浮かばなかった。でも、流石に面と向かって皇帝から話されると疑問ってのは浮かぶわけで。


 ただ、今から言う疑問だけは皇帝には答えられてないから、口に出す。


 カフスを見ながら思っていることを口に出す。


「カフスが手を貸せば良くね?」


 だって、このドラゴンめちゃくちゃ強いらしいじゃん? アーサーから聞いた話じゃ、勇者と共に戦って、邪神に打ち勝った存在だもの。記憶が失われた現代でも人々から敬われる存在だ。だから、コイツが手を貸せば一発じゃんって思って口にしたら……。皆ギョッとしてオレを見てきました。


 オレ、なんかやっちゃったじゃん。


「イキョウ、私は無理。アステルの土地以外では力を使わない約束をしてる」


「えぇ……。少しは融通利かせろよ……」


「ダメ。国を作るときにダッ……教皇と約束した。私が手を差し伸べる線引きをして、その規準を守らなければいけないって。私もそれに合意した。だからダメ、そして無理」


 教皇ねぇ。オレはあったことないけど、宗教の長だけあってありがたい存在なんだろうし、その言葉にも意味はあるんだろう。


 実際、カフスにその線引きがなければ、こいつは世界中のありとあらゆる人に手を差し伸べるだろう。際限なく、永遠と、人の為に動いてしまう。


 だったら教皇は、カフスがアステルでの日常を送れるよう、そういう取り決めをしたのかもしれない。


 オレからしたらユーステラテスを教会の地下に放置してたか、全く気付いていなかったダメな奴だとしか思えないけどな。


「でもよ、今回ばかりは――」


「あなたねぇ!!」


 オレがカフスを説得しようとしたところ、ブロンドヘアに赤い瞳の釣り目の女性は、真紅の鎧に身を包み、生意気とも気高いともとれるような目をした女が、椅子から立ち上がって怒りの顔を向けてきた。誰だよお前。


「スノーケア様がどれほどそのお心を痛めてまでこの条約を守ってるのか分からないの!? 私達もスノーケア様が健やかなる毎日を過ごせるように、そして、甘えきってはいけないと思って、何があろうともスノーケア様のお力を借りるようなことは絶対にしないようにしているというのに!!」


 めっちゃ怒ってるブロンドは、それはもう怒号を撒き散らしてこの場に声を響かせる。


 周りの奴等も、その姿を諌めることなく無言で同意していた。


 でも、オレには聞こえた。オレだけには聞こえた。


「違う……。私は……」


 カフスの呟きが。悲しそうな、戸惑っているような、そんな小さな一言が。


 じゃあ、間違ってるのはどっちだ? この場に居る奴等の言葉なき言葉か? カフスの悲しそうな呟きか?


 んー……カフス、違うならもっとちゃんと周りとお話しろ。んで、それが出来ないくらいの内緒を抱えてるなら、オレに任せろ。


「ほらカフスー、アメちゃんだぞー」


「……ん?」


 オレは周りのことなんて気にせず、カフスにハニーアップル味のアメを見せ付ける。


「食べる? 食べない?」


「っっっっ!! バカ!!何考えて――」


 食いかかってくる金髪の言葉なんて知らんわ。


「ん、食べる。あーん」


「はい、あーん」


 カフスがちっちゃな口を開けてきたから、オレは包み紙を剥がしてアメをカフスの口に入れる。


「ほれソーキスも」


「ありありー」


「ほんっと、イキョウは……ね、コロロ」


「えぇ。ここまで来ると、思わず尊敬してしまうのでありますよ……」


 ソーキスにはアメをひょいっと投げて渡す。


「んで、なんだっけ? カフスにお願いできないんだろ? だったらこの話し合いは何のために開かれてんだよ。力貸してもらうためじゃなかったのか?」


 オレは金髪に向かって尋ねる。


「スノーケア様や私達に向かって何その態度、ムカつくわ。私はね、ひま――」


「まあまあ、その辺にしておきましょうティリス。あくまでもぉ、私達は立会人だからぁ」


 金髪の横に座っていた魔女っぽい奴は、椅子から立ち上がって諌める。


「……そうね。申し訳ございませんでした」


 魔女に諌められたブロンドは、不服そうにしながらも椅子に座って、でもやっぱりオレを睨みつけてきてはいる。けど、それ以上は何もしてこなかった。


 そして、皇帝はこの場の空気を正すように咳払いをする。それは、自分に注目しろという合図でもあった。


「少々場が乱れてしまったけど、話を本筋に戻そうか。

 最近、とある噂を耳にしたんだけど、どうやらカフス殿お抱えの秘密部隊が各国で目撃されている様でね……」


 秘密部隊……仮面部隊のことか。


「アステルにて確認された巨大スライム、謎の巨大モンスターが出現した王国、強力な力を持ったゴーレムが上陸した法国。非常事態にはその力を存分に発揮して解決してくれたと聞いてるよ。だったら、今回の総魔の件にも力を貸してくれてもいいんじゃないかって、私は思うんだ」


 そう言って、皇帝はにこやかな笑みを浮かべながらカフスのことを見る。


「どうかな、その戦力を貸してはくれないだろうか。これならカフス殿の力を直接借りるわけではないから条約を破ることにはならない」


「ん……。彼等は私が動かしてるわけじゃない。好きに動いてもらってる」


「……え? 直属の戦力なのに……?」


 カフスの言葉が相当に意外だったのか、皇帝は素っ頓狂な声を上げながらポカンとカフスを見ていた。


「どう?」


「え? オレっすか?」


 皇帝に話題を振られたカフスはオレの方を見てくる。


「……なる、ほど。君はたしか、仮面部隊の仲介役なんだよね?」


「そうだけど?」


「だったら、君が仮面部隊に情報や依頼を渡してるってことで良いのかな?」


「うーん……まあ、そういうことになるのかなぁ……」


 皇帝に問われてオレも迷う。


 そもそも、仮面部隊ってのは貪食王戦においてオレ達が全力を出すために仕方なく名乗ったことが始まりだ。


 カフスお抱えの部隊とはなってるけど、その実一度もカフスから命令されたことはなく、力を表立って使いなんらかの決まった活動をしている訳ではない。


 いうなればハリボテの部隊であり、実態は特に何も決まってない自由気ままな何処にも属さない戦力だ。


「で、でも、カフス殿が直接命令をすれば――」


「言うこと聞く?」


「え? オレっすか? いやぁ……多分だけど、あいつら全員カフスの命令素直に聞かないぞ」


 オレ含めて、絶対に命令に従うような奴等じゃない。たとえ、国が危なくても何かしらの個々人の理由が無いと絶対に動かない。


 唯一ラリルレだけは命令を聞くだろう。本当にラリルレだけ。それ以外はマジで聞かない。なんなら命令って形態を取られると反発すらしそうな奴等だ。オレ含めて。


「ん、ごめんハインツ。私じゃどうにも出来ない」


「そ、んな……。カフス殿の命令を聞かない……だと? ありえるのか……? 何より直属なんだぞ……」


 皇帝は、ありえない、とでも言いたげな表情をしながら驚愕してこっちを見てくる。


「でも、出来れば聞いて欲しい。力を貸して欲しい」


 カフスはどうやら帝国を助けてあげたいようで、お願いするようにオレを見てくる。


「えぇ……。いやなぁ……」


 一応オレは仲介役としてこの場に居るから、その立場を忘れずにコメントしよう。


 でもとりあえずは。


「あんたら仮面部隊の力を借りたいからカフスを呼んだのか?」


「え? あ、ああ。そうだよ」


「だったら決定権の無いカフスはこの場に必要ないな。ほらカフスー、席から立とうなー」


「ん?」


 オレは一旦立ってから、カフスの椅子を引いて両脇に手を入れ持ち上げて立たせた。


 そして次いでソーキスも同じようにして立たせようとした、が。


「ふへー」


 くそ、この半身、この後の行動を理解してて、地面に降ろそうとしても自立しやがらねぇ。オレの手に体重預けてきやがる。


「んもー、まあいいよ。カフス、おいでおいで」


「ふへへー、おいでー」


 オレはソーキスを持ちながら部屋の中を移動して、扉の方へと歩く。


 そんで、カフスも一緒に扉の前まで移動すると。


「おつかれっしたー」


 そのまま扉を開けて、オレ達は部屋から出ようとした。


 扉の先、部屋の外では何の前触れもなく開いた扉に驚いた騎士達が、ビクッとしながらこっちを見てきてる。


 よし、会談終了。カフスとソーキスはご婦人とご飯、オレはキアルからトンズラして――。


 そう考えながらソーキスを降ろすと。


「イキョウだけは逃がさない!!」


「はぁ!?」


 その言葉と同時に、オレだけは首根っこをつかまれて部屋の中に強制的に戻された。


 扉を境に、オレは内側へ、カフスとソーキスは側に区切られ、そして示し合わせたようにコロロが扉を閉めて前に立ち、封鎖の姿勢を示す。


 んーーーーーーーーーーーーーーーー?????? 何故にオレだけ取り残されてるの?


「イキョウ」


 キアルに首根っこを掴まれてるさなか、コロロ越しに扉がそっと開けられてカフスがちょこっと覗き込んできた。


「これはアレだな……。カフスはソーキスとご飯いっといでー、ここは仲介役としてオレがなんとかしとくからー」


「……ん、ありがと」


「早くいこー」


「行く。いってきます、イキョウ」


「いってきまー」


「いってらー」


 ゆるい会話が終わって扉が閉められる。


 皆はカフスが顔を見せていたから黙って今の会話を聞いていたんだろう。そして、カフスが居なくなったからもう好きに喋るだろう。

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