19.仲良しが一番
帝国城外。防壁と城の境で人気の無い場所。二つの巨大な建造物のせいで影さえ差す角。
そこで――。
「イキョウーーーーー!! お前、ニーアに何したァ!?」
「はーーーーーーーーーーーーーーー? こっちがされた側なんですけどぉ!?」
オレとキアルは額を突き合わせながらお互いに怒りを露にしていた。
「最近ニーアの調子がおかしいんだよ、この前も総魔の領域で独断専行しちゃったしさぁ!!」
「だったらしないようにお前がちゃんと指揮とっとけや!!」
「あぁ……。空が蒼いのであります」
キアルこいつホント……、あのヤンデレの親やってんなら制御できるように何とかしとけや。
「折角旅行行って来たのに帰ってきたらあれだよ、絶対イキョウと何かあったに決まってるじゃん。なにした、なにやった!!」
「何もしてねぇぞ!! 仮にやったとして保護者のお前に言うことでもないだろ!!」
「その言い方あやしいねぇ!! それでさ、子供は男の子?女の子? 手を出すだけ出してお付き合いしてないんじゃないだろね!? 娘に続いて孫だよ、おじさん困っちゃう、幸せすぎて困っちゃう。あんなに可愛いニーアを傷つけたんだから責任とってもらうからね!!」
「うぜぇこの色ボケ騎士団長!! なにもしてねぇんだよこっちは、ニーア恋愛対象として見てねぇから!!」
「今日のお昼は何食べましょう。ミュイラス殿と一緒にご飯行きたいでありますね……」
「はぁ!? あんなに可愛い可愛いニーアを好きにならないとか、それでもお前男なの!? ニーアもあんなに好き好きオーラ出しといて既成事実作ってないの!?」
「お前、一線越えたぞ。ちょっと耳貸せ」
「なに?」
オレは額を付き合わせてたキアルの耳に、そっと事実を教える。
「オレ、ちょっと前からダメなんだよ。禁欲してたらマジモンの世捨て人になっちったんだよ」
「えぇ……。その年でなんでまた……。ん? じゃあ、もしもイキョウのイキョウが元気ならニーアに手を出してたの?」
「親代わりのお前に言うことじゃないけど、責任取らずに手を出してた」
オレの言葉対して、キアルの頭からブチッと音が返される。
そしてゆっくりキアルはオレから離れると。
「槍は城の中に置いて来たけど、本気でやろうよ。死んでもお前を王国に連れ帰って、絶対ニーアに謝らせる」
「やってみろ正道。死にたくなっても生かしてやるから、てめぇは生きることだけ考えとけ」
オレ達二人は距離をおいてお互いに真剣な顔をしながら構える。
きっかけがあれば殺し合いと生かし合いがすぐさま始まる。緊迫した状況は、もう誰にも止められることが――。
「また、ラリルレ殿達とご飯行きたいでありますねぇ……」
「ちょっと待って、うお!?」
空を見て一人呟いたコロロの言葉を、オレは聞き逃すことが出来なかった。だから、そのことをラリルレにチャットをしようとしたってのに、急にキアルが距離を詰めてきて躊躇なく喉元へ素手の突きを放って来やがった。
「っざけんなお前!!」
「これくらいじゃ当たらないでしょ!!」
唐突に開戦がなされ、このまま戦いにもつれ込むかとも思ったが……。
* * *
「そっかぁ。イキョウはニーアを振ったんだね。ちゃんとした理由があって」
「そうそう、ニーアの為にも詳細は明かせないけどな。んで、ニーアは失恋をしてて傷心中なんだと思うよ」
オレとキアルは帝国城と城壁の角、そこの芝生に座りながら二人でお話をしていた。
「うーん……。本人たちの問題に口を出すのは親として行き過ぎてる……のかなぁ……?」
「子供の恋愛事情は、結婚前と相談されたとき以外は口を出すなって、オレのじいちゃんの友達の息子の嫁さんの友達の友達が言ってた」
「相当な他人だけど、一理あるなぁ……。でもなぁ……」
芝生の上で煙草を吸ってるオレと、難しい顔をしながら腕を組んでるキアル。オレ達二人はあぐらを掻きながら二人してちゃんと話し合いをしていた。
というのも……。
「ん、仲良しが一番」
「ねー」
カフスがこの場にやってきて、オレ達二人は揃って大人しくせざるを得なかったからだ。表面上は大人しくしてる、でも。キアルロッドはまだ納得行っていないようではあった。
なんでも、ソーキスがカフスを誘って様子を見に行こうと言ったらしい。
さすがは半身……変なところで勘が良い。
「申し訳無いのでありますカフス様。私が現実逃避をしているばっかりに……」
「いい、大丈夫。ラリルレみたいでちょっと楽しい」
コロロが申し訳なさを全身で表してカフスに頭を下げている。
そしてキアルはというと……。
「会談終わったら付き合え」
真顔とマジトーンでそう言ってオレの肩をぽんと叩いて立ち上がり、コロロと同じようにカフスに謝罪をしていた。
えぇ……。こっちもやろうとしてたことあんだけど……。だからシーライサご婦人の誘いを断ってまで単独行動しようとしてたのに……。
でもキアルの態度がガチだから断れるわけないやん……。
この後、オレ達は部屋に戻り、時間までお茶を嗜みながら時間を待った。キアルとコロロは、中立の立場でこの場にいるからと、お茶は断り部屋を後にしました。