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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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12.うおー…でっけー

 帝国城は凄い。クライエン王国の城がファンタジーを思い描く優雅な城なら、帝国の城は防衛という機能に特化した城だ。


 山肌を背に張り付くように建てられた城は、四角い城壁に囲まれてガチッとした印象を受ける。王国と違って、勾配の急な山の裾に作られている町並みは傾斜が良く目立つ。


 青と灰色のゴツゴツとした石を基調に作られた町並みを見る限り、無骨な印象を受けるが、それがまた山に隣接したこの土地に、らしさをもたらしている。


 そんな町に建てられた城を、あえて一言で表すなら。


「うおー…でっけー」


 城の敷地外、高くそびえる城壁を正門前で見上げながらオレは感想を言う。


「ふへー、何かデジャブー」


「たた、確かにおっきいですよね……」


 ソーキスを肩に乗せたオレへ、またミュイラスはあせあせとしながら言葉を返した。


「あ、あの、出切れば先にお宿を決めてはいかがでしょうか。な、内見などして、てき、適切なお部屋をお探ししたほうが……出来ればお一人で……」


 何故だろうミュイラスは何かを急かしているかのような口ぶりで言ってくる気が……。気のせいだろ。


「実費じゃねーし、寝られればどこでもいいわ。あ、でも手続きとかあるなら先に決めておいたほうが良い?」


「ん!? そ、そうです!! はい、そ、そ、その通りです!!」


 ミュイラスは、まるでオレの意見に便乗したかのように焦りながら返答をしてきた。


 なんかずっとオドオドしていて真意が読めないけど、急に大きな声を出して来たって事は、強く押してるってことで従ったほうが良いのか?


「ミュイラスー、カフスはどうなるのー? お城でお泊りー?」


「あ、いえ、スノーケア様がお望みであれば宿泊は何処でも大丈夫です……」


「ねーねーおにーさん、カフスとおにーさんと一緒にねたーい。三人でお泊り出来るところさがそー」


「あ、あ、三人一緒……」


「はぁ? しゃーねーなぁ。費用は帝国持ちだろうし良いとこ泊まるぞ!! なんなら吹っかける」


「いえーい」


「っしゃ、良さそうな所手当たりしだい探すぞ!!」


「ま、待ってくださいぃー……!!」


 * * *


 イキョウ達が帝国城や町を観光している頃、皇帝執務室ではキシウが、皇帝と総司令ダグラス、直属の上司マクグリス、ゲールを前に報告を行っていた。


 ソファに座りながらキシウの報告を聞く四人は、その内容に微妙な面持ちを隠し切れずに居る。


「以上が私の収集した情報の全てで――」


「ちょっと良いかな、キシウくん……だっけ?」


 報告を終えたキシウへ、皇帝ハインツは何食わぬ声色で問いかけた。


「ハッ!!」


「君はマクグリスが信頼を置く部下の一人だったはずだけど……、いやごめん。私も諜報という分野は明るくないから責めるつもりは無いけど……こう、なんだろね。君の齎してくれた情報はどれも決定打に欠けるというか――」


「……こほこほ」


 微妙な表情をしながら言葉に困っていた皇帝の言葉を、マクグリスの咳が遮る。その音を聞いて、ハインツは言葉の主導権を無言でマクグリスへと渡した。

 

「率直に問う。今のゴミみたいな情報に嘘偽りは無いな」


「はい!!」


「こほ……細かいところは省く。大題の三つ、まずはスノーケア様は何でも美味しく食べるという情報だ」


「ハッ!! 嘘偽り無く本当です!!」


「こほ……。スノーケア様と弟君は仲が良いというのも」


「同じく嘘偽りありません!!」


「……こほ。同行者のバンダナの男……、イキョウ、だったか。その者が仮面部隊に接触するための唯一の手段ということは」


「同じく嘘偽りありません!!」


 色々と細々な情報を省いた上で利用できそうな情報を精査したマクグリスは、一つ咳をして黙る。


 それを持って発言は皇帝に移ったことを、この場に居る者達全てが理解していた。


「困ったね……。弱みとなる情報が何一つ無いじゃないか……。というか、仮面部隊についての情報が何一つ無い、同行している訳じゃなかったのか……」


 思惑が外れに外れたハインツは困ったような表情を浮かべる。


 対して、筋骨隆々の男、ダグラスは苛立ち混じりにマクグリスへと食って掛かった。


「おいマクグリス!! 散々嘯いた様がこれか!!」


「黙れすまん脳筋。理解しろ、俺の部下がこれしか情報を持ち帰れ無かったってことは、逆にこれ以上の情報は何一つ無いってことだ。そうだな、キシウ」


 マクグリスは髪に隠れた鋭い目をキシウへ向ける。その目は、部下であろうと何一つ信頼をしていない者の、見定めるだけの目だった。


 視線による威圧。この脅威を前にしては、嘘や偽りを持つ者は決して逃れる事は出来ない。それほどに冷たく感情のない理性の圧だ。


 その視線を受けてキシウはごくりと喉を鳴らす。もちろん、キシウが秘密にしていることはある。それは何よりも重要で、必ず報告をしなければならないことだった。


 初日の夜、仮面部隊の構成員のひとり、嘲笑の仮面の一人と接触をし敗北をきしたという事実を、本来ならば伝えなければならない。


 マクグリスの信頼している部下であろうとも、あの男の前では歯が立たなかったことを伝えなければならない。


 しかし、キシウの心の中に迷いが生じる。


 それを伝えてしまえば妻子に合う事はもう許されないだろう。イキョウを自慢の家族に合わせる事すら出来なくなる。


 諜報員の失敗というのは決して許される事は無く、失敗の大小関係なしに厳しい罰が与えられる。


 キシウは知っていた。諜報員になるなら家族は捨て、生涯持つなと言われていることを。それでも持ってしまった、愛してしまった、愛おしくなってしまった。


 戦う者ならば、守る者が居るのは力を生み出せるだろう。しかし、諜報を行う者にとって守る者を作るのは、己に弱みを作るだけだ。その事は痛く知っている。周りの者達も、それを理由に命を落とすものが多かった。だから公に自分から周りに自慢する事は出来無い、が。


 最近、表と裏の両方の顔がバレたせいで、遠慮なく家族を自慢したくなってしまう者が現れた。心から家族を素晴らしいって言える人物を見つけてしまった。


 家族と離れたくない。家族を自慢したい。イキョウに家族を褒めてほしい、笑わせて欲しい。そんなささやかな願いを持ってしまったから、キシウはマクグリスの問いに直ぐに答えることが出来ない。


 だが、それと同時にキシウの心には諜報員として生きていた自分が居る。


 その自分は、職務に忠実であれと、甘えた自分へ囁き動かそうとしていた。キシウは騎手ではあるが、その前に諜報員だ。家族を持つ己と諜報員としての己は切っても切り離せない意思を持っており、諜報員の己に従うなら起こったことを全て報告するのが帝国のためになる。


 しかしそれをしてしまっては、同時に自分の失敗を曝け出すことにも繋がってしまう。


「こほ……どうしたキシウ。俺に言えないことでもあるのか?」


 迷いを見せているキシウに対してマクグリスは問う。


 こんなときでも混乱しないのは、皮肉にも諜報員としての訓練を受けているからだなと、キシウは内心で自嘲気味に笑う。


「お前で判断しろ、時間は三秒だけ与える。嘘があるなら吐け、嘘が無いならそのまま黙って死ね。三」


 キシウに対してマクグリスは判決の時間に数秒だけ余裕を与える。


 その口ぶりは、まるで嘘があると断定をしているような言い方だ。


「――二」


 もはやマクグリスは、信頼する部下に対して信頼をしていない。ただ諜報部部長としての目を向けて判断を下そうとしてくる。


「――一」


 暴露すれば先は無い。黙っていても先が無い。だったら、張り裂けそうな痛い胸を押さえてでも、正直に話すことが帝国のためになるんだろう。そんな痛みなど無視して、正しい情報を渡すのが帝国のためだ。


 騎手の自分と、諜報部員としての思いが同じ方向へ傾く。そうだ、そもそも諜報員が報告に嘘を付くことこそ間違いだったんだ。少し前に、イキョウを甘えた考えを持つ奴だと思ったが、気付けば自分も同じになってしまった。


(酒を飲んだら、あいつに呑まれたのかな)


 諜報員としての誇りを忘れてしまうほど、ぬるま湯に浸かっていた己の身を内心で嘲りながら感情を殺す。


 正しくは帝国のため、間違うは己の感情。例え自分が居なくなっても家族が生きていけるほどの金は残してある。だったら、感情は捨てて帝国に忠誠を捧げるべきだ。


 要らない感情は手放して、ただ行うべきの事を行う。そのために


「ゼ――」


 カウントダウンが終わる寸前に、己が任務に失敗したことを報告しようとする。――――が。


 キシウが口を開く寸前、執務室の扉が乱暴に開かれた。


「とつにゅー」


「ちょっと!! ミュイラスからキシウがここに要るって聞いてきたんだけど!!」


「みゅーーーー……!!」


 突然に開かれた扉からは、緑のバンダナをした男と、その男に跨るダラっとした子供、そして男の歩みを止めようとして腰に抱きつき引きづられている女性の三人が同時に現れた。


「あ、マジでいんじゃん!! 帝国の宿屋で一番良いところ教えてくれよ!!」


「かくほー、てったいー」


「みゅーーーー!!」


「はぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!?」


 そして、そのまま執務室に高速で侵入すると、そのままキシウを抱えて高速で去ってしまう。


 執務室に居た者達は、目の前の突風に唖然とするばかりで皆目を丸くしながら開かれたままの扉を凝視することしかできずにいた。


 誰も、何もかも、何が起きたかを一切理解できずにいた。


「……えっ?」


「わっはっは!! 長生きするもんですわい!!」


 ただ一人、豪快に笑い飛ばして居る者は居るが、それ以外は皆まだ目を丸くしていた。


「なに……いまの?」


 一瞬の出来事で全く理解の追いつかない皇帝は、扉を見たまま呟く。


「こほ……なるほど。納得だ。キシウには悪い事をした。あれがイキョウという仲介者だろう、あんなバカみたいなことをする奴が側に居るのに全て報告しろ言うのは酷。あんな巫山戯た奴が居たらまともな報告なんて生まれない」


 マクグリスは知っている。諜報員としてのプライドと、そのプライドを簡単に塗りつぶすようにバカみたいな下らない行動をする者が居ることを。情報というものは、統合すればいずれは法則へと繋がる。しかし、時にその法則にノイズを齎し全てを崩壊する者が現れる。


 そう言うのも達は総じて、あえて全体に報告をしないと言った選択を取ったほうが良い結果に繋がることはざらだ。例外は、例外を知ったものだけが保持する情報であり、全体に伝えてしまうと明らかなブロックとして全体の思考に存在してしまう。


(なるほど。皇帝達が居るこの場では報告せず、後々俺だけに伝えようとしていたのか。思えば奴の視線や動きは明らかに嘘を付いていることを示していた、この俺にだけ分かるような些細な反応で。にもかかわず、あいつが俺にすら嘘を付こうとしていると勘違いしてしまった。そんなはずは無い、あいつは俺が嘘を見過ごすような事はしないと知っているし、あの堅物の心を開けるのは嫁と娘以外には絶対にありえない)


 このような思考を経てマクグリスは思う。一度諜報部員全員を集めて意見交換会や事例報告会でも開いたほうが良いのではないか、と。しかし、闇に潜む者達同士が顔を突き合わせては要らぬ用を招いてしまうかもしれない。


 こう言った例外的なことを報告する際には特殊なサインが用いられる。他の事でも同様で、諜報部には様々なサインが用いられてはいるが、規格外のバカを示唆するような事例において適したサインを作る事はしていなかった。


 よもや、皇帝執務室に強行した挙句、重鎮を目の前に堂々と人を掻っ攫っているような者を現すのに適したサインを、マクグリス自身もどう現せば良いのか分からない。


(……まだまだ俺も想定不足ということか)


 マクグリスはキシウが連れ攫われる寸前に始めて見せた、混乱に己の意識が全て持っていかれたような表情を思い浮かべながら、一人納得する。


 信頼のおける部下すら信頼していない男ではあるが、何も人の感情が分からないわけではない。寧ろ、職業柄人の感情を読む能力は長けている。しかし、その長けているはずの能力でも、キシウの顔には混乱しかないことを知って、あれほどの実力を持った部下がダメなら自分以外は全員ダメだろうと、感情の乗らない烙印を諜報部全員へ押した。


「こほ、後でキシウには俺から言っておく。労いにハムでも持っていくつもりだが……」


「あ、いい、良いよ。経費で良いよ」


「感謝する」


 マクグリスの言葉に対して、未だ困惑の色が隠しきれないハインツが答える。


「一瞬しか見えなかったけどよぉ、あの変な格好はなんだ? 珍獣の類か?」


 ぽかんとしているダグラスは、奇妙な姿をした男を見た感想を述べた。


「わっはっは、言いえて妙じゃわいな!! この老いぼれの目には緑色の何かが過ぎ去ったようにしか見えなかったわ!!」


「ゲール爺さんよぉ、見た目はそれで合ってるぜ。腰にミュイラスが半泣きでしがみ付いてたけどな」


「こほ…、報告にあった、ソーキス様も確認できた」


「わーっはっは!! 何故ミュイラス嬢がそんな悲惨な事に!! 弟君まで、がーっはっは!!」


「ふーん、この私の執務室に無断で踏み入った、ねぇ……。思わぬ収穫だよ。あとは、ミュイラスが絶対に持ち帰ってくる情報を合わせれば……」


 豪快な笑い声を上げるゲールと、状況を解説するダグラスとマクグリス。そんな三人を横目に、皇帝ハインツは黒い笑みを浮かべていた。


 * * *


 帝国の町は活気が溢れている。細い道が多くて、そこに人が溢れてるからゴチャゴチャってした活気だ。


 のどかなシャーユ、穏やかで騒がしいアステル、ゆったりとしたクライエンとはまた違った町の様子で、この世界に来て始めてみる町並みだな。


 そんな人がごった返していて露店が立ち並ぶ通りを、オレはミュイラスとキシウと三人で歩く。もちろんソーキスはオレの上だ。


「どうなっても知らんぞイキョウ……」


 城を背後に、横に並んで歩いてたキシウは、呆れた顔をしながらオレに言ってきた。


「は? こちとら客人だぞ、お持て成し精神で少しは融通利かせろや」


「そう言う次元の話じゃないんだよ……、あの場に居た方々が、皇帝と軍部の重鎮達ってことはちゃんと理解してるんだろうな?」


「ん? おや? ホント? ミュイラス」


 オレは背後にチョコチョコと付いて来ているミュイラスに尋ねる。


「いい、言おうとしたんですけど、そその前にイ、イキョウさんが走り出してしまって」


「じゃあしゃーないわ。オレ達全然悪くない。こっちが用事があるってのにキシウを拘束してたあいつ等が悪い。つまり皇帝達が悪い」


「お前ホント……。いや、助かった部分もあるから何も言えない……」


「何の話?」


「いや、なんでもない。仕事でトラブってしまっただけだ」


 オレが問いかけると、キシウはちらりと背後のミュイラスを見てから、何も無さそうな普通の表情で答えた。


 一応、便宜上は諜報員としての身分がバレてることは隠してるから、背後のミュイラスに悟られないようにしたんだろう。


「へー、もしものときは力貸すわ。そんでさ、宿屋の件に関してなんだけど」


 なぜオレが態々キシウを確保してきたか。それには重大な理由があったのだァ。


 オレは帝国の宿事情を良く知らない。そして、後ろのミュイラスに尋ねても碌な解答が得られなかった。だったら一番情報を持ってそうな諜報員のキシウを確保するしかないじゃん。ってことで確保した。


「そうだったな。いくつか心当たりがある、見て回ろう」


「よろしく」


 * * *


「すげぇ、町のちっちゃな城じゃんこんなの」


 オレはキシウの案内で、淡い肌色の建物が並ぶ品の良さそうな通りに来ていた。


 そんな品の良い建物が並ぶ中で一際品を放っているデカイ建物。それが今回のキシウ内見プランの一軒目だった。


 四階建ての建物は、シックな茶色の三角屋根で、その屋根には突き出るように窓がいくつも取り付けられている。


「ここは、貴族や富豪の方々が良く利用している帝国随一のホテルだ」


「肩こりそー」


「ゲー、難癖つけられそう。次」


「みゅー……」


 * * *


「すげぇ、町のちっちゃな城じゃんこんなの」


 品の良い建物が並ぶ区画。そこでまた似たような宿屋を紹介された。


「ここも先程と似たようなホテルではあるが、年齢層がより高めになっていて――」


「肩こりそー」


「ゲー、難癖つけられそう。次」


「みゅー……」


 * * *


「すげぇ、町のちっちゃな城じゃんこんなの」


 品の良い建物が並ぶ区画。そこでまた似たような宿屋を紹介された。


「お前それしか語彙が無いのか? ここは先の二つとはまた違った、パーティの会場としても利用されている華やかさがウリの――」


「肩こりそー」


「ゲー、難癖つけられそう。次」


「みゅー……」


「俺以外が同じ事しか言わない……」

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