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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第五章-そんなに疲れさせないでよ異世界-
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03.総魔の領域

「ってなわけで班分けはこんな感じで」


 ナトリからの情報提供により、すんなり班分けは完了した。


 班分けはこうだ。


 ソーエンは、アステルから北西にある平原で確認された大型モンスターの調査と討伐をしている絶影を担当。


 ヤイナとセイメアは、カフス宅に居るテモフォーバに接触した後、落石によって塞がれた道を開通させるクエストへ向かった旗印を担当。


 オレとナトリは、帝国領土の北側にある、超危険なモンスター蔓延る土地に関しての指名依頼を受けているにゃんを担当。


「あれ? オレの担当重くない? ってかいちいちオレが行く必要なくない?」


 受付カウンターの前で作戦を立てていたオレはふと思う。


この作戦において、にゃんに接触するには長距離を高速で移動できるナトリの存在は不可欠だ。だからナトリはにゃんの担当固定として、別にオレが同行する必要なくない? ナトリだけで行けば良いじゃん。


「阿呆か馬鹿のどちらかが同行しなければ我輩は手を貸さん」


「へい……そうでした」


「言いだしっぺなんスからそれくらいやって欲しいっス」


「へい……そうですね」


 ナトリはオレかソーエンが同行しないと手を貸さないと言ってきてる。

 厨ニ集団の絶影はソーエンが担当した方が話がスムーズに進むだろうから、帝国領土に行くのは必然的にオレになるってわけだ。


「さっさと行くぞ」


 最低限の必要事項の確認が終わったソーエンは行き勇んでギルドから出て行こうとする。


「スッスー、メアメアちゃんデートするっスよ!! エスコートはこのヤイナちゃんに全部任せるっス!!」


「はい……店長……」


 その姿を見たヤイナとセイメアも楽しそうに出て行こうとした。ソーエン、ヤイナ、セイメアの三人はすぐさま行動を始めようとしたんだ。


 それと同時に、あの三人はこの場から逃げるような足取りをしているようにも見えるんだ。


 そんな中、取り残されたオレとナトリはというと――――。


「説明していただけますか? 平和の旗印さんと絶・漆黒の影さんのクエストは張り出しがされていたものなのでまだ分かります。ですが何故、ルナトリックさんはにゃんにゃんにゃんさん宛てに届いた指名依頼の詳細な内容まで知っているのでしょうか?」


 めためたに怖い笑顔をしている受付さんの前で動かずにいた。


 いや別に、受付さんの笑顔を向けられてないオレはこの場を離れても良いんだけど、作戦においてペアのナトリから離れては作戦の遂行に支障をきたす。

 それに、だ。この天才バカは人に謝るような性格をしてないから、ここは一流のオレが代わりに謝罪をすることで早々に治めるべきだろう。


「受付さ――」


「イキョウさんには聞いてません」


「うーん、こりゃ参った」


 オレが頭を下げようとしたらすぐさま受付さんに止められてしまった……。


 受付さんがナトリに言い渡した疑問。その中にどんな問題が含まれているのか。


 機密性が高い指名依頼ってのはギルドの規則上、一部のギルド職員と依頼者受注者しか内容を知らず、情報が部外者に漏れることはほとんど無い。

 受付さんがこれほど怒ってるって事は、今回にゃん達が受けている依頼はその機密性が高い指名依頼だったって事だ。


 ……おやぁ? じゃあ、何でナトリは知ってるの?


「ローザよ、貴様は見当違いも甚だしいほどの勘違いをしているようであるな。我輩は周辺国家と帝国の情勢を比較し、奴等の実力と依頼の期間を加味して推測を立てただけである。たったこれだけ情報で簡単に知れてしまうのだ、機密性など有って無いようなものであろう」


「オレバカだからわかんねぇけどさぁ、多分それ出来るのお前だけだから機密性はちゃんとあると思うぞ?」


「はぁ……本当に知っていたわけではないんですね?」


 受付さんはナトリの言い分を聞いた後、深くため息をついてから確認をしてくる。


「そも、帝国領土の北側。総魔の領域で異常事態が起きている事を知っていれば考えるまでもなかろう」


「そのことって……本当に限られた極一部の人達しか知らないはずなんですけど……」


「何それ? ソーマ? ソーエンやソーキスの親戚?」


「質問か? ならば答えよう。総魔の領域とは……ふむ、まずは見たほうが早いであろう。ならば実地にて教鞭をしてやろうではないか!! ふははははは!!」


「は? え、あ!! ちょ!?」


 オレが質問した途端、ナトリはテンションが上がってしまった。


 そして突然、オレの身体は床に落ちていた影の中に沈んだ。まるで、急に水面に立たされてそのまま水の中に落下してしまったかのように。


「では行くとしよう」


「イキョウさん!?ルナトリックさん!? どこに行ってしまったんですか!?」


 同じく沈んだナトリがオレの目の前で言い放つ。頭上では、受付さんが焦りながらオレの名前を呼ぶ声が聞こえていた。


 * * *


 イキョウとルナトリックが影の中を潜行するより前の時刻。


 にゃんにゃんにゃんは総魔の領域でモンスターの間引きを行っていた。


 この総魔の領域と呼ばれる土地は、紫色の深い霧に覆われ薄暗く、人の眼では数メートル先を見るのがやっとなほどに視界が悪い。


 この霧を生み出している原因について知るものはおらず、しかし一説にはこの土地の奥に連なる山々の頂上に居るモンスターが生み出しているとも言われている。

 ただし、霧の発生原因は特定されていないが、領域内で起こる現象は確認されている。

 例を上げるとするならば、並みの生物がこの土地に足を踏み入れると方向感覚を失い遭難してしまったり、気狂いを起こして発狂してしまう。また、噂では長い間霧に晒されていると人の形を保てなくなるとまで言われているほどだ。現象は生物に留まらず土地自体にも起こることがあり、雨が降っていないのにも拘らず落雷が発生したり、風も無いのに竜巻が発生する事もある。


 そのような危険極まりない土地では植物や生物も独自の進化を遂げている。木々や草は日の光を必要としないため色が抜け落ち灰色の葉を生い茂らせ、生物はこの過酷な環境を生き抜く為に種によって様々な生存する力というものを獲得していた。


 モンスターと霧の脅威は領域深部まで人の侵入を許す事は無く、そのためこの土地全域を細かに記した地図は存在していない。

 

 そんな総魔の領域は、名目上は帝国の領土ではあるが人の手など一切入っておらず、隣接する領土とこの土地の境界には高く長い壁によって防衛線がしかれており、防壁の名は『ハドアリアの壁』と呼ばれていた。ハドアリアとは総魔の領域に隣接する領土群の中で最大の権力を持つハドアリア家の名前から取ったものとされている。


「モンスターの異常発生……か」


 紫の霧と灰色の森の中を歩くウルフカットの猫獣人。ニルドは、切れ長の眼を細めながら誰に聞かせるまでも無く一人疑問をつぶやいた。


「ここが普通じゃにゃいのはいつものことだけどニャア。でも、いつもより周期が早いニャ」


 その声を聞き逃さなかった糸目と白のロン毛が特徴のイムズスは、すかさず言葉を返す。


「イムズス、気を抜いちゃいけないナァ」


「ニャハハ、わかってるニャァ」 


 柔和な目と暗い蒼のセミロングが特徴のヒライから注意を受けたイムズスは、冗談交じりの笑い声を上げながら答えた。


 総魔の領域は、定期的にモンスターが防壁へ向かって押し寄せる事例が起こる。その現象を異常発生と呼び、約半年周期で起こっている事例だった。


 この領域からモンスターが溢れ出てしまうと帝国、引いては周辺国家にも多大なる影響があるため帝国を中心に隣国から力と金の協力を得て、一丸となって防衛に取り組んでいる。


 協力している国々の中には獣国、精霊郷、森国などなど多くの国が含まれており、アステルやクライエン王国、レイヴ法国も例外ではない。


 周期を予測して前回の討伐が行われたのは二ヶ月前になる。そのときアステルから派遣された戦力は一等級冒険者のひまわり組と二等級冒険者のにゃんにゃんにゃんだった。


「前回の討伐では特におかしなところは無かったはずだが……何故また異常発生が起こっているんだ」


 にゃんにゃんにゃんはこの視界不良の霧の中、獣人としての五感を生かした討伐が行えるため、参加回数や頻度において常連と呼ばれるほどには異常発生に関しての経験がある。


 だからこそ前回行った討伐作戦におかしな点は無かったはずだと考えていた。


 しかし事実、異常発生は起こってしまっており、もし周期に変化が生じてしまっているのならばそれ相応の対処を求められる為、可能ならば原因の追究をして欲しいとこの討伐に参加している者達には通達がされている。


 そして、今回にゃんにゃんにゃんの指名依頼が極秘だった訳もここにある。


 今回のような周期外の異常発生が起きたことを一般の民や力無き者が知ってしまった場合、要らぬ不安や恐怖を与える事になってしまうため、帝国の皇帝が直々に情報統制を敷いていた。だからこの事例に関して知っている者はごく一部の他国の者、帝国の上層部と軍関係者くらいしか居ないのである。


「ニャアニャア、関門は突破したんだしあとはニャンとかニャるんじゃニャいか?」


 イムズスが気楽に口にした関門とは、異常発生における第一波と二波のことである。


 第一波とは、異常発生初期において帝国が建設した防壁に大量のモンスターが押し寄せる現象のことを指す。


 防壁は巨大で堅牢な為早々崩される事はありえないが、相手は過酷な地を生き抜いている強力なモンスターな為、放っておいては傷つけられる一方だ。そして傷ついた箇所は修復が必要になる。大量のモンスターに押し寄せられ続けては崩される一方で、修復することが叶わずいつかは崩壊を招いてしまうだろう。


 第二波とは、異常発生中期において第一波に討伐されたモンスターの死肉を狙って集まってくるモンスター群のことを指す。


 この二波がスムーズに終わらせられるのかは第一波後の後処理に掛かっているので、一波終了後も気を抜くことが出来ず、形式上は一波と二波に分けられているが休憩する間など無く、立て続けに討伐と処理の作業が通しで行われる。


 現在はその関門を突破し、各々が定められた仕事をこなしていた。


 にゃんにゃんにゃんの面々が現在取り組んでいる作業は、異常発生終期に行う作業で、防壁周辺に潜んでいるモンスターの間引きだ。


 しかし、今回は可能であれば原因の調査を行って欲しいと言われているので、間引きを行っている全員が従来の討伐範囲よりも少しだけ領域の奥に足を踏み入れていた。


 この領域において常人が連続で活動することが可能な時間は約七十二時間。それを超えると身体に異常が現れる。だが、それには個人差や霧の濃度が関係してくるため、確実な生還を考えるのならば二日以内には防壁へ帰る必要がある。


 その為、間引きに参加している帝国軍関係者、他の冒険者や隣国の協力者に許可されている野営は一泊のみであり、それを越える事は許されていない。


「ナアナアニルド、そろそろ戻らないと今日中に防壁に帰れなくなるナァ」


「すまない。だが、もう少しだけ進ませてくれ。この先から何か感じるんだ」


 ニルドは鋭い目をさらに細めながら視界不良な霧の先を見つめる。


 目には見えない、特殊な匂いは感じない、異常な音は聞こえない。しかし野生の感とも言うべき何かで、先にあるものを感じ取っている。


 危険な事は分かっている。だからこそ、それが今回の異常発生の原因である可能性があると判断していた。


「ニルドが言うなら従うけど、もし危なかったら<獣力開放>を使ってでも全力で逃げるからニャ」


 このようなニルドの危機感知で危険な潜行をすることは一度や二度ではない為、イムズスは軽い口ぶりで返事をする。


「もちろんだ。生きて帰ることが冒険者の鉄則だからな」


「怖いナァ……こんなことならひまわり組かキアルロッドさん達と一緒に行動しとけばよかったナァ……」


 対するヒライは臆病な口ぶりをしながらトホホと肩を落としていた。


「すまないなヒライ」


「いいナァ、ニルドはリーダーでもあるけどアニキでもあるナァ。弟分の俺達はどこまでも付いてくナァ」


「そうにゃそうにゃ」


 ニルドは二人が後を付いてくる姿を見て思わず笑みがこぼれた。


 その笑みを二人も背後から感じ取り、イムズスとヒライはお互いに顔を見合わせて笑ってから、またニルドの後を付いて歩き出した。

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