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お掃除戦隊ラリルレンジャー(1/3)

 オレは休日に、自室で風魔法を使っていた。家具がほとんどないこの部屋で、気流を起こして部屋の埃を全て窓の外に流す。


 ――――そろそろ、来る頃だろう。


 オレがそう思うと同時に部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。オレはその意味を知っているから、ベッドに座りながら返事をして招きいれた。そして現れたるは、謎の五人組。


「ラリルレ!!」


「我」


「シアスタ!!」


「リリム」「リリス」


「お部屋チェック五人集、参上だよ!!」


 そう言ってシアスタと、ロロを頭に乗せたラリルレが並び、双子はその背後に浮かんでそれぞれキメポーズを取って見参した。


 この五人は定期的にそれぞれの部屋をチェックするお掃除隊だ。発端は分からないけど、最近結成された謎の集団でもある。


 オレは勝手にこっそりと、この五人をお掃除戦隊ラリルレンジャーって呼んでいた。前に口に出したらラリルレから、『ダメ、それじゃ私だけ頑張ってるみたいだよ!!』って言われたから口には出さないようにしている。


「シアスタちゃん!! お部屋の隅を!!」


「ラジャーです!!」


「リリムちゃんとリリスちゃんはお布団を!!」


「「らじゃー」」


「私とロロちゃんはそれ以外を!!」


「了解した」


「ラリルレとロロの負担大きくない?」


 お掃除戦隊はリーダーの指示に従って行動を始める。シアスタは素早く部屋の角や窓のサッシをチェックし、双子はベッドの上に寝転んでチェックし、ラリルレとロロは床や机の上へ視線を注いでじっくりと見回る。


 皆丁寧に、しっかりと、お部屋のチェックを行っていた。


「んふふ~、キョーちゃんのお部屋はいっつも綺麗だね」


「ですね。家具も少ないのでチェックがすぐ終ります」


「ベッドふかふか」「でもちょっとくさい」


「掃除楽だしな……え? 双子今何て言った?」


「むむむ!! 皆、キョーちゃんのお布団に集合!!」


「「「ラシャー!!」」」


 ラリルレの一声で、皆はオレのベッドに集まってにおいをかぎ始める。


「すんすん……。確かに男の人っぽい臭いがするよ!!」


「でもちょっと好きかもです」


「んふふ~、ねーシアスタちゃん。すんすんすん」


「ねーラリルレさん。すんすんすん」


「「すんすんすんすん」」


「シアスタとラリルレ嗅ぎすぎじゃない?」


「くさいけど」「おちつく」「でもちょっと」「あぶないにおい」


「え待って、マジで臭いの? ……あわー……確かにコレはそろそろ干し時か杖時だわ。たしかにちょっと汗臭いわ。男臭い」


「すんすんすん……? ヤイヤイちゃんっぽい匂いもするカモ…………?」


「ラリルレ、今日はどっち? 浄化の杖? それとも天日干し?」


「ぅん? んふふ~、どっちもだよ!! 浄化の杖できれいにして、その後干してお日様の匂いにするよ!! 今日も杖あんど天日干しだよ!!」


「やっぱりそっか。ロロ、頼むわ」


「貴様に言われずとも分かっている」


 そう言ってロロはラリルレの頭から降りると、触手を伸ばしてオレの布団や枕、シーツを剥いでスススーっと部屋の外へと消えて行く。ロロはラリルレにお願いされた事は素直に聞くもんな、具体的には一階の共有スペースに洗物を集めるもんな。


「お部屋チェック終わりだよ!! 皆、次のお部屋に行こう!!」


「「「ラジャー」」」


「オレもついてこー」


 ちょっと面白そうだから、たまにはオレも一緒することにした。


 * * *


 ――――お掃除戦隊ラリルレンジャーが次の標的にした部屋はソーエンの部屋だった。……が。


 ロロが合流後、ラリルレリーダーがドアをノックしても特に中から反応が帰ってこなかった。


「あれれ? ソーちゃん寝てるのかな?」


「どうせあのバカ二度寝してるんだろ。鍵は……掛かってないから開けて良し」


 鍵が掛かってたら入らないさ。でも開いてるなら入るさ。ってことで、オレは扉を開けてお掃除戦隊をソーエンの部屋の中へと招き入れる。


「ラリルレ!!」


「我」


「シアスタ!!」


「リリム」「リリス」


「ついでにオレ」


「お部屋チェック六人集参上だよ!!」


 オレはお掃除戦隊の中に混じってキメポーズをとり、その存在をソーエンへと示す。――が、示された当の本人は。


「待っていたぞお掃除隊。俺の部屋の綺麗さに恐れおののけ」


 部屋の中で仁王立ちをして戦隊の登場を待ち受けていた。このノリノリやろうがよ……。


「そしてイキョウ、お前はこちら側に寝返れ」


「へいへい。さあ、一人欠けたお部屋チェック五人集よ。この部屋の主を倒して見せろ!!」


「ラリルレさん大変です!! 私達の仲間から裏切り者が!!」


「大丈夫だよシアスタちゃん!! 二人とも仲間にしてみせるから!! 皆、お部屋のチェック開始!!」


 オレとソーエンとが部屋の中央で仁王立ちしていると、各担当がチェックを始めた。といっても、オレとソーエンの部屋ってほとんど同じだから担当が変わることはないんだろう。他のやつらの部屋だったら変わるのかもな。


「まさかお前も居るとは思っていなかった」


「たまには一緒しようかなって思って……おっとラリルレ、ごめんな」


 床をチェックしていたラリルレがオレ達の足元に来たので、二人して避けてチェックしてもらう。


「んふふ~、二人とも優しい悪役さんだね」


「ふむ、早速光落ちするとしよう。俺は掃除の甘いところ見る。お前はその目で全体を見ろ」


「へいへい。今日くらいは日常で全力だしてやるよ」


「ソーエンのおふとん」「ちょっとくちゃい」


「――なん……だとッ……!?」


 オレは部屋を見渡す為、双子の言葉に衝撃を露にしているソーエンを背に、その姿を無視して移動する。


「すんすんすん。なんだろーこの匂い……いつものソーちゃんのカッコイイ匂いで……良い匂い……」


「すんすん。臭いというよりは体臭がしみこんでるって感じです。ソーエンさんのカッコよくて爽やかな香りが、より濃くなってるって感じです!!」


「それ劇毒だからあんまり吸うなよー。ほとんど麻薬だから」


「そう、か……双子は俺の布団を臭いと評価したのか……」


「割とショック受けてんね」


「くさいじゃなくて」「くちゃい」「くさくないけど」「くちゃい」


「ロロ……頼む……」


「任せろ。我の仕事だ」


 オレは部屋の入り口に移動して扉を開け、ロロを見送ってから、部屋全体を注視する。


 これは大掃除ではない、あくまでお掃除だ。日常的な汚れやごみ、埃を排除する掃除だ。だから壁や天井の些細な汚れは気にしなくて良い。ってことで、部屋全体を見てみると……。あったよ、日常的な汚れが。


「くちゃい……くちゃい……か」


「双子に言われたからってそう落ち込むなよソーエン。多分子供特有の褒め言葉だから。匂い強めで良い匂いは全部くちゃい的な理論だから」


「くちゃい」「くちゃーい」「すき」「すーき」「「きゃっきゃ」」


「ほらきゃっきゃしてんじゃん」


「ふむなるほど、理解した」


「元気になってなにより。そんで、ほれ、そこに汚れ残ってる。それ以外は大丈夫だから全員机に集合!!」


「ふむ……。机のインク染みか。一滴ばかりの些細な汚れ、見逃していた」


「ソーちゃんの机……。ね、ソーちゃん、浄化の杖使う?」


「……ありがとう、ラリルレ。この汚れは自分の手で取る」


 ラリルレの言葉に対して、元気になったソーエンはそう言って、一階に雑巾を取りに行った。


「んふふ~、じゃあソーちゃんお部屋チェック終わり!! 皆、次のお部屋にゴーだよ!!」


「「「ラジャー!!」」」


「また付いてこー」


 * * *


 現状、二階はオレ、ソーエン、シアスタの三人しか使っていない。そのほかは皆三階を使っていた。ってなると、順番的に、次はシアスタの部屋になるわけで――。


「あ、さっきのソーエンさんのあれ、ちょっと面白そうだったので待っててください」


 ――入る寸前。部屋の主シアスタは、そう言って先に部屋に入って扉を閉めた。


「みなさーん!! もーいいですよ!!」


 扉越しに、シアスタの合図が聞こえてきた。ってことで、オレ達は全員シアスタの部屋の中へと突入する。


 シアスタの部屋は、机の上にコルクボードが立てかけてあり、買った棚には数点の小物とぬいぐるみが飾られていた。小綺麗に纏まっていて、ちょっと背伸びした少女の部屋って感じだ。


「ラリルレ!!」


「我」


「リリム」「リリス」


「ついでにイキョウ」


「と、ソーエン」


「新選お部屋チェック六人集だよ!!」


 なんと、新メンバーにソーエンも迎えました。なんでも、今は汚れに洗剤を染み込ませて経過待ちだとか。


「ふっふっふ、待っていましたよ皆さん。果たして、私のお部屋に汚れなどあるのでしょうかね!!」


「シアスタ問いかけてきちゃったよ。どうなの? 汚れありそう?」


「いえいえ。私は元お部屋チェック五人集なので、いつでも綺麗にしてあります」


「だってさラリルレリーダー」


「んふふ~……でも皆チェック開始だよ!! リリスちゃんとリリムちゃんはお布団!! ロロちゃんは本棚!! キョーちゃんは窓のサッシ、ソーちゃんはお部屋の隅!! 私はそのほか全部!!」


「「「ラジャー」」」


 ラリルレリーダーは臨機に編成を変更してオレ達に任務をくれた。相変わらずラリルレリーダーの比重は重いけど、リーダーだからこそ大任を務めてるんだろう。その立派なリーダーに付き従うように、オレ達はチェックを開始した。


「サッシ良し!! ……すげーな、ピカピカじゃん」


「ふっふっふ。私の氷魔法を応用すれば、細かい汚れやゴミも凍らせてポイです!!」


「流石氷の妖精、流石シアスタ」


「むふー!!」


「ふむ。以前に見たときよりもプレートが増えたな。ジャラジャラ感が増している」


「むふーー!! そうですよ、流石ソーエンさん目ざといですね!! その皆さんの歴代プレートが飾ってあるコルクボードは私の自慢の一品です、むふー!!」


「そっかぁ。そりゃ確かに自慢の一品だわ」


「ああ。そうだな」


「シアスタちゃん!! かわわだよ!! そしてお部屋はきれれだよ!!」


「むっふっふ、当たり前です!!」


「シアスタのおふとん」「シアスタがいる」「「くちゃい」」


「なん……ですって……っ!?」


 今まで全てに自慢げだったシアスタは、双子の言葉にだけは自慢を載せずに衝撃的な声色で言葉を返した。


「すんすんすん……嗅いだら雪原が見えたよ……!! 雪原の中にシアスタちゃんが立ってる!!」


「え、何それめっちゃ気になるんだけど。オレも嗅いでみたい」


「俺もだ。どういった匂いなのか全く想像が付かん」


「ダメです!!ダメ!! イキョウさんとソーエンさんのロリコン!! スケベ、ヘンタイ!!」


 オレとソーエンが興味津々に嗅ぎにいこうとした。そしたら、必死なシアスタ、必死アスタに止められた。


「でもめっちゃ気になる――――」


「ロロさん!! お願いします!!」


「任せておけ」


 シアスタの言葉に反応したロロは、雪原の匂いを含んでいるであろう全てを剥いで、一階へと持って行ってしまいそうになる。


 でもさ、今ロロを追えば――。


「匂いを嗅ぎに行ったら本気で軽蔑しますよ」


 ――魔が差したオレ達に対して、シアスタはコレまで見たこと無いほどに冷めた目をオレ達へと向けてきた。


「……へい」


「……すまん」


 その目を前に、オレとソーエンは成す術など一切なく、大人しく従うことにした。


 * * *


 意気消沈したオレとソーエンは、ラリルレの鶴の一声で次の部屋へと移動しました。


 階段を上がり三階へ。廊下を歩いて次の目的地へとオレ達は移動した。


 その目的地とは――――。


「あ……皆さん。お待ちして……おりました」


 セイメアの部屋だった。


 しかもなんと、セイメアは律儀に部屋の前に立って、お部屋チェック五人集を出迎える準備をしていらっしゃったぞ。


 対して五人集は部屋の前で立ち止まり、中には入らず外で一旦足を止めていた。


「禁止事項!! せーしょーかいし!!」


「はい!! セイメアさんのお部屋にあるレースのカーテンを開けてはだめです」


「ほんだなの」「かーてんも」「あけちゃ」「だめ」


「本の劣化を……防ぐ為なので……。よろしくおねがいします」


「「「はーい」」」


 お掃除戦隊はそれぞれの部屋の事を良く知っているようだ。確かに、前にシャーユでセイメアの部屋を見たとき、パッと見古本屋の雰囲気漂わせてたもんな。そしてその内装は家に来ても変わらず、でも家の部屋はどこも日当たりが良いから、それに応じた対処もしているらしい。


 ダメなことの確認を終えたお掃除戦隊は部屋へと入ろうとする。それに続いてオレとソーエンも入ろうとする……けど……。


「お二人はダメです!! 入りたいならセイメアさんにちゃんと許可を貰ってから入ってください!!」


 シアスタが両手を広げて立ちはだかってきた。


「なあ、ソーエン……もしかしてコレって……」


「ふむ……。デリカシー、というやつか」


 そのシアスタを前に、オレ達二人はこそこそ話して、そして一つの結論を出した。


「大丈夫。オレ達はデリカシーある大人だから無粋な事は言わないよ」


「ああ。部屋の前で待機している」


「ふっふっふ、お二人も成長しましたね」


 ニヤッと、そしてキラッと目を光らせグッジョブしてきたシアスタに、オレ達二人は同じくグッジョブを返してお掃除戦隊とセイメアを見送った。


 そして、部屋の前で待つこと数分――。


「お? ロロが洗物持ってった」


「どうやらセイメアも双子の検閲に引っかかったようだな」


 今のところチェックされた全員が引っかかってる。もしかしたら今日は全員引っかかる日なのかもしれない。


 そんな事を思っていると、お掃除隊とセイメアも部屋から出てきた……けど。双子以外の顔が真っ赤になってらっしゃる。セイメアなんて両手で顔を覆って耳まで真っ赤にしていた。


 双子は何でか、きゃっきゃしてる。


「どしたのさ皆」


「ううん……なんでもないよ……」


「はい……」


「はぅぅ……ふぇろもん……えっち……」


 今セイメアがポツリとつぶやいた言葉で大体は察した。双子がどんな評価を下したのかを察してしまった。そしてラリルレとシアスタは、その色香に当てられたんだ……。


 デリカシーあるオレは、何も言うまい――――。

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