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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第四章-どうしてこうなるんだ異世界-
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98.これは夢か現実か――

 うーん、眠い。心底眠い。また眠気のピークが訪れたぞ。これを越せば眠気は飛ぶけど、できれば維持したまま気持ちよく寝たい。


 町中をフラフラ歩いてカフェへと向かう。眠いながらも順調に足を進めてカフェの前までたどり着くと。


 ……どうしてだろう。寝不足のせいかラリルレの幻覚が見える。しかも、ロロを頭に乗せてる。


 本格的な幻覚だなぁ。もしかして、オレはもう夢を見てるんじゃないか? 久々に夢を見れてるんじゃないか?


「あ!! おかえりキョーちゃん!! てっきり中にいるかなって思っててね、でも居なかったから探しに行こうって思ってたんだぁ」


 最高に可愛らしい存在が駆け寄ってきて、オレにニコニコ顔を向けてくる。

 ああ…癒される。夢の中でも寝てしまいそうだ。


 そう……か。オレの睡眠不足とアレで漣立ち続けていた心は、これで癒されるんだ……。


「閉ってるしどうしよ……。ルナちゃん待ってあけてもらう?」

「オレを誰だと思ってるんだ、ラリルレ。こんな鍵ちょちょいのちょいさ」


 夢のラリルレに良いところを見せたくて、オレは扉の前に立ってスキルを……。待てよ?


「なぁ、マイスウィートドリームラリルレ。スキルで開けるのとキーピックで開けるの。どっちがカッコイイと思う?」

「どっちもかっこよくないよ!! ふほー侵入はダメ!!」


 ラリルレは両手でバツを作ってムッとしながらオレを見てくる。ロロも真似して触手でバツを作ってる。

 ラリルレかーわーいーいー。


「不法侵入じゃないよ。ナトリが入って良いって言ってたの。だってのに、鍵を渡さなかったあいつに非がある」

「そっかぁ……でも、勝手に鍵開けるのはちょっと悪いことしてる気分になっちゃうなぁ」

「だってよロロー。もう最高に清くない?」

「我に善悪はわからん。だが、ラリルレが言うのならばそうなのだろう」

「それが善悪の規準だからオールオッケー。ラリルレ、こういうのって勝手知ったる仲ってやつだから大丈夫。多分だけど、ナトリもオレが鍵を開けられるか鍵渡さなかったんだと思う。あいつはそう言うところある」

「あ、そっか。ルナちゃんは頭良いもんね、凄いなキョーちゃん。ルナちゃんの考えてること分かっちゃうんだもん」

「それがなぁ、あいつの考えてることなんて全然分かんないんだわ。これっぽっちも分からない。<開錠>」


 オレは会話をしながらドアノブに手を添えてカフェの鍵を開ける。

 それによって開かれた扉を潜って、ラリルレとロロと一緒に中へと入った。


「私も全然分かんないや。でも、すっごく優しいのはちゃんと分かるんだぁ。ルナちゃんって皆大好きだもん。だからね、私も大好き!!」


 扉を閉めると同時に、防犯の為に鍵を掛けて室内を進む。


「ラリルレ、オレはオレは?」

「もちろん大好き!!」

「カはーァ!!」

「……」

「ロロちゃん、ぎゅー!!」

「……これがかはーというものなのか?」

「尋ねてる時点でちげぇよ。かはーは心の底から漏れ出た尊さなんだよ。じゃ、オレ寝るから」

「お昼寝するの? あ、でもお昼前だし……お昼前寝?」

「じゃあお昼前寝だわ。ラリルレがそう言うならそうだわぁ」


 Wow。夢の中のラリルレはいつまでも可愛いな。

 二徹してるからその分夢の中でさえ寝ようとしてるオレですら、この夢の為に起きてたいくらいだ。んん? よく分からなくなってきたな。まあ、夢って良く分からないことおきまくるもんだし、こういうもんだろ。


「ねえキョーちゃん。目の下に少し隈あるよ? また寝れないの?」

「違うの……不可抗力で寝てないだけで全然寝たいの……。……待てよ? これって夢だよな? なあラリルレ。一緒に寝ない?」

「んふふ~、良いよ。一緒にお昼前寝だね!! キョーちゃんはお昼寝までしちゃっていいよ!!」

「この際だからロロも一緒しようぜ~」

「貴様の言動はやはり理解が……まあ良い。ラリルレが寝るならば我は共にするだけだ」

「やりぃ~」


 言質は取ったから、後はもう二人を抱えて寝るだけだ。


 オレ達は歩みを進め、カフェの階段を登って二つ目の扉を開ける。


 確か、ここがヤイナの部屋だったはず。

 そのオレの予想は当たっていて、扉を開けて広がった光景は、想像通りの結果が広がっていた。


「……んー。ノーコメントで」


 ヤイナの部屋は、地雷女が住んでそうなピンクが基調とされたコーディネートで、床はモコモコカーペット。壁は流石に張り替える事はしなかった、というか絶対にめんどくさかったからノータッチで白い石材の壁。

 設置されているベッドは真っ白で、もこもこの布団と枕はピンク。真っ白のタンスもそうだけど、この室内に設置されてるのって、全部ゲームの家具アイテムだな。


 ただ、なぁ。服と下着は片付けて置けよ。ってか、アイテムボックスに仕舞っておけって。なんでわざわざ出して部屋に放り出しておいてんだよ。部屋にゴミや服や物が散乱しててマジで汚ねぇ。


「ヤイヤイちゃん……。私が守るよ!!」

「あらーラリルレに押し出しされるー」

「女の子の秘密は私が守るもん!!」


 前に立ちはだかったラリルレに押されて、その流れに身を任せて部屋から追い出されてしまった。

 そしてラリルレは後ろ手に扉をしめて、廊下と部屋を隔絶した。


「ねえラリルレ。別にあいつの部屋なんて見慣れてるから大丈夫だよ? ってかむしろ、なんでアイテムボックスの機能があるのにこんなに散らかってるのかが分からない」

「お気に入りの服は出しておきたいの!! 私がお片づけしとくから入っちゃダメ!!」


 ラリルレは扉の前で両手を広げ、とうせんぼしてくる。

 うーん。それが女の子の感性ってやつなのか? よく分からんけど、そう言うことならまあまあ納得できる。


 ラリルレは出しておきたいって言ったけど、この部屋と比べると、ラリルレの部屋は綺麗で整っててそれでいて可愛いしな。これはズボラなあいつだから仕上がった部屋だ。夢のなかでもリアリティってもんはあるんだな。


「ヤイナの部屋がダメってなると……セイメアの部屋か?」


 ヤイナの向かいの部屋がセイメアの部屋だったはず。だったらそっちで寝よう。


 そのために振り向いてノブに手を掛けて扉を開ける。


「キョーちゃん!! 女の子の部屋にそんな簡単に入っちゃ……わあ」

「これは……凄いな。セイメアって人物を体現してるわ」


 扉を開けた先は、古本屋を思わせる光景と香りだった。


 壁にびっしりと並べられている本棚には、ぎっちりと本が並べられている。多分古本だろう。壁には一画だけタンスが配置されているけど、それも彩色が無いシックなタンスだ。あとは机と椅子、ベッドしか置いていない。


 家具全てに彩が無く、本当にパッとみ古本屋と錯覚させるほどの色気の無さだ。オレとしては、彩色溢れるヤイナの部屋よりもこっちの方が安心感さえ覚えてしまう。


 でも……。


「ダメだ。セイメアの部屋を勝手に使うのは罪悪感がハンパない」


 もし勝手に使ったことで泣かれてしまったらオレは耐えられない。だから無理。


「ってなると……消去法でナトリの部屋…は…ダメだな。あいつのなーんもない部屋で可愛さと優しさの権化のラリルレを寝せるわけには行かない。うーん、やっぱヤイナの部屋だな」


 もうオレの眠気も限界に近い。早々に寝よう。

 ってな訳で、ラリルレを小脇に抱えてセイメアの部屋を後にする。ラリルレは抱えるだけでも温かいなぁ。


「えっ、キョーちゃん!? ダメだよ!!ヤイヤイちゃんのお部屋はぁ!!」


 ノブに手を掛けたところでラリルレの止める声が聞こえてきた。でもな。


「あいつのリアルの部屋知ってる? こんなもんじゃないくらい散らかってるんだよ。その部屋ですらあいつは躊躇することなくオレとかソーエン上げてたの。もうオレとソーエンは見慣れてんだわ。今更あいつがこんな部屋見られた位じゃなんも言ってこないわ」

「そ、そっかぁ。三人とも大学生だもんね。これくらいふつー……なのかな?」

「ふつーふつー」


 もう慣れたもんだから、無遠慮にヤイナの部屋の扉を開けてオレは中に入る。


「そうなんだぁ……高校生と大学生って全然違うんだね」

「高校生と大学生とはなんなのだ?」

「おべんきょーしてる人たちのことだよロロちゃん。んふふ~、こっちにも学校あるんだって。年齢関係なくて大学みたいなところもあるらしいよ!! 皆で通うのも楽しそうだなぁ」

「そうか。ならば我も楽しみだ」


 小脇に抱えたラリルレは楽しそうな声を上げてロロに語っている。――が、対してオレはベッドの前で立ち尽くす。

 あいつ……マジであいつ……。


「どーしたのキョーちゃ――」


 オレが立ち尽くしたせいで、ベッドの惨状に目を向けそうになったラリルレの顔を片手で覆い隠す。

 これは……ラリルレが見て良いものじゃない。


 タオルと……そのタオルが必要になるものがいくつか散乱していた。あのバカ……堂々と置いてんじゃねぇよ。


「ごめんラリルレ」


 オレは踵を返してラリルレをそっと扉の前に降ろすと、扉を閉めて鍵を掛けた。


「キョーちゃん!? どーしたの!?」


 困惑しながらも扉越しに大声を出すだけで、戸を叩かないラリルレ……どんだけお上品なんだろうか。この下品な部屋の持ち主に見せてやりたいわ。


 部屋に一人残ったオレは、ベッドの上以外にも危ないものが散乱していないかを確認するために、この目を駆使して探索する。それと同時にヤイナへ通話を掛けた。


「っス?」

「わりぃ。寝るのに部屋借りるわ」

「マジっスかー? うひひ、双子ちゃんくすぐったいっスよー、好きなだけお吸いなさいっス」

「話し聞け。ベッドの上にあるの勝手に片付けるわ」

「別にそのままでも良いっスよ? なんなら引っ越すときに捨てちゃっても良いっス」

「ラリルレとな。お前の部屋でな。昼寝しようとしてんだけどな?」

「なーる。確かにメアメアちゃんの部屋は使うのためらうっスよねー。ナトナトの部屋はリルリルちゃん寝せるのにアレっスしー……あたしの…部屋しか……。パイセンハリー!! 急いで片付けて!! 下着とか良いっスからアレだけ全部!! 早く!!」

「分かってんだよ!! だからやってるから!! このタオル全部綺麗!?」

「当たり前っスよ!! 終わったら浄化の杖使ってるから全部綺麗っス!!」

「だったらアイテムボックスに仕舞っとけこの色欲魔!!」

「ノーアクションで手に取れるからいいんスよ!! あたしとしては日常的に使うものを一々しまう理由がないんスよ!! めんどい!!一々取り出すことすらめんどいんス!!」

「ベッドの上は綺麗にしたぞ!!他は!!」

「あること前提で話すとか良く分かってるっスね!! ベッドの下の箱もっス!!」

「あいよ!! 三箱あるけどどれ!!」

「全部っス!!」

「お前覚えとけよ……帰ったらぶち込めるだけぶち込んでやるからな」

「……え? 良いっスよ?」

「っざけんなボケぇ!!」


 通話をブチ切って急いで部屋の一部を綺麗にする。

 ベッドの上、下。そこさえ綺麗にすれば、この部屋には異常は無い。衣類が散乱してるだけの汚い部屋だ。


 ふぅ……これでよし。

 寝る準備が整ったので、部屋の扉を開けてラリルレに正常化された部屋をお見せする。


「ごめんなラリルレ。掃除するのに手間取っちまった」

「キョーちゃん……何も変わってないよ?」

「それでいいんだ……」


 ラリルレがこの部屋の変化に気づかないだけで……オレは掃除した甲斐があったよ。


「疲れた!!寝る!! ラリルレ、ロロ。カモン!!」

「らじゃーだよ!! ぎゅー!!」

「……」


 オレが腕を開くとラリルレは飛び込んでくる。これが、自然の摂理だ。自然の摂理の前ではロロも逆らえない。

 あとは抱き締めたままベッドにダイブを……。


「靴は脱ぐか」

「ねー」


 オレはベッドに腰掛けて、足の間にラリルレを降ろす。そして二人で靴を脱ぐ。


「キョーちゃん、ロロちゃん。浄化の杖~」


 ラリルレはアイテムボックスから杖を取り出してまとめて綺麗にしてくた。そうそう、身体を綺麗にしたほうが寝やすいんだよな。


「ありがてー」


 綺麗になったオレは、そのままラリルレを抱きかかえてベッドに横になる。

 胸にはラリルレの後頭部が、顎にはロロの……後頭部? でいいんだよな? まあ、頭の後ろが当たる。


「うーん、うーん。この位置か?」


 ロロの感触は相変わらず形容できない。でも、顎を添えるのは何か反発力があって喉が圧迫される気分になる。だから趣向を変えて乗せてみると、丁度良く収まったからこれでいいか。


「やめろ、鬱陶しい」


 ロロが触手でペチペチとオレの頬を叩いてくる。


「これがアニマルセラピーってやつか……」


 そう言ったオレの発言を無視して、ロロはニュルニュルと器用に移動を始めた。

 オレの顎下を離脱して、ラリルレの胸元に収まり抱きかかえられる。


 そして……何も言っていないけど、一息ついた風の雰囲気を出すとそれ以上は何もせずにジッと黙って微動だにしなかった。


「んふふ~、ローロちゃん」


 そんなロロを、ラリルレはただ優しく抱き締めて笑っていた。

 おおああおぁ。その笑い声を聞くだけで、オレは……もう。


「キョーちゃん、おやすみなさい」

「感無量」


 それだけ言い残して、オレは深い眠りに誘われた。

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