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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第四章-どうしてこうなるんだ異世界-
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86.形勢セーフティ

「……サンカさん。何か思いつきましたか」

「……率直に言う。ダメだ、何も思いつかない」


 炎と氷の魔法使いの二人は目の前の光景を見て落ち着いた様子で話している。

 しかし、その言葉とは裏腹に頭の中はどうしたら良いのかという思考で埋め尽くされていた。


 二人はその思考に埋め尽くされているからこそ会話に感情を乗せる余裕が無くて、一見冷静なのだと錯覚させるほどだ。

 何故そのような状態に陥っているのか。


 その答えは目の前の光景にある。


「ゴゴゴ、ホンタイカラノシンゴウロスト。カツドウコウリツヲカイ。セントウコウリツヲジョウイ。リミッターカイジョ、カイジョ」


 ゴーレムはただその言葉のみをひたすらに繰り返している。

 全身が赤熱し、ヒビが走るゴーレムの体は今にも崩れ落ちてしまうそうだ。だが見た目と違い力は対峙したときよりも明らかに強まっていた。


 魔法攻撃型のゴーレムはとある対象に向かって三つ目全てからビームを放ち続けている。


「マール!! このままでは君の盾が持たない!!」

「大丈夫です!!シーカは私が絶対に守ります!!」


 マールは額に脂汗を滲ませながら、シーカを背にその盾を構えてゴーレムのビームを防いでいる。

 右手に盾を構え、左手は押さえるように右手首を掴み、下半身は全力で砂浜を踏みしめていた。


 ゴーレムが放ったビームは、マールの盾を中心に分散して背後へと流され続けている。

 その威力は砂浜に白みを齎すほど強力で、もはやこの場に明かりなど必要ないほどだ。


「アイスグラウンドは!!」


 そんな二人を目の前にシアスタはサンカへと提案をする。


「ダメだ。今奴の体勢を崩したらあのビームがどこへ向けられるか分からないんだ。マールが引きつけてるこの状況を崩すわけには……行かないんだッ」


 シアスタの提案を合理的な判断で却下したサンカだが、その表情は感情に溢れていた。唇を噛み締めて必死に我慢をしている。

 今すぐ助けに行きたいという気持ちを押し殺しながら現状を打開する策を捜していた。


 サンカは、そしてこの場に居る皆は理解している。感情的に動いたところでこの場がどうにか出来る訳ではないことを。

 寧ろ、感情的に動くことが最大の悪手であると知っている。


 この場はマールが持っている盾によって均衡が保たれている。否、あの盾だけがこの場に均衡を齎している。

 もし感情的に動いてこの均衡を崩すことがあるならば、それは負けへと傾くだけであって勝利へと傾ける事は無い。


 この場のブレインはシアスタとサンカだ。だから二人が何かを思いつくまでは皆が動く事は無い。

 動けないのではなく動かない。それが勝つための条件と理解しているからこそその判断をしている。


「何か、何か早く考えて状況を…」


 打開策を思いつくことが出来ないシアスタは、焦りの表情を滲ませながら言葉をつぶやく

「焦るなシアスタ。焦るだけ思考は鈍化するんだ。感情は体に出してもいいけど頭の中には入れちゃダメだ」

「すー、はー。……はい!!」

「良い返事だ」


 三等級冒険者からのアドバイスを受けたシアスタは深呼吸をして焦ることを止める。

 その姿を見てサンカはニヘっと笑ってシアスタを褒める。しかし、その頭は現状を打開する方法を考え続けていた。


 サンカは気づいている。あのゴーレムはマールが持っている盾を最優先で狙っていることに。


(盾が壊れない限りはゴーレムはあの盾を狙い続けるんだ。だったら投擲して……ダメだ、あの盾を捨てた後も狙い続ける保障は無い。ゴーレムの判断基準があの盾を脅威と思ってるのかあの盾を持つ者を脅威と思ってるのかは判別が出来ない。マールが盾を捨てれば判別可能だが、それは一か八かの行為になる。そんな不確定要素にマールの命をかけられない。やっぱり攻撃を仕掛けるか? ダメだ。下手に動いてこの均衡を崩せばそれこそ負けだ)


 勝利を掴む為には状況の判断を正確に行わなければならない。

 だからサンカは少しでも正確な情報を掴む為に、自らの思考を持って情報の取捨選択を行う。


 負けは考えない。勝つことだけを考える。それが冒険者を生業にしている者の思考だ。


 ……それでも。

「……っふーーーー」


 サンカは大げさに息を吐く。

 その姿を見たシアスタは少しだけ不安に駆られてしまった。


「サンカさん……」


 シアスタは不安そうな眼をサンカへと向けた。


「……大丈夫だシアスタ。マールは絶対に倒れない。だったら私達も絶対に思考を止めてはいけないんだ」

「分かりました!! マールさん、頑張ってッ……私達も頑張りますから!!」


 シアスタは信頼の目をマールへと向ける。

 その眼には涙が浮かんでいた。悲しみの涙ではない。感情が揺れ動いてしまったからこそ流れる涙だ。


「……これが……冒険者の……日常ですか……?」

「こわい?」「くるしい?」「にげたい?」「やめたい?」

「……いえ。ここで逃げてしまっては……店長に……雇っていただく前の私に…戻ってしまうような気がします……」

「セイメアすごい」「セイメアえらい」「みんながんばってる」「わたしたちもがんばる」「「がんばるがんばる」」

「えっと……頑張る…頑張る? ……あ、もしかしたらナトナトさんからいただいたこの杖が現状を」


 セイメアは双子の真似をして胸元で振っていた手を見てふと思いつく。その手に持った杖は信頼足りえる人物から渡された物だ。

 もしかしたらこの場面を予想してルナトリックが持たせたのだと思ったセイメアは、その考えを周りに伝えようとした。が。


「ふへー、もうその杖必要ないよー。っていうかー今後の為を思ったら使わない方が良いかもねー」


 セイメアが伝える寸前にソーキスが遮った。


「え……?」

「だってー、ほら」


 ソーキスはフニャッと手を上げて海を指差す。

 しかし、その指の先に何があるのかを捕らえられるものはこの場に存在しない。


 ただしセイメアはゴーレムの光線によって生み出された光が、硬質製の何かに反射したことに気づいた。

 眼前の戦いに必死になっているものでは気づくことが出来ないその一瞬は、セイメアだけがソーキスによって気づかされた。


「絶対に私が守りますからああああああああ!!」

「マール……いや、リーダー。信じてるよ」

「サンカさん、あの――――」

「なるほどシアスタ、だったら――――。ああ、ダメだ、これじゃマールが持たない」


 彼方からの小さな反射を知覚出来ない者達は必死に戦う。勝利を掴み取る為に。

 この場の戦いに眼を向けている者達は、その何かを感じ取る余裕が無いほど目の前の戦いに心身を注いでいた。


「くる」「ちかづいてる」「これは」「おにーさんの」「「まりょく?」」


 双子がつぶやいたその直後。ゴーレムの眼に何かが刺さった。

 不規則な軌道で跳んできたモノ。


 三つ目のゴーレムの眼全てに刺さったその何かは、確実に魔法攻撃型ゴーレムの特徴である攻撃能力を、破壊し無効化する。


「ッ!! 好機だ!!」


 ビームが止んだと同時に瞬時にシーカが声を上げた。

 何故ビームが止んだのかは分からない。しかし、冒険者の感がこの瞬間に勝利への道筋が全て繋がったと確信をしていた。

 そしてその確信をマールとサンカも同時に感じていた。


 ただし、その三人には魔力が見えていない。

 だからこそ、魔力が見えるシアスタにはその確信が間違いだと分かっていた。


「ダメです!! 近づかないで!!」


 シアスタの目には太陽の恵みが見ているものとは異なる光景が写っている。

 ゴーレムは最大の攻撃手段が潰された直後に体内の魔力圧を高めて何かをしようとしている。その事は魔力が直接見えるシアスタにしか分からない。

 しかし、シアスタの忠告は遅かった。もう太陽の恵みはゴーレムへ向かって動き出していた。


「間に合ってください!! <アイスウォール>!!」



 * * *


 シアスタ達が戦っている横では、ニーアとコロロも同じく制限を解除したゴーレムと戦っていた――――はずだった。

 しかし、二人の目に映るのは、一刀両断され砂浜に無残に転がるゴーレムの残骸と……漆黒の騎士が、その手にもつ剣の刃から黒を霧散させる姿だけ。

「墓守殿……もしや、あなたもまたイキョウ殿達と同じような超越者なのでありますか?」


 黒がくゆる剣。それを鞘へと納めた墓守は、コロロの言葉を受けて、鎧を軋ませながら返答をする。が、言葉ではない為二人にその真意が伝わる事は無い。


「……いいわ。あの人が影に住まわせてるのだから敵のはずが無いわ」

「でありますね。墓守殿、非礼をここに謝罪するであります」


 墓守はその言葉を受けてまた鎧を軋ませるが、その真意は二人に届かない。


「(……グッドグッド)」


 だから二人に向けて両手をサムズアップさせる。

 そしてその後にまた鎧を軋ませるが……。その姿を見てもやはり二人にはその真意は届かなかった。


 ならばと思い、墓守は鎧を軋ませるのを辞めてヘルムのスリットを二人へ向ける。


「……『横槍によって騎士道を汚してしまった?』 いいえ、そのような事はありません。貴方様が来てくださらなければ私達は敗北しておりました」

「……え? 『君達の実力ならば敗北はありえない』でありますか? では何故手助けを……んん? 主の意思を尊重した……でありますか?」

「……そう……。卑下することはありません。主の命に従うのは騎士の義務です。それがイキョウ様の意思ならば尚更」

「……ふむふむ、超越者についてでありますか? 私達が勝手にそう呼んでいるだけであって、明確な定義があるわけではないのであります。ただ、最近になって我々の範疇を上回る力を持つ者が確認されたので、王国の安全の為にも情報を収集しておけとの命が下されたのであります」

「シャーユに来たのは勇者伝承を追うためか?」

「半分は正解であります。キアルロッド殿からあの化け物、もといユーステラテスが勇者という言葉を口にしたから旅行のついでに調べて欲しいって言われたのであります」

「もう半分はマジの観光って訳ね。にしてもついでって……軽くない? いや、オレ達も勇者のことはマジで最近まで忘れてたから軽さを責められないけどさ」

「表立って情報収集する訳には行かないのでありますよ。あのユーステラテスは仮にも王国五騎士と仮面部隊が共同で倒した事になっているのでありますから」

「どゆこと?」


 疑問の声と共に、墓守の背後からゆらりと、血と黒のオーラを纏ったボロボロの男が姿を現す。


「私から説明を」


 その姿を見てニーアは一歩出て献身を表した。


「……おや? いつの間に私はイキョウ殿と会話を……?」


 しかし、コロロは一連の流れの中に違和感を覚えて難色を示していた。

 そのコロロを無視して話は続けられる。


「よろしくニーア」

「便宜上は我々王国騎士とあなた達仮面部隊は同じ強さになっている……というよりはそう思わせるように仕向けてあるの。箔のない強さや過剰な戦力は時に争いを生むわ。この平和な世の中では直接的な戦争ではなく、談に付け入る隙を与えると言った意味でね」

「なるほどなぁ。国力守ったり均衡保つのも大変って訳だ」

「ええ。だからもし、王国が表立って力を持つ者を必死に捜すようなそぶりを見せてしまったら……」


「整理させて。

 ユーステラテスの件は、お前等五騎士って言う国を上げて誇っている戦力を投入した上で、そこに仮面部隊が手助けしたから解決に導けたってことになってる。だから、便宜上は王国主体で事件の解決が出来た。

 つまり、ユーステラテス。基、化け物の対処自体は、事実がどうであろうと周辺国家には、王国が所有する戦力を用いたことによって解決したって伝わってるから、大問題が起きたはずのクライエン王国の評判にヒビは入っていない。ってことで良いんだよな」


「ええ。教皇、スノーケア様、国王様の協議を踏まえてそう言う結果に落ち着いたわ」


「へー。カフスが同意してんなら別に良いや。お前等の国の問題はお前等で片付けろ。

 それでなぁ……。一応お前等の不安を払拭する為に言ってやるけど、……超越者? ってやつはオレを含めて七人で、ユーステラテスみたいな奴も七体。内四対はオレ達の手で葬ったから残りは三体だ。だからこれ以上調べてもなーんも情報は出てこないぞ。あとは……まあ気にすんな」


「あなたがそういうなら気にしないわ」

「……ぬるっと会話に入ってきたイキョウ殿にも驚きそうになったでありますけど、平然と会話を続けるニーアにはもっと驚きそうになってるでありますよ……」

「オレとしてはあの墓守のジェスチャーが分かんないのに見つめ合った瞬間に会話が成立したお前等の方が驚きなんだけど。ってか墓守お前そのジェスチャー常用してくんない!? それ使ってくれた方がコミュニケーションのクオリティ上がるんだって!! あ、おい!! 逃げんなコラ!!」


 オーラを纏うイキョウは、普段通りの態度で墓守へと抗議の声を上げている。


 その姿を見たコロロは、安堵したような優しい目を向けていた。

 姿形はあのとき自分達を救ってくれた見た目と変わらないが、今のイキョウは自分が良く知るお気楽な態度を貫くイキョウだと知って。


 なにより、あの虚ろな目ではないことを知って。

 コロロはあの虚ろな眼を見てから思うことがあった。――――彼の孤独を埋めてあげたいと。


 そしてイキョウがいつもしている、死んだ眼を見て思うことがあった。悲しい彼を救ってあげたいと。


 彼の目に気づいたものしか分からないこの思いは、彼の目が写しているものに気づいたものなら誰でも思ってしまうことなのだろうとコロロは思う。


 だからこそ、孤独な寂しさを背負うイキョウが朝の鍛錬を楽しみにしてくれていることが心の底から嬉しくて、ただでさえ楽しい自己鍛錬が物凄く楽しく感じてしまう。そしてそんな彼が自分の声を好きと言ってくれて癒しを感じてくれていることに思わず喜びを感じてしまう。


(イキョウ殿がその身に秘める暗闇。そこから貴方を救い出して上げたいのであります) 


 コロロはその思いを微笑みに変えて、イキョウを見る。


「んー、最高にかわ……いや、ちょっとたんま。これにてオレはどろんで」


 言葉と共にイキョウは軽く手を振って、二人からの返事を待たずにすぐさまこの場から姿を消した。そう、知覚を遮らずに姿を消した。

 急に現れて急に姿を消したイキョウ。


「いやはや、いつも唐突なお人でありますね」


 その行いを見てコロロは『まったくもう』といいたげな顔を夜の海へと向けていた。

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