84.エリートナイトシールド
「きっとイキョウさん達も全力で戦ってるはずです!!」
「そもそも彼等は一体何と戦ってるんだろう、ね!!」
魔法攻撃型ゴーレムを相手取っている冒険者組み。
ゴーレムの振りぬいた腕を跳んで避けるのは太陽の恵みのメンバーの一人、シーカだった。
「はは!! そんなノロマな攻撃じゃ私に当てられないよ!!」
回避後相手を挑発するように言葉を発した後、両の手に持っている剣を構えてゴーレムに向ける。
「さあさあ、どんどん攻撃してください!! 物理攻撃は私達が引きつけます!!」
この場で前衛をになっているのは盾を持つマールと双剣使いのシーカだ。
シーカに逃げられたゴーレムは、側に居るマールへと攻撃対象を変える。
マールはゴーレムの攻撃をその盾で受け止めて受け流し、ダメ押しで剣で攻撃する。
が、剣の刃は寸分も通らずにその岩の肉体に弾かれた。
「マール、無理に攻撃すると剣が持たない。防御に専念してくれ。<ファイヤストーム>!!」
サンカは炎の渦をゴーレムに叩き込む。その行動を理解していたマールは寸でのところで一時戦線離脱し、その炎に当たらないよう距離を取る。
その渦は火炎放射器のようにゴーレムへと高温の熱を与える。が、それで焼き尽くせるほどこのゴーレムは柔ではない。
炎の奔流の中、ゴーレムはサンカへと狙いを定めてビームを放とうとする。
しかし。
「サンカさん!!」
「ああ!!」
シアスタの一声でサンカは攻撃の手を止める。
サンカのとシアスタの間はソーキスが、その後ろにはシアスタと双子が居る。
ソーキスは、炎の渦が消えると同時にスライムの盾を作り出し――。
ゴーレムから放たれたビームを吸収して無効化する。
的確な攻撃と防御、そして前衛によるゴーレムの足止め。これがこの場で行える最善の手。
そしてその司令塔となっているのはシアスタだ。
魔法攻撃型ゴーレムの目から放たれるビームはこの場に居るものの命を奪うことなど容易いほどの威力を持っている。
しかしその、攻撃はシアスタの魔力感知とソーキスの盾によって完全に無効化されていた。
「ほじゅう」
「ありがとリリス。丁度魔力が切れそうだったんだ」
冒険者達はこの工程を幾度も繰り返している。
なのに何故中級魔法を幾度も放っているサンカの魔力が尽きないのか。
その謎の答えは双子の持つ能力にある。
双子の魔力譲渡による回復。
魔力タンクであるソーキスから伸びた触手を双子が掴み、それぞれが魔力を渡すべき相手に渡している。
銀髪のリリスはサンカへと、そしてリリムは。
「まだだいじょうぶ?」
「はい。私はサンカさんほど攻撃を行ってないので」
司令塔の他にもう一つの役割を担っているシアスタへと魔力を送っている。
サキュバスの能力による魔力譲渡はこの世界では他に例を見ないほどのレアな能力だ。
普通ならば、そのような能力を何故持っているのか疑問視される。しかし、この場に居る太陽の恵みはその様なことを気にしない。
何故なら、この戦いに勝つために必要な要素だからだ。
冒険者同士の詮索はご法度だとかそういう生易しい理由ではない。
目の前の敵を相手に隠し事をしていては死ぬと理解している三人は、何故ではなく何が出来るかだけを求めている。
太陽の恵みは熟練者とも呼ばれる三等級の冒険者。その位置に立つものは経験上、死闘に『何故』という疑問を持ち込むような無駄なことはしない。
生き残る為の解を求めるのが熟達した冒険者というものだ。
「行きます、<コールドストーム>!!」
シアスタはゴーレムに杖を向け冷気の奔流を放つ。
その冷気は砂浜に霜を下ろすほどの白い霧の渦は、熱しに熱しられたゴーレムの身体を急速に冷やす。
ここまでがこの戦いにおける全ての工程だ。
熱し、熱し、熱し、冷やす。
「十四歳でその威力は凄いんだ。やっぱり氷の精霊なだけある」
「ムフー、師匠直伝の魔法です!!」
サンカは、シアスタの魔法を見て素直に賞賛する。
そしてその賞賛を受けてムフ顔をするシアスタ。
「ふへー。後何回熱して冷やせばいいのー?」
「分かりません!! でも、師匠から教わった『硬いものは温度を上げて下げればいつかは壊れる』って知識は本当です!! ですからいつかはあのゴーレムも壊れるはずです!!」
「シアスタのししょー」「ものしり」
「自慢の師匠です!!」
双子の言葉に自慢げに答えるシアスタ。
その教えを裏付けるように、目の前のゴーレムは変色を始めている。そして、微かだが全身にヒビが入り始めていた。
それを見た太陽の恵みは確信している。これがこの場における勝利への最適解だと。
シーカやマールの剣では傷一つ付けられない。だが、この戦法ならば確実にゴーレムへダメージを与えられる。
「ここからが正念場ですね!!」
「違うよマール。始まったときからずっと正念場さ」
ゴーレムの攻撃は一撃たりともまともに受けてはならない。だから、最前線で戦っている二人にとっては、前衛を勤めた瞬間からとっくに正念場は始まっていた。
しかし、マールは自分の持っている盾を見て思うことがある。
この盾は凄い性能を持っていると。だからその盾に対する安心感が先行していた。
この戦いが始まる以前から知ってはいた。理解はしていた。
コロロがクエストに同行した際に性能についてのお墨付きは貰っていた。
しかしそれ以上に、この命のやり取りをする中でこの盾に全ての攻撃を任せられるのは、この<エリートナイトシールド>を使った実感によって確実な信頼感を覚えているからだ。
<エリートナイトシールド>は、中級クラスの城系ステージに登場する上級騎士からドロップする品だ。その上級騎士はプレイヤーレベルに換算するとおおよそ百五十レベル。
この世界の規準と比べると、百五十レベルというのは高レベルに値する。この世界においてその騎士がドロップする品が普通なわけが無い。
特殊な効果は一切無い盾ではあるが、現代のこの世界に現存する盾の中では最上位に位置する強固さを持っている盾だ。その証拠に、四騎士に匹敵する力を持つゴーレムの攻撃を受けても一切傷がつかない。
盾という物は衝撃を逃がす役割も持つ。その役割すらもこの盾は最上級でこなす。しかし持ち手がその性能に追いつけていないせいで、完全に逃がすことは出来ずにいた。
しかしそれでもこの盾は純粋な性能によって持ち手は守られている。
「ですです。私達はずっと正念場です!!」
マールは、着実にダメージを負っているゴーレムへ盾を構えながら気合を入れる。
「絶対勝ちますよ、この戦い!!」
マールの言葉に誰もが返事をせず、それでも同意の意思を向けている。
「あの……私…場違いな……気がしてきました……」
「ふへー、ボクもー」
二人を除いて。
* * *
「良いか、こっからが正念場だぞ!!」
「この地層めっちゃ硬いんスけど、全然ピッケルが通らないっス」
「かちかちだよぉ」
「っス!? エッ……なっ、パイセン達そんな目で見ないでっス!!マジでこっわ!!」
「クックック。ゲームのような外枠だけを模したモデルとは違い、現実に現れた実体だからこそその機能は必然なのである。重要器官周囲の防衛機能を高めるのは――」
「この先核があるから、守る為に地層ガッチガチになってるぽいわ」
「えー、どうするんスか?」
「この先に核があるのだな」
「え? そうだけど?」
「ならばもうここで決める。我慢の限界だ」
「なに? トイレ?」
「奥義 <ラストリゾート>」
「ぎゃー!! ソーパイセンが!!」
「いや? ありなんじゃね? やっちまえソーエン」
「ラリルレ、我輩の背後に隠れるのである」
「分かったよ!!ルナちゃん!!」