83.雷帝 閃光二式
四体のゴーレムを惹き付けて交戦をしているコロロとニーア。
「これなら!!」
コロロは蛇腹剣を空に走らせ、ゴーレムの胴体へと斬撃を繰り出す。
だが、その斬撃はゴーレムの胴体表面に微かな傷をつけるだけに終わっている。
「硬いでありますね!! ふっ!!」
コロロが切りつけたのは防御型ゴーレムだ。
二人が惹き付けたゴーレムは防御型ニ体と物理攻撃型ニ体。
そしてそれぞれが一体ずつ組んだゴーレム二組は、その二編成を持ってそれぞれ二人を攻めている。
オフロードカーのように爆走するゴーレム達は、攻撃をしようものなら防御型が防ぎ、その隙を縫って攻撃型が攻めてくるといった堅実な戦法を取っている。
しかしそれは、コロロ達がゴーレム達に責めきれないように、ゴーレム達もコロロ達に責め切れていないことの何よりの証だった。
「<近衛メイドの心得そのニ>」
ニーアは逆手に持っているダガーの柄頭をゴーレム目掛けて叩き込む。
その攻撃は衝撃を生む。元は相手を気絶させる目的で使う攻撃。それを全力で叩き込んだところで、意識の無いゴーレムが意識を失うということはありえない。それでも衝撃を生むのならば使う。
それは、斬撃が決定打にはならないと理解して、攻撃方法を変えた故の判断だった。
騎士の訓練において、魔法によって生み出された訓練用のゴーレムを相手に戦う事はある。しかし、その際に使われるゴーレムなどニーアは難なく切り伏せることが出来た。
だから今まで斬撃を使っていた。が、この場では通用しないと判断し、攻撃を切り替えた。
「あら、これは効くのね。やっぱり土塊だからかしら」
ニーアが凛とした目を向ける先。
そこには防御型のゴーレムの胴体が割れた岩のようにヒビが入ってる様子が写っていた。
雑魚ゴーレムに再生能力はない。削れば削るだけ勝利へと近づくことが出来る。
というか、一般的なゴーレムにおいても非生物のゴーレムが再生能力を持っている事実は確認されていない。ギルガゴーレが異常なだけだ。
だからこそ、ニーアは勝機を見出す。
「コロロ、このゴーレムにも定石通り打撃が有効だわ」
「あはは……。私はずっと剣一本で全てを切り伏せてきたので打撃はあまり得意ではないのであります……」
ニーアの言葉を聞いて苦笑いを浮かべるコロロ。
コロロもニーアと同様に訓練用のゴーレムを全て切り伏せてきた。
ニーアがダガーとスローイングナイフを使う理由は、メイド服を着ていても隠し持っていられるから。
コロロが蛇腹剣を使うのは、自分の志を託した聖剣で未来を切り開くため。
剣とは未来を突っ切る物。その信念を持つコロロに衝撃を生むような攻撃など存在しない。
「ギギギ」
そんなコロロとニーアを無視して攻撃型の二体が突っ込んでくる。
先の尖った手を手を前に突き出しながら、車輪の速度に任せてただ突っ込んでくる。
その攻撃を回避した二人だったが、同時に振り向いたゴーレムによる手の叩き降ろしが同時に二人を襲う。
質量を持った重厚な振り下ろし。それは、人をミンチにすることなど容易い威力を持つ、が。
二人は冷静にその攻撃を回避する。
ニーアはキアルロッドの動きを知っている。コロロはイキョウの回避を知っている。
だから、二人にその愚鈍な攻撃が当たる事は無い。
透かした攻撃は、砂浜へと叩きつけられ、辺りの砂を空中へと巻き上げる。
「こっちはそれほど硬くなかったわよね」
「ええ、そうであります」
「だったら」
「ここでありますね」
巻き上げられた砂が豪雨のように降る中、二人は背中越しに目を瞑って言葉を交わす。
戦う者というのはどう足掻いても気配というものが存在する。それは、命無きものでも、そこに戦う意思があるのなら存在による気配が発生する。
その気配を見失うような騎士が、王国五騎士を名乗っている訳ではない。
それぞれが、目の前に居るゴーレムの気配を捉える。
ニーアは両手のダガーの柄を相手に向ける。
コロロは二振り目の蛇腹剣をアイテムバッグから取り出して両手に持つ。
「<近衛メイドの心得その四>」
ニーアは重心を落としてゴーレムの身体に両の柄頭を添える。そして右足の踵を上げ、足首を捻りながら落とすと。砂浜に薄っすらと波紋が生まれる。
そして波紋が生まれると同時に柄頭から重い衝撃が繰り出された。
この技は相手に血を吐かせずに殺す技。
衝撃は身体を伝播してゴーレムの全身にヒビを刻む。が、崩壊までは誘えない。
「イキョウ殿を打ち負かす為に編み出したこの技を、今ここで。閃光二式!!」
コロロは両の手に持っている蛇腹剣を同時に振るう。
<閃光>は高速の斬撃を繰り出す技。それは初見のイキョウですらかわせなかった速度の剣戟。
だが、剣という物は二振り持ったから戦闘力が二倍になるという簡単なものではない。
そのことをコロロも重々承知している。この閃光二式は回避だけしかしないイキョウを打ち負かす目的の為だけに生み出した技だ。未だ未完成であり、動きに隙が多い。一連の完成された<閃光>による縦横の剣戟とは違い、剣の動きが洗練されていない。それに加えてこの攻撃は盾を捨てているのでガードと言う選択肢が取れない。
攻防一体の<閃光>に比べるとこの未完成の閃光二式は全くと言って良いほど実践には向いていないし、尚且つ体力の消耗が激しい。
極端な例を上げるとするならば、この高速の斬撃が通用しない敵と相対した際に、盾を持っていなければ自身を守ることが出来ない。
だから確実に屠れる相手にしか使えない傲慢な技。それでも、あのゴーレムが倒れるまで剣を振るうことを止めない。
呼吸を止めて丹田に力を込めながら振るう両手の剣。全身を振るって繰り出す斬撃の嵐は、相当な運動量となる。息を吸うするときは剣戟を止めるとき。その覚悟を持って相手を倒しにかかるコロロ。
そんなコロロの高速斬撃を背後に、ニーアはその目を開く。
この一瞬の攻防で、巻き上げられた砂はもう落ちきった。
「お前が、あの人の障害になっていると思うと……心底不快だわ」
闇の瞳をゴーレムに向けて冷たく言い放つニーア。
そしてそれに呼応するように、魔力を全身に滾らせる。
これはキアルロッドから直々に教わった技。
ニーアの適正属性は雷。しかし、今までは魔法すら必要としないほどニーアには力があった。
だが、あのユーステラテス戦以来、自分の実力に疑問を持った。だから力を追い求めて新しく魔法を学ぶことにした。
因みに、キアルはニーアの得意属性が自分と同じ雷だと知り、こっそり泣いて喜んだのは昔の話。教えを請われて泣いて喜んだのは最近の話。その事をバーで泣きながらスターフやザレイト、ギルに語ったのも最近の話。
「<雷帝>」
<雷帝> それはキアルロッドのオリジナル魔法。
これをニーアが学びたいと言ったとき、キアルロッドは感無量で、ニーアの目の前で堂々と泣いた。その思い出は、ニーアの中でも大切な思い出になっている。
だから、これを繰り出すのなら負けられない。だから、その無数の雷撃を全て目の前のゴーレムに叩き込む。
それができるのも、相手がイキョウではないからだ。本来、<雷帝>とはこう使うもの。以前にキアルが雷を無差別に落としたのは、イキョウに全て叩き込む事は出来ないと踏んで範囲攻撃に切り替えたからだった。
本来は、無数の雷を際限なく相手に叩き込む技だ。
先に打撃を受けて全身にヒビが入ったゴーレム。そこに弱点の雷撃が無数に落とされる。ならば結果は目に見えている。
解は必然。物理攻撃型ゴーレムは、弱点属性のラッシュを受けて自壊するだけの存在と成り下がった。
「でありますううううううううううう!!」
それに負けじとコロロも神速のニ連撃をひたすらにゴーレムに放つ。
一の斬撃はゴーレムの体表に浅い傷を刻むだけに終わる。しかし、浅い傷が無数に出来たなら、線が岩を掘り進むなら、それはミノを入れられた岩が割れるように亀裂が走り始める。
そして、弱点属性を無視したコロロのラッシュは攻撃型ゴーレムのキャパシティを超えて、その身体を破壊する。
剣戟をやめ刀身を引き寄せたコロロは、眼前で崩壊をし始めるゴーレムを目にしながら――。
「ふぅー、やったであります!! いえい、であります!!」
目の前の結果に満足して、満足そうな顔をしながら息をついて全身で呼吸をする。
コロロの息は切れている。それでも体力はまだまだ残っていた。
試作品の技が成功に終わって満足しているコロロに向かって、ニーアはジトっとした目をむける。
「……あなたって色々あざとい気がしてきたわ」
「なにがでありますか?」
「いえ……私も真似してみようかしら。そしたら……」
「何を言ってるのか分からないでありますけど、今のゴーレムは前座でありますよ」
「ええ、分かってるわ」
ニーアとコロロは背中を合わせてお互いの目の前に居る存在を見る。
今の戦法は攻撃型だから通用したもの。そして次の相手は防御力がずば抜けて高い。
だったら、今の戦い方が有用するはずが無い。
防御型ゴーレムに特徴的な攻撃手段があるわけではない。だが、相手は分野は違えど四騎士に匹敵する力を持っているゴーレムだ。そんな力を持つ者が戦場に常駐していること事態が脅威であり、そして分野が違うということは、相性が悪ければ勝てない可能性があるということだ。
コロロとニーアが、タイマンだとザレイトには決して勝てないように。
「鬼門でありますね……。私とニーアが最も苦手とする相手でありますよ」
「そうね。攻撃で圧倒することが出来ないと、どうにもやりずらいわ。……であります」
「ここからが正念場で……おや? ニーア? 今何か……」
「ちょっと……恥ずかしかったわ」
ニーアは薄っすらと頬を染めて言う。
「なにがでありますか?」
「あなたは天然ってことよ」
「……? 良く分からないでありますね」
「気にしないで。それより、目の前の敵を排除しましょう」
「そうであります!! やってやるでありますよ!!」
二人は構える。目の前の敵を倒す為に。
* * *
「もうちょいだぞ。もうちょっとで核にたどり着く!!」
「ふははははは!! <冥界からの腕>!!」
「いや……段々ギルガゴーレが可愛そうになって来たんスけど……」
「両足を<落とし穴>によって沈めた挙句<ローブバインド>と<チェーンホステージ>で捕縛し」
「倒れこんだギルガゴーレの胸部を、まあそこそこ何でもある程度は掘れる素材集め用の最上級ピッケルで掘り進めるって……これでいいんスか? ボス戦ってもっとかっこよく決めるはずっスよね?」
「うるせえ!!文句あるなら外に出てろ!! こちとらMP尽きてもうこれ以外出来ることねぇんだよ!! ナトリは穴が埋められないよう掠め取れる分だけ再生部位を全力で掠め取る、他は掘削係り!! 全雑魚ゴーレムは再生成されないように全部沼に埋めた!! やれることやれってんだよ!! 見てみろ家の女神を!!」
「掘るよー!! 皆を助ける為に頑張るよ!!」
「リルリルちゃんはヤル気一杯に掘ってるっスね。それでいいんスか? ってかロロロちゃんもっスか……」
「ラリルレと同じだ」
「っスー……何がっスか?」
「ふむ……納得いかん。このような決着では俺の憤怒の収まり所がなくなる」
「とかいいながらソーパイセンもピッケルで掘ってるんスよね」
「ヤイナもだろう」
「かっこいい決着だとか、気持ち良い最後だとか、納得する結末だとか、そんなのは関係ない。終わらす為に倒す。それだけだ」
「なんかかっこいい風な言葉っスけど、やってることがマジで地味なんスよ。あたしらトレジャーハンターになった覚えは無いんスけど?」
「ヤイヤイちゃん!!キョーちゃんはいっつも皆の為に頑張ってくれるよ!! 地味じゃないよ、すっごくかっこいいよ!!」
「ウケケケケケ!! 見たかこのオレのひたむきさを!! ウケケケケケケ!!」
「「カチン」」
「ふざけるのも大概にしろ。俺の方がかっこいいに決まっている」
「ッスッスー!! リルリルちゃんに褒められる為ならあたしもかっこよくなるっス!! あたしがリルリルちゃんを娶るっス!!」
「カチン。っざけんなゴラァ!! ラリルレはオレのもんだこのボケどもがぁ!!」
「わあ!! 皆すっごい!! よーし、私も負けてられないよ!!」
「ラリルレがそう言うのならば我も負けられない」
「ふははははははははははははははは!! <冥界からの腕>!!」




