75.勇者は語れない
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「まあ、うん。アーサーの話をまとめると、お前らの失態の尻拭いをオレ達に押し付けたって事で良いんだよな?」
「あはは……そう……なるね」
オレの言葉に対して、アーサーは苦笑いしながら答える。
コイツ等はコイツ等なりに頑張ったし、多くの犠牲や代償を払った。
滅び行くはずだった世界を存続させるための、二十万通りの一つの道。どんだけ希望の無い世界だったんだよ。別の世界から呼び寄せてようやくかよ。
「邪神が……ロロが出来たんならカフスだってやれんだろ。アイツに任せておけば全部まるっと大丈夫だったんじゃないの?」
「……最後…キミ達の物語の最後にはキミ達自信の力が必要なんだよ。でも、その全てを僕は知らない。僕が未来を見たわけじゃないからね。それでも、それでもね、全てを任せられるのはキミ達しか居ないんだ」
「お前も全部知ってるって訳じゃないみたいだな」
「全てを知ってるのはダッキュだけだよ。僕たちはその話を、知って良い分だけを聞いただけ。今の僕には、その中でも教えて良いことだけをキミに伝える事しかできない」
教えて良いことか。逆に教えちゃいけないことを教えられて未来が変わっても困るしなぁ。
「まあいいよ。それより七使途ってなんなの?」
「……世界の外枠から来た審判者達さ。神の操り人形って言ってもいい。もしくは天使かな」
「あのビジュアルの何処が天使なん……おい待て。今何つった、神って言った?」
「そうだよ。全ての世界を生み出した唯一の存在であり、原初と理の生みの親さ」
「居るんかい……神が……。やーだぁ、壮大じゃんかよ……。おい直談判させろ、今すぐその良く分からん審判てのを止めさせてやる」
「無理だよ。誰も目にしたことが無いし会った事も無い。僕が存在を知ったのも偶然だったんだから」
「お前も見たこと無いの? ってか何でそんな奴知ってんの?」
「誰も知らないはずだったんだけどね……おしゃべり好きな七使途が一体いて、そのときに聞かせてもらったよ」
「もうそいつ利用して和解しろや」
「おしゃべりが好きってだけで、結局は敵だったからね。悲しいものさ、多くの言葉を交わしてもお互いの事を理解し合えなかったよ。でも、キミなら…」
勇者は確信を込めた目でオレを見てくる。
「は? 何その目。止めろ止めろ。それよりも、何で自分で作った世界を自分でぶっ壊そうとしてんだよ。神は癇癪持ちなのか?」
「壊そうとしてるんじゃなくて審判してるんだって。目的は……次のステージに上がる資格があるかどうかを見極める為、らしい」
「うーん、良く分からん」
「ごめんね、僕も良くは分からないんだ。その七使徒は、ちょっと困った話し方をする相手だったから聞き出しにくくて」
「居るわそう言う奴。最近も居たわ」
一人、頭に思い浮かぶ奴がいる。あの死神は元気してるだろうか。
それにしても神かぁ……唯一の存在って言ってるくらいだから神は一人しか居ないんだろうけど、じゃあロロってなんなんだ? アイツも邪神って呼ばれてるし、神じゃないの?
よし、聞いてみよう。これで教えられないって言われたら大人しく引き下がるか。
「ロロって邪神って自称してるくらいだし神じゃないの?」
「ロロ……? あっ、ゲゼルギアのことだね。ゲゼルギアは……あれ? 言われてみれば神なのかな? でも自分で神って言ってるだけだし……どうなんだろう? 僕が知らないだけで神は二柱存在してるのかなぁ…。僕達の時代でも神が沢山出てくる御伽噺はあったし…。でもそれはあくまで御伽噺だもんなぁ……。それにあの子も唯一の存在って言ってたし……」
オレの言葉を聞き、座って曲がっている膝に肘を乗せて、両手を頬に添えながら考え事に耽るアーサー。
いやまぁ分かるよ。オレ達の世界でも神が出てくる話はめっちゃ作られてる。作られてるからお前が悩む気持ちも分からなくも無い。
でも考え中のポーズと悩んでる最中の言動よ。なにそのちょっと可愛子ぶったポーズ、しかも自然にやりやがって。
「おい…やっぱお前天然だろ…」
アーサーが知ってるのは、未来とお前が生きた時代のことだけだろうから、全部知ってるとは思ってはいない。世界の全てを知るなんて到底無理な話だからな。
でもそのぽややんとした悩み方は無いだろ……。
「そんなことないよ?」
そのままのポーズでキョトンと答えるアーサー。その答え方がもう…いや……いいよ。そこは言及するようなところじゃない。
それよりも話を先に進めないとな。
「にしても七使途って倒しちゃって大丈夫なの? 後々何か問題起きない?」
オレの言葉を聞いたアーサーはあのポーズを止めてしっかりと座りなおし、そして。
「……大丈夫だよ」
それだけ答えて勇者はオレの目を見てくる。
信じろって事か、それとも何かの信頼を向けられているのか、もしくはその両方か。吸い込まれそうなほど綺麗な目だから、そんな目で見られちゃ信じるしかないな。
信頼の目。でもなんだ? 悲哀を秘めているようにも思える。
「ところで、カフスは元気かい?」
急にアーサーは話を変えてきた。
昔の仲間の話が聞きたいのか、それとも追求を逃れようとしたのか。まあ前者って思っておこう。だって追求したらまたうじうじ言い出しそうだし。
「元気も元気超元気。この前だって家に来て飯食ってったよ。いっつも楽しそうにしやが……」
―――――一つの違和感の正体に気がついた。カフスの口からコイツ等の話を聞いたことが無い。
思い出すら、一言すら、聞いた試しが無い。
「……お前、代償魔法使ったって言ってたよな」
ある可能性がオレの頭にちらつく。
「言ったね」
「何を代償に使った」
「……全てさ。皆全てを使った。存在も魂も、この世界にあったはずの僕達の記憶も、僕達が過ごした日々の思い出も。それだけ使う必要があった。そのせいでこの世界で僕達を覚えている者はもう誰も居ないけどね。だからダッキュは僕達の生きた証を本にして残してくれたんだ」
そう…か。だからカフスの口からコイツ等の話が出なかったのか。
カフスもオレやソーエンと同じで、忘れちまったんだな。そのことにカフスは気付いてしまっているんだろうか。自分の大事な何かが欠けてしまっていることを知ってるんだろうか。
気付いてない事を願おう。じゃないとアイツはずっと寂しい思いを抱えて生きてた事になっちまう。
誰にも知られないまま消えたコイツ等を、どうか誰も気付かないでやってくれ。誰も……誰も?
「……あ、思い出した。ユーステラテスがお前に封印されたとか言ってたぞ。あいつお前のこと覚えてっぞ!!」
勇者から封印の話を聞いて思い出した。そういやユーステラテスもそんなような事言ってたわ。あいつはアーサーのこと覚えてんじゃん。
「忘れたのはこの世界に生を降ろした存在だけだよ。彼等は違う……皮肉なものだね、僕達を覚えてるのは敵だけになっちゃった」
「お前達のことはオレが覚えておくから安心しろ」
「……ああ、やっぱりキミは優しい人だ」
勇者は指を組んで、浸るように顔を落としながら言う。
「んなことない。あのさぁ、ちょっと確認して置きたいんだけど、さっきカフスが同属をどうたらとか言ってたよな。あれってマジ?」
代償魔法を使う為に必要なあるものってのがドラゴンの魂ってのはなんとなくわかった。しかも一つや二つじゃなくて、願いの大きさに応じて必要な数が変わってくるらしい。でもそんな事よりも、そのためにコイツ等が、なによりカフスが同属全てを殺したって事の方がびっくりなんだけど。
「ドラゴン達は聡明で強大な力を持つ。ただ、誰もが中立という立場の元に動くんだ。世界の赴くままを眺めるのが趣深いとか言ってさ、世界と言うモノに対してあんなに深い愛と忠誠を捧げる種族なんて他には居ないよ。命ではなくて世界を愛していた。種族の特性みたいなものなんだろうね。……だから、世界の崩壊という事象を回避する為に僕達にその身を預けてくれたよ。預けてくれたんだ、自分達がどうなるのか分かっていたのに。だから、僕たちの手で殺したも同然だ」
コイツ、自分の行いに対する加害者意識高すぎない? どっちかって言ったらお前ら神に理不尽な暴力を受けてる被害者側だぞ?
「ドラゴンに寿命は無い。だからドラゴン達はカフスに後世の事を全てを託したんだ。もう遠く離れたこの時代じゃ、ドラゴンがどんな者かって覚えてる人はほとんど居ないだろうね。カフスがドラゴンの全てであり、ドラゴンという言葉がカフスを象徴するんだ」
「ドラゴンどころか現人神扱いだぞアイツ」
「ふふっ……あはは!! カフスらしいね。カフスだけは昔から特別だったんだ。他のドラゴンとは違う考えを持っていた。そんなカフスだからこそ全てのドラゴンが未来を託したんだ。終わりへと向かう世界の未来全てに愛を込めてね」
世界を見るのがドラゴンの習性なら、カフスは平和を見守るのが性なんだろう。あいつは言っていた、見るのが仕事って。ドラゴンの本質は見届けるものなのかもしれない。
「ほーん。ま、昔のドラゴンの事情とかどうでも良いけど。今のカフスが幸せならそれでいいよ。カフスは知ってんの? お前と同じ未来を。知ってて幸せで居られてるの?」
コイツも未来を知っているはずなのに、世界が救われる未来を知っているのにどうしてか悲しい感じがする。だったらカフスもあのほとんど変わらない表情の裏では、悲しんでいたんじゃ無いだろうか。
目の前のアーサーの悲しさは過去の行いを悔いている悲しさのほかに、これから起きる事へ、自分が導いてしまった未来へ向けている悲しさもあるように感じる。
「…………その事は自分で確かめてほしいな」
「……?」
まあカフスとなんて何時でも話せるから確かめる機会なんていくらでもあるけど、何か引っかかるな。
やっぱりどうしてか、コイツは世界が救われる未来を知ってるってるはずなのに、さっきからずっと悲しそうな感じがする。
「僕はね、キミと話せて楽しかったよ。でも……そのためにここに居るんじゃない。キミに言わなければ…どうしても伝えたい事が…あるんだ。だから僕はここに居る。消え去るはずだった魂を無理矢理切り離して、僕はここにいる。だからどうか聞いて欲しい」
勇者は覚悟を示してオレをみる。
でも、お前の話は後だ。これだけは聞いておきたい。
「お前が知ってる最後は、皆無事なんだろうな。皆ちゃんと生きて終われるんだろうな」
「そのために未来を、救われる未来をダッキュは捜した。観た全ての可能性の最善を選んでくれたんだ。キミの仲間は誰一人欠けないよ」
「だったらいいよ」
良い未来が待ってるようで何よりだ。
でも、結末を知っても過程が分からないんじゃ、頑張るしか無いじゃん。その未来を掴み取る為にな。
マジでどうすっかなこの後。次に控えてる七使途はどんな敵だ? ってか、オレ達って最終的には生きてるんだろうけど、その道中は何回死ぬんだ? 復活できる体ってのも困ったもんだな。最終的には死なない結末の間に、どんなことが待ち受けてるのか分かったもんじゃない。
そんな事を考えてるオレを他所に、アーサーは見つめてくる。
「何?」
「……イキョウ君みたいな人に、僕たちの業を背負わせてごめんよ」
「勝手に背負わせて謝るとかお前ふざけてんのか? 全部一方的過ぎてビビんだけど。あと勘違いしてんじゃねぇ。オレは誰かの思いや願いなんて背負えない人間だからな。自分勝手に奪うだけだ」
背負うってのは、誰かの思いを受け取るって事と同義だ。オレは受け取れねぇ、そんな責任感なんて持ち合わせちゃ居ないしもう誰かの思いを背負えるほどの余裕を持ち合わせちゃ居ない。オレには大事な願いと約束が乗ってるからな。
「大体、この世界放って置いたら皆くたばるんだろ? だったらやってやるよ。全部終わった後にお前等の墓にでも蹴り入れてやる」
「そう…だね…。キミに蹴りを入れてもらえたら僕はどれだけ嬉しい事か……。あ、でもお墓無いや。何せ僕たちは世界から消えた存在だからね、あはは」
空笑いを浮かべならも……うーんこの天然風な受け答えの仕方……。
でも残念だったな。
「じゃーん、これなーんだ」
空笑いを浮かべている勇者に対して、オレは聖剣の破片を見せる。
「……? あ!!僕の剣!! そういうことだったのか!! 昔ダッキュに、鍵になってる僕の剣貰ってくれるかな? って聞いた時にしかめっ面した理由がようやく分かったよ!!」
「はっはー!! お前の剣なんざこれっぽちも要らねぇよ!! 聖剣はお前がずっと持ってたんだろ?じゃあお前等全員のことを知ってるはずだ!! この剣の破片そこら辺に埋めてお前等の墓にしてやっから覚悟しとけ!! 蹴るために墓作ってやっからよぉ!! うけけけけけ!!」
「なんて下種な顔なんだ……。でもそっか、キミは僕たちのお墓を作ってくれるんだね」
「何嬉しそうな顔してんだよ。蹴り入れる為だかんな、勘違いしてんじゃねぇぞ」
「……キミはやっぱり優しい人だ」
「やめれ。痒い、むず痒い!!」
「(ぽりぽり)」
墓守はいっつもオレの背中を掻いてくれるなぁ。ありがたやありがたや。
「サンキュー墓守」
「やっぱりキミはそこに居たんだね」
「(?)」
勇者に話しかけられた墓守は何を言われたのか分からないような感じで勇者を見ていた。
「お? 待てや。お前墓守のこと知ってんのか?」
「彼は僕のことを覚えてないだろうけどね。それより――」
それよりで済ませるか普通。
そしてオレ墓守は訳の分からなそうなままスルリと影に戻った。墓守はこれでいいのか? この空間にまともなのはオレしかいないのか?
「それよりじゃないんだけど? オレはもっとお前に聞きたいことあんだけど?」
「僕はそれに答えようと思ってたんだけどね……。もう、時間のようなんだ。ごめんね、ちょっと仲間のことを語りすぎちゃった」
勇者は『たはは』みたな笑い顔で頬をポリポリ掻いてる。
その様子を見てオレは確信した。こいつ……絶対天然だよ。仲間の話楽しすぎて時間オーバーしやがったぞ。




