51.ロッククラーケンと対峙しよう
HPを削りきって初めて倒せるのがゲーム。命を奪う攻撃をすれば殺せるのが現実。
そこがオレ達が戦う上での大きな違いだ。
だから狙うは心臓、または急所だ。そこさえ狙えば殺せる。
「……そういやイカの心臓ってどこ?」
<隠密>と<暗視>を使いながらポイントを探して移動をしているオレは、ふと疑問に思う。
人や動物ならある程度心臓の位置が分かるけど、イカのは分からんわ。
「胴部頂点よりやや下、そこに主となる心臓と鰓心臓が二つ、計三つの心臓が付いているのである」
「タコ博士の次はイカ博士が現れた……ん? 三つ?」
「案ずるな、メインの心臓を破壊すれば殺せるのである」
「ナトリはイカ博士だぁ」
「ならばそこを俺が打ち抜けば終わりか」
「あんな巨大な奴の心臓をお前の弾丸だけで貫いてもなぁ。心臓に針刺されたようなもんだろ」
「ひぇー、痛そーだよー……」
「普通に死にそうな例えっスけど、言いたい事は分かるっス。死ななそうっスよね」
「だからソーエン、ヤイナ、ナトリの三重で攻撃をぶちかます」
念には念を入れての攻撃。
それも観測されて無い状態からの一方的な遠距離攻撃だ。これなら防いだり避けたりさせることなく確実に殺せるだろう。
ふっふっふ、我ながら完璧な作戦だ。これだよこれこれ、これが叛徒の戦い方なんだよなぁ。卑怯千万、ありとあらゆる手を使って勝ちに行く。なんて素晴らしい戦法だろうか。
「キョーちゃん、私は<ホーリープロテクション>を使えば良い?」
「それでよろしく。攻撃後すぐに壁張って万が一に備えるぞ」
「はーい」
攻撃後も抜かりなくケアだ。念には念を入れて更にダメ押しの念を入れる。
万が一に備えるのは当たり前のことだ。勝つために必要な事ならなんだってするぞ。
「ああーオレ今すっごい叛徒してる。カタルシスで絶頂しそう」
異世界に来て苦節約半年。ようやくオレの戦い方が実現できた。
「そういうのは終わってからやれ」
「出来ねぇから困ってんだよなぁ」
「うっわ、ド下じゃないっスか。あー汚らわしいっスー、綺麗綺麗なあたしとリルリルちゃんを汚さないで欲しいっスー」
「言うほどお前綺麗か?」
「何のお話してるの?」
オレ達がお話をしていると、ラリルレが綺麗で純粋な声色を向けて尋ねて来た。
「いやぁー……何でも無いっす」
「っスー!!スはあたしのっス!! 勝手に使わないで欲しいっス!! 使用料払うっス!!」
「そこに特許発生しちゃダメだろ」
「ヤイナ、お前のせいで後輩キャラの語尾に規制がかかったらどうする。お前は責任を取れるのか」
「ヒェュッ…ソーパイセンの琴線に引っかかったっス……怒髪天っス……」
「漫談も良いが、今は目の前の敵に集中するのである」
「「はーい(っス)」」
ナトリはヤル気マンマンだな。
落ち着いている風だけど、こいつが一番ワクワクしてやがる。イレギュラーに次ぐイレギュラーが起きまくってるから、こういうことを期待していたナトリは心の底から喜んでるんだろうな。
「くっくっくっ、ロッククラーケン。どういった過程でそのような身体を持つに至ったのか……暇つぶしに、殺した後に解剖するのもまた一興であるな」
……本当に心の底から楽しんでらっしゃる……。
オレとしてはそこに興味が沸かないから心底どうでも良い。あと、あの巨体を何処でどうやって解剖する気なんだコイツは。
「キョーちゃん、まだ狙撃に良い位置見つからないの?」
「もうちょっと待ってね、もう少しでアイツの死角に入るから」
この暗闇で周囲の地形と情報を把握しているのはオレだけ。オレにしか狙撃ポイントを選定できない。
そして今目指しているポイントはアイツの死角である、眉間から直線状に離れた位置だ。そこから一気に攻撃する。
……眉間なのかなぁ。とにかく身体の両脇についている目と目の間だ。
そしてそこは、ロッククラーケンが警戒態勢に入っているせいで周囲に展開させている触手が邪魔にならない場所でもある。死角って言うのはどんなに努力してもカバーし辛いよなぁ?お前の警戒網に穴が開いてやがるぜ?
「よーし、ここらへんで良いだろ」
目的地到着、ルート案内を終了します。
オレ達は海中に浮かんでいるから、こちら側に遮蔽物は無い。
対してあっちは身体自体は海底の岩場にへばりついてるけど、でも剥き出しの胴体を遮るのは触手だけ。その触手もこの位置からは遮蔽物にならないから射線は通っている。
心臓がある胴体を無防備に剥き出しにしているのは、その身体の頑丈さに自信があるからだろうか。
……にしてもデケーな。さっきより接近したおかげで改めて思わされる。でっかいから遠目で見ても具体的な大きさが分からなかったけど、これ身体だけでも二十メートルくらいあるんじゃないか? イカ型のビルだぞ。
しかも身体の下にはシーサーペントが横たわっている。ロッククラーケンが乗っているせいで顔しか見えてないけど、捕食されてるって言ってたし、見えない部分は食べられてもう無いのかもしれない。
「どこに向かって撃てば良いっスか?」
軽く観察していると、ヤイナから質問される。
射撃方向は、見えているオレにしか分からないから皆オレの指示を待っている。
「こっから四十度上くらい。あそこ」
オレは腕全体と指を使って、心臓があるであろう位置を指し示す。
「ん~、的が見えないと狙い辛いっスねー」
「コイツの指の先に向かって撃てば良いだけだ。今回は楽に終わりそうだな」
「折角だ、超級魔法を持って屠るとしよう」
「皆頑張れー!! ファイトだよ!!」
「がっはっは!! ラリルレの応援もあるし、この勝負はオレ達の勝ちだ!! さっさと帰って風呂入って飯にしようぜ!!」
「その前に宿だ」
「何でも良いっスけど、パイセン達のセリフ危なくないっスか?」
「大丈夫大丈夫、絶対なる勝ちを確信して言ってるから。失敗なんてする訳ないだろ」
完全なる死角から行う一方的な高威力の攻撃だ。外す事はありえないし、ましてや負けることなんて絶対にありえないに決まってんだろ。
「指輪はどうする」
「うーん……カフスとの約束あるけど……失敗したら普通に命の危険ありそうだから制限解除で」
流石にクラーケンの亜種だ。手加減有りで倒せるほどやわじゃないだろう。
ここも抜かりなく全力を出させてもらう。だから失敗なんてますますありえない。
オレ達は全員指輪を外して本来の力を解放する。ここから行われるのは一方的な蹂躙だ。
オレとソーエンの殺しの規準は『有害か無害か』だ。そしてコイツは確実に有害だから殺す。シアスタ達が滞在する町の近くに来たことが、そしてギャラとアルの顔を悲しませたのがお前の運の尽きだ。呪うなら自分の運の悪さを呪えよ。
「攻撃開始だ。全力でぶちかませ!!」
オレの合図で三人が動き出す。
「<エクスプロージョンバレット><ハヤブサストライク>」
ソーエンは右の弾丸に爆発する効果を、左の弾丸には弾速と貫通力を高める効果を付与して射撃する。
「っスっスー<エアバースト>!!」
ヤイナが装備した武器は、杖ではなく周囲を浮遊する二つの青いクリスタルだ。杖と同じく、そのクリスタルから魔法を飛ばす事も出来るし、もちろん杖を装備してなくても手からも魔法は出せる。便利っちゃあ便利だけど、杖のように手軽に攻撃をガードすることが出来ないから一長一短だ。
<エアバースト>は無数の風の刃を内包した波動を直線状に撃ち出す風の上級魔法。
「<冥界からの腕>」
<冥界からの腕>は使用者から無数の黒い手を対象に飛ばす魔法で、その手は相手の身体を削り取る攻撃をする闇の超級魔法。……うへぇ…ゲームの頃も不気味だったけどリアルで見るともっと不気味だ…。
三者三様の攻撃は高速でロッククラーケンに向かっていく。
攻撃の瞬間に<隠密>が解けたし、クラーケンも反応を示したけど――。
「<ホーリープロテクション>」
ラリルレが最高のサポートをしてくれてるから何の問題も無い。
水中にいるオレ達を囲む球体の壁。この強固な壁をクラーケンごときが敗れるはずがない。
それに、攻撃はもうクラーケンに到達しようとしている。お前がこの壁に触れる暇なんてもう与えられないんだよ!!
攻撃を前にしたクラーケンは、辛うじて一本の触手を体と攻撃の間に滑り込ませた。が、ソーエン達の攻撃はその触手をあっさり打ち砕いた。
胴体と同じ材質で構成されてる触手が一瞬で破壊されたんだ。ってことは、身体もこの攻撃を防げないだろう。
そしてオレの予想通り、何の問題も無く攻撃は胴体を破壊しつくす。
ソーエンの銃弾で体が抉られ、ヤイナの風魔法で切り刻まれ、ナトリの腕で削り取られる。
……ナトリの攻撃えっぐ……。ゲームの頃は身体をすり抜けて、削られた風の演出をするだけだったけどリアルだとマジで削ってんじゃん。
「どうだ」
「当たったっスかー?」
観測役として結果の報告するか……。
「うん……。綺麗に当たったよ。胴体が全部消し飛んだけどね」
心臓を狙ったはずが、体ごと削り取っちゃったよ。ほとんどナトリの手が削りつくしたよ。
もう足と付け根しか残ってないわぁ。
「……しまったのである。これでは解剖が出来ん」
「気合入りすぎちゃったね。ナトリはどじっ子だなぁ」
臓器が詰まってる胴体は、お前の闇の手が全部削り取ってどっかに消えたよ。
残されたのは足だけだから、解剖した所でそんなに得られる情報も無いだろう。
「なっはっはー、あたし達にかかればこんなもんスね。心配して損したっスー」
「釣竿が無駄になったな。明日にでも猫のエサ用に釣りでもするか」
……ん?
「どうした」
目を細めてロッククラーケンの残骸を見たオレを見て、ソーエンが尋ねる。
「いや……今一瞬足が動いた気が……」
気のせいか? 水の揺らぎで見間違えただけか?
……いや気のせいじゃないぞこれ!!




