22.応接室に現れた幽霊
約束の時間の少し前に受付さんに呼ばれて、オレ達は3階にあるギルドの応接室にオレ達は通された。
てっきりオレ達は会議室に通されると思っていたので、少々驚きながら階段を上り、そのまま通路を歩くと三階の奥、そこに応接室があった。
「これから会う方は、とても威厳のある方です。お優しい方ではありますが、くれぐれも粗相の無いようにしてください。本日はギルド長が不在なため、私が同席させていただきます」
受付さんから、高価そうな扉の前で長々と説明される。
やっべぇ、ケツポケットに後で舐めようと思ってたアメが入りっぱなしだ。座るときに邪魔になって粗相をしてしまうかも。
「では行きます」
オレがポケットからアメを移動させる前に受付さんがノックを始めしてしまう。
「失礼いたします。ギルドマスター代理のローザです。冒険者をお連れしました」
そういって受付けさんが内開きの扉を開ける。オレは背筋を正して姿勢を整える為に手を体の横にやってしまったので、アメの回収が間に合わなかった。
受付さんがあれほど言うなんて、相当なお偉いさんなんだろうな。そんな奴がオレ達に何の用だろう。
「失礼いたします」
先に受付さんが中に入り、扉が閉まらないようにを押さえてくれている。
入る順番は決めていなかったけど、一応オレがリーダーだし扉に一番近いのでオレから入らせて貰おう。
「失礼しマス」
入室と同時にお辞儀をし、頭を上げる。
そしてお偉いさんの顔を確認しようとしたところ。そこには――――――一昨日の幽霊がソファーに座っていた。
この幽霊、こんなところにも化けて出てくるのかよ。今日はパジャマじゃなくて白くてゆったりとした高そうな服装をしているな。オシャレちっくな幽霊だ。
「怒られるぞお化けじゃん。ダメだよこんなところに化けて出ちゃ、一昨日は助かったからありがとうだけど、今からここには偉い人が来るんだから。受付さんにはオレから言っておくから逃げな。後これお供え物です」
ソファーに座っている幽霊に歩み寄って、綺麗にしてくれた御礼としてケツポケットに入っていたアメを差し出す。
ここに来るお偉いさんに見つかって、討伐クエストを発注されたら可哀想だから逃がしてあげよう。
「なにしてるんですか!!」
受付さんにパシーンと頭を叩かれる。No Damage
「この幽霊は良い幽霊なんです受付さん!!どうか見逃して!!」
「扉の前で言いましたよね!!粗相の無いようにと!!」
どうやら話が噛み合っていないらしい。
間違っているのはどちらだ? オレか?受付さんか?
「この方は町の代表、カフス=スノーケア様です!!」
……どうやら間違っていたのはオレだったらしい。疑ってすみませんでした。
「いいローザ。今日は非公式、楽にして」
「……分かりました」
煮え切らないような感じで、少女に受付さんが従う。
オレが一昨日会ったのは、幽霊ではなく代表だったらしい。
代表はドラゴンだと聞いていたから、まさか人型だとは思ってもいなかったぞ。
昨日の夜も、暇したオレとソーエンがあのファザーファングボアをこの町がどうするのか考えていたとき、代表が食うんだろドラゴンだし、とか言って二人してでっかいドラゴンを想像していた。
「カフス……様?」
様を付けようにも幽霊の印象が強すぎていまいちぴんと来ない。ファングボアで盛り上がるような少女だし、どうにも威厳を感じない。
「様は要らない」
オレの問いに対してカフスは淡々とした口調、落ち着いた声で答える。
あっちも許してくれたけど、いきなり呼び捨てしたら受付さんに怒られそうだ。
「どういうことだイキョウ」
オレに続いて入ってきていたソーエンが後ろから聞いてくる。
「ほら、一昨日の夜さ、幽霊に会った話をしたじゃん」
ソーエンには深夜のギルドに入る前に一回だけ話してある。
「その幽霊がこの子」
「嘘ではなかったのか」
「何おバカな事言ってるんですか!! 幽霊じゃなくてスノーケア様ですよ!!」
シアスタはカフスが人型だって知っていたのか。
「様は要らない。カフスでいい」
「ほーらカフスもそう言ってるし、ここで間違ってるのはシアスタの方だ!!」
「いいから座ってください」
「へい……」
怖い笑顔の受付さんに、静かに一喝されてカフスの向かいのソファーにオレ、シアスタ、ソーエンの順番で座り、受付さんはカフスの後ろに立つ。
やっべー……後で舐めようと思ってたアメの後に舐めようと思ってたアメが逆のケツポケットに入ってて違和感を感じる。ソファーが柔らかいから痛みはないけど、どうしても気になる。
……あれ? そういやさっきのアメどこに行った?
「申し訳ございませんカフスさん。後で言い聞かせておきます」
困惑しているオレの目の前では、受付さんがオレ達の代わりに頭を下げている。
「ローザ、楽にして。これは命令じゃなくてお願い」
「……はい、分かりましたカフスさん」
「あとさっきのこともいい」
「……はい」
受付さんとカフスの間でオレ達のしたことが解決したようだ。
その後、オレ達はそれぞれ簡単な自己紹介を済ませる。
普段通りにして言われたから試しにタメ口で話しても、なんにも突っ込まれなかった。
「それで、町の代表がオレ達に一体何の用だ?」
オレ達がこの応接室に呼ばれた理由を聞く。
「一昨日のことを話しに来た」
一昨日? 一昨日…噴水…血まみれ…手配書…。
まずい、そういえばオレはこの子に正体を見られている。今頃になってオレ達を捕まえに来たのか?
このドラゴン、どっちだ。まさかレイド級じゃないだろうな。そしたら七名奈那がフル面子揃わないと勝てない。いや、そもそもアステルの代表を殺す訳には行かない。そんなことしたらこの世界に居場所が無くなる可能性がある。なら逃げるか? 幸いドラゴン程度なら逃げに徹すればどうということはない。その場合はシアスタは置いていこう。この子は被害者扱いだから大丈夫なはずだ。パーティ結成二日目にして解散の危機か。
「まずは、手配書の件について」
来たか。急いでソーエンにボイスチャットを繋いで逃げる準備をして貰おう。
「これ。あなた達で間違いない?」
後ろで受付さんが小さく驚いた声を出していた。
…受付さんか……そうだ!! 申し訳ないけど利用させて貰おう。
「違う、オレ達じゃない」
受付さんは指輪の反応が無かったおかげかほっとしている様子だった。
受付さんは自分が嘘を見抜く、と思い込んでいる。ならそこを逆手にとって全てを欺こう。
「嘘。今弾いた」
このドラゴン、指輪の魔法が見えているのか?
受付さんはありえないって顔をしながら口を開きそうになるも、カフスの言葉を否定するわけにも行かないからか手で口を即座に覆って塞いでいた。
見抜かれてはもう言い逃れはできない。やっぱりここは逃げに徹して……。
「勘違いしないで、あなた達を捕まえに来たんじゃない」
「ふむ、どういうことだ」
アレだけのことをしといて見逃してくれるのか? いや、そもそも何もしていないけどね。
「マザーの傷を見た。あの魔法の残滓は見たことが無い」
なるほど。ソーエンの魔法銃で付けた傷のことか。そしてやっぱり、カフスは魔法に関しての目が良いようだ。
「あとは噴水で嗅いだ時の血の匂い」
おまけに鼻も良いときた。ドラゴンは何でもありかよ。
まさか心の中まで読んでいるんじゃないだろうな。
カフス、お前今オレの心の声を聞いてるだろ。
「手配書の大口もそっちのソーエンにそっくり」
……どうやら心までは読めなかったようだ。
それにしても大口がソーエンてよく分かったな。
「他にも」
「分かった分かった、もういい十分だ」
「そう。それで私はマザーを倒したのはあなた達だって結論付けた」
カフスは今、オレ達が罪を犯していないと確信している。それどころかマザーファングボアを倒したことまで分かっているようだった。
「そうだ。あれは俺達が倒した」
ソーエンが結論への返答をしてくれる。
受付さんは指輪を見ながら驚愕していた。でもね受付さん。それ意味ないの。
「あ、あの」
シアスタがおずおずと声を上げる。
「何?」
「私はお二人に助けられました!!町の噂は間違いなんです!! だから、どうかこの手配書を取り下げてください、お願いします!!」
シアスタはオレ達のために泣きながら頭を下げてお願いしてくれている。その涙は興奮してではなく、本当に心から泣いている。
シアスタ、お前……オレ達のために泣いてくれるのか?
「大丈夫。取り下げるようにお願いしてある」
その言葉でシアスタは顔をパッと上げる。
そして――。
「ありがとごえれえれえれ」
――顔を上げたシアスタは突然あのゲロ雪を吐いた。 無慈悲にもテーブルに雪が積もっていく。
「シアスタちゃん!?」
シアスタのゲロ雪によって我に返った受付さんが驚きの声を上げた。
えぇ……今吐くのかよ。氷の精霊的にうれションなのか?
「あーほらほら、回収するから貸しなさい」
オレは外套を外してそこに雪をかき集め、縛ってソファーの横に置く。
あの雪触っても溶けなかったな。
「うぐぅ、ひっく」
シアスタがガチ泣きしてソファーの上で丸まっている。それでもこの部屋を出て行かないのはカフスがいるからだろう。
でも、そんなに勇気を振り絞ってあの発言をしてもらったのは素直に嬉しい。後で何か買ってあげるか。
「あの…………シアスタちゃん大丈夫なんですか? 教会で診てもらった方が……」
どうやら受付さんは氷の精霊が吐く理由を知らないらしい。
「問題ないから大丈夫」
本人のメンタル以外は、だけど。
オレがシアスタの頭を撫でて宥めていると、ソーエンも同じ事をしてきた。あいつも嬉しかったんだな。
「手配書の取り下げに関しては、元はと言えばお前達の勘違いだ。感謝などしない。だが、シアスタに免じて礼は言ってやる」
「どーも」
オレ達二人は、シアスタのしてくれたことに対してお礼を言う。
「これで話は終わりか?」
「まだまだある」




