44.美しい音色
「私が居るってよく分かったな、同士」
椅子に寝そべっているオレを覗き込むようにして、サンカが話す。
ニーアの気配だけには注意をはらっているから分かった事だ。ってか、普通はここまで警戒レベル上げる事は無いから誰が居るとかは日常生活を送る上では分からんわ。
今日は魔女っ子装備のサンカ。一番見慣れている姿だぁ。
「逆にそっちもよくオレがここに居るって分かったな」
「海を見に着たら偶然見かけたんだ。不思議な傘があったし、同士は緑だからすぐ分かる」
「うんうん。やっぱこの装備カッコイイから、だよなぁ」
「いや……。それより、こんな所で同士は何をしてるんだ?」
「その小娘はなんだ」
「……? ピィ!!怖い!!」
ナトリの声に反応して目を向けたサンカは、その姿を見てオレの椅子に隠れるように身を潜めた。
「どどどどっど、同士!! 同士より奇抜な格好をしているこの人は!?」
「これはこれは。イキョウ殿もシーサーペントを……サンカ殿?」
歩いてきたコロロとニーアも、ようやく到着する。
「コココッコロロさん!!」
「コロロ、ニーア。ちょっとあれ見て」
サンカの反応を見たオレは、試しにナトリを指差して二人の視線を誘導する。
「ッ!? でありますっ!?」
「他国の刺客ですかっ!!」
ナトリを見たコロロとニーアはすかさず構えた。
なんでお前らナチュラルにマジックバッグから武器取り出してんの? 旅行にそれ必要か?
「ナトリ……お前の評価散々だぞ」
「行く先々で似たような反応をされているから慣れているのである。この仮面のせいであろうな」
「お前……結構苦労してたんだな」
ナトリにはナトリの苦労があったんだなぁ。同情するよ。お前も異世界に来て大変だったんだな。
「知っているか阿呆。第一印象は負へ傾いている方が、その後の印象は正へと傾きやすいのである。現に我輩は言葉を交わすことにより印象を良いものへと――」
「あの……イキョウ殿。この方は一体…」
「疑問か? ならば答えよう」
ナトリは尊大に立ち上がり、黒い杖を。持ち手に真紅の宝石をあしらい、黒で染まったボディの杖を地面に付いて悠然に佇む。
「我輩の名はルナトリック。この阿呆の仲間であり真理の探究者だ、刃を向けるのならばそれ相応の覚悟するがよい。覚悟を持って貴様等が挑むというのならば――」
「こいつオレが捜してた仲間ね。頭良くて魔法に詳しい、そこそこ優しいやつ」
「――阿呆よ、我輩の口上を邪魔するか」
「だってお前の言い方悪役なんだよ、ぱっと見敵なんだよ」
「……イキョウ殿のお仲間は皆、癖が強いでありますねぇ……」
「でしょ? そのせいでオレが苦労しっぱなしよ」
「同士が筆頭だと……いや、なんでもない」
「ふむ。こやつ等は阿呆が言っていた者共か」
ナトリは何事も無かったかのように、またビーチチェアに寝そべった。
雑に扱っても怒らないのは仲間だからだ。ホント雑にあつかってもな、お互いにな!!
「同士……この人は良い人か?」
サンカは椅子の影に隠れながら、怯えた小動物のようにオレに問いかけてくる。
「めっちゃいい人。奢ってくれるもん」
「イキョウ殿の良い人規準はどうなっているのでありますか?」
「お初にお目にかかります。私はクライエン王国第三皇女の近衛メイド権、王国騎士団所属のニーアと申します」
「ニーアは切り替えが早いのでありますね……。クライエン王国、四騎士が一人コロロであります」
「ああ、あのユーステラテスを前に無力を晒した弱者共であるか」
「さっきの同情返して? 第一印象悪いのって全面的にお前のせいじゃん。仮面無くても変わんないだろ」
「あなたの仲間と言うから丁寧な挨拶をしたけれど、流石に今の言葉は頭にきたわ」
「事実ではありますが……カチンときたであります」
「ほらぁ……こうなっちゃったじゃん」
ニーアとコロロは折角武器を収めたのに、より一層強い構えに入っちゃったよ。
「事実を述べられて怒りを心に灯すのは、後ろめたさがある証拠である。我輩に剣を向けるのではなく、未熟を自覚し研鑽に励むのが貴様らのすべき事であろう」
「お前とソーエンって、つくづく仲間以外に容赦ないよな」
「あの馬鹿と同じにするな。我輩は事実を述べる、奴はただ遠ざける、大きな違いがあるであろう」
「それはお前等を知ってるからつく分別であって、他から見れば同じなんだよなぁ。……あ!!」
コロロとニーアの顔がすっごい暗い顔になってる!!思いつめた顔してる!!
「ナトリ謝れって!!コイツ等久々の休みに遠出してんだから、仕事忘れても良いじゃん!!リラックスさせてあげようよ!!」
「いえ…いいのであります…。この方が言った言葉は事実でありますから…」
「私にもっと力があればキアル様を……」
「同士、どうするんだこの空気」
「え、オレか? 全部あいつが悪いんだけど…………ヘルプミーラリルレー!!この空気はラリルレじゃないとどうにも出来ないってー!!」
「どしたんすかパイセン。急に大声上げて」
「オレが呼んだのはお前じゃない」
「ひどっ…」
ラリルレを呼んだらヤイナが来た。セイメアもいる。ギャラとアルはいないな。帰ったっぽい。あの二人はいつも唐突だなぁ。
「なんスかこの状況」
「知らない方が……また増えました…」
「こちらね、オレが話した方々。コロロ、ニーア、サンカ」
「皆かわわっスねー。ども、ヤイナっス」
「えっと……セイメア…です」
「……じゃないんスけど。めっちゃ空気重いんすけど」
「メイド服?」
「しかもニアニアちゃんからめっちゃ怖い目向けられてんスけど!?」
「なにこれ? 収拾付くの?付かなくない?」
まさか事情説明の為にサンカを呼んだらこんなことになるなんて……誰が予想しただろうか。
「ナトリ、他の事実は!! お前は事実を言うんだろぉ!!」
「ふぅ……。コロロとやらはこの阿呆の目を持ってしても避けきれぬ猛撃を繰り広げたのであろう? ならばその攻撃は防がれはするが避けられる者などいない。貴様の武は誇るに値する境地へと至っている」
「本当でありますか?」
え? 何でオレに聞くの?
「……うーん。コロロの武は境地に至ってる至ってる。オレを信じろ、お前の攻撃は速い…………ってか、むしろごめんな。お前等をあの戦いに巻き込んじまって」
「……英雄に謝らせるなど、あってはならないことであります。もとより、あの問題は私達で蹴りをつけなければならなかった問題だったのであります。それを、王国騎士団の力が及ばなかったばかりに、イキョウ殿達に頼る形になってしまったのであります。だから、私は絶対に強くなるであります。次は、イキョウ殿が私を頼ってくれるようになるまで研鑽を積むであります!!」
「あんまり力になれないとは思うけど、この町に居る間は鍛錬に付き合うよ。なんでも力を貸す」
「感謝するであります、イキョウ殿」
オレとコロロはガッチリと握手をする。
「そこのメイド。貴様はイキョウの気配察知を二度も欺いたのであろう、その技能を生かせ。貴様は影の方が向いているのである」
「キアル様にも同様のことを言われました。ですが、私はナターリア様の盾でもなく刃でもなく、近衛メイドです。そこだけは譲れません」
「ニーア、それをキアルから言われたのっていつ?」
「六年前、私が騎士団の訓練に参加していたときよ。あの時だけは、訓練中にキアル様が私に声を掛けてくれたの。忘れはしないわ」
「そっか。ニーアはキアルの言葉に反論したの?」
「したわ。……でも、そのときのキアル様の顔は何故だか嬉しそうで……失礼な事を言った私を優しく受け入れてくれたわ」
「あいつ…どんだけ後方親面してたんだよ……。よくもまあ長い間我慢してたな」
「止まっていた時計の針を進めてくれたのは、あなたよ」
……初めてニーアが、オレに柔らかい笑顔を向けてくれた。
でも……。
「止めて!!むず痒い!!」
「パイセンって、そういうの絶対素直に受け取れないっスよね」
「ところでそこに居る、メイドを如何わしくしたような格好をしている女は何?」
表情はすぐ変わって、ニーアはあの目でヤイナを見始めた。コイツ、切り替えが早いッ!!
「あぁ……なるほどっス。大丈夫っスよーあたしはニアニアちゃんの敵じゃないっスからー」
「何を言ってるの?」
「出来るだけ味方するっスから、その目は止めて欲しいっスー」
「本当に何を――」
「こっちおいでー、パイセンについて教えられる事なら教えるっスよ」
「――!! ……分かったわ」
えぇ……ヤイナとニーアどっか行っちゃった。オレのあずかり知らぬところでスムーズに話が進んでる…。
空気は戻ったけど、それはそれとして今の状況ってどうなってるの? ニーアは本当になんなの?
「何故阿呆はそこの小娘を呼んだのだ?」
「え? ああ、そうだった」
話を本筋に戻そう。
オレは椅子に潜んでるサンカを持ち上げて、腹の上に座らせる。
「この魔女っ子が、オレに魔法の体系を教えてくれた先生。サンカ先生だ!!」
そしてナトリに見せ付けるようにサンカを紹介した。
一連の流れはどうでも良いんだ。オレはこちらに在らせられるサンカ先生をナトリに紹介したいだけだったんだよ。
「……え? え? ど、同士?」
「ほう? この者が阿呆に……。方陣回路の三分理論については?」
「え、あ!! それ!? 同士!!この人と話してもいいか!!」
「え? 良いけど……」
「ありがとう!!」
サンカはオレから降りると、ぴゅーっとかけてナトリの側に駆け寄っていったしまった。
良く分からないけど、とりあえずよかった。これでナトリの印象は払拭できたかな?
そして――この流れが速い状況で取り残されたのは、オレとセイメアとコロロの三人だけだ。
「シーサーペントの討伐を助力する為に来たはずが……思いもよらぬ展開になったのであります……」
「なんかごめん。あと、それはよして。町滅ぶから」
「私からも……お願いします…」
「……おや?」
「詳しい話は……よっと」
オレは椅子から立って、ヤイナのパラソルの下に入る。
「こっちで座って話すよ」
* * *
「えぇ……」
オレとセイメアでここ数日の事情を説明したら、コロロにドン引かれた。
そりゃそうなるよな。仲間内で討伐派と阻止派が対立した挙句、阻止派の行動理念が興味の有無なんだもん。
「イキョウ殿のお仲間だから、一応は信用するのでありますが……」
「良いたい事は分かるよ。ナトリってパッと見裏切りそうな悪役だもん」
「でも…ナトナトさんは…お優しい方です…」
「何故でしょう。ルナトリック殿と旧知の仲であるイキョウ殿の言葉よりも、数ヶ月前に店員になったセイメア殿の言葉の方が説得力があるような気がするのであります」
「その感覚ね、分かるよ」
「え…えっ…」
セイメアはオロオロしてるけど、そう言うところが信用したくなっちゃうの。セイメアみたいな人が信頼してるってだけで、それはもう優しい人な気がしちゃうの。
「セイメア殿、今度一緒にご飯食べに行きましょう」
コロロはセイメアの手をガッチリ掴んで、真剣な顔をしてお願いをしている。
コイツ……サンカだけじゃ飽き足らなかったのか……。
「え…? …えっと……はい……?」
「確保ぉお!! やったでありますよ!!」
「おめでとー」
コロロが満面の笑みで喜んでいるなら、オレはそれを祝福するしかない。
だから手を軽く叩いて祝福する。
ご飯行く約束できてよかったねコロロ。セイメア、悪いけど付き合ってあげてくれ。
適当に祝福しながら二人を見ていると、ふと思ったことがある。
……今思うと、コロロにセイメアと一緒にいるって相当恵まれてないか、オレ。
美人×美人だぞ。世界の男が羨むシチュエーションじゃん。オレの一番の好みはすらっとしたモデル体系の美人だけど、それはそれとしてムチムチも好きだ。じゃなきゃヤイナとそう言う関係になってない。
そしてこの場に居る二人は美人に加えて、どっちも声が良いし。むしろオレが邪魔だぞ?
目も耳も――――――――幸福だ。
「キョーさん?」
「どうして難しい顔をして腕を組んでいるのでありますか?」
「オレがな、ノイズなんだよ」
「また…不思議な…言い回しを…」
「イキョウ殿の頭って何を考えてるのか全く分からないのでありますけど……」
「単純明快。今オレの目の前には、宝石よりも美しい存在が安らぎのハープを奏でているから、邪魔をするのは無粋ってだけ」
「そんな……きゅんきゅんでありますぅ……っ」
「……きゅん……です」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「あの、何か言って欲しいのであります…」
「オレが邪魔なの、二人で楽しんで。二人がお互いのハープを奏でて」
オレの存在が最大のノイズだ。だから二人で会話をしていて欲しい。
「セイメア殿……キュンキュンでありますか?」
「えっと……私もその、きゅん…かも……です」
ああ~、最高。お互いにしおらしい声最高~。でももっと声を落として欲しい。出来れば囁いて。
「セイメア殿ぉ…オススメのお店とかは……あるであります……か?」
「えっと……あまり外食はしないのですが……店長と一緒に行った…海沿いの――――」
「何話てんスかーあたしも混ぜて欲しいっスー」
「ヤイナてめぇ……マジでふざけんなよ」
「さっきっからあたしへの当たり強くないっスか?」
目を閉じながらオレはキレる。
コロロとセイメアは奏でる恥じらいのハーモニーに、不協和音をもたらした馬鹿がいやがる。
『っス』なんていうのはあいつしか居ないだろがよ!!
ヤイナに文句を言う為に、オレは閉じていた目を開放する。
「ひぅ…」
そしてオレは開放した目を……大人しく閉じた。
だって……目の前にあの目をしたニーアの顔が急に現れたから……。マジで眼前に居たから……。心臓止まるかと思った…。
目の前に居るのは知ってたけど、今日はあの目をしない日だと持ってたから…不意打ちのインパクトが凄い。
「何を堪能してたの?」
「……ひぅ」
「誰の声を聞いてたの?」
「……ひぅ」
「あなたは誰に満たされていたの?」
「……ひぅ」
何を答えるのが正解なのか分からないので……黙秘権を行使します。
この黙秘は、ナトリと話してテンションが上がったサンカが、オレにその嬉しさを嬉々として報告してくるまで続いた。




