38.スマートナトリ
温かい日差しを体に受けながら、オレ達は白い砂浜に居る。
砂浜は大まかに区分するなら、漁に使うであろう漁船が並べられている区画とそれ以外の二つに分かれていた。
窪んだ地形に添うようになだらかに曲がる海岸。白い砂浜、エメラルドグリーンの海、心地よい日差し。
なんて美しい景色だろう。景色が良いと煙草も美味く感じるだろうな。
こんじな状況じゃなければ。
「今日こそは必ずシーサーペントを退治するぞ!!」
「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」」
離れたところでは血気盛んな奴等か大声を出して決起してた。
冒険者に衛兵、漁師と思わしき格好をしている人。海にはスキュラや人魚、シーマン、サハギンなどなど、海に住まう種族。
どのくらいいんだろう。二、三百人? もっとか?
とにかくその大集団が打倒シーサーペントの為に気合出してるから、美しい砂浜の風情とかあったもんじゃない。
気合入れるのは分かるよ。町を守りたいんだもんな? でも、お前等が気合入れれば入れるほど――。
「離すのであるッ!!」
「この後お前が何すんのか分かってんのに離すバカが居るかよ!!」
比例してナトリがお前等の邪魔しようとすっから止めて!! 気合入れないで!!
今にもあの集団目掛けて闇魔法を放としているナトリを、羽交い絞めにすんのしんどいから!! どうか皆さんお引取りを!!
「変なことしようとしたら全力でお前の事行動不能にするからな!!」
「やれるものならやってみるのである!! 阿呆如きに止められるような我輩ではないわ!!」
「言ったなてめぇ!! PKKしまくった力見せてやるから覚悟しとけ!!」
「メアメアちゃーん、も一口ちょーだいっス。あーん」
「どうぞ……店長」
羽交い絞めをしながら言い争っているオレ達の後ろでは、ヤイナと店員さんが平和にケーキを食べていた。
アイテムの<ビーチパラソル>と<ビーチマット>を使って優雅にくつろいでやがる。
「なーにやってんだヤイナァ!! この天才バカ止めんの手伝えって!!」
「パイセン一人でどうにかなってるなら良いじゃないっスかー。それに、あたしはメアメアちゃんに食べさせても貰うので急がしいんスよー」
「食べさせて貰うのに忙しいってある?」
「あるっスよ。ねーカモカモ」
「(グッド)」
墓守はパラソルから一歩引いた位置で店員さんを護衛するように付いている。
あいつの呼び方カモカモかよ…。ヤイナはセンスが独特だなぁ。
「なあナトリ、あそこにいる奴ら今日まで討伐成功してないんだろ?
……だったら邪魔する必要ないじゃん!! お前が手出す必要ないじゃん!!」
「阿呆は我輩に向かって、ラリルレと馬鹿が到着するまで何もせずにただ時を過ごせと言うのであるか? それでは暇になるであろう」
「お前って最高に自己中心的な事言ってる自覚ある? 暇ならオレが話し相手でもなんでもするから、民衆に向かって魔法ぶっ放すの止めて!! あいつ等気になんないくらい相手してやっから!!」
「……ほう? 中々に良い提案をするではないか。ならば精精足掻いてみせよ」
「えっ、今の提案通るの? んだよ~お前オレのこと大好きかよぉ~」
「見方によってはそうなるのであるな」
「え~、ナトリ可愛い事いってくれんじゃ~ん」
オレは羽交い絞めを解いてから肘でちょんちょんとナトリの腕を突く。
「冒険者さんって……感情がコロコロ変わりますね」
「キョーパイセンとソーパイセンの思考回路は真面目に考えるだけ無駄っスよ。あの人達割とノリだけで生きてるところあるっスから。ナトナトは難しい事考えてるから分かんなくて、パイセン達はマジで分けわかんないっス」
「今クッソ失礼な事言わなかった?」
「言ってないっスよ。メアメアちゃん、あーん」
「はい……どうぞ」
そっかぁ。言ってなかったかぁ。
とりあえず場が落ち着いたしオレもパラソルにお邪魔させてもらおう。
ってな訳で、座る為に近づいたら、ヤイナが両手でバッテン作ってきやがった。
「ブブー、ダメっスー。こっちはあたしとメアメアちゃんのラブラブ領地っスー。パイセンとナトナトは自分達で領地作ってくださいっスー」
「何だコイツクッソだりぃ……」
「まあ良いであろう。我輩達は我輩達なりの環境を作るとしようではないか」
「切り替え早いね。びっくりだよ」
ナトリはさっきまで討伐の邪魔する気満々だったのに、もう領地作りに思考をシフトしてやがる。
「元より我輩はそのような日差しを遮るだけの粗末な出来の設備を用いようとは思ってないのである」
そう言ってナトリは移動を始めた。
ヤイナが設置したパラソルとシートの評価がひっどい。粗末って言うけど、これ結構一般的だろ。普通だろ。
だったらナトリはどういった環境を作るのかって気になって振り向いてみると――――。
ナトリは脇に、ビーチチェアとパラソルを抱えて立っていた。ビシッと決まったスーツにそれって……。
「その服装にその持ち物とか……最高にアホっぽいわ」
そもそも浜辺にスーツとシルクハットの時点でも違和感あるのに、そこに愉快なアウトドアグッズが加わるとただのアホな変人にしか見えない。
「なんスかその格好ー!! あーっはっはっは!!」
ヤイナはそのナトリの姿を見て大爆笑していた。
「過程を疎かにする者は結果へと到達する事は不可能である」
「いや……その格好で小難しい事を言われても……」
「まあ良い」
まあ良いんだ……。
ナトリはそのまま真っ白のビーチチェアをヤイナのパラソルの横に置くと、パラソルを地面にブッ刺す。
そしてチェアの横にボックスから取り出した真っ白の丸いサイドテーブルを置てから、ナトリは優雅に椅子へ寝そべった。……これは!?
「セレブ特有の奴っス!!」
「セレブ特有じゃないだろうけど……余裕ある大人がやる海の楽しみ方じゃん」
「よろこべ、阿呆も余裕ある大人の仲間入りができるのであるぞ?」
そう言ってナトリは尊大に寝そべりながら、横の開いたスペースへと目を向ける。オレも同じように椅子を置けってことだろう。
「つっても、オレはそのアイテム持ってないしなぁ」
家具アイテムは、覚醒極武器を作るためにほとんど売っちゃったからその椅子は持って無い。
「ならば余りを貸そう」
「マジ!? ありがてぇ。オレだけ砂の上に座り込むところだったわ。ナトリのど渇かない? 椅子のお礼に何か奢るよ?」
まったく、なんて気が利く奴なんだ。
折角こんな優雅な環境を作ってもらえたんだし、飲み物を追加して更に優雅にするのも悪くない。
椅子のお礼として、ここはオレが奢ってやろうじゃないか。
「阿呆に驕られるほど落ちぶれておらん。むしろ我輩が奢ってやろう」
「マジのマジ?良いの? ホントに良いの? お言葉に甘えちゃうよ?」
「ふははははは!!我輩を頼るが良い!! 貴様等の面倒を見るのも我輩の楽しみの一つであるからな!!」
コイツは自己中だけど、良い自己中だから嫌いになれない。コイツの我輩の為って奴がオレ達のためになることもあるからな。
質問すれば教えてくれるし、頼れば力を貸してくれる。ほんと憎めない奴だよ。
「早速買いにいこーぜ!!」
ナトリは仲間の中でも年下として甘えられる存在だ。上ブレさえ引ければの話だけど。
今の状況って、ソーエンは無条件にいつの間にか勝手に居る存在。ラリルレはオレの主神。ヤイナには後輩としてたまに甘えさせてもらってる。
「皆に甘えて、オレは恵まれてんなぁ」
「でもパイセンって本質的には誰も頼りにしてないっスよね」
「んなこったぁ無い。最終的にはソーエンが勝手に来てくれるからな」
「ほら……」
「……店長?」
ヤイナはオレに呆れた目を向ける。その目を見た店員さんは頭に?を浮かべていた。
「何でもないっスよーメアメアちゃん。ナトナト、あたしとメアメアちゃんにも驕ってっスー」
「いくつだ。百か? 千か? 万か?」
「常識的に考えて欲しいっス、財力誇示すんなっスよー。チョイスはパイセンに任せるっス」
「へいへーい。行こ、ナトリ♡」
「ふはははははは!!愉快な声色を出すでないわァ!! では買いに行くとしよう」
ナトリはスマートに椅子から立ち上がると、そのままスマートにオレの分の椅子を設置してくれて、スマートに歩き始めた。
「ナトリかっこいい!!」
「阿呆の思考回路は現金であるな!! ふははははははは!!」
スマートナトリに付いていくように、オレも歩みを進める。
そういやこの世界に来てから、年下の面倒を見る事はあっても年上から面倒を見てもらうことなんて無かったな。
「椅子を用意してもらって、奢ってもらえて……ナトリ良い奴だぁ」
「くっくっく、阿呆はつくづく阿呆である」
「それだけで…パイセンチョロイっスねー、ナトナト上機嫌スねー」
「楽しい……ですね」
後ろから聞こえてくる声なんて何のその。オレはスマートナトリに何を奢ってもらおうかだけを考えていた。




