34.心と体
手桶の入れられたお湯と体を拭く様のタオルを人数分貰って自分の部屋へ。
自分の部屋へ……。
「ここ、オレとサンカの部屋なんだけど」
「そう」
「そう。じゃないわ!! なんで平然と入って来てんの!? お前は自分の部屋戻れよ!!」
サンカをベッドに座らせ、後は体を拭くだけ。のはずなのに、何でかニーアが居座ってやがる。
しかも、コイツはコイツ分の桶貰ってんだから体拭くんだろ!? さっさと部屋戻れや!! そのお湯冷めんぞ!!
「命令されると私は嬉しいの」
「メイドから私に代わってるし!! もう分からねぇよ!! だったらオレがサンカの代わりに命令してやるよ、部屋戻って、お願い!!」
「いやよ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
本っ当にコイツの思考回路全然分からんねぇ!!
「同士…五月蝿いぞ…」
サンカはベッドに座りながら、眠そうな目を手でクシクシとしている。
もうサンカねむねむじゃん。ねむねむサンカじゃん。
「ねむねむサンカ、体は?」
「んー。拭く。初めてのパジャマ汚したくない」
「パジャマ?」
「今日買った服はそこのクローゼットに入れておいたわ」
「そっか、ありがと。お前も眠いだろ。寝て。寝てください。部屋帰ってください」
「私はメイドよ。体を拭くのも上手」
そう言って、ニーア何かを求めるような目をして来る。
「だってよサンカ。丁度良かったな、拭いてもらえって」
「それは悪いぃ。でも眠いぃ。でも折角だから着たいぃ……」
「この際だからサンカも拭いてあげるわ。脱いで」
「うーん、悪いぃ」
「いいのよ、ほら手を上げて」
ベッドサイドに移動したニーアがサンカを立たせてから両手を挙げさせて、そのまませっせとローブを脱がせる。
サンカはローブの下はパンツ以外何も着て無いから、すぐに全裸になる。
「ねえ、せめてオレが部屋出てからやってくんない?」
「同士ならいいんだぁ」
「同世代未満の体つきには興味ないんでしょ?」
「こういうのって普通そっち側がとやかく言うんじゃないの? オレがおかしいのか?」
「私は良い、同士も良い。なら良いんだ」
「あなたが興味ないなら問題ないわ」
「価値観って人それぞれだもんなぁ……」
「きもちいぃ、ありがとニーアさん」
「頭に巻いたタオルは熱くない?」
「ぽわっとして気持ちいぃ」
「なら良かったわ」
せっせとサンカの体を綺麗にしていくニーア。
もう勝手にしてくれよ……。
ニーアがサンカの体を拭いている間、オレは壁にもたれかかって、日中にナトリから聞いた話を思い出していた。
難しい話だったから、未だに情報が整理しきれていない。ちゃんと都度思い出しておかないとすぐに頭から飛んで行ってしまいそうだったから、忘れないようにするための意味も込めてナトリの言葉を思い出しながら、頭の中でゆっくりと情報の処理と整理を行う。
概要は理解しているから、後は細かいところを整理するだけ。
そうしながら時間を潰していると、それほど間をおかずサンカの体拭きが終わった。
「……寝たのか?」
「ええ、頭皮マッサージをしてる最中にね」
ニーアはそういいながらサンカを起すことなく静かに、薄紫色のパジャマを着せてからベッドに寝かせた。
頭皮マッサージ……そんなことまでしてたのかよ……。
「さあ、次はあなたよ。脱いで」
「ふざけんな。オレは自分で拭けるからさっさと部屋帰って」
「脱いで」
「そういうこと言うのって普通逆じゃない? 男女逆転してない?」
サンカを寝かし終わったニーアはオレの方を直立不動で見ながら、脱げと言ってくる。
「……」
そして無言でオレの方へ近づいてきた。
それほど広くない室内。オレ達の距離はすぐに縮まる。
「「……」」
あとは無言で視線が交叉するだけ。
は? なんでコイツ出て行かないの?
「そのタオル貸せよ」
未だにニーアが持ったままの、オレ達用のタオルをオレは貸せと要求する。
「ってか、その二枚のタオルどっちもサンカに使いやがったな」
一つは体に、一つは頭に。
すすぐのめんどいからそのまま使わせてもらおう。頭の方ならそれほど汚れてないだろうから問題ないだろ。
「うっかりしてたわ。仕方ないから、私が使う予定だったタオルであなたの体を拭くことにしましょう」
「いやいいよ。お前は――」
「脱いで」
「んだてめぇ、話し聞きやがれ。良いぜ脱いでやるよ、ただし、お前が脱いだらだけどな!!」
ここまで脱げって言われると裏があるんじゃないかって思わざるを得ない。
例えばこの防具を剥いだところで攻撃を仕掛けるんじゃないだろうとか。
あと、強要されるとオレの反発精神が働くから素直に脱ぐ気になれない。
だから交換条件をつけてオレが必然的に脱げない状況を作ってやる。
「わかったわ」
「そうだった!! こいつ川原で躊躇無く脱ごうとしてた痴女だった!!」
ニーアは躊躇無くオレの前で服を脱ごうとする。だからオレは手を掴んでそれを阻止する。
「私が脱いだらあなたも脱ぐのよね?」
「言葉が仇となって帰ってきたぞおい」
「脱いだら服は回収するわ。洗って返すから安心して、何もしないから」
「その言い方、絶対何かする気じゃん……なんだよ、燃やすのか?売るのか?」
「洗うだけ、洗うだけだから」
まあ、メイドとしてのプライドを持っていて尚且つナターリアのお付きを務めているニーアなら、そんな変なことをしないとは思うけど……。
にしても――。
クソッ、折角ニーアと別の部屋になったってのに寝られやしねぇじゃねぇか。早く寝て睡眠君を甘やかしてあげたいのに、一向にその機会が訪れない。
そう考えるとこの問答をするのが面倒になってきたぞ。もういっそのこと脱ぐか。別にコイツに裸を見られても問題は無いし、コイツ自身が見せろって言ってんだから見せても問題ないはず。刺されそうになったら全力で逃げれば良いや。コイツへの警戒レベルは上げてるからたとえ寝込みを襲われようと、オレに不意の一撃を与える事は出来ない。裸状態でも障害にはならないだろう。
最悪――――――――全裸でヤイナのカフェに逃げ込もう。
「分かったよ、脱ぐよ……」
諦め半分にオレがそう言うと、ニーアは脱ごうとしていた手の力を緩めて凛と立ちなおす。そして、そのままオレのことをジッと見つめ始めた。
「全裸になって良いのか?」
「ええ」
良いのか。
前に、目の前で脱いだとき悲鳴上げられたからちょっと心配だったけど大丈夫のようだ。あん時は急だったから驚いただけで、事前に告知しておけば平気なんだろう。
なにせ近衛メイドであり、五騎士であり、冷静であり、悠然とした態度で王城を闊歩している奴だ。今更異性の裸を見たくらいじゃ初心な反応もしないだろう。
まずは外套を外してっと。
「……」
……ん? 今ニーアがピクッとしなかったか?
いや、気のせいだろ。外套脱ぐことで起こる反応なんて無いはずだ。
次は腕や胸の装備を外して、その次は上着を……。
「……」
……ん? 上着を脱ごうとしたらニーアの視線が外れたり見つめたり忙しく動き始めたぞ。
……思い当たる節はあるけど……とりあえず上着を脱いで見るか。
「!!……、!」
ニーアは顔を手で覆いながら、その指に隙間を作ってオレの肉体を見ている。そして顔を俯けてオレを見ないようにしながら腹筋ツンツンしてきやがった。
うーん、これはあれだ。やっぱあってた。こいつもナターリアと同じで初心だ!!
コイツの動き、エロいことは恥ずかしいことってなってる年齢。例えるなら小学生。そのマインドを持っていても、それでもエロい事に抗うことが出来ないときの動きとそっくりだ。
あんなに意気込んでたくせに、お前のエロ精神年齢小学生かぁ?
サンカと同じじゃん!! 自分の裸を晒すのは良いけど人の見るのはダメなタイプじゃん!! よくそんなんでオレに脱げとか言ってきたなコイツ!!
あと、腹筋さわさわすんなくすぐったい。
「なあ、このまま脱いで本当に大丈夫か?」
「これ以上!? ……」
ニーアは俯いたままビクッとして、そのまま黙った。
「お前って男の裸見たことは?」
「……無いわ」
「うーん、それは忍びない」
ナターリアの一件で分かったことがあるけど、この世界ってネット無いからエロいことを見たり調べたりってそう簡単に出来る事じゃない。異性の裸を見るにはそういうことをしなければ、中々見る機会は無いだろう。
ニーアの貴重な初めてを、ただ体を拭くためだけに使うのは申し訳無いな。
コイツは怖いけど嫌いってわけじゃない。だから、コイツの初めては尊重してあげたい気持ちはある。
欲求レイス状態だからこそ出来た冷静な判断、それが無ければ、そもそもオレはニーアが服を脱ごうとしたときに止めなかっただろう。そう思うとこの状態も悪いもんじゃないかもしれない。少なくとも、ニーアの裸を見ようとも思わない。
……シャーユにいる間はこの状態をキープしておこう。
同室のサンカに迷惑をかけないためにも。
「よし、決定」
「何が…きゃっ」
オレは上半身半裸のままニーアを片腕に座らせるように担ぐ。……異世界に来てから人を抱えるのも慣れたもんになっちまったなぁ。
そしてそのままニーア達分の桶を空いた左手で持って、後は部屋を出るだけ。
「何処に…行くの?」
オレの胸筋を触りながらニーアが尋ねてくる。
顔が近い。やっぱコイツ見た目だけは良いな。
「お前を部屋まで強制連行する。こればっかりは譲れない」
「でも」
「口答えすんならお前を縛って無理矢理にでも部屋に閉じ込めとくからな。良いからオレの言うことを聞け」
「!! ……はぃ」
すっかり大人しくなったニーアを担いでそのまま部屋を移る。
部屋はすぐ隣だから扉開けて、廊下出て、鍵開けてもらって、扉開ければそれで終わり。
オレ達が借りた部屋とほとんど変わらない風景の部屋では、コロロが嬉しそうな顔をしながら静かに寝息を立てていた。
オレはそんなコロロを起さないように、ニーアと桶を静かに丁寧に置く。
「……この後はどうすれば良いの?」
そのまま去ろうとしたらニーアが変なことを言い始めた。
頬を赤らめて見上げてくるけど……分かるよ。精神年齢小学生なら異性の上半身見ただけでもそんな顔になるよな。
でも、オレは早く睡眠君を甘やかしてあげたいんだ。
「この後って……体拭いて寝れば良いんじゃない?」
「そう……。……さっきの言い方を…もう一度…」
露骨にガッカリされた……なんでだろう……。
あ、全く関係ないけどお願いしたい事あったわ。
「悪いけど洗濯お願いして良い?」
「え、ええ。もちろん良い……けれど?」
あれこれコイツを疑ってたけど、それでもお願いしたいことがあった。
前にニーアにオレの装備を洗濯してもらったときの事。特になーんにも思わずに着たら、めちゃくちゃ着心地良かった。浄化の杖が服を綺麗にするだけの洗剤止まりなら、ニーアは最高級の柔軟剤を使ったんじゃないかって位の仕上げてくれる。オレじゃ絶対に出来ない芸当だ。流石は近衛メイド、メイドの技術がハンパじゃない。
「一方的なお願いで悪いな」
「お願いよりも……」
「お礼は絶対にするよ。いやー、良かった。ニーアが洗った服着るのだけはマジで好きなんだよね。唯一お前に本心からお願いしたい事だったから受け入れてもらって良かったわ」
「むにゃむにゃ…余計な言葉が多い気がするので…あります…」
「好き……ええ、ええ。是非、私ニーアが全身全霊を持ってあなた様の服を綺麗に致します」
「すぴー、むにゃむにゃ。ニーアが良いのなら…良いのであります…」
「さっきからコロロの寝言多くない?」
「コロロは何時如何なる状況でも有事に対応できるよう訓練してるから、寝てても反射的に言葉を話すときがあるの」
「凄っ……だったら刺激しないようにさっさと退散するわ」
「あのっ…」
コロロのためにも、さっさと部屋を出ようとしたところでニーアに呼び止められる。
分かってるさ。あの事だろ?
「服は明日の朝に渡すから。じゃあなよろしく頼むー」
ってなわけで、洗濯の約束を取り付けたオレは部屋に戻ることにした。
活動報告にて第二章と第三章の雑感を公開しました。
第二章
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2029081/blogkey/2896092/
第三章
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2029081/blogkey/2893976/




