16.パーティ名を決めましょう
* * *
場が落ち着き、オレ達の話は前へと進む。
「むふー、パーティですよパーティ。さっそく名前付けましょうよ!!」
すっかり緊張が解けたシアスタは、満足そうな顔をしながらオレ達にそう言ってきた。
パーティの名前か。ゲーム時代にクランの名前はあったけど、パーティに名前を付ける設定なんて無かったからあまり必要性を感じない。
今だってUIに表示されているオレとソーエンのパーティ欄に名称を入れる項目はない。
「付ける必要ある?」
「登録する際には必要です。例えば、このギルドで聞いて覚えているのは――」
そう言ってシアスタは、覚えている限りのパーティの名前を羅列し始めた。
「平和の旗印さんとか」
正義の味方の集まりだろうか。
「にゃんにゃんにゃん」
猫の集まりだろうか。
「絶・漆黒の影」
厨二病の集まりだろうか。
「ひまわり組」
幼稚園児の集まりだろうか。
「くらいですかね」
「最初以外碌なのがいない……」
大丈夫なのか冒険者ギルド……?
「にゃんにゃんにゃんか……ふむ」
しかもソーエンはソーエンで何か考えこんでるし。
「私達もつけましょうよ、名前!!」
シアスタははしゃいでいるけど、やっぱりオレは必要性を感じないなぁ。
「良いのではないか」
「急にどうしたんだよ……」
考えこんでいたソーエンがオレ達の輪に戻ってきた、
珍しいな、ソーエンがそういうことを言い出すなんて。
「パーティの名前を仲間が分かるようなものにすれば、どこかで聞いたあいつらがアステルに来ると思ってな」
ソーエンが冴えた考えを披露してくる。コイツ、バカな癖にたまにIQ上げてくるから怖い。
「名案だけど、それじゃシアスタがつまんないだろ」
オレ達由来の名前になると、シアスタがのけ者になってしまう気がする。
「いえ、私はお二人のパーティに参加したようなものなので、そちらで決めてもらって大丈夫です」
シアスタはそう言うけど、一応オレ達は三人でパーティだ。オレ達二人が良くてもシアスタが納得してくれないならその案は却下しよう。全員が納得する名前を付けることにした方がいいだろ。
「ならせめて挙げた名前が嫌だったら言ってくれ。別なのを考えるから」
「はい、分かりました」
シアスタはちょっと嬉しそう答えた。やっぱり全員で決める方向にして正解だったな。
さて、名前かぁ。どうしよ。
「七名奈那は使えないしなぁ」
「ああ、アレは七人全員そろって始めて名乗れる名だ」
七名奈那はオレ達のクラン名で、みんな思い入れのある名前だ。オレ達の独断でつかっていい名前じゃない。
「ソウルコンバーションはどうだ」
ソーエンは仲間が分かるようなパーティ名として、ドストレートな名前を提案してきた。
「ありっちゃありだけど……なんか仰仰しいな」
「可愛くないので却下です」
シアスタにも不評らしい。
ソーエンは『そうか』とつぶやくとまた別の名前を考え始める。
次はオレの番だな。
「イキョウとソーエン ~シアスタを添えて~」
横からフッっと笑い声が聞こえてくる。
「ダサいので却下です。後、私を勝手に添えないでください」
ソーエンは笑っていたからありだと思ったんだけどな。
そんでもって、ソーエンはまだ考えているから続けてオレが案を出させてもらう。
「VRMMOをしていたら突然異世界に転生しました!! ~最強チートキャラで転生したオレ達は異世界を無双しながらモテモテハーレムをつくり、まったりスローライフを送りながら仲間を捜すようです ~」
前にソーエンから教えて貰った面白い題名をマルパクリだ。こんなふざけた名前なら絶対にオレ達だって分かるだろ。
「長いし意味不明なので却下。イキョウさんネーミングセンス無さ過ぎです」
オレ達は無双してないし女はこのクソガキ一人でそもそもモテてない。しかもまったりとは掛け離れた生活をしているので何一つ合っていなかった。
どうやらオレはこの手のネーミングセンスが無いらしい。上げたの全部自信あったんだけどなぁ。
オレの名前も、昔ソーエンと遊んでいるときに『カラオケ行きょうぜ』ってオレが噛んだのが由来で、それを聞いたソーエンが珍しくツボって爆笑した名残でつけたものだった。その後一週間は『行きょう』を使って何か言えばソーエンが笑っていたけど、あまりに使いすぎて飽きられたのか一週間を過ぎたら一切笑わなくなった。
……思い出したらなんか虚しくなってきた。加えてシアスタには連続で却下を喰らうし、へこみそうだ。
名前を考えるのは全部ソーエンに丸投げしよう。
「あれはどうだ。無限紅茶」
ソーエンがようやく口を開いて懐かしい提案をしてくる。
「無限紅茶?」
シアスタが疑問の表情を浮かべる。
「正式名称は違うが見せてやろう。やるぞイキョウ」
「あーね、へいよー」
「……? なんです?」
シアスタはオレ達が何をしようとしているのかが分からず、キョトンとしている。オレはというと、そんなシアスタの開いたカップを確認した後、ソーエンに目で合図を送る。
「シアスタ」
「はい?」
シアスタがソーエンに呼ばれてオレから目を離した隙に、<隠密>を使ってシアスタの横に即行で移動し紅茶を注ぐ。
<隠密>の効果に加えてお茶を静かに注いだことにより音は全くせず、今していることを感知させない。シアスタに一切気づかれず紅茶を注いだ後は、即行で元の席に戻り何食わぬ顔で座りなおす。
「呼んだが特に用事はない」
「なんなんですかいったい……」
シアスタはソーエンから視線を外してオレ達二人に視線を戻す。
オレが動いたことは気づかれていないので、特に何も言われない。
「シアスタ、下」
オレは自分のカップを指差して、シアスタに手元のカップを見るように促した。
「今度はなんですか……わっ、紅茶が増えてます!!」
シアスタはカップに目を落とすと、素直な驚き顔を浮かべてオレ達を見てくる。
気持ち良いくらいに驚いてくれるな。満足満足。
「ほんとは飲んでる最中に注いで、ひたすら紅茶を飲ませるんだ。その名も<インフィニ・ティー>!!」
オレは上手くいったので調子に乗ってエアーで紅茶を注ぐポーズをとって、声高らかにその名を宣言した。
「それはパーティのキメポーズですか?」
「いいえ、これはパーティのキメポーズではありません」
シアスタから真面目に分析されてしまったので、思わず恥ずかしくなったからポーズをやめる。
この気分がさっきソーエンに分析されたシアスタの気分か……。
<インフィニ・ティー>はクランのみんなで紅茶を飲んでるときに、こんなことしたら面白いんじゃないかってソーエンに持ちかけて、オレ達二人で仕掛けた悪戯が始まりだ。
視線誘導担当のソーエンと隠密お茶汲み担当のオレで役割分担をして三日くらい続けてたけど、ついにばれて皆でめちゃくちゃ笑いながら悪戯の名前を考えた。それからは不定期で悪戯を仕掛けているから、皆忘れていないはずだ。
「どうだ」
ソーエンはシアスタに採用を求めて尋ねる。
その問いに対してシアスタは『うーん』と言いながら腕を組んで、合否をどうするか考え始めた。
まあ、ダメだよな。さすがにこんなふざけたパーティの名前が採用されるわけ――。
「いいです!! それにしましょう私達のパーティ名は<インフィニ・ティー>です!!」
「いいのかよ……」
元はただのくだらない駄洒落だぞ。
あと、なんでティーのアクセントが強いんだ。全部平坦なアクセントだぞ。
「かっこよくて優雅じゃないですか。無限の中でお茶を飲む余裕。しゃれてますねぇ」
かっこよくて優雅か……。全然そんな感じがしない。しゃれてる気もしない。
「それに、今私もこの<インフィニ・ティー>を体験しました」
……なるほどな、さっきの言葉は建前で、どちらかと言うとこっちが本当の理由か。これならオレ達3人に関係ある名前になったもんな。
さっきの優雅とかは建前だろう。建前だよな?
「私達はどんなときでもお茶を飲める余裕を持ったパーティです!!」
建前じゃ無かったのか……。コイツ実はアホなんじゃないか?
「後はギルドへ登録ですね」
しかもヤル気満々で逸ってくるよ。
「登録とかメンド……勝手に名乗れば良いじゃん。登録して何か意味あるのか?」
別に登録しなくても、勝手に組んで勝手に名乗って活動してもいい気がするんだけど。
「組んだパーティをギルドに登録をすると、ギルド側が管理しやすくなるから助かるって言ってました」
言ってましたって……誰からそんなギルド側の事情を聞いたんだ。
いや名前出されても誰か分かんないから深くは聞かないけどさ。
「後、私達側の益としては、パーティメンバーの人数に応じて報酬の加算があります」
人数が多くなると一人当たりの配当が低くなるから、そのための措置みたいなもんなんだろうか。もしくは、そういった手当てを出すことで冒険者達が積極的に登録するよう促してるとか?
「登録といっても手続きは簡単でして。受付カウンターで登録書を貰って、必要項目を埋めるだけで終わるそうですよ」
シアスタ登録に詳しくない? ポンポン情報が飛んでくる。でもそうなのか、そんな簡単に終らせられて、報酬の加算もあるんだったら登録くらいはしとこうかな。
「んじゃ登録作業さっさと済ませっか。ちょっくら紙貰ってくるわ」
オレは立ち上がって一階の受付へ移動しようとする。……が、誰かに外套をちょいちょいと引っ張られた。
振り向くと、シアスタがオレの外套をつまんでいた。慌てて急いでつまんだのだろう、シアスタの体がテーブルに乗っていた。
「ん」
振り向いたオレにシアスタがカップを差し出してきた。
なるほどな、欲しがりさんのクソガキめ。
しかたがないのでシアスタを席に座らせて、受け取ったカップに紅茶を注ぎシアスタの前に置く。
「テーブル越えなくても声を掛けてくれりゃ良かったのに」
「だって、御代わりをせがむとか恥ずかしいじゃないですか」
テーブルに乗るより紅茶の御代わりを頼むほうが恥ずかしいのかよ。
シアスタはご満悦そうに紅茶を飲んでいるから、まぁ……いいか。
シアスタにお代わりを上げたことだし、今度こそオレは一階の受付へ――。
ちょいちょいと、外套をまたひっぱられる。
振り向きたくなかったが、オレの身体は反射的に動いてしまった。
「ん」
振り向くと、ソーエンが当然のようにオレへカップを向け、注げとアピールしてきやがった。
なるほどな、自分で注げよクソヤロー。
「はっ倒すぞテメェ!!」
なんでオレがわざわざ召使いみたいにお前にお代わり注がなきゃいけないんだよ!! 大体ソーエンは自分のティーセット持ってんだろ!!
「俺はパーティ名を決めた。シアスタは合否を決めた。お前は何をした」
「茶を少々汲みましたけど?」
「分かっているじゃないか。お前はお茶を注げ」
ソーエンはオレに対して理にかなっているようで理にかなっていない理論を振りかざしてくる。
「注げじゃねぇよ、注いでく・だ・さ・いだろ!!」
「ならお前は俺に、名前を決めてくださいって言ったのか。その空っぽな頭で思い出してみろ」
「ゴミムシ!! 自分でお茶も注げないダメ人間!! オレと同等の脳味噌しか持ってないただのバカ!!」
「やはりお前の煽りは腹が立つッ」
「パーティ結成早々に喧嘩ですか……優雅さが全く無い……」
人のいない食堂はオレ達の喧嘩する声と厨房からの音だけが虚しく響き渡っていた。




