15.異世界初のパーティ結成
「私とパーティを組んで下さい!!」
唐突に、シアスタが頭を下げながらオレ達にお願いをしてくる。
……え? この子とオレ達がパーティを?
「なんで?」
こんな必死にお願いされるほど、シアスタがオレ達のパーティに入りたくなるような理由に心当たりはない。
「だ、だめでしたか?」
顔を上げたシアスタの顔は大量の涙が流れていた。
どうやらオレの『なんで』って言葉は断りの返事だと思われたらしい。
さっき涙は無視して良いって言われたけど、こんなの無視出来るわけねぇ……。
「イキョウはパーティに入りたい理由を聞いただけだ。断ったわけではない」
ナイスフォローだソーエン。
ソーエンはシアスタの涙を見ても全然動じていないようだったから人の心があるのか疑がっていたけど、気を使うくらいの心は残っていたようだ。
「そーだよそう!! 純粋な疑問だったんだ!! 断ったんじゃないんだ!!」
「よかったです……ダメなのかと思いましたぁ……」
シアスタの涙は止まっていないが、安堵の表情だったので誤解が解けたようだ。
「パーティ組むのは別にいいよ、断る理由も無いし。ソーエンは?」
「問題ない」
おやぁ? ソーエンは断ると思ってたけど、案外あっさり了承したな。珍しいこともあるもんだ。
「だってよシアスタ」
「ありがとうございます、うぐ、えぐぅ……」
今度は安心したのかまた泣き始めてしまった。これは嬉し泣きだからセーフ。
そんな泣くほどオレ達のパーティに入りたかったのか。
そしてこの姿を見て納得した。だからさっきは町から離れることやこの後の予定を不安そうに聞いてきたのか。
こんなあっさり決めちゃったけど、一応、どうしてパーティを組みたいのかは聞いておこう。この子もそれを聞いて欲しそうな気がするし。
「ちょっと待ってて、ちゃんと話し聞くから」
オレは大急ぎで残っている飯を腹に詰め込む。それを見たソーエンがオレの考えを察してくれて、オレ達二人は即行で料理を平らげた。
空いた皿を片付けてテーブルを綺麗にしてから、アイテムボックスからこっそり趣向品アイテムのお絞りを取り出して汚れた手と口を拭いて綺麗にする。
そして綺麗になった手で、シアスタにも新しいお絞りをボックスから出して渡す。
「ありがとうございます」
シアスタはお絞りでゴシゴシと顔を拭き始めた。
なんか居酒屋のおっさんみたいで、神秘的な精霊感がどんどん薄れていくよ。
顔を拭いているシアスタがこっちを見ていないうちに、嗜好品アイテムのティーセットを取り出して、3つのカップにそれぞれ紅茶を注ぐ。
嗜好品アイテム<ティーセット>はガチャのはずれアイテムで、これを持っていないプレイヤーなどいないと言われているほどみんな持っている。ボックスを圧迫して邪魔だったから、これ一つを残して全て売ったけど、とある悪戯のために手元に一つは残しておいた。
「ほれ、これでも飲んで話ししようぜ」
シアスタの目の前に紅茶を置いて、入れ替わりでお絞りを回収する。
「……あれ? お茶ですか? いつの間に……」
「んー、おいおいな」
パーティを組むなら秘密にはしておけないだろうし、いつかタイミングを見計らって話すか。
「ほれ、ソーエンも」
オレはシアスタに続いてソーエンの前にも紅茶を置いて、これで全員に紅茶が行き渡った。
「この感じは懐かしいな。あの光景が昨日の事のように思い出せる」
「当たり前だろ、昨日も飲んでたからな」
覚醒極武器を作る前にも集まって飲んでたから、そんなに遠い昔のことじゃない。なんならオレ達この世界に来てまだ一日も経ってないんですけど。
オレ達のクランは、暇なときはこの紅茶を飲みながらホームでひたすら駄弁っていた。
ゲームのことや現実のこと、なんでもないような馬鹿話、ひたすら話して沢山笑った。ゲームの味が薄い紅茶でも、みんなで飲めば不思議と美味しく感じたもんだ。
それにしても、ゲームの時はティーポットから無限に沸いてくる紅茶に疑問を持たなかったけど、この世界に来てアイテムが現実になったせいで疑問を持ってしまった。このティーポットは世界を跨いでもゲームの頃のまんまで、中身を注いでも重さが変わらない。
一体中身はどうなっているのだろうか。中身を見たいけどこのポットに蓋は無いから中身が見れない。割れば見れるんだろうけど……。割ったら無限に溢れる紅茶で海が出来てしまいそうだから、中を確かめたくても確かめることが出来ない。
やばい、めっちゃ気になる…。
「あ、美味しい」
シアスタの一言で興味のスパイラルから現実に引き戻される。
オレも口をつけてみると、紅茶の風味と味がした。どうやら煙草と同じで紛い物から本物になっているようだ。
これ以上疑問と興味を持っていたら、危うく世界を滅ぼす方の選択をしそうなのでポットを視界外に置いて気にしないことにした。
「落ち着いた?」
「はい……すみませんでした」
シアスタには謝られたけど、別に悪いことはしていないから許すようなこともない。
一言、『気にするんな』とだけ伝えておく。
「でさ、どうしてそんなにオレ達とパーティ組みたかったんだ?」
大泣きで中断してしまった話の続きを始める。
「理由を聞いてから断るなんてことは……」
シアスタは話をした後で断られるのではないかと不安らしい。
「大丈夫だ絶対にしない。約束する」
ちゃんと安心させてから話を聞こう。オレ達はもうパーティなんだから話し合うことが大切だ。
「ありがとうございます。では……理由をお話ししますね。
私は今まで一人で旅をしてきました。といってもまだ六日目ですが」
六日目……旅行じゃん。ってツッコミたかったけど、また泣かれて話が中断してしまうと困るから黙っておこう。
「私は自分の力でなんでも出来ると思っていました。だから昨日も一人でクエストを受けたんですけど……。薬草採集の途中で、強大な魔力の反応と轟音が発生したんです。私は確かめるためにその反応がした方へ向ったんです……けど……。今思い返すと、あのときの私は何も考えてなさ過ぎでした。多分、自分の力を過信しすぎてたんだと思います」
シアスタの話で出てきた、強大な魔力の反応と轟音、オレ達のことか。
「後はお二人が見たとおり、あの大きなファングボアに襲われて死にそうになりました」
…………。
死にそうになったの間接的にオレ達のせいじゃん。助けたからチャラになるよな? なるはずだ。そう思おう。
昨日の様子を見る限り、オレ達がたどり着くまで長いこと持ちこたえていたんだろな。ちっちゃいのに良く頑張ったもんだ。
「私は自分の無力さを知りました。だから、私より強いお二人に付いていって、改めて自分を見つめ直そうと思ったんです」
凄いなぁ。弱いことを認めて鍛え直すなんてなかなか出来ることじゃない。志が高すぎる。この子は将来ビッグになるかもしれないな。
なんて立派な子なんだ……。
「後、お二人なら私を守ってくれそうでしたし」
「……おい?」
いまさらっと何か不穏なことを言ったぞこのガキ。
「守るってなんだよ。お前どこかの姫様か?」
シアスタはおっとしまった、みたいな顔で口に手を添えて驚いているがわざとらしすぎる。
「いえ、大した話じゃないんですけど。私達精霊は生まれたときから魔法が得意なので、自分で言うのもなんですが強いです」
「なるほどね」
「だからたまに悪い輩が利用しようとするんですよね。この六日間でも三回襲われました。全て撃退しましたけど」
「割と頻繁に襲われてるじゃねぇか。二日に一回ペースって言うほどたまにか?」
「アステルの土地に踏み入れてからはまだ一回も襲われてません。平和な町で過ごしやすいです」
「そういう問題じゃねぇんだよなぁ」
「でも冒険者登録してから、色んなパーティから誘われ続けてて……。昨日も今朝も断るのが面倒だったんです」
「何だコイツ、自慢か?」
ふふん、と得意げな顔をしてシアスタが話していたので絶対自慢している。
「それでちょうど、私と同じランクなのに私よりも強い人がいたので、パーティに入れてもらおうかと――」
「このクソガキ、今まで猫被ってやがったな!!」
さっきまで一線引いていた態度だったのにパーティを組むって言った途端表情がめちゃくちゃ豊かになってぐいぐい来やがる!! さっきまでの利発そうで落ち着いた雰囲気が嘘みたいだ!!
「なっ、違います!! 緊張していたのは本当です!! 全部本心です!!」
興奮したのか、シアスタは反論しながら涙を溜め始めやがる。
「ぐっ、このクソ、ガキィ」
おねがいだ、泣くのはやめてくれ。それだけはどうしても逆らえなくなってしまう。
「イキョウ、シアスタが言っているのは本当だ。猫は被っていない」
シアスタに食いかかっているオレとは対照的に、落ち着いて紅茶を飲んでいるソーエンがそう言い放つ。
ソーエンは色々あって、人を騙すような態度や言動を見極めるのに長けている。だから、ソーエンが言うなら猫を被っていないのは本当のことだ。
「被っていたのならば、シアスタの願いは拒否していた」
確かに、ソーエンがそういう手合いをそばに置く事は絶対にありえない。
ソーエンの言葉なら信じられるので、猫被りの言葉は取り下げよう。
「大方緊張が溶けて安心したのだろう。むしろさっきよりも自然体に見える」
「そう冷静に分析されると恥ずかしいですけど……つまりそういうことです」
シアスタはちょっと頬を赤らめながらソーエンの言ったことを認める。
「恥ずかしくなると赤くなるって、お前体が氷で出来てるんじゃなかったのかよ」
「詳しく言うと、人の体半分、氷半分のような感じらしいですよ?」
「どうなってんだよお前の体……」
それで生きてるんだからやっぱ魔法ってすげー。
「で、約束しましたしパーティからは外しませんよね?」
腹立つ言い方するなこのクソガキ。
まあ、コイツをパーティに入れることで面倒臭い輩に絡まれても、ぶっちゃけ戦うなり逃げるなりすればいいだけだから問題ない。その分野においてオレとソーエンなら何も問題は無い。
クソガキの思い通りになったようで癪ではあるけど、やはり断る理由にはならなかった。それに、一度約束をしておいて破るのは、あんまりしたくないのでパーティに加える決定に変更は無い。
だがそれはオレの考えと責任だ。
「オレはいいんだけどよぉ、ソーエンがなんていうかなぁ!!」
オレは約束したがソーエンは約束していない。だからソーエンがダメって言ったらダメになるのだ。
「イキョウさん卑怯です!! イキョウですよ!!ヒキョウさん!!」
「言ったなクソガキ!!それだけは許さねぇ!!」
コイツ、オレがゲーム時代によく言われていたあだ名をついに言いやがったな!!
叛徒で狡いプレイばっかりするからよく周りにそう呼ばれていたけど、アレも戦略の内なんだぞ!!
「落ち着けお前等、別に何も問題は無い。俺達三人でパーティだ」
ソーエンがやれやれと言いながら俺達を諌める。
お前知ってんだぞ。今やれやれって言ってるけど、本当に面倒くさいときは黙ってしれっといなくなるから、言うほどやれやれと思ってないだろ。
「ソーエンさん……!!」
シアスタはシアスタでソーエンの言葉が嬉しかったのかまた泣いてるし。
オレもいっちょかますか。
「ソーエンも許可したし、オレ達三人はパーティだ」
「イキョウさん……」
シアスタの涙がすんと止まり、オレをどうしようもないやつを見る目で見てくる。
二番煎じはいつの世も受けないらしい。




