08.一難去ってまた一難
ソーエンの穴埋め作業がようやく終わって思ったことがある。
「小さな山が出来た」
「ああ」
オレ達が並んで見ている光景。そこには土の山が出来上がっていた。
壁を崩して埋めたはいいけど、踏み固めていないせいで土がこんもりしてらっしゃる。
だからと言って、今から踏み固めるのも手間だし何より帰りが遅くなる。まだ空は青いけど、若干赤味がかっていた。もう少ししたら夕方の色に染まる空の色だ。
目的のファングボアもまだ討伐していなし、時間には余裕を持っておきたい。
「ここには山があった。はい復唱」
「ここには山があった」
ソーエンも思う所があるのか、ここは見逃すという判断をお互い言葉にせず決定した。
「気持ちを切り替えてファングボアを探そう」
「気持ちを切り替えてファングボアを探そう」
「ここは復唱しなくていいぞソーエン」
オレ達はお互いに多くを語らず次なる段階へと移行する事を決めた。
次の目的、そして標的はファングホア、ようはイノシシだ。だったら獣に違いない。
「ということでこれを使おう」
オレはアイテムボックスから目的のアイテムを探して取り出し、ソーエンに見せつける。
「<獣の香>か。よくそんなゴミアイテムを持っていたな」
「前にオレ達をPKしようとしてきた奴から盗んだ戦利品だ。盗品じゃなくてあくまで戦利品」
この<獣の香>は獣系エネミーを引き寄せる効果を持つ。だったらレベリングに使えるかって言われるとそうでもない。獣系エネミーは一律して経験値がまずく設定されてて、このアイテムを使ってレべリングをするよりも、効率の良いクエストを回すほうが断然良い。
はっきり言って使い道の無いゴミアイテムだけど、レア度はそこそこ高い。因みに、これを初心者パーティのそばに置いてPKする手法が一時期PKプレイヤーの間で流行っていた。
「この広場で使うつもりか」
「いやーそれはあからさま過ぎるだろ。獣はお前ほどバカじゃない」
「俺はお前ほどバカではない」
「それじゃ獣が一番頭いいことになっちまうじゃねぇか!! オレ達を舐めんなよ獣!!」
「あぁ、俺達の格の違いを見せてやる」
待ってろよファングボア、誰が一番か思い知らせてくれるわ。一匹でも多く討伐してやるからな、覚悟しとけ。
格付けをするため、オレ達は勇みながら森の奥深くへ入っていく。
* * *
結論から言うと、めっちゃ狩れた。20頭くらい。
手順としては、まず、森の適当な場所に<獣の香>を置いて火を点ける。そしてオレ達は悟られないように木の上で気配を消して潜んだ。
それぞれの待機位置は香を挟んで対称になるようにし、死角をなるべく減らす。
香に釣られてやって来たファングボアを、ソーエンの魔法銃で狙撃、もしくはオレのスローイングナイフで仕留め、その後に<隠密>を発動してオレが死体を回収し、またすぐに木に登って待機する。という戦法が上手くはまった結果、めっちゃ多く狩れた。
魔法銃は実弾を撃つ訳じゃ無いから、大きな発砲音は出ない。そのおかげで、射撃音がそこまで周囲の生き物を萎縮させることはなかった。そしてオレの投擲の腕と、ソーエンの腕もあって百発百中だから安定して狩れる。
<隠密>は使用者の存在を限りなく薄くし、他の者から気付かれにくくするスキルだ。
発動後は解除するまでMPを消費し続けるけど消費はそこまで多くない。でも、今のオレの魔力事情は、ほとんどすっからかん状態からの自然回復によって僅かなMPしかないから、要所要所で使用してはすぐ解除するという使い方をして、MPを節約しながら上手く回してる。
<獣の香>には、ファングボア以外も近づいてくることが多々あったけど、ファングボアが来ると一目散に逃げていく姿が確認できた。あいつって意外と強いのか?
十分に狩れたので、パーティチャットを使いソーエンに作戦終了を伝える。
『了解』とだけ帰ってきた返事を聞きながらオレは木を飛び降りて、ソーエンと合流をするために移動する。
合流の途中に獣の香を回収して、アイテムボックスに戻すことは忘れない。
思ったより煙が濃いな、煙い煙い。少し咳き込みそうになる。
「そろそろ日が沈みそうだし、さっさと帰ろうぜ」
作戦を開始したときよりも空が赤に染まっている。
日が落ち始めた空と森の木々が相まって、辺りは段々と闇に染まり始めていた。そろそろ引き上げ時だ。
夜の森は歩き辛そうだから、視界が確保できているうちに森から出たかった。
「ああ、成果は重畳だ。これ以上狩る必要はない」
「格付けも完了したしな」
「ああ、俺達は獣以上に頭が良い」
程よい満足感と大量のファングボアを得てオレ達は帰路へ就こうとする。
もうこの森でやる事は終わった。初めての探索、これに完・了。
いやー、何も問題無く……問題はあったけど、隠蔽したから実質問題無い。
いやー、実質何の問題も無く終わってよかったわぁ。
オレは心で言い訳しながら正しい言葉に言いなおし、この世界初の探索が無事に終わったことをかみ締めながら帰路へ付こうとした。
が――。
「ブオォォォォォォオオオオオオ!!」
地鳴りのような、雄たけびのような音が森にこだまする。
「もー、今度はなんだよ、勘弁してくれ……」
平和に終わって帰ろうって時に邪魔をされ、オレは疲れた感を全身に滲み出しながら息を吐くように文句を垂れる。
厄介ごとなんて、ソーエンのやらかしたことでもうお腹一杯だよ。これ以上何か起こるのは勘弁してくれよ。
「面倒だ。無視するか」
ソーエンも同じ気持ちなようで、無視したいという意思をオレに訴えながら見てくる。
「さすがにそれは出来無いだろ……。<生命探知>」
<生命探知>は周囲の障害物を透かしてソナーのように魂をスキャンし、位置の特定が出来るスキル。でも、逆に相手にもスキャンされたことが分かるから警戒レベルは上がるし、叛徒が居るぞって知らせることにもなる。
今は城やクラン、ダンジョンに潜入する訳じゃなくて、ただ大きな音を出した主を探すだけだから遠慮なく使えるけどさ。
「……見つけた、二時の方向。一人と…何か凄いでかいの一匹。悪いけど正確な距離は分かんない」
ゲームの頃とは違ってMAPを併用できないから、相手の大きさと大体の方向しかわからない。でも、<生命感知>を使ったのは正解だったようだ。誰かが何かに襲われている。
「方向さえ分かればいい。そのでかいのとはなんだ」
「悪いけどそれも分からんわ、とにかく行こう!!」
オレ達は発見した方向へ駆け出す。少しでも早く駆けつけられるように。




