32.兆し
「こう!!下っ腹に集中しながら手に移してこう!!」
「かふくぶ」「このへん?」
オレは訓練場の隅っこで、必死に双子に魔力の流し方を教えている。
が、双子はどうにも要領が掴めず自分の下っ腹を両手で擦ってはオレに疑問の表情を浮かべるといった行為を繰り返していた。
「その辺!!その辺意識してこう、意識を持っていって、慣れれば腹経由しなくても無意識に魔力の操作できっから」
「むぅううううう」「しゅうちゅうぅぅうう」
双子が口を尖らせながら自分の腹とにらめっこして腹を擦る。
「上手い、お前ら天才、良い感じだぞ」
見ただけじゃわかんないけど、なんか上手く行ってそうだからとりあえず褒めておこう。
「「……っぷぁぁぁああ」」
集中していた双子は、同時に集中が解けたようで同時に息を吐きながら空中で脱力する。
「じょうず?」「ちゃんとできてる?」
「上手い上手い。ちゃんと出来てる」
双子は合いも変わらずとろんとした表情をしているが、多分、恐らく、褒めてもらいたさそうだと思うので褒める。
「「ふふっ」」「もっと」「がんばる」
オレの言葉を嬉しそうに受け取った双子は、また魔力操作の姿勢に入る。
根拠も無く褒めてるわけじゃなくて、なんとなく双子の下っ腹に魔力が集まってるような感じがするから褒めてるんだけど、これでいいのか? 本当に。
オレは魔力なんてあやふやなもの感知できないからなぁ。スキルを使えば魂なんてあやふやそうなものは感知出来ちゃうけど。
そうだ。そういえば家のパーティには魔力を感知できる奴が居たな。
「双子、そのまま練習しててくれ」
「おにーさん」「どこいくの?」
「シアスタを呼んでくる」
シアスタは魔力の感知が出来たはずだ。その感知能力を利用して双子の魔力操作を見てもらおう。
「「いってらっしゃい」」
「へーい」
オレは訓練場の隅っこからシアスタの居るところめがけて走り出す。
* * *
「シアスタ!!」
「ひゃあああ!!イキョウさん!?」
訓練場の一レーンを占領していたシアスタの元へ馳せ参じたオレは到着と同時にシアスタに声を掛ける。
シアスタは魔法を放とうとしていたところだったらしいが、オレに驚いて発動をキャンセルしたようだった。
「びっくりしちゃったじゃないですか!!」
急に現れたかもしれない?オレに驚いたシアスタは涙目に訴えてくる。それに少し疲れたような顔をしている。それほど訓練に励んでいたんだろう。
「悪い悪い。お前、魔力感知出来たよな?」
「で、出来ますよ?」
訝しげにシアスタはオレを見る。
よっしゃ、一応確認取ったけどやっぱりそうだよな。なら話は早い。
「シアスタ殿の訓練の邪魔をして、言う言葉が悪い悪いだけでありますか」
後はシアスタの了承を取って、オーケーがでたら双子のほうに連れて行こうとしたオレを、コロロの嫌味が引き止める。
知り合って間もない奴にオレ達の間柄を突っ込まれてもなぁ。
「ダメだったかシアスタ?」
オレはこれくらいでシアスタが怒らない事は重々承知だ。
「ダメじゃないです。暗黙の間柄と言うか、お互いに嫌がらないから分かってるから出来るコミュニケーションと言うか…それこそ仲間って感じで!!」
ほらな。許してもらえた。でも理由は分からないが、シアスタは、ふふんと鼻を鳴らしながら自慢げに答える。
「ほら、シアスタもこう言ってんだし良いだろ?」
「…それこそ仲間って感じで!!」
コイツなんで言葉を繰り返してんだ?
「シアスタ殿、何と言いますか…そんな風に引き出せたとして、満足なのでありますか?」
「…これは違いますよね」
何故かコロロの言葉でシアスタはしょんぼりする。本当に一体なんなんだ。
ま、いいか。それより。
「シアスタ。少し時間良い?」
シアスタも訓練に励んでいるようだからあんまり邪魔しちゃ悪い。だから少しでいいから時間を貰えるかどうかだけ聞こう。
「内容によります」
そりゃそうか。オレとしたことが焦って相手の時間的都合だけを聞いてしまった。
「双子の魔力の流れを見て欲しいんだ」
「それはリリムさんとリリスさんのためってことですか?」
「ことってこと」
「…なら…良いですけど…。…私も…」
シアスタはなぜかもじもじしてる。
あっ、なるほどな。
「任せろ。お前にも教えられる事は教えてやる」
そりゃそうだよな。他が強くなるなら自分も強くなりたいもんな。魔力の流れなんて体感だがいくらでも教えてやる。
「魔力の操作以外で教えてもらえるんですよね?」
おっと?
「ちなみにシアスタは魔力の流れは?」
「もう完璧に体得してますよ?」
シアスタは当たり前のような顔をしながら頭を傾ける。マジかよ…、教えられること何もねぇ。免許皆伝だよ。
あと教えられる事あんのかオレ…?
いや、ワンチャンある。
「シアスタって多種多様な氷魔法使うよな?」
「師匠直伝の魔法です。中級までなら大体は使えます」
「おお!!そのお年で中級まで使えるとは、流石は氷の精霊でありますね」
「照れますね~」
お前照れてないだろ。ドヤ顔してんじゃん。
でもまあ?家の子達優秀ですから?コロロに褒められなくても凄いってことはオレ知ってますから?
にしても、十四才で中級魔法が使えるって凄いのか。
使う魔法の内、たまに見たこと無い魔法があるけど、それは異世界とゲームの違いなんだろうな。
シアスタが使えるのが中級までってなると…交渉材料はそれより上の魔法だな。
「氷の上級魔法見せるから、双子の指導手伝って?」
「本当ですか!?というか、イキョウさん氷の魔法使えたんですか!?」
氷魔法って水属性の派生だから全然使える。
「いつもは魔力の燃費悪いからあんま使わないけど、一応使えるぞ」
オレの場合、魔法使うよりスキル使った方が強いしな。
「本当でありますかー?」
コロロはとっても訝しげな眼と態度でオレを見てくる。
「なんだよ疑って」
「早くっ!!早く見せてください!!」
コロロに反論しようとしたオレに対して、シアスタはキラッキラの目を向けてくる。知的好奇心が溢れて我慢できないような、そんな眼をしながらピョンピョン跳ねて要求してくる。
…コロロに反論する気も失せるってもんだ。この目をした仲間の期待には答えてやんなきゃな。
と言ってもこんなところでオレの魔法をおいそれと見せるわけには行かない。
さっきのシアスタが使った魔法でさえ騎士達はどよめいたんだ。ってことはこの場で上級魔法なんて使ったらオレの強さがばれてしまうかもしれない。さっきのスローイングナイフは技術だからまだいいけど、単純な力を見せ付ける事は出来ない。
「ここじゃなんだからアステルに帰った後でいいか?」
「あっ…なるほど。そうですね、分かりました。我慢します」
シアスタはオレの言いたい事を瞬時に理解してくれた。
シアスタの理解もあり、『上級魔法は後、双子が先』と、二人の間で暗黙の了解がとれたので、さっさと双子の方に向かおうとするオレ達。
「待つであります」
そんなオレ達をコロロが言葉で遮る。
「自分は仮にもシアスタ殿の指導を承った身。連れて行くならば私の了解を取ってから連れていくであります」
「じゃあ連れてくね」
「ダメであります」
ダメかぁ。一応は騎士団の訓練に参加させていただいている身だし、その騎士団のトップ的な立場に居るコロロからダメって言われると困るな。
「どうしたら許可してもらえる?」
「私に力を示して欲しいであります」
オレを値踏みするような目で見てくる。
コロロの目は昨日からのようなオレに敵意を向けるようなものではなく、何かを探っているようなものだった。
コロロの内面にどんな変化があってその目になったの?
「力を示すって、何すりゃいいの?」
「私と戦って欲しいであります」
オレの質問に対してコロロは、その回答が当然のように、そして証明であるように毅然と答える。
またかよ……。昨日も今日も、問題を解決したかったら戦えってなるのが多いな。皆血気盛んだなおい。
この力でこの世界の奴らに勝ち誇ろうだなんて一切思っちゃ居ない。所詮仮の体だからな。……でもよぉ、だったら現実やゲームで身につけた技術や戦い方はオレの物だよなぁ? だったらそれ存分に使って勝っても勝ち誇って良い訳だよなぁ?
何より、双子のためだ。ここは一羽打脱ごう。勝ってシアスタを連れて行く。
「受けて立とう。ただ、優先事項があるから時間は掛けられないけどな」
「言うでありますね。無論、私も時間を掛ける気は無いであります。今は訓練の時間でありますからね」
売り言葉に買い言葉なのか、コロロもオレに負けじと強い言葉で反論してくる。
「決まりでありますね。さっそくキアルロッド殿に許可を貰いに行くでありますよ」
そう言ってコロロは勇み足でキアルのほうへ向かって歩って行った。
「ど、どうしてこんなことに」
シアスタはオレの横で頭を抱えながら混乱していた。
「さあ? 知らんけど勝てばいいだろ?」
「あっさり言いますけど…どうするつもりですか? 言っておきますけど、昨日のような戦い方ではコロロさんを納得させられませんよ」
「っていうと?」
昨日の戦い方って言われても、どこまでがコロロを納得させられるラインなのか分からない。たとえば状態異常は?フィールド効果は?属性効果蓄積は?攻撃範囲は?攻撃のモーションは?軌跡は?など、個人の価値観で決められるとどこまでが許される範囲かなんて上げればきりがない。
「そうですね……卑怯な手、搦め手、揚げ足取り、特定の手段からの一方的な攻撃とか?」
ほとんどがオレの得意分野じゃん……。
「ってなると、不得意分野での戦いかぁ」
「でもイキョウさんの本来のレベルなら」
「いや、このままで行く」
緊急時以外は指輪を取っちゃいけないってカフスと約束してるからな。
「せめて指輪の付け替えは?」
「しない」
「えぇ…」
またシアスタは頭を抱え始めた。
「安心しろって」
せめて不安になり過ぎないように、またあのゲロ雪を吐かないようにシアスタの頭を軽く撫でる。
「コロロの戦い方は昨日見たからな」
「見たって…あんな一瞬のことを言われても」
「まあまあ、お前は気にせず魔法の訓練続けてろって」
「…もう。そんな自信満々な顔で言われると信じるしかないですね」
「そんな顔してたか?」
「はい。イキョウさんはすぐに顔に出ますから」
オレはシアスタの言葉に自分の表情筋の素直さを返して、頬を撫でながらコロロの元へ向かった。




