31.別働隊の行動3
所変わって、服屋にて。
「ソーちゃん、ロロちゃん、どう? 似合ってる?」
談笑を終え、今度は服選びに夢中になっているラリルレ。そしてそのラリルレをウキウキで着替えさせる姫とメイド。
この服の感想を求める行為はもう何度目なのだろう。
「ああ、その服も良いな」
「似合っている」
ラリルレが何を着ていても可愛いとしか思っていない二人は何度も同じ返事を繰り返していた。
「もーさっきから同じ感想ばっかりだよ!!」
「真実だからな」
「真理だ」
「お二人は服に興味はございませんか?」
「そうですよ、ソーエンとロロ様もお試しで着替えて見ましょう」
ラリルレの着せ替えで楽しくなっている姫とメイドはソーエン達に詰め寄ってくる。
「我は服を着ない」
「逃げる気かロロ」
「確かに……ならばソーエン様だけでも」
「そうですよ!!」
「ほら見ろ。俺にヘイトが集中したぞ」
「服を着る者は服を着る者同士で戯れていれば良いのだ」
ノリノリの女性達はもう止まらない。普段は着せ替えをされる側の姫は特に止まらない。
拒否をしているソーエンにじりじりと接近して距離をつめてくる。
「せめてお顔だけでも出してみましょうよ。普段着ている服でも、少し変えるだけで雰囲気ががらりと変わるんですよ」
そう言って姫は、楽しみを知ってほしいという気持ちと、一緒に楽しみたいという善意と、ほんの少しの興味でソーエンのフードに手を伸ばす。
背丈はソーエンが頭一個半分くらい高い。
ナターリアからすれば、下から覗けばフードの中にある顔なんて丸分かりのはずなのに、マフラーとフードの絶妙な位置のせいでどこからどう見ても顔が隠れるのが不思議だった。
そしてその姿を見たソーエンはどうするべきか迷う。
ここにイキョウは居ない。ラリルレは夢中になってドレスを鏡で見ている。メイドは姫の後ろでソーエンがフードを取るのを待っている。ロロは鏡に夢中になっているラリルレを見つめている。つまり、今ナターリアを止める者は誰も居なかった。
「…触るな」
「!?」
だからソーエンは自分自身で拒否をする。たった一言で。
その声は重く、暗く、突き放すような低い声だった。
顔を晒したときに面倒さと、見る目が変わる恐怖は自分が一番良く知っている。だから今後こんなことが起こらないよう、威嚇するようにナターリアに言い放つ。というかそう言う風にしか言えなかった。
イキョウなら茶化しながらもそれとなくフードを取らないような空気を作る。だが、ソーエンにはそんな回りくどい真似をするよりもこう言った方が経験上、強制力があることを理解していた。それに、ソーエンはイキョウの真似など出来ないのでこうするしかなかった。
だが、事情を知らないナターリアは何かタブーに触れてソーエンを怒らせてしまったとしか思えなかった。
普段その身に向けられる事の無い声がナターリアの体を固まらせる。
「す、すみません」
予想外の出来事で萎縮し、顔を俯かせるナターリア。
威嚇されることなど初めてなのでどうしたら良いのか分からず、ただ謝ることしか出来なかった。
「ソーエン様の事情を考慮せず、不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
ナターリアに続き、正気に戻ったニーアも続いて謝罪する。
「なになに!?どうしたの!?」
ドレスに夢中になっている間に、店内の雰囲気が重苦しくなっていたことに驚いたラリルレはソーエン達の側に寄って来て混乱する。
楽しい空気が一変、一体何がどうなってこうなったのか理解できなかった。
「フードだ」
「ああー……そっかぁ」
ソーエンのその言葉だけで何が起こったかは大体察せたラリルレ。
諸々の事情は知っていて、ソーエンの人と成りも理解しているからこその理解だ。
でも、ラリルレはこの空気を良しとしない。
「ナターリアちゃん、ニーアちゃん。下着見せて」
だからラリルレは動く。
「「!?」」
またも予想外の事が起きて驚く二人。
思わず下げた頭を上げるほどに。
「みーせて」
「無理無理、無理ですよ!!」
「殿方の居る前では憚られます」
赤面しながら慌てて手を振るナターリアと、平然を装い冷静に答えるニーア。
「でしょ?ソーちゃんもね、同じなの」
その様子を見てラリルレは二人に語りかける。
「そう……か。ラリルレが言うのならそうか」
「皆ね、人には見られたくないもの、見せたくないものがあるの。理由は色々あるけど、二人の下着はソーちゃんの顔なの」
「貴様の顔は下着なのか?」
「ラリルレ曰くそうらしい」
「そーゆーことじゃないよ!!ね、ソーちゃん。怒ってる?」
「……怒ってはいない。ただ、顔を見せることが出来ないだけだ」
事情は話さない。それでも訳は話す。
「だって、二人とも。ソーちゃん怒ってないって」
「本当ですか?」
ラリルレの言葉を聞いて、ナターリアは伺うようにソーエンに問いかける。
「本当だ」
「本当に?」
「しつこい。俺の顔はお前の下着だから見て欲しくないだけだ。怒りとは違う」
「それはそれで色々と複雑な気持ちが……」
「私の言ったことがびっくりの方向に……」
「いいか、俺の顔を見たら引き換えにお前の下着を見る」
「ソーちゃんのエッチ」
「冗談だ」
冗談を言うくらいにもう何とも思ってないから、この件はもう気にするな、ということを言いたいソーエン。
ってことだよ。と翻訳して二人に伝えるラリルレ。
「なんとも分かり辛い冗談でございますね」
「カフス程ではない」
ソーエンは言葉が足りないことが多々あるのは自覚している。が、何故かクランメンバー達はその足りない言葉で全てを理解してくれるので甘えきっている。そして、だからこそ居心地の良い、それでいて楽しい空間が、仲間達が、大好きで心から大切にしている。
「カフス様をそんな風に言えるのって世界中捜してもソーエン様とイキョウ様くらいですよね」
「後でイキョウに言うか」
「悪口じゃないですよ!?ただ、凄い人達だなって思いまして…」
「当然だ。世界で唯一無二の二人になった事を教えるだけだ」
「ねねソーちゃん、それだと唯一無二じゃないと思うよ?」
「唯二無三か」
「そんな言葉あるの? 初めて聞いたなぁ。ソーちゃんは物知りだなぁ」
「すまんラリルレ。こんな言葉は無い」
「無いの!?」
さっきの重苦しい雰囲気はどこへやら、元通りになった店内は元の雰囲気に戻っていた。




