26.隙があればサボりたい3
走り込みをサボろうと色々足掻いたけど、全てキアルに見破られて結局走りきってしまった……。
「あー疲れたわァ!! もう一歩も動けねぇわぁ!!」
「疲れた奴がする態度じゃないでしょそれ。本当に疲れた奴はああなるんだよ」
オレの嘘を即座に見抜いたキアルは、目の前でぜーぜーと息を上げながら整列している騎士達を指差す。
あんな重そうな鎧を着込んで走ったってのに、誰一人として途中で根を上げる奴が居なかったのは素直に尊敬する。
しかも走り終わったらすぐにきびきびと隊列を組んで、訓練開始のときと同じように並んでたし。
対して家の奴らは……全員オレの横で地面に寝そべるように伸びている。
ゲームの体だからオレは今も余裕ぶっこけるけど、流石に元の体だったらオレもシアスタ達側だったろうな。
「双子とシアスタは分かるけどソーキスはおかしいだろ」
オレは知ってんだからな。途中からザレイトに乗って走りこみをサボっていたことを。
「横になれる隙あらば横になるのがボクだよー」
「疲れて伸びてた訳じゃなかったのか……双子は飛んでたよな?あれ疲れんの?」
双子は走りこみ中にシアスタと並んで飛んでた。
いっつもふよふよ自由に飛んでいるように見えるから疲れるってイメージ無いんだけど。
「わ、たしたち、は」「ゆめ、の」
「分かった、分かったから無理に喋んなくていいよ。聞いたオレが悪かった」
双子は見た目通り疲労困憊のようで、珍しく余裕が無さそうに激しく息をしていた。
「ごめんねイキョウ。本当は四人が立てるようになるまで待ってあげたいんだけど、次行っていい?」
キアルロッドは申し訳なさそうな顔でオレに言う。
これは……チャンス。
「謝るのはこっちの方だ、進行妨げてすまんな。大丈夫、四人はオレが責任を持って介抱するから気にせず進めてくれ」
このまま訓練に参加させられるくらいなら、やりたくないことを強制的にやらされるくらいなら。まだ子供達を介抱するふりをして少しでも訓練をサボったほうがマシだ。この際、シアスタ達を理由にサボらしてもらおう。
「いえ……私達は大丈夫ですからっ」
シアスタはフラフラとしながらも立ち上がり、まだ私はやれますって表情をしている。それ続いて双子もふよふよと飛び上がり、横になれるような雰囲気じゃないことを察したソーキスは、立ちながらオレに体を預けてきた。
つまり――計画は潰えた。
「何て健気な子達なんDA。そして何でイキョウはそんな泣きそうな顔をしてるんDA?」
「私達の姿に感動したんですか?」
「あぁぁ、ッスねー。家の子達サイコー」
こうして、オレは逃げることが出来ずに訓練は続行となった。
* * *
只今オレは、騎士に囲まれながら皆に合わせて孤独に素振りをしています。なぜなら、キアルから剣の訓練に参加しろと言われたからです。
シアスタと双子は魔法の訓練、ソーキスはザレイトに乗って盾の訓練に混じっています。
オレはというと、他の騎士とタイミングを合わせて一回、また一回と剣を降っています。
周りと同じように剣を降っているオレの、唯一つ違う所とすれば。
「あーっはははがははははッ!!」
横でキアルロッドが爆笑していることです。
「なに腹抱えながら笑ってんだよてめぇ!!」
「だって!! なにその剣の振り方!!あーおかしい!!」
どうやらキアルロッドはオレの剣の振り方が大層気に入ったらしい。
叛徒は全ての武器を装備することが出来る。出来るには出来る。
でも、ゲームでは型なんて教えてもらえないし、そもそもオレは剣をほとんど使わないから正しい振り方なんて知らない。ダガーとスローイングナイフ以外は手に馴染まないんだよ。
「だーはっはっはっ!!」
「いつまで笑ってんだよ!!」
オレが素振りを始めてからキアルはずっと笑ってる。際限なくな。
おまけに周りからも掛け声の合間に笑い声がクスクス聞こえてくる。バカにしたような笑いではなく、我慢できくなて口から漏れたような笑いだ。こんなことならまだ馬鹿にされた笑いの方が良かったぞ。
「大体よぉ、ただ剣を降るのに何の意味があんだよ」
オレは手を止めてキアルに尋ねる。
剣を無駄に降るよりも、実際に戦って訓練したほうが何倍もマシなように見えるけどな。
「はっふふっ、い、意味はあるんだよ」
キアルはオレが素振りをやめることによって、笑いを止めることが出来たようだ。でも、まだ顔はにやけていやがる。
「イキョウはさ、咄嗟に武器を振る時って考えずに降ってる?」
「そりゃまぁ、そうだな」
咄嗟って事は考える暇なんて無いだろうしな。
「そのときの咄嗟ってさ、実は考え無しに降ってる訳じゃなくて、体が覚えている動作を反射的に繰り出すんだよ」
「なるほー」
「だからさこの訓練は基礎剣術を鍛え、咄嗟に正しく鋭い一撃を出せるようにする訓練。この振り下ろしも合わせて、他にも時計の針に合わせた十二方向の素振りがあるよ」
時計に合わせるってことは、振り下ろし、横切り、切り上げがあるってことか。三時方向から九時方向と、九時方向と三時方向みたいな左右逆転も含めて。
「ってことは正しい振り方を体に染みこませる訓練だってことだよな?合ってる?」
「そうそう、正解」
「ならキアルに笑われてるオレの振り方は染み込ませる意味無くない?」
「分かった、悪かった。もう笑わないからそんな訴えかけるような目で俺を見ないでくれ。ちゃんと教えて立派な剣士にしてやるからさ」
「本当?もう笑わない?」
「あぁ、約束する」
キアルはニヤケ顔をやめて真剣な目でオレを見てくる。
その顔は今までのキアルではなく、王国最強の騎士に恥じないような威厳のある顔だった。これを向けられた奴は理由も無くコイツを信じるだろう。それくらい心を許してしまいそうな顔だった。
だからオレは信用できなかった。
ひとしきり懐疑的な目を向けた後、
「ふんっ!!」
オレはキアルを試すために剣を降る。
「だーっはっはっはっ!!ひー!!」
「やっぱり嘘じゃねぇか!!」
さっきの言葉が嘘のようにキアルはまた腹を抱えて大爆笑を始めた。
「いやっ、無理だってそれ笑わないのは!!」
「我々も……もう限界だ」
キアルの声に続いて、横に居た騎士が声を上げるとオレの背後や横に居た騎士達が爆笑を始めた。
その声を聞いてオレより前に居た騎士達が振り向く。
オレを視界内に入れていなかった奴らは何が起こっているのか分からないようで、大事な訓練中に笑いが起きたことに対して疑問と怒りを浮かべている。
けど、オレの横で大爆笑をしているキアルを見て、本格的に疑問を浮かべたようなフルフェイスをオレに向けてくる。
「ふんッ!!」
今までの意趣返しと、笑わない奴が居ることを信じて、オレに顔を向けて来た全員に対して素振りを見せることにした。
その結果……剣の訓練をしているこの場が爆笑の渦に包まれました。
「なんだこの状況!? オレの素振りそんなに変なのかよ!!」
オレどんな振り方してんだよ。
誰一人漏れることなく笑いが巻き起こるこの状況。オレ、この剣一本で世界を狙えるんじゃないか?
「き、貴様は大道芸人なのか?」
オレの横で剣を降っていた、フルフェイス越しに笑っている騎士が話しかけてくる。
「んなわけ無いだろ。立派なただの冒険者だ」
「ならば、どうしてそんなに面白いんだ!!」
「オレの方が知りたいんだけど」
「天然、天然なのか!!」
「いい加減笑うの止めろよぉ!!」
「イキョウ、もっかい、もう一回やってくれ」
「ふんっ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「げらげらげらげらげらげらげら!!」」」」」」」」」」」」」」」
「てめぇら!! ダガー使いに剣降らせんのがそんなに面白いのか!?」




